卵巣がんと診断:私の場合
5月8日は世界卵巣がんデー
世界卵巣がんデーとは
2050年まで卵巣がんと診断される女性は増え続ける
最近衝撃的な発表がGlobocanから出ました。
2050年までに世界の卵巣がん罹患率は55%以上増加、死亡率は70%近く急増すると予測されているのです。
先のnoteで日本の場合は人口の減少等々で卵巣がんの罹患者数も死亡者数も減ると予測されていることを投稿しました。
しかし、残念ながら、最新の予測では罹患者数は減るのに、死亡者数は上昇するという結果に修正されました。
Globoanがどのようなデータから予測をしているのかはわかりませんがこれまでの卵巣がんの歴史からしてもショックなことです。
1970年代では卵巣がんと診断される患者さんの数と死亡している患者さんの数はほぼ同じでした。
1980年代にはシスプラチンの登場で少し生きられる患者さんが増えてきました。
さらに臨床試験が積み重ねられ、シスプラチンより少し副作用が軽いカルボプラチンが登場、また抗がん剤のコンビネーション治療の有用性など科学的根拠の積み重ねられ、より良い治療提供がされるようになっていきました。
1990年代後半にはパクリタキセルとカルボプラチンが初回治療においての揺るぎなき標準治療となり、日本では2013年にベバシズマブが維持化学療法に、2018年から2020年にかけてPARP阻害薬であるオラパリブ、ニラパリブが登場し、BRCA1/2陽性 or HRD or HRPで維持化学療法を変えて更なる最善の医療が提供されるようになりました。
再発卵巣がんにも知見が積み重ねられ、プラチナ感受性再発卵巣がん、プラチナ抵抗性再発卵巣がんそれぞれに科学的根拠に基づく適切な治療が提供されるようになりました。
それが、2050年の予測では罹患者数は国民の減少などから診断される患者さんは減るというのに死亡者数は今より増加するということは非常にショックなことです。
卵巣がんは適切な検診がないがん
日本では、一定の年齢から「子宮頸がん」「乳がん」「大腸がん」「胃がん」「肺がん」の定期的な検診を奨めています。
国が音頭を取り、検診率を上げ、これらのがんによる死亡者数を減らす取り組みを行っています。
卵巣がんでも適切な検診はないかといった研究が、日本のみならず海外でも行われてきました。しかし2024年5月現在、まだ死亡者数を減らすと証明される有効な検診は見つかっていません。
それどころか患者会をしていると相談電話やメールには毎月のように「なんちゃって卵巣がん検診」を受けた結果、卵巣がんと診断され不安だという女性の声が届くのです。
上記の事例を卵巣がんのことをよく知っている人が見たら「なんちゃって検診」の酷さをわかっていただけると思います。
卵巣がんは卵巣が腫れていたり、腫瘍マーカーの上昇だけでは確定できません。
お腹を開けて摘出した組織を調べることではじめて診断がつきます。
良性の卵巣嚢腫でも腫瘍マーカーは上昇しますし、生理周期でも卵巣が腫れたように見えることもあります。
それなのに基準を超えたから卵巣がん陽性というのはあまりにも暴力的な検診ではないでしょうか。
一度「卵巣がんの疑い」を突きつけられてしまった相談者の方たちのほとんどがインターネットで卵巣がんのことを調べ「婦人科のなかでは最も死亡者の多いがん」「(進行がん患者の)7-8割が再発をする」といった情報を目にして不安な時間を過ごすことになります。
そして大きな病院を受診して卵巣の腫れや腫瘍マーカーに問題がないことが確認されたとしても、その大きな病院のほうが見落としているのではないかと不安になり、2箇所・3箇所と卵巣がんではないか確認に行く方も少なくありません。
なかには不安があまりにも強いため無症状なのに定期的に婦人科を受診しているという話を聞くこともあります(無症状の患者が定期的な婦人科受診をすることが科学的に良いと言えるのかと問われれば、現時点では推奨されていません)。
みなさんは「なんちゃってであっても見つかればラッキー」そう思うかもしれません。
しかしなんちゃって検診で死亡者が減らせるという根拠はなく、感度・特異度が低い検査が行われることにより「卵巣がんかもしれない」という恐怖を短期的・長期的に与える不利益という罪がなんちゃって卵巣がん検診にはあるのです。
尿による検診についても一部の報道ではその手法・感度・特異度などに関して疑義が示されています。
その結果を病院に持って行っても推奨されていない方法での検査のため診断に用いることはできません。結果、あらためて病院で腫瘍マーカーや画像診断をうけることになります。せっかく患者さんは検査を受けて病院を受診したにもかかわらず、そのデータは使えないうえ、あらためて病院で腫瘍マーカーや画像診断を行って手術の適否を調べるとなると、医療者はそのことを丁寧に説明して理解をしてもらわなければならないのです。
卵巣がんと診断された91%に自覚症状があった
世界卵巣がん連合が2018年に調査を行ったThe Every Woman Study(TM)。
2013年1月1日以降に卵巣がんと診断された女性1500名(うち日本の卵巣がん患者は250名)ほどが参加した世界的な卵巣がん患者を対象にした調査です。
この調査でステージ1からステージ4までの患者の91%が卵巣がんと診断されたときに自覚症状があったと回答しています。
また、卵巣がんと診断された時点で多くの患者さんがそれまで卵巣がんについて詳しく知らなかったと回答しています。
患者さんたちはこれらの症状をはじめて感じてから卵巣がんと診断されるまでに31週間(日本は21週間)もの時間を要していることが調査でわかっています。
これらの症状は女性としては”よくあること”であり、なかなか婦人科を受診する行動変容につながらないのです。
ただ、卵巣がんについてある程度のことは知っていたと回答した患者は、知らなかった患者に比べて早期診断に繋がっていることから、世界卵巣がん連合はこれらの症状を無視することなく婦人科を受診するよう発信をしています。
増え続ける卵巣がん患者の死亡を減らすために、現状で一番良いと考えられる策は、卵巣がんの代表的な症状を知ってもらい速やかに診断に繋げることだと考えているからです。
卵巣がんのリスクを知ることも大切
世界卵巣がん連合の発信では「卵巣がん」のリスクが高い人が一定数いることがわかります。
日本では卵巣がんは45歳から79歳までに診断される方が多いです。
日本人は欧米よりも5歳ほど発症年齢のピークが低いとされていて、その理由は卵巣がんの原因のひとつとなっている「排卵」に対して無策であることが指摘されています。
他にも以下のようなものが卵巣がんのリスク上昇に影響があるといわれています。
喫煙歴 : 6%↑
欧米式の食習慣:19%↑
(赤身や加工肉の多量摂取)
太りぎみ : 7%↑
肥満 :28%↑
いっぽうで卵巣がんのリスクを下げることとして
経口避妊ピル:20%/年ごと↓
出産経験 :30%↓
高齢での出産
卵管結紮
スタチンを飲んでいた(卵巣がんの予防効果は不明)
などが挙げられていますが、これらが100%卵巣がんを予防するものでもなく、実際には多産で痩せ型、食生活などにも気を付けていた方でも卵巣がんになる方はいます。
卵巣がんと診断された私の場合
2004年5月3日に卵巣がんと告知される
2004年4月22日に卵巣がソフトボール大に腫れているということで卵巣の捻転を予防するために手術を受けたところ、術中の迅速診断で卵巣がんだとわかりました。
ただ家族の希望もあり、告知はもう一度病理診断をしたあとの5月3日に受けました。
卵巣がんでは比較的人数が少ない粘液性がんステージ1Aといわれ、抗がん剤治療を3サイクル受けました。
幸い再発もせずに先日の経過観察で20年を迎えることができました。30歳でがん告知をされ、現在50歳です。
私が卵巣がんを発見したきっかけは流産でした。
2003年2月に妊娠検査薬に陽性反応が出て長男を出産した産院で確認してもらったところ「おめでとう」と言われました。
会計でお支払いを済ませて長男をベビーカーに乗せ、病院を出たところで生温かい何かが流れ出る感覚を感じました。
出血でした。
慌てて診察室に戻り診ていただきましたが「残念ですね、お腹が空っぽです」と言われたのです。
妊娠直後の流産の多くは受精卵が原因で私が悪いわけではないことなどを説明された後に、流産とは関係ないけれど片方の卵巣が3センチほどに腫れていること、大きくなると妊娠の妨げにもなるから経過を見ていこうねと言われたことを覚えています。
生理周期でも卵巣は腫れることがあるので心配しなくて良いといわれたのですが、卵巣は経過を追うごとにミリ単位で大きくなっていきました。
半年も経過するとこんどはセンチ単位で大きくなりはじめ、6センチを超え、茎捻転が起きるリスクが高くなったとして、良性腫瘍を切除できる大きな病院へ転院することになりました。
実際に卵巣腫瘍を摘出するまでには、産院→転院先→セカンドオピニオン先→さらに転院と4つの病院を渡り歩きましたがいずれもの病院でも「良性」という診断を受けていましたが、結果としては手術で摘出した腫瘍は「卵巣がん」でした。
これらの経過は、当時、ライブドアブログで書いていたのですが、あまりにも当時の感情が生々しすぎて読み返したときにフラッシュバックして、過呼吸がでるほど辛かったこともあり消してしまいました・・・。
ただ卵巣がん20年を迎えたことを機に、覚えていることだけでもどこかに残しておくのもありかと、いま、暇をみてはアメブロで書かせていただいています。
詳しいことを知りたい人は探してみてください。
私には自覚症状がなかった
私は当時から病的肥満であり卵巣がんのリスクは高かった部分はあります。ただ同じような病的肥満の人が全員卵巣がんになるわけでもありません。
また家族歴ですが、母方の血縁者(第3度近親者まで)でがんになった人は2024年5月現在ひとりもいません。
父方の血縁者でも祖母が肺がんで私が幼稚園の頃に亡くなっています。伯父が膀胱がんですが、伯父は実父とは半分しか血が繋がっていないことや、膀胱がんは卵巣がんと遺伝的に関連するがんとしては関連性が薄いので私が先天的にがんになりやすい体質かというと否定されると思っています。
私の体から切除した腫瘍はソフトボール大であったと聞いていますが、分厚い脂肪に阻まれてか、特になにか下腹部に腫瘍があるという感覚もありませんでした。
確かにEvery Woman Study(TM)でも進行期であればあるほど自覚症状を複数感じている結果になっています。
ステージ1Aだった私が自覚症状がなくてもおかしくはありません。
私が卵巣がんを早期発見できたのは流産を機に「たまたま」であったにすぎないことは理解しています。
また次の妊娠を考えていたために卵巣の茎捻転を警戒して「たまたま」経過を追っていたなかで、茎捻転のリスクが高くなったので「たまたま」切除して、とった腫瘍を調べたら卵巣がんが見つかったものです。
いっぽうで毎年世界卵巣がんデーに合わせて発信をすることで「感じることがあり婦人科を受診したら卵巣がんが見つかりました」というご報告もいただくので、1人でも多くの方にリスクや自覚症状を知っていただくことは大切ではないかなと思い発信させていただいています。
知ってください、卵巣がんのこと。