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嫌いなものを増やす記憶

 多くの人には嫌いな食べ物が存在します。嫌いになった理由にはいろいろあるようです。味が嫌い、においが嫌だ、食べるとアレルギー反応が出る、といった、物理的な理由で嫌う人はもちろんいらっしゃるでしょう。

 一方で、精神的な理由で嫌いになる人もいます。見た目が気持ち悪い、などの他に、その食べ物に関して嫌な思い出があり、それで食べられなくなる場合も存在します。例えば、私は子供の頃に腐って道路でグチャグチャになってる様子を何度も見たせいで今でも柿がほとんど食べられません。

 いわゆるゲテモノが食べづらいのも精神的な理由が強いと思われます。いくら栄養が豊富だろうと味に問題がなかろうと、食べ物と認識できないものはなかなか食べられない。人の心とはなかなか不思議なものでございます。

 さて、話は急に知人の思い出に移ります。ある日、知人は気の合う仲間とスキーに行ったんだそうです。一通り滑り終え、室内で皆さんが休憩しておりますと、ひとりがトイレに行ったそうです。しかし、知人たちが待てど暮らせどなかなか戻ってこない。トイレが混んでいるのか、はたまた個室内で倒れているのか。みんなで心配していると、ようやく戻ってきたそうです。時間にして20分弱でしょうか。トイレにしては確かに長いですが、戻ってきた時の顔を見ると本当にガッツリ老け込んで見えたそうです。

 もちろん、皆さん何があったのか聞きました。すると、こんな話をしたそうです。

 トイレに駆け込んだ時、かなりヤバい肛門事情だったそうで、とにかく急いでいたそうです。しかし、スキーウェアというやつは普通の服よりも脱ぎにくい構造になっている。これは時間との戦いだ。個室に入ってドアを閉めると、必死でスキーウェアを脱ぎまして、さあいよいよお尻がこんにちはしました。よし、あとは座って己の欲望をぶちまけるだけだと思い、もう出るか出ないかの状態で座ったそうです。

 欲望を開放して1秒も経たずに気づいたそうです。便座のふたを上げ忘れていたと。

 お尻の下で地獄が容赦なく広がっていくのが皮膚の感覚でよく分かったそうです。立ち上がって振り向けば予想通りの大地獄。どうしようかと思い悩むも、文字通り自分のケツは自分で拭くしかありません。備え付けのトイレットペーパーやら何やらを使って必死で清掃作業に入りまして、どうにか綺麗にして帰ってきたんだそうです。ガッツリ老け込んだのは、過酷な清掃作業によるものだったわけです。

 その話を聞いて以来、知人はベンザブロックが飲めなくなったそうです。確かに、便座のふたがブロックした話ではあるんですが、ベンザブロック側としては何にも悪くないのに、完全に流れ弾が当たったような格好です。もちろん、好き嫌いは時に理不尽であり、落ち度がないのに嫌われる場合も珍しくありません。

 食べ物だけじゃなくて、薬でも精神的な理由で好き嫌いができるんですね。

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