見出し画像

足ツボがお笑いからプロレスへと広がりつつあるのか

 表現の歴史は、圧力との闘いの歴史でもあります。権力者を批判して受ける圧力だけではございません。過激な表現をして「ちょっとそれはどうなんだ」といろんな人から言われる、そんな感じの圧力もございます。

 同じ表現でも「いいじゃん」と思う人がいれば「嫌だなあ」と思う人もいる。これがまた話をややこしくしています。誰かが「この表現はダメだろ」と言って表現を規制すると、「いやいや別にいいだろうよ」と言い出す人が出てくるんです。人類はもうずっとそんな議論をしているようで、「表現の自由」というテーマで本が何冊も出ていることからも、ややこしさが見て取れます。

 お笑いもまた表現のひとつです。人を笑わせるために、お笑い関係者はいろんなことをしています。人を叩く、熱湯に入る、ザリガニを鼻に挟む。「笑いを取る」という特殊な仕事ゆえか、普通なら逮捕ものの行為が人前でおこなわれるように進化してきました。

 「お笑いとはそういうものだ」。そんな考えが世間に根付いているからこそ、テレビや動画で今も特殊な光景を楽しむことができます。表現に細心の注意を払うと噂の企業CMで熱湯が登場したこともある。お笑いの表現はだいぶ市民権を得てきたようにも思いますが、やはり特殊な表現であることに変わりはない。だから、批判の的にされることがしばしばございます。

 相手の批判を全無視するのはよろしくありませんが、そうかと言って表現を委縮させてしまうのも、それはそれで問題です。結果として対策を練ることになります。

 例えば、ネギやゴボウなどのスティック系食材で相手をしばくと「食べ物を粗末にするな」というクレームが来た。そのため、以降はスティック系食材でしばき合が始まると「あとでスタッフがおいしくいただきました」というスタッフが出る。対策としてどれだけ適切かどうかは議論の余地があるでしょうが、とにかくそんな対策をするわけです。

 ところで、お笑いの表現として批判の的に上がりやすいもののひとつに「痛みを伴う笑い」がございます。普通ならば単純な暴力でありますが、ある特殊な状況下では笑いに繋がる。マイナス要素は笑いに繋がりやすいですから、電気を流されて痙攣しながら痛い痛い言っている状況が笑えることもあるんです。でも、やっぱり暴力ですから、ダメな人は全然ダメです。当然、その手の笑いに批判が飛んでくる。特に近年は過激な笑いに厳しい時代とされており、痛みを伴う笑いをおこなうには、危ない橋を渡る必要がございます。

 そんな中において、ひとつの対策がじわりと拡大しているように思います。足ツボです。足の裏には大量のツボが存在しており、身体の状態によって、押されて痛いツボとそうでないツボが出てくる。

 足ツボは「押すと健康になる」というものです。腰に対応するツボを押すと、腰が悪い人はすごく痛い。でも、単に痛いわけではなく、腰の状態を良くする効果がある。つまり、ちょっとした医療行為です。つまり、痛みに肯定的な意味がある。

 肯定的な意味のある痛みだからなのか、足ツボの類はじわじわとお笑い業界に広がっているようです。何しろ、ツッコミのような単なる暴力でもなければ、スティック系食材で食べ物を無駄にすることもない。足ツボの痛みで身をよじるのは人として仕方のないことですし、健康になる痛みです。だから、クレームはつけづらいですし、クレームを受けても「健康になる」を錦の御旗にして突っぱねられる確率が高い。

 そんなわけで、足ツボで悶絶して笑わせる映像が定期的に生まれています。

 こんな動画を見ているせいでしょうか。最近、なぜかYouTubeがプロレスの動画をお勧めしてきました。

 私はプロレスに全然詳しくありません。それでも、足ツボをグリグリする健康サンダルを用いることで、なんか普段の試合と全然違う現象ばかり起きているのは分かります。蹴りを入れたら自分もダメージを食らうし、特殊な投げ技よりも背中におぶさるだけで相手に拷問のごとき攻撃を加えられる。何ならちょっとジャンプしただけで悶絶する。しかも健康になる。

 思えば、プロレスもまた過激な表現を楽しむ側面があります。それがダメという人もきっといるに違いない。でも、健康サンダルデスマッチならば、普段とは違う面白さが出てくる。ひょっとしたら、新しいファンが増えるかもしれないとすら思えます。上記動画の概要欄によるとこの健康サンダルデスマッチ、様々なプロレスの試合で採用されているとのことですが、まあ納得です。

 お笑い業界だけでなく、プロレス業界にもじわり進出する足ツボ。健康的な痛みが徐々に世の中を席巻していくかのようです。

いいなと思ったら応援しよう!