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【好きな落語家、好きなネタ】第10回 六代目笑福亭松鶴

4コマ&落語作家、そして落語音源コレクターのなかむらが、自分のコレクションと観覧体験を元に、好きな落語家さんのネタの思い出をひたすら書き綴るコラム。
しばらく休んでたら文体変わってましたね。このままいきます。第10回は、1986年に亡くなった六代目笑福亭松鶴師。

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昭和の第二次大戦後、上方落語衰亡の危機を支えた「上方落語四天王」の一人。四人の中で唯一、戦中から高座に上がっていたのと、頭一つ年長だったことで、四天王のリーダー的立場から、のちに上方落語の顔のような存在となった。

昔ながらの演出を重視したネイティブな高座ぶりや、大きな声と仁王様のような顔の迫力溢れるキャラクター、さらに後進の育成や落語定席設立などの具体的な功績。
加えて弟子や当時の関西の文化人ら多くの「語り部」たちによって広められたエピソードの数々などもあって、三十三回忌を過ぎた今でも多くの上方落語ファンの記憶に残っている「名人」。それが通称「六代目」こと、六代目笑福亭松鶴師である。


と、オフィシャルな人物紹介は駆け足で済ませて、あとはすべて私の思い出話とコレクション話。


六代目をテレビで最初に認識したのは、関西テレビ制作のドラマ『どてらい男(やつ)』(1973)ではなかったかな。もちろん松鶴師目当てで見たわけではないので、「言われてみればあの登場人物か…」と思い出す程度。
その前後には、角座の寄席中継「道頓堀アワー」で高座を何度か見た。
『地獄八景亡者戯』の六道の辻のくだりとか(タイトルは違ったはず)、おなじみ『相撲場風景』とか、あと『貝野村』なんかも聴いた気がする。漫才と漫才の間の少ない持ち時間で、「ほんの8時間半ほど…」とマクラで笑いを取っていた。
最晩年、弟子の鶴瓶師の番組「突然ガバチョ」のオープニング映像にも出演されてたっけ。


実は、私がここ一年以上毎日聴いているCDが、六代目なのだ。
聴いていると言っても、寝入りバナにBGMとして枕元で流すナイトキャップ代わりなのだけど。
14枚組CD集「六代目笑福亭松鶴 上方はなし」(ビクター伝統文化振興財団、2004)という、1973年発売の同題レコードをCD化した、全35席(+ボーナストラック)の簡易ボックスセットで、スタジオ録音のため笑い声が無く、1対1のサシで立ち会っている感じ。子供が童話の桃太郎で寝るアレである。

「上方はなし」収録のネタは、『らくだ』『高津の富』『天王寺詣り』『遊山船』といった笑福亭のお家芸や、『三十石』『三枚起請』『蛸芝居』といった上方落語の代表的演目に加え、ほとんどCD化されない『吉野狐』『仏師屋盗人』『月宮殿星の都』や、『手切れ丁稚』『近所付き合い』など、他では聴けない唯一の市販音源もあって、幅広い。
六代目というと晩年の呂律が回らなかった頃のモノマネをする人が多いけど、この音源の松鶴師は発声も明瞭、純正の大阪弁特有のソウルフルな音階で、しかも演目によってはお囃子がふんだんに入る。
上方特有の方言に引っかかりさえしなければ、初見でも聴きやすいはずだ。


六代目は持ちネタのレパートリーが非常に多い。あの米朝師に負けてないくらい多い。ただ残念なことに、その印象が薄い。

戦後、上方落語存亡の危機と言われた時代、ひとつでも多くの演目を残そうと、若き日の四天王が手分けをして、OBや古老の落語家が覚えていた演目を教われる限り教わったという。
おかげで、一説には300席程度記憶していたとか。

その一部を音として残したのが、六代目没後の翌年1987年にワーナーパイオニアがリリースした「六代目笑福亭松鶴大全集 らいぶ浪花落語」10本組テープ。正・続2セットで、都合39席を収録。
これも米朝師のように「残すため」の収録ではなく、没後あちこちの落語会から録音を集めた販売だったため、「マニア垂涎!」という演目は限られていた。

その後市販された音源や、コレクターから頂戴した音源も含めて、私が所持している六代目の稀少演目は、『故郷へ錦』『殿集め』『金釣り』『欲の熊鷹』『狸茶屋』『苫ヶ島』『大師めぐり』『八足(貴様)』等々。
意外なのは、自作も含めて新作落語をたくさん口演された点で、前述のCD集「上方はなし」に収録されている『三人上戸』は『親子酒』から屋台のシーンを抜き取ったネタだったりする。


上方落語を後世に残すことをライフワークとした父・五代目松鶴師の遺志を継いで、多くのネタを演じ、同時にエピソードも残した六代目であったが、
残念なことにをネタの方を引き継ぐ人はほとんどいなかった。
笑いに厳しい関西の笑いのプロは、「笑えないネタは消えるべくして消える」という判断なのかもしれない。とはいえ反面、惜しい気もする。

どなたか「六代目の稀少ネタ発掘大会」みたいな落語会企画を催してはどうだろう?(第10回・了)

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