Boards of Canada 「Music Has the Right to Childen」を急に語りたくなってしまった【全曲レビュー(というより感想)】
皆さんは頭が余韻とハンマーに殴られた様な衝撃で真っ白になり、数日間これ以外の音楽を何も受け付けなくなるような作品に出会ったことはあるだろうか。
僕にはある(今)
だけど、まさか高校の時から何回も聴き、2、3年間放置してたものが急に今日こうなるとは思わなかった。信じられない体験だ。これ以降何故か他の音楽も聴けなくなってるし、こんな状況はちょっと初めてなので、胸の中に大きく残った衝撃を抱えながらこうして記事を書く事態となってる。
いや、「書く」というより、書くまで何も聴けない状況に陥るくらい自分の中で何か大切な感情が生まれてしまった。それを忘れないように、無くさないようにする為に書き残さなければいけないのだ。
音楽の原体験に近い時から何万回も聴いてきたような作品だけど、何故ここまで掻き立てられるのか? 言語化したことが無かったし、書いてみるとどうなるのか、ちょっと気になるので素人ながら全曲レビューという形で作品の中身に触れていきたいと思う。
あとはやる気よ、続け~~~
Prologue
本来ならアルバムに関する情報全て盛り込めようと思ったけど、自分の共感する部分だけ、知ってるところだけを書こうと思う。そのぐらいこの作品はとてもプライベートでパーソナルで外部の影響云々で語られるのを拒んでるし、もうすぐ25年経とうとする今なお鮮烈に響いてくる(リリースは'98年4月20日)
アルバムというよりも聴いてる個人それぞれの、例えば長い間眠っている子どもの時の日常の記憶や経験、ふと心を奪われたなんてことない景色、匂いや温度、色.…。聴いてる間に共感覚のようなものを生み出し、いろんな感情や記憶が浮かんでは消えていき、最後は浅瀬に帰っていく。そんな走馬灯のような一抹の夢のような体験をもたらしていく。だから、面白いことに聴く時間帯や季節、聴いてる方によっても感じる事がそれぞれ大きく変わってくる。実際各曲のYoutubeのコメントも様々で見ていて面白い。アルバムの曲順、構成も僕の知ってる中ではトップクラス、いや多分一位なんじゃないかってくらい本当に完璧。
…感じたことと言えば、昨日、自分の内に起きた体験もあまりにも強烈で忘れられない。といっても、ただ海に行った帰りに車の中で流し、田舎の中でも一際目立つ二車線の道路を夕方に走行しただけなのだが、散々聴いてるはずなのに脳の中を乗っ取られたような感覚になってしまった。これは本当に初めてで、流れてる音楽が今の感情と目の前の景色にがっちりハマりすぎて運転しているというより身体中が浮遊しているようなとても信じられない体験だった。
…その余韻を引きずりながら今こうして書いているのだけど、いきなり初見では流石IDMというか、なかなかアバンギャルドな音楽性ではあると思う。自分も最初の内はビートの執拗なループと幽閉ともいえるボーカルサンプルに得体の知れない気持ち悪さを覚え、序盤でリタイアした記憶があるので、そろそろこの作品を読み解く上でヒントとなる情報を幾つか書いておこうと思う。
読み解くヒント
・Autechreとの繋がり
まずはこれだろう。もしかしたらYoutubeのおすすめに流れたかもしれないし、どこ経由で最初に知ったか正直覚えてないけど、Autechreの名前を知った後に聴いたのは確かな事実。
デモテープが、当時のIDMシーンでも注目を集めてたインディペンデント系レーベル<Skam Record>の運営もしてたAutechreのSean Boothの目に留まり、1996年にはSkamから「Hi Scores」(EP)をリリース。その後<Warp Record>とも契約し、両レーベルともフルレングスのアルバムリリースを希望する中で98年に1st「Music Has the Right~」が出ることになったので、待望の!というか決定的な評価は1stからではあるけど、関係者の中では相当期待がかかってたんだなーということがよく分かる。
サウンドに関していえば、インタビューとかでは影響元を言ってる感じではあるけれど、今まであまり気にしなかったのもあり、僕自身はこの記事書いてから色々知ったのであまりその話はできない。でも、Autechreからの影響は確実に受けてると思う。
どちらも最初はヒップホップが起点となってるし、ヘッドホンで聴くと気持ちいい太くて柔らかいズッシリとしたビートが特徴(Autechreだと「LP5」~「EP7」が顕著)だけど、前者は3rd「Tri Repetae」から徐々に無機質、機械的になってきたのに対し、後者はアナログシンセや無垢なボイスサンプルを多用してたりと一貫して有機的でテープのザラつきや染みを残したヴィンテージな質感が印象的だ。
僕自身Autechreの無機質的作風にしんどくなってた時にBoards of Canada(以下:BoC)を知り、質感はAutechreっぽいけどどこか暖かい居心地のいいサウンドに「これなんじゃないか...?!」と思い、そこから好きになったんだと思う。
(やはり参照されるAutechreのトラックだとこの辺りか…?)
