strangers -2-

彼とは路上で知り合った。

ぼんやりした約束をして、結局現れなかった友人に待ち合わせ場所を去る旨を知らせようと携帯の画面を見つめていた時だった。

「あの、ちょっとすみません…」

顔を上げると、そこには品のいい紳士がいた。

紳士という言葉を使ったのは、文字通り礼儀をわきまえた大人の男、

若者ではないという事を強調したかったからだ。

これが今どきのガタイの良いお兄ちゃんだったら、深夜の路上で話など聞かなかっただろう。

趣味で写真を撮っているという彼の用件は、私に被写体になってほしいとのことだった。

後日、この時のことを振り返って彼は言う。

「あの時君の横を一度通り過ぎたんだ。あんな深夜に声をかけるのはあまりにも怪しいと思ってね。でも、立ち止まってタクシーを待ってる間に思ったんだ。ダメもとで声をかけよう、でないと後悔する、ってね。」

十分すぎるほど丁寧に、自分が何者であるか、怪しいものではないし調べてくれても良いと本職の名刺まで出して一生懸命説明する姿に、

ひと通り話を聞き、興味があったら連絡します、と、とりあえず名刺をもらって別れた。

買ったばかりの服を褒められて気を良くしていたのもあるが、

実は興味どころか、かなり乗り気だった。

名刺にある名前をネットで調べあげ、周りの良識ある人たちに意見を求め、

とりあえず昼間にもう一度会ってもいいですよ、と連絡したのが

私の、彼のモデルとしての日々の始まりだった。

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