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モノマネで治安を守れるものか

 遠い昔に聞いた話ですし、それっぽいワードで検索してもそれっぽい情報が出てこないので、半分ウソだと思って聞いてほしいんですけれども、海外のとある街であった話です。

 その街はあんまり治安がよろしくなくて、特に若者がチャラい格好をしてその辺をうろつくのを、近所の皆様は嫌がっていたようです。しかし、チャラい格好でその辺をうろつくタイプの若者です。大人が注意したところで、効果がないどころか、逆に反発してもっとチャラい格好になる。

 そこで、近所の方々は考えました。そこらのおじい様おばあ様が、若者と同じようなチャラい格好で出歩き始めたんです。すると、うろつく若者たちはチャラい格好をやめて、かなり落ち着いた格好になったようです。格好はその人の心にも少なからず影響を与えるようで、若者たちはちょっとずつ真面目になり、治安も徐々に良くなっていったとのこと。

 大人をダサいと思っていたからこそチャラい格好をしていた。そんな若者の真理を巧みについた手法というわけです。ダサいと思っていた相手が自分と同じ格好をしている。おいおい、ダサいの俺やんけ。そんな感じでチャラくなくなったんだと思います。

 とんちの利いた解決法が目を引いたからこそ、何らかのメディアで拡散され、私の耳目にも届いた。そして、私にとっても印象深かったため、細かいところがあやふやとは言え、現在まで覚えているのでしょう。

 本当にあった出来事かどうかは疑問です。事実だとしても、話を盛っているかもしれない。話を聞いた当時もそう考えていましたから、今となってはなおさらです。それに加えて、大人になった私は更にこうも思いました。「チャラい格好をして街中を練り歩くような若者が、そう簡単にチャラさを諦めるものか」と。「そっちがそのつもりなら、こっちだって考えがあるぞ」と憤る若者がいてもおかしくないと思ったんです。

 チャラい格好をして街中を歩くおじ様おば様おじい様おばあ様を見た若者の中には、当然ながら「敢えて自分たちと同じような格好をしている」と気づいたはずなんです。となれば、もちろんそのシステムを悪用する輩が出てきてもおかしくはない。例えば、両乳首に象の鼻の形をしたピアスをくっつけて、お尻の両ほっぺにはラバーカップを1本ずつ装着。

 更に全身は隈取みたいなペイントを施します。もちろん、上半身裸です。そんなチャラい格好で若者に街中を練り歩かれたら、ご近所の方々はどうするのでしょう。「さすがにあれはキツイ」とモノマネを諦める方が続出するのではないでしょうか。

 しかし、よくよく考えたらそんな格好で街中を練り歩く輩なんて警察から職務質問されるに決まっています。そのまま署まで連行され、しっかり厳重注意されるでしょう。ピアスは外され、ラバーカップは引っこ抜かれる。隈取ペイントもシャワーでしっかり落とされ、普通の格好になってから解放されるに違いありません。そういう意味では、チャラモノマネ作戦はよくできたシステムなのかもしれません。

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