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下ネタを言う人と下ネタが好きな人はイコールではない

 下ネタは男性の専売特許ではございませんで、言う人は言うし、言わない人は言わないものです。ただ、不思議なことに、下ネタを言ってくる人に下ネタで返すと、ドン引きされることがチラホラあるんです。

 最初は「いやいやいやいや」と思いました。「自分だって似たようなこと言ってたじゃないか」と。「その舌の根も乾かぬうちに、他人の下ネタで何ドン引きしているんだ」と、納得がいきませんでした。ただ、そういう方は決して珍しくなかったんです。お笑い芸人でも「ネタはそっち方面が多いのに、プライベートでその手の話をすると嫌がる」みたいに言われている方を何名か見てきました。それで、これは何かあるぞと気づいたんです。

 ヒントは知人の女性、ここでは峯田さんとしておきますけれども、彼女の発言にありました。彼女はBL、いわゆる男性同士の恋愛を扱う「ボーイズラブ」の作品を愛読されている方でした。ただ、同じBL好きでも、その好みは人によって細かく分かれているのだと峯田さんは主張します。

 恋愛を扱う場合、どうしたって出てくるのが、いわゆる「関係を結ぶ」というやつでございます。大人が読む作品を中心に、そういうシーンが登場する。しかし、峯田さんはあんまり直接的な表現は好きではないんです。峯田さん曰く「私が好きなのは首から上だから」。何もホラーでスプラッターなやつが好みというわけではなく、ガッツリ関係を結ぶ、もう少し具体的な表現をするなら下半身のやり取りをするようなものは読まないのだそうです。キスまでなら見ていられるということなんでしょう。

 それと同じように、一言で「下ネタ」と言っても、実際には様々なジャンルに分けられており、それぞれ好き嫌いが分かれるのでしょう。だから、相手が下ネタを言ったからと安心して下ネタで返しても、それが相手が嫌いな下ネタだった場合はドン引かれるという現象が起きるのだと思います。

 ただ、事はそう単純ではないようです。いろいろ見聞きしていると、「別に下ネタは好きじゃないけど、下ネタを言う」なんて人も普通にいらっしゃるんです。ちょうどいい動画が最近アップされましたので、文字に起こして引用します。

 引用部分は1分15秒辺りからで、読みやすさを重視するために一部変更している他、お名前は敬称略となっておりますので、ご了承くださいませ。

東野幸治:意外と下ネタするじゃないですか。
牧野ステテコ:はい、下ネタします。
東野:やっぱ下ネタ好きなんですか。
牧野:好きというか、なんか下ネタのほうがウケやすいっていう。
東野:なるほど、分かる分かる。(牧野がやると)意外な感じやし、生々しくない感じもするのかな。
牧野:1番最初に「パンチラコント」っていうのやった時、すげえウケたんす。
東野:それ、どんなコントなんですか。
牧野:ワンピース着て、手を上げたらパンツが見えるっていうネタだったんすけど、それやった時、すごいウケて、「ええっ、こういうのウケるんだ」って嬉しくなっちゃった。
東野:そのパンツが見えんのは、ちょっと恥ずかしいなあとか、そんなんは別にないんですか。ウケるんだったら、別に何だっていい?
牧野:最初は恥ずかしかったっす。でも、慣れちゃいました。

 割り切ってると言うべきか、何と言うべきか。「ウケたから、やり続けている」という女性ピン芸人、牧野ステテコさんのお話でございます。

 それはお笑い芸人という、人を笑わす職業だから当てはまる話なのか。どうやら、そうとも言えないようなんです。例えば前出の峯田さん、過去に広告の専門学校に通っていたことがあるんです。その学校ではキャッチコピーを考えたりCMの案を出したりと、業界で働くための知識と技術を学んだんだそうです。

 そんな中に、なぜか下ネタの広告ばかり作る女性がいたんだそうです。キャッチコピーを考えさせても、CMを作らせても、何回やらせても上がってくるものが全部下ネタ。それもセクシー方面に全振りしてるんです。実際に広告を作るとは言え、あくまで学校内でのお話ですから、クライアントにプレゼンするわけではありません。学校側としてもなるべく自由に制作させ、それぞれの長所を伸ばす教育を信条としておりましたから、教官も頭ごなしに否定することはなかったと言います。

 ただし、何でもかんでも下ネタでは、広告業界で働く上で大きな足かせとなりかねないのは事実です。お金をかけて作り上げた大切な商品をエロまみれの広告で世に出したい企業はそんなに多くない。だからこそ、教官はもちろん、峯田さんたち学生も気になりまして、授業が終わった後、教官を囲んでの飲み会で、その女性に「どうして下ネタの広告ばかり作るのか」とやんわり尋ねてみたんだそうです。

 すると、女性はそんなことを尋ねられるとは思っていなかったらしく、意外な様子で話してくれました。まず、その女性もまた、別に下ネタが好きではないそうです。では、どうして下ネタ広告ばかり作るのかというと、「なぜか思いつくのがそういうものばかりになってしまう」のだそうです。広告のアイデアを出そうとすると下ネタしか思いつかないなんて、そんな限られた場面でしか発動しない呪いみたいな特徴が人間には備わっていたりするんです。

 結局、その女性が広告業界で働いたかどうかは峯田さんも分からないようですが、話を聞いた私は更に下ネタが分からなくなりました。強いて分かったことと言えば「とにかく一筋縄ではいかない」ということくらいです。

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