・影響元
前で断っておきながら、やはり特異な作品だけあってインスピレーション元がやはりどうしても気になるので色々調べてみた。
例えば一例として1stリリース当時のインタビューではこのように答えていた。
冒頭からどちらかといえばテクノというよりロック色の強いDevoが出てくるのが大分意外だった。シンセサイザーの使い方辺りか.…?と後で聴き直そうと思いつつ、色々出た名前の中ではMBVが一番しっくり来た。
というのも後で全曲レビューで語りたいと思うけど、彼らの2nd「loveless」とこの1st、手法だったりアルバムの構成と似たような所が多くて、比較すると本当によく参照してたんだなって思うし、2nd「Geogaddi」にも継承されてるとも聴いててよく実感する。聴き込んでないから断言しずらいけど、BoCのディスコグラフィー全体にもMBVの影響が根付いてると思う。
調べてみると信じられないことに、90年代初頭のBoCはギター、ベース、生ドラム、時折ボーカルも入るちゃんとしたバンドに近い存在だったらしい。しかし、"ステージで演奏するようなロックバンドというよりも、ギターの質感やスタジオの音塗りの可能性を探求することに専念。LovelessのKevin Shieldsのように、BoCは自分たちのギターをサンプリングする実験をしていた"という。
初めて知ったし、めちゃくちゃ面白い。確かに曲単位で見ても「なんで気づかなかったんだろう?笑」っていうくらい影響を直に感じる。だからなのか、音楽リスナーとして「Loveless」はBoCよりも数年後に知ったけど、ほぼ一発でハマれた。
また、作品の大部分はエレクトロニックに包まれているがBoCは別にそれに拘っている訳ではなかった。
"好きな音楽の多くはエレクトロニックなものではない"とも語った前述のインタビューでは「他にも…」の前に続く影響を受けたアーティストとして、自分の分かる範囲ではアコースティックなJoni Mitchellも挙げててこれまた驚いたけど、「Boards of Canada」の名前の由来を知るとなんとなくだけど腑に落ちる。
その由来はカナダ国立映画庁(The National Film Board of Canada)から来ているが、その理由としては以下のように語っていた。
劣化から生まれる懐かしさ、、、。人それぞれ持ってるものは違うけど、数十年前の家族写真や黄ばんだテープ、臭いけど何故か嗅ぎたくなる昔から持っている本の匂い、、、、分かる人には分かると思う。
兄弟であるMike SandisonとMarcus Eoinは、NFBの映画を原点にそうした子供ながらにくすぐられた好奇心から10代の頃から色んな形でレコーディングし始め、1981年から短波ラジオの録音をテープ編集して曲を作り上げ、'87か'88年にはそうした「劣化」を意図的に取り入れたデモのコラージュテープの実験がプロジェクトの種になったという。凄い.…。だからなのか、音楽を聴く際も目の付け所が少し違う("Joni Mitchellの声はとても美しく、ほとんどシンセサイザーに聞こえるので、もしかしたらそのつながりがあるのかもしれない"と語る所も分からないようで分かるかも?)
「Music Has the ~」を改めて振り返ると、そうした自然への愛着をこれほどまでによく感じる。
脳の視界がぐらつくようなサイケデリアな要素も"劣化から生まれる懐かしさ"をベースにして考えると凄く腑に落ちるし、アルバムの中にあるふとした怖い瞬間も作為的というよりは子どもの時にしか分からない得体の知れない怖さみたいなのをそのまま映してるように感じる。「音楽は子どものもの」というタイトルの意味もなんとなくだけどよく分かってきた。(.…なんかこう書いてたらなんか涙が出てきた。やっぱり僕はBoCが好きだ....!)
(これも見つけたので貼ってみる。どこまで信用していいかはあれだけど、見てみるとなるほどなーという所も多いので参考になると思う...!)
・BoCのフォロワー
溢れることが多すぎて思ったより長くなってしまったが、今度はBoCのフォロワーについて。。
直接的なフォロワーはいないものの電子的だけどアナログの暖かい質感みたいなイメージ的な部分は他のアーティストにも受け継がれてる。例えば、自分の分かる範囲ではKid A/Amnesiac期のRadioheadだったりTychoやUlrich Schnauss、それ以外にもBlack Moth Super Rainbowが挙げられてた。
"Kid A"はAutechreを参照したと聞くことが多いけど、僕はどちらかといえばBoCかなと思っててTr.1「Everything~」のイントロを飾るシンセの浸ってるような居心地のいい暖かさはまさにこれで、どっちを最初に聴いたか忘れたけど、こういう流れもで一発で"Kid A"にハマることができたと要因だと思う。それにしても、音はソフトなのに全体的に見るとジャケのような凍てつく程の冷たい音世界が広がってるんだから、やはり只者じゃないアルバム。。。
Ulrich SchnaussもBoCとマイブラを通ったからこそ好きになれたアーティストの1人で、「BoCサウンド+エレクトロニックシューゲイザー」という趣の作風。3番目に貼った2ndALは前述で挙げたジャンル中でも断トツで好きな作品なので是非聴いて欲しい。
色々影響先は書いたけど、この作品の一番凄い所は、他ミュージシャンに影響を与えながらも真新しいことは何もしていないという事だ。
同じアンビエントテクノとして有名なAphex Twin「Selected Ambient Works 85-82」は、孤立していながらもテクノシーンに"アンビエント"という流れを作ったけど、これはそうではない。当時はドラムンベースからそれよりも速く肉体的に削ぎ落とされたドリルンベースに移行する、そんな先鋭化していく流れがあって、テクノの最先端にいたコーンウォール一派だけ見てみても、Squarepusherは1st「Feed Me ~」→2「Hard Normal~」→2,3の間のEP「Big Loada」→5th「Go Plastic」。Aphex Twinは3rd「I Care~」→4th「Richard D.~」→4,5間のEP「Come to~」→5th「Drukqs」。美メロ職人だと思うμ-ziqも96年には「Lunatic Harness」を出してたりと、メロディーが徐々に削ぎ落とされリズムが主体になったけど、そんな中BoCは、あくまでリズムよりもメロディーを重視し、しっかり評価され、たった2枚出しただけで今の地位を獲得したって感じだから、やはり彼らの音楽には特別な何かがあると思う。
ということで、長くなってしまったが、やっと全曲レビューができる....!ということで、聴いてく中で僕の頭の中に何が浮かぶかをこれから1つずつ書いていこうと思う。
追記:なんか書いてたら本当に夢日記のようになってしまったので、半分夢の中、もう半分は曲の中身についての感想と分けることにしました。
全曲レビュー(感想)
サンプリングについて
最初に各曲何のサンプルを使ってるかを書こうと思ったけど、このアルバムの良さを伝える為に前で先にまとめて言おうと思った。といっても「この曲はこれです」といちいち言うことはやりたくない。曲を聴いていくとその理由が分かっていく。
僕が感じた事は、こういう文脈で使おうというよりも、夢の中、または記憶の中で聞こえてきた音をどう再現するかに全てがかかってるということで、改めて何回かじっくり聴いてみて彼らの編集能力の凄さが本当によく分かった。
慣れてきたらそういう所にも注目しながら是非聴いてもらいたい.…!
(一応サンプルの解説がされてる動画だけ貼ろうと思うけど、本作はセサミストリートからの引用が本当に多い。そのくらいBoCは70年代のテレビ番組やジンクスに影響を受けてることがよく分かるし、その味付けが本作にもよく反映されてると感じる。
前置きが本当に長かったけど、いよいよというか、さすがにもう始めたい笑)
試聴リンクはこちらから↓
1.Wildlife Analysis
空が明るくなり始める中、何かの山を遠くで見ているような所から始まるドキュメンタリーのスタートのような1曲目。出てくるのは主旋律のみだけど遅れてくるような早いような感覚があったり、メロディーは進んでるけどループしてるような感覚があり、早くも意識が揺らぐ。1曲目としては完璧な掴み。
この感覚は作品全体に通底していて夢の中でアラームを聴いてるようなそんな感覚に陥りながら旋律はしだいに最初に戻り、そのまま通り過ぎる形で次曲へ…
2.An Eagle In Your Mind (very fav)
冒頭から一気に静まりかえり凍える風だけが吹いているような所で一気に作品の作り出す夢の中へと否が応でも飲み込まれる。ここは何回聴いても鳥肌が立つ。
辺りには誰もいない山の中にいるような静寂、冬の朝はまだ寒い。外は明るいが朝日はまだ出ていない。そこに入り始める身体の感覚が徐々に覚醒していくビートも定位が定まってない。現実と夢の間の意識の境目ってこんな感じなのか?突如フラッシュバックが始まり、誰かがつぶやいてるような声とビートが混ざり合い、お互いを打ち消し合い、意識が混濁し始める。そして、、
「I L O V E Y O U !」
その言葉と共に混濁が潮を引き始め、曲がついに熱を帯びインディアンのフルートと共に動き始め、朝日がゆっくりと昇り始める。ここの引きずるようなビート、そこにさらに入るビートの加わるタイミング、フルート、そして停滞から前に進み出す瞬間、まるでぼやけた意識が徐々に覚醒していく様を描いたよう。スクラッチに合いの手のようなボーカルも随所に入りヒップホップ的になりカッコよさが増してくが、全てぼやけてて夢の中にいるみたいだから現実で鳴らされてる音とは決して感じなくて、なんかカッコいいと断言しずらい。これは他の曲にも言えるけど、聴いてるとだんだん夢のような朦朧とした感覚になるから音の構造をうまく書きずらいのだ。でもヒップホップに馴染めるようになったきっかけの1つは間違いなくこの作品ではある。
夢の中で朝を迎えてしまった朦朧とした意識のまま、太陽はあがりすっかり青くなってしまった景色は急に変わり脳の奥深くに眠っている記憶の中へとアクセスし始める.…
3.The Color of the Fire
早くも作品を聴きながら何かを書くのは無理だ..…そのくらい酔った感覚がすごい。
音は記憶の奥深くに潜り込み、無邪気だった幼稚園の頃にかえる。あの時はなにもかもが新鮮に見えた。空の高さや色、草の匂い、その全てが新鮮で違う色で見えていて、小さい時はただ遊んでるだけで幸せだった。そんな多幸感が全身を包んでいく。
4.Telephasic Workshop (very fav)
朝日が差し込む車か長距離バスの窓の中、僕はどこかへ運ばれていく。横になり眠りながら「これからどこに行くんだろう」というワクワク感に包まれながら意識を走行しているタイヤの音とエンジン音に身を任せる。色んな人が話しているけど耳に入ってくるのは不明瞭で理解できないことば、でもそれすらも心地いいしずっと聞いていたい。いろんな人が降りては乗り降りては乗り、景色はどんどん知らないところへと変わっていく。。。
~~この曲は聴く度に本当に驚くし、昨夜の眠い時に目を閉じて聴いてたら夢と現実の境目が分からなくなってしまった。刻まれたビートとボイスサンプルは寝てる間の耳に断片的にしか入らない人混みの会話のようで、徐々に会話が大きくなり今いる場所がどこだか完全に分からなっていく。後半から差し込まれる子どもの奇声のような声に「~Boards of Canada~」のアナウンスのタイミングも完璧で、クラブ内のDJで身体を揺らしていく陶酔感も加わり、さらに意識がなんだかよく分からなくなっていく。本当に不思議な感覚。~~
5.Triangles & Rhombuses
活気のある健全で平和な工業地帯、しかし人はいない。はたらいてる人たちはみんなとてもすてきな笑顔だ。もう夢の中の出来事をここに書いてるようなそんな感覚になってきたので実況スタイルのレビューはやめた方がいいかもしれない。空気がとても澄んでいる。最後の短いメルヘンなメロディーもなかなか。ほんとに好き。
~~この作品には、こういう曲として区切られてない短いアナウンスのようなシンセが幾つか入っていて、そこが一番「Loveless」だなぁと感じた。そして短い曲はどれも印象的で素晴らしい。こういうので一層没入感が高まっている仕組みになっているという意味で「Loveless」から大きく影響を受けていると思う。~~
6.Sixtyten (fav)
ここからさらに不穏な空気になっていく、でも何でこんなに心地いいんだ?不気味に動く古いカートゥーンのアニメのような放送禁止になった古いCMをずっと見ているような得体の知れない怖さとそれでも見たい好奇心が刺激されてる。後半から無慈悲にずっと動き続けるロボットに追いかけられる。最後に疲れたように出てくる短い鍵盤曲も自分の気持ちにとてもあってて、その雰囲気を保ったまま次に…
~~前半はここがピーク。最初の頃はいつまでも迫ってくるビートと絶えず鳴り続ける奇妙な声が怖すぎてここで聴くのをやめてしまったけど、今は何故かずうっぅと聴けてしまう。執拗に繰り返してるようだけど展開に無駄が全く無い。1つのサンプルから声の入れ方だけで展開を作ってるのも凄い。彼らの編集能力の巧みさ、凄さが垣間見れる曲。
あんまりサンプルの話は控えたい方針だったけど、元ネタがEarth, Wind & Fireだったのを記事書いてから知った時は相当驚いた。作品にはソウルやファンクのサンプルもいくらか使ってるみたいだけど、言われないと全く気づかない。~~
7.Turquoise Hexagon Sun (very fav)
ファンが作ったMVの影響なのか、この曲は都会で生活してる人々の倦怠感や疲れ、虚無感、それでも過ぎ去っていく日々や生活を描いてるようでいつも泣いてしまう。子供目線でそうした人々をなにも分からないけど「なぜだろう?」と思いながら、ただぼーぅといつまでも見ているような感覚。何かを失ってしまうことの恐怖、遠くで他人の幸せを眺めていて置き去りにされたような。「なんででこの人はおこってるんだろう?」「なんでこの人はないてるんだろう?」.…知らずに見ているだけでよかった幸せが心をひどく突き刺していく。
8.Kaini Industries
と思ってる内にこの曲の安心感に戻される。なぜだろう、純粋な幸せが身体を包む。分厚いテレビにはニュース番組の冒頭に青空の中にたたずむキレイなビル群たちが映し出される。いつもの日常、のんびりしている普通な日々。最後の民族っぽい音もどこか昔の記憶を辿っているようでいい。
~~この曲から続く中間の3曲になると身体が勝手に"Roygbiv"を待機してしまい、場合によっては次曲で既に泣いてしまう。そのぐらいワクワク感で胸が満たされる。今でも未知のものに思いを馳せる子どものような気持ちをこうして味わえるのは本当に幸せなことなんだと思う。それにしてもアルバム中心が短い曲で連なっているという構成もなかなか面白い。~~
9.Bocuma
視界が一気に開けた空。子どもの時に車で都会に行ったとき、ビル郡が大きい橋の先から見えた時、言葉にできないワクワク感に包まれてた。「ようやくここまで来た..…。これから何が起こるんだろう」そんな未知の世界が目の前にあるわくわくと期待で胸がいっぱいになっていた。そして、、
10.Roygbiv (very fav & Highlight)
入っていくぶっといシンセベースで一気に引き締まる。そして前に進み出すビート、エフェクト、さらに加わるシンセ.…
これほど「ついに来た....」と思わせる流れもなかなかないし、自分の中に生まれる感情もどう形容していいか分からない。そのくらいこの曲は記憶の一番深い所に達してると思う。ちょうどこのMVを見た時に起こる感情全てだ。
子どもの時に思い描いていた未来、色んな可能性にワクワクしていたテクノロジー、そんな何とも言えない多幸感に包まれていく.…。いつまでもこの夢が続いてほしいと本当に思う。
11.Rue The Whirl
早くも後半戦に入るけど、体感時間はかなり早い。夕方、街灯がつき始め道路が混み始める都会の中、鳥になって知らない世界をどこまでも飛んでいく
後半から曲調が変わるけど、メロディーは1種類なのに遅くなったり早くなったりと不思議な揺らぎが僕を包む。翼は途中から消えたけど身体だけはまだ空に浮いているみたいで、感覚はないけど、落ちているよう浮いているようなよく分からない感覚に。終盤さらに意識と空が混ざり合い、溶けていく..…
~~一番ヒップホップらしい曲。ビートの輪郭は作品中特にハッキリしているのにやはり夢の中にいるから本当に不思議だ。
後ろにずっと入ってる鳥の声はスタジオの外からで、レコーディングしてる際に勝手に入ったものらしい。それでもこれがトラックを引き立ててることが分かり、あえて消さないことにしたという。確かにあった方が何故か落ち着く。~~
12.Aquarius (fav)
英語教材のビデオを口開けながらぼぅーと見ている。川で遊んだら体がピカピカになってとても気持ちよかったし、英語はなんか気持ち悪くてきらいだったしいみわからなかったけど、本当に楽しかったなぁ
"o r a n g e . "
よく分からなくなったカウントが終わる時に存在しない声が聞こえて本当にこわかったです。
~~夢の中が自分でも見ていて怖い。この曲もどこかの旅の最中にかかるようなスラップベースが印象的でソウルやファンクの気持ちよさも感じるんだけど、その文脈に回収されないのがやはりすごい。分かりやすい方だけど、記事書くまで全然気にならなかった。~~
13.Olson
お昼時、窓から差し込む一筋の光が美しいとふと感じる瞬間。平穏に空気のように流れていく夢と記憶の旅、そんな旅も終わりを迎えようとしていた。最後の右のピアノが別れのあいさつを、僕に手を振ってる気がした。
14.Pete Standing Alone (fav)
もうすぐ夕方、日は沈もうとしていた。暖かった空気も急に寒くなり始めた。川のせせらぎに鳥のささやき、そして潰されて出てきた"オレンジ"。途中でこれまでしてきた旅を振り返ってみた。僕は起きてたのか?急に涙が出てきた。どうやら素晴らしい旅をしてきたようだ。
起きたらこの旅のことを全て忘れてしまう。でも、忘れたくない。。
~~前曲の寂しげな空気のまま入るこの曲。いよいよこの作品も終盤に入っていく。1:13頃に入る、アルバム前半にあった雰囲気と終わりの空気が混ざり合うフルート(かシンセ?)に涙腺が緩くなり、Tr.12で出てきた「o r a n g e .」がぐちゃぐちゃにされた状態で吐き出されるところにアルバム全体のストーリー性を感じさせる。
最初のメロディーが一旦止まった後、前半の曲を思い出すビートの応酬(このアルバムでは一番だと思う)にさらに遠くに運ばれていくフルートのメロディーがこれまでしてきた旅を回想しているみたいで、さらに胸が締め付けられる。~~
15.Smokes Quantity (fav)
この曲になるといつも受動喫煙をしてるような有毒ガスを吸っているみたいでむせてしまう。気が付いたらすっかり日が暮れてた。煙の中に光る冷たさが何故か綺麗で惹かれてしまう
~~この曲、1995年に出されたBoCの最初のEP「Twoism」に入っていて、割と最初に聴いた時からアルバムの中でも最も古い曲という認識をしていた。ガス状のスモッグの中に冷たく光るピアノの旋律が結晶のようで何とも綺麗。
Tr.14と16の間に何でこんな暗い曲が挟まってるのか最初は分からなかったけど、いつの間にかこれなしでは居られなくなった。この旅の終盤へと行く前に心を整えてくれるような存在だと思う。~~
(このジャケットも、結構好き.…)
16.Open the Light (fav)
旅はそろそろ終わる。そろそろたどり着いてしまう。時間は明け方か?夕方か?、起きたくない.…と思った。そうした思考も優しく伸ばされた光にゆるやかに溶けだし、身体は天へゆっくりと上昇し、飛行機はようやく地面を飛び立った。。。
~~雲の上にいる飛行機の窓から差し込む陽だまりのような、ようやく自由になれたように感じる一曲。
この曲に限らず、特に1stはメロディーとリズムの繰り返しが多いんだけど、あまり繰り返してるとは思わない。というよりも、ずっとどこまでも、いつまでも続いてほしいと心から願ってしまう。
終盤にメロディーが空中分解されていくような、何かに到達してしまったような光のきらめきのようなものが見えてきて、思わず涙が出そうになる。~~
(飛行機のくだり、まんまこれに影響されてた.… 。本当に「これだ...!」って、見た時そう思った。)
17.One Very Important Thought
起きた?いや、まだ夢の中のようだ。
でも、目の外がなんだか眩しい。
誰かが僕に話しかけてきたけど、顔はよく見えない。でも、忘れてはいけないとても大切なことを言ってる気がした。
どうやら「この中で起きた経験や感じたことを大切にするんだよ」と言ってるようだった。
~~さて、本編は17曲までだけど、人によってはTr.18までが本編という意見もあると思う。CDも日本盤は17曲で終わってるけど、輸入盤だったりSpotifyは18曲まであって、ややこしい事にボートラという記載がない。Apple Musicにはどちらも混在している事態だ。
そこで僕の方はというと18曲までが本編と考えるタイプだ。というのも昔はYoutubeで聴いててそっちのバージョンに慣れてしまった。後から知ったけど本当に衝撃だった。近くのBOOKOFFには日本盤あったけど、それを買わずにライナーが付いてない輸入盤の方を買った。聴く際は少し間は置くけど、そのぐらい本当に素晴らしいボーナストラック。
序盤は同じ曲調をずっと繰り返すけど、最後にはアルバム全体を総括するようなアウトロが待ってて、何回聴いても感極まってしまう。本当に素晴らしい..… ~~
18.Happy Cycling (bonus track)
起きた。今度はちゃんと起きてるみたいだ。
ばしょはどこだ?
どうやら、テレビをつけっぱなしにしたまま部屋は真っ暗のままソファーで寝てたみたいだ。
そんなテレビも番組の放送がとっくに終わったみたいでエンディングの「周波数なんとかかんとかMHz」のアナウンスと草原の鳥が飛び立つ映像が延々と流れてる。でも、何故かずっと見ていたくなった。
...............…
でも唐突にもうすぐ終わることが分かった。「終わってほしくない」
子どもながらにそう思った。僕は大人だったことをようやく思い出した。なんだか涙が出てきた。夢で見た旅のことを思い出した。テレビは映像が流れたまま徐々に砂嵐が混ざり始めノイズへと化していく。。
................…
................…
目が覚めた。家にテレビはもう無かった。
Epilogue
ということで、いかがだったでしょうか。
僕は「思ったよりも長くなったなぁ…(笑)」って感じでしたが、そのぐらい自分でも好きな作品で好きなアーティストさんだったんだぁということが改めて実感できて良かったですし、調べていくにつれて影響元に関しては意外な収穫があったりと一回り賢くなったり、「これってなんだか、夢の中で書かれたような"SAW Vol.II"と同じくらい凄いアルバムだよなぁ」と改めて感じたこともあったりと、海からの帰り道でのあまりにも強烈な体験を動機に「書かねば!」という勢いで書き始めましたが、この記事を完成できて本当に良かったと思っています。
また、聴いてみて「うわぁぁ!!!」となったものはどんどん書いていくのもいいかもしれませんね。"好きなアルバムシリーズ"として、これからもどんどんやっていきたいなと思いました。
(今回この記事を書く上で参考になった記事)
下2つは、
・98年当時のインタビュー
・Pitchforkによるリリース20周年記念特集
となっていて、どちらも(特にPitchforkの記事が)情報量満載で興味深く、今まで知らなかった情報が載ってたので、英語だけど興味あるなら必読レベルで是非読んでみてほしい!
…
この1st以降、Boards of Canadaはこのスタイルから離れ、3作ともそれぞれ違う作風で作品を出してはいますが、BoC入門として一番聴きやすいのはビートも入っていて(どちらかと言えば)取っ付きやすいこれだと思いますし、彼らのベースとなるものは全てここにあると思います。
そういう意味でも彼らにとっても重要な作品だし、最近では、記憶に新しい(かな?)昨年の9月末に出たPitchforkによる90年代のアルバムランキングにも150位中堂々の26位と歴史的に見ても未だに古くなってはいません。
でも一番大事なのはシーンの立ち位置よりも、この作品が"自分に何を生んでくれるのか"だと思うんです。
思えば自分も色々音楽は聴くけど、一番大事にしたい所は「自分がどう感じたか、何を残してくれたのか」だと思うし、そんなふうに音に向き合わせてくれたのはこれのおかげなんじゃないかなという実感がますます強まっています。そういう意味でも本当に自分の原点だと思うし、"私を構成する"一枚なんじゃないかと記事を書いてみて何回もじっくり聴いてみて思いました。(でも、前の記事には入ってないんだよな〜..…笑)
「Music Has the ~」=「音楽は子どものもの」というタイトルも、この音楽に対する聴き手やリスナーの理想的な状態を提示している、という解釈を残した以外にも、デュオ自身がこのタイトルを「音で聴衆に影響を与えるという意思表示」と表現していて、やはりこのことからも焦点となるのは、リスナー個人の心と体。
ということで、もうすぐ25周年!という節目にもし気が向いたらこれを手に取り、まずは外の評価は一旦無視し、ドライブ中でも電車の中でも、歩いてても寝ててもいいので、とりあえずじっくり向き合ってほしい。もしダメだったら、ながら作業でもいいかもしれない。個人的な経験としては、移動中に特にドライブ中に聴くのが断トツで一番効果があるとだけ言っておこう(押しつけ…笑)
きっと、失った子どもの頃の記憶や感情がふとよみがえるに違いない。