御礼:医学生との勉強会 まとめ
キックオフまで
2020年暮れ、私が代表を務める卵巣がん体験者の会スマイリーにメールが届きました。
メールには、いわゆるインチキ医療に関する静かなる怒りが記されており、これから医学生になる学生さんだからこそできる何かをしたいという思いが綴られていました(下記のnoteリンクを読んでいただければ伝わるかと思います)。
2021年年明け、メールの主である遠藤さんとzoomでお話ししました。
彼女の思いを聞き、私も率直に自分の思いを話しました。
私が患者や家族をインチキに走らせてしまうのは
●この国が未承認薬・適応外薬を自由診療として用いることに規制が低いこと(制度の不備)※歯科治療は自由診療と保険診療が併用できるシステムがある程度構築されている。
●患者に対して科学的根拠なき治療を行う医師の医学的・倫理的問題
に加えて
●標準治療医のコミュニケーション能力が患者に不信感や不安を与え、インチキに向かわせていることも往々にしてあること(ただ今の医療制度上、医師が忙しすぎるところは理解していても・・・)
ということをお話ししました。
スマイリーに非科学的な治療について相談してくる患者さんの多くは、治療に苦慮していることに加え、それ以上に主治医との関係が不全である場合が多いのです。
そのうえで、彼女に幾つかの課題を出しました。
●賛同してくれる仲間を集めること
●どういう目的で活動するか考えること
●学業に支障がない形でやること
私も幾つかの医学部・薬学部・看護学部等々で非常勤でお仕事をさせていただいていますが、医師国家試験合格率●●%という高確率で医師になる学生たちの裏には、そこにたどり着けない学生もそれなりにいるということを知っています。
医師になるまでには6年大学に通い、さらには研修医として学ぶ時間も必要で収入を得られるようになるには長い長い年月がかかるため、学業をおろそかにしては困るのです。
2021年春、素晴らしい運営メンバーの仲間が集まり「患者さんとのコミュニケーションギャップを考える医学生の会」はキックオフとなりました。
第1回勉強会
春のキックオフには、医学生の有志だけではなく、ある場所で募集させていただいた医師・患者・患者家族・遺族などが参加してくださいました。
まずは私がスマイリーに相談に来られる患者さんの事例(もちろん個人情報はマスキングして特定されないようにしています)をもとにコミュニケーションギャップの実態をお話しさせていただき、参加者全員で、どうした方向でこの医学部生の会が進んでいくべきか話し合いました。
その後、参加者から島根大学医学部附属病院臨床研究センター大野智先生に運営メンバーとの打ち合わせに加わっていただき、「患者さんと医師とのコミュニケーションギャップについて考える」をテーマに第1回の勉強会を開催することにし、繰り返しzoomで打ち合わせをしながら準備を進めました。
●勉強会の概要は以下の通りです。
https://note.com/medstudent_comm/n/n93cc96bfec91
その勉強会には患者さん・ご家族・ご遺族の立場の方にも入っていただき、学生とお話ししてもらいました。
当日は日本中の医学部で学ぶ学生が参加してくれました。
私が非常勤講師をさせていただいている浜松医大からも1名参加していて嬉しかったです。
●参加した学生のアンケートは以下の通りです。
https://note.com/medstudent_comm/n/n630f77b64ace
●参加いただいた患者さん・ご家族・ご遺族から学生へのメッセージは以下の通りです。
https://note.com/medstudent_comm/n/na8110eb8e5c3
この患者さん・ご家族・ご遺族からの学生へのメッセージは本当に胸に響きます。ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
私の思い
私は「患者さんがどう生きたいか」を大切に患者さんの支援をさせていただいています。
以前はインチキ医療には頭ごなしに反対をしていました。
今も、もちろん科学的根拠のない治療について賛成することはありません。
しかし患者さんが自分の生き方を考えたうえで選ぶことを私が否定する権利はないと思っています。
(ただし他人に勧めないでほしいと思います)
しかし、ときにはその「どう生きたい」が主治医とのコミュニケーションエラーにより歪んでしまうことを多く経験しています。
●主治医に質問をすると不機嫌になられるため質問ができない
●セカンドオピニオンに行きたいが「無駄」と言われ診療情報提供書を書いてもらえない
●主治医が高圧的な態度で話を進めてしまい、患者は意思決定をさせてもらえない
●主治医は患者に丁寧に説明しているつもりだが患者は正確に理解していない
こうしたコミュニケーションエラーは
●本来不安を感じなくて良いことに対しての不安を生み出す
●患者さんは医師に対して不信感・不安を感じてしまう
●患者さんは自分を否定されているような気持ちになってしまう
ことにつながり、患者さんに苦痛を与えるのです。
ときにはその歪みが、さらなる歪みになることもあります。
他人に科学的根拠のない治療を勧めたり、家族の治療経過を不審に感じることで医療を信じられなくなったり・・・。
今月19日の世界卵巣がん連合のチャーターサミットで「日本における卵巣がん患者の権利擁護」をテーマに5分ほど英語でお話しさせていただく機会をいただきました。
そこでも触れていますが、2013年1月1日以降に卵巣がんと診断された女性を対象に40を超える国・1500名以上の卵巣がん患者さんを対象に行った調査「Every Woman Study(TM)」において日本人患者(250名)の回答でこんな特徴的なものがありました。
●日本人女性は治療に必要な情報を得られたと回答した割合が低い(日本4.2%、平均19.7%)
●日本人女性では、手術に関して質問する十分な時間があったと回答する割合が全体平均より低く(日本51.5%、平均62.7%)、化学療法に関して質問する時間に関しても同様(日本43.6%、平均64.8%)の結果でした
●日本人女性では、治療中に常に尊厳と尊敬を持って扱われたと回答した割合がかなり低く(日本31.8%、平均54.5%)、また自身の治療に関する決定に関して、自分が希望する範囲で関与したと報告した割合もかなり低いという結果でした(日本22.8%、平均45.3%)
日本人女性の
●忙しい医師に迷惑をかけてはいけない
●医師に不快な思いをさせたら今後やりづらくなる
といった考えを持つ患者さんが多い傾向もあるのかもしれません。
しかしながら、私たち卵巣がん患者は自分のいのちと日々向き合っています。
治療を受けるうえではその治療について正確に理解をし、選択肢について意思決定を行うことは非常に重要です。
それがコミュニケーション不全で行うことが難しく、患者さん自身が「どう生きたいか」考える状況が不健全であることは良くないことだと思います。
いっぽうで私は患者さんの相談を受け支援を行う活動をしています。
ひとりで8060件以上(おしゃべり会は除いた数字)の相談を受けてきましたが、正直いうとものすごく疲労・消耗させられる相談もあります。
例えば
●どんなに時間をとって科学的根拠に則った標準治療に関する説明をしても「そういえば、隣の■■さんからバナナを食べたら云々」みたいな、本当にいのちについて真面目に考えてますか?と問いたくなるくらい程度の低い質問をされる。
●いのちのために最善を患者さんと一緒に考えたいのに「ブログでみたあの人はこうなったみたい」「ネットでこんな情報を見た」という不確実な情報ばかりを患者さんは気を取られてしまい、自分の状況・自分のデータ・自分の主治医のスキル・通っている病院の設備でものをごとを考えようとしない。他人と自分を分けられない。どこか現実逃避で意思決定から逃げる。
●何度も何度も同じ質問や不安を繰り返しぶつけられる。説明をすると安心したというが、それほど時間をおかずにまた同じことを言われる。
患者側ももっとコミュニケーションエラーを改善すべくやるべきことがあることもわかっています。
だからこそ、こうした医学生の会にさまざまな立場の人が入ってまずはスタートをきれたことは良かったのではないかