お笑い芸人の言い間違いとマイナーな骨
皆さん、今日も今日とて言い間違いしてますか。私はしてます。聞きかじった言葉を知った風に使ったら間違った意味で用いていたなんて数知れず、頭で思い浮かべていた言葉と違うことを口にするなんて事故もちょこちょこ起こし、人としての尊厳がグラグラ揺らぐ生活を過ごしています。
ですが、ちょっと安心もしています。どうやら、他の人も多かれ少なかれ私と同様、言い間違いをしているようなのです。何ならしゃべりのプロだって同じみたいです。もちろん、一般人よりは相当うまく話しているでしょうが、言い間違い多くは編集でカットされているという話を聞いたことがあります。ですから、これが生放送や一発撮りみたいな状況だと話が違ってくるようです。更に台本がないフリートークとなると、言い間違いがちょろっと出てきたりする。
例えば、とある中堅お笑い芸人の発言です。舞台はラジオ、それもネット限定で公開されているもので、その日のラジオ収録の感想などを言い合う、いわゆる「アフタートーク」と呼ばれるものでの話だったと記憶しています。彼はそのラジオではアシスタントとして出演しており、メインは事務所の先輩でもある毒舌芸人です。アフタートークではそのメインの毒舌芸人はおらず、彼をサポートするアシスタントふたりが会話するという形式を取っていました。
毒舌芸人はその名の通り毒舌でのし上がってきた芸人であり、事務所の後輩ともなればそのいじりは更に強烈なものとなるでしょう。リスナーから送られてくるメールもまたその毒舌芸人が好きな方々ばかりということもあり、アシスタントをゴリゴリいじるメッセージが毎週のように送られてきます。本当に痛いところを突いてくるメールも少なくないようで、その中堅芸人はリスナーの強烈ないじりをこんな言葉に例えていました。
「ジョコツの間にナイフを入れるような」
私は「はて、ジョコツ」と思いました。ですが、すぐに納得しました。「肋骨(ろっこつ)」を読み間違えているのだと。「肋」と「助」は確かに似ていますし、何なら私だって読み間違えそうになったことは10回や20回の話ではありません。何より、肋骨ならば中堅芸人の例えも納得できるんです。それぐらい痛いいじりをされたんだな、と腑に落ちるわけです。
プロでもそんな間違いをするんだ。やけに印象深かった私、お笑いの話ができる唯一の知人であり、このnoteでもちょこちょこ出てくる澤田さんにその話をしました。すると、澤田さんはこんな疑問を投げかけてきました。
「実際にジョコツって骨があるんじゃない?」
そんな馬鹿な、と思いそうになりましたが、確かに言い間違いにしては妙なんです。何しろ、肋骨はその小難しい表記はともかく、骨の中でもかなり有名な部類です。頭蓋骨とか背骨とか、その辺りと同レベルのメジャーな骨であり、皆さんも普通に知っているはず。だから、仮に肋骨を「ジョコツ」と言い間違えたところで、家族なり友人なり近しい人間が「それ『ロッコツ』じゃね?」と訂正してくると思うんです。訂正されずに30年以上も生きてこれるなんてまず考えられない。そもそも私は骨に詳しくありません。人体には200以上の骨があると言われていますが、私には10も言える自信がない。
じゃあ、ジョコツは存在するのか。あるとしたらどこの骨なのか。私、早速調べました。なんとありました、ジョコツ。漢字表記だと「鋤骨」です。なんか中国でしか使われなさそうな、難解な文字ですね。ちなみに、場所はどこでしょう。もちろん、それも調べました。
日本語なのに意味がなかなか頭に入って来ませんね。とりあえず、鼻の辺にありそうなのだけは分かりました。
そして、なんとウィキペディアには画像もありました。
何か本当に鼻の真ん中辺りにあるようですね。
鋤骨がどこかは分かりました。頑張ればナイフは入るでしょうし、そうなれば猛烈な痛みが伴うでしょう。例えとしては間違っていません。
ただ、疑問は残ります。普通の放送でそんなマイナーな骨に例えた発言をするでしょうか。それともあれですか、医学部生が聞いていることを前提とした発言だったのでしょうか。
やっぱり肋骨と間違えただけだと思うんですけどね。もしその中継芸人とじっくり話す機会に恵まれたら是非聞いてみたいのですが、恐らく本人はそんな発言なんか覚えてないでしょうし、「この人は何を言っているのだろう」と思われるに決まっています。仮に私がその苦難を乗り越え、幸運にも本人が発言を覚えていて、私の疑問が解消されたとしても何の得にもならない。何とも不毛な疑問を掘り当ててしまいました。