ダメな自分の追い込み方
上京したばかりの頃、諸事情により膨大な暇を持て余していました。もう何でもいいから行動を起こさないと「俺は何をやっているんだ」と部屋の隅で頭を抱えてしまいそうなくらい、膨大な暇に苛まれていたんです。でも、こういう時に限って用事らしい用事はない。遊び出かけようにも近くに住む友人はいないし、特に仕事も習い事もしていない。そもそも出かけようにも、どこに何があるのかもよく分からない。何しろ銀座は新宿の一部だと思っていた人間です。出かけるのに向いてないと言っていい状況でした。
いろいろ考えた挙句、とりあえず外を歩こうと思いました。まさに「何もやらないよりマシ」レベルですね。最初は近所をひたすら歩いていたんですが、何しろ目的がありませんから本当に歩くだけの散歩です。張り合いがなさすぎて結構な苦痛でした。
じゃあ歩く目的地を作ろうということでネットの地図をダラダラ見ていると、そこそこ離れた場所に高尾山があるのを発見しました。どうもビギナーでも余裕で登れる山らしい。それならどうにかなると思い、勢いで高尾駅まで行ったんです。しかし、いざ行ったら行ったでどういうわけか山に登るのがだるくなってしまいました。だからと言って、何もせずに帰るのは電車賃の無駄だ。じゃあ別の目的を作ろうと思って、別の駅まで歩くことにしました。地図を見ると北に直進すればそのうち五日市線の線路にぶつかるようなので、じゃあ北だという結論になった。
とは言え、北へ進むのも楽な話ではありません。車がバリバリ通る道とはいえ、それでも線路まで12キロくらいの距離があります。ロクに運動をしていない人間が無計画にそれだけの距離を歩くとどうなるのかと申しますと、まあ足が痛くなります。筋肉痛はもちろんなんですが、関節だって痛くなりますし、足の裏は皮がベロベロにむけて地面を踏むだけで激痛が走るようになります。控えめに言って満身創痍です。「足が棒になる」なんて表現がありますが、もうその棒がバッキバキに砕けてしまいそうなレベルの疲労なんです。当然、座りたくて仕方がなくなるんですが、座ったらその場から動けなくなりそうで立ち止まれません。何とか五日市線の秋川駅に辿り着いた時には、足に様々な種類の痛みが蓄積するあまり、訳の分からない歩き方になっていました。
当然ながら地獄だったのは帰宅した次の日です。もう筋肉痛で足が持ち上がらないんです。10センチの段差を上がるにも両手で足を持ち上げなければならないんです。とてもじゃありませんが、出かけられる状態ではありません。足の調子がよくなるまでは自宅に留まろうと決心しました。減り続ける食料に不安は覚えましたけれども、どうにかしてやりくりするしかない。
もちろん思いましたよ。何で自分の家で遭難者みたいな状況に陥っているのかと。「自分を追い込む」という言葉には、厳しいトレーニングをするようなイメージがありますけれども、こういうバカな追い込み方は何のプラスにもならないのでもうやめようと心に誓いました。