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疑似ラストエンペラー町名

 コンビニのようなチェーン店は、往々にして建っている場所の地名をお店の名前に採用します。セブンイレブン新宿1丁目店とか、そういう感じですね。店名に採用するのは地名だけではありません。セブンイレブン新宿駅西店みたいに、ランドマークとなる建物が入ってくる場合もございます。そういう感じで、お店がどこにあるのか分かる名前になっている。

 ランドマークの名前が建っている場所の地名から取っている場合もございますし、逆にランドマークが地名になる場合もあるようです。前者は新宿駅など、よくあるパターンなのでお分かりいただけるかと存じます。一方の後者は、例えば「観音」がございます。

 観音と言えば観音菩薩と相場が決まっています。観音様の相性で親しまれている、ありがたい仏様でございますね。そんな観音菩薩が祀られている寺が古くからある場所は、たまに「観音町」のような地名になるようです。他にも「観音新町」とか「観音本町」とか、「観音」だけという場合もございます。

 当然、そういう場所に店を構える場合があるわけです。そうすると出てくるんです。観音店が。試しに「観音店」で調べてみますと、いろんな企業の観音店が出てきます。「観音店」でGoogle検索してみたところ、広島市西区のお店が最もよく出てきまして、川崎市川崎区のお店が次点となっていました。

 どちらも地名の「観音」を採用した形でございますけれども、よくよく考えれば仏様の名前を冠している、物凄い状態とも言えます。知らない人が見たら観音菩薩がオーナーになって様々な店を構えているようにも見えます。

 となると、です。どこかの権力者が、持ちうる権力をフルに活用して地元にド派手な地名をつけたとしましょう。そうすると、企業がそこに店を出す時、そのド派手な地名を冠した店名になるはずなんです。例えば、私がその辺の独裁者を蹴散らせるレベルの、強力な権力をゲットして、近所一帯を「愛新覚羅あいしんかくら町」にしたとしましょう。

 そんなラストエンペラーな町名にしたら、あのコンビニもこのスーパーも、車の販売店だって、こぞって愛新覚羅店に名前を変えるはずです。

 もちろん、冗談です。そんなことが起きるわけがない。清朝最後の皇帝を地名に持ってくるなんて、そんな畏れ多いことをする人間がいるとは思えません。いないですよね。

 ちょっと不安になってしまった私、念のため、「愛新覚羅町」で検索をかけてみました。幸い、そんな町は存在しませんでしたが、山口県は下関市に「愛新覚羅社」という、ラストエンペラーの弟である愛新覚羅溥傑ふけつとその妻、そして長女を祀った場所があるようです。

 そんな場所があるだけでも驚きなんですが、愛新覚羅社のある地名が「綾羅木あやらぎ本町」なんです。微妙に愛新覚羅に近い。羅が一緒なだけと言われればそうなんですけれども、「羅」がある4文字町名なんてなかなかありません。

 ちなみに、「綾羅木」の由来を調べたところ、勝鬨かちどき、つまりいくさで勝った時の叫び声「アヤラー」から来ているようで、愛新覚羅とは無関係と思われます。

 しかし、微妙に愛新覚羅らしい町名なのは事実でありまして、私としては瓢箪ひょうたんから駒っぽい何かが出た気分です。

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