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竜詩戦記(1)

 フォルタン卿に倣って筆を執ることにした。

 こちらに訪れてから数え切れないほどの想いに触れている。私個人で抱えて往くべきとも考えたが、彼らの物語を残し伝えることは義務だと感じた。

 思い返せば以前はよく文字を書いていた。当時は派遣されてこの地に赴いた会社員であり、偶然の連続ではあったが暁の一員として各国を渡り歩いていた。少しは名の通った冒険者になっていたと思う。だがそれは前述の通り運が良かったし、何より共に助け合える仲間に恵まれていた。
 今更ではあるが、我々は勇み足だったのかもしれない。そして間違いなく期待を寄せ過ぎていた。

 雨の夜だったと思う。疲れとか怒りとか動揺とかがごちゃ混ぜでとにかく興奮していた。しかしやるべきことがわからずもどかしかった。思い浮かぶアイデアはすべて間違っているように思えたし、唯一の頼れる味方は私の横でうなだれ、線香花火のように今にも消えてしまいそうな危うさがあった。
 我々は期待と称して厄介な手続きや交渉、果ては意思決定までをも彼に押し付けていた。確かにその能力は備わっていたし、一時帝国を退けたとはいえ暁は再建の只中であり他に適任はいなかった。しかしアルフィノはまだ少年であるということを我々は失念していた。彼が愛し守ろうとする人々の中には理解し合おうとしない者もいることを伝え損ねていた。
 何者かの謀略に嵌り仲間は四散、自らも命を狙われ地位と名誉を一瞬で失っても尚、彼の頭は考えることを止めずクルザスに身を寄せる策を練っていた。このような状況下でも彼に頼ることしかできなかったことは今思い出しても申し訳が立たない。
 彼の心境を想像することはできたが、掛ける言葉も現状の解決策も私には思い浮かばなかった。精神的負担は時間が解決してくれることもあるが、我々には時間もなかった。とにかく身を守ろうと周囲に気を配り、追手から距離を置くことに注力することしかできなかった。

 結局アルフィノを最初に励ましたのはオルシュファン卿だった。彼だけではなく私もタタルも卿に激励されたから希望を抱きながら皇都に足を踏み入れることができた。
 アルフィノの手前気丈に振舞うよう努めてはいたが、この頃の私が痛感した無力は、キャリアの喪失や会社からの連絡を絶たれたことを上回っていた。必ず身の潔白を証明しアルフィノを社会復帰させること、そして今度は彼と肩を並べて歩んでいくことを強く誓った。この想いは今でも変わらない。

オルシュファン卿が淹れてくれたコーヒーはとても温かかった

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