男友達
就活をしていた。
基本的にもうずっと長い夏休みの最中のような私は、当然のように職もなく今いるところへ越してきた。
多少の情報は先にこの街に住んでいる友人から聞いていて、
とりあえず派遣会社に登録して、しばらく食いつなぐかなと思っていた。
身を寄せようと思っていた宛が外れたので、急遽この友人宅にお世話になることになった。
二つ返事で受け入れてくれたのは、高校の同級生だった。
二日目の昼食に二人で入った店で分かったのだが、彼と会うのは五年くらいぶりだったらしい。お互い定かでない記憶をすり合わせたほどだから、まぁかなり久しぶりである。
到着時間を伝えた後、携帯が繋がらない状態で言われた駅を目指し、ぎゅうぎゅうに詰まったスーツケースと最終間近の混雑に揉まれ、
かなり遅れてたどり着いた最寄り駅に、彼の姿はあった。
後日別の場所に移動するときも荷物を一緒に運んでくれたり、携帯諸々の不具合を直すために街を歩き回ってくれたり、
あれ?こんなに優しくしてくれるの?と、うっかりメルヘンな気持ちになりそうになったが、その他の言動は気持ちいいほどの塩対応で、私の芽吹きかけた気持ちはきれいに摘み取っていただけた。
私にみじんも興味がないと知ったうえでの依頼だったが、滞在中は不思議な気持ちだった。
高校時代、彼をぼんやりと好きだったことがある。
私の前では全く気張らないが、外で見るときはなかなかの色男だし、
当時は反応が面白くて、ちょっかいをかけたいとか、そういうレベルのものだったと思う。
卒業してからも何となく接点があって、年に数回は会う機会があった。
でも今思えば、二人で会うのはこれが二回目とか、そんな感じだったのだと思う。
滞在中は以前から相談を受けていた、彼が今夢中だという相手についての話に終始した。
結局この後、数日お世話になることになるのだが、
もちろん何かがあるはずもなく、丁寧にお礼をして別れた。
当時の想いが恋と呼ぶに足るものではなかったからか?
もうずいぶん前のことだからか?
あるいは彼が私を1000パーセント友人としか見てないことが
ひしひしと伝わるからか?
彼は数少ない、私の「好きだったのに何の妄想も呼ばない男」である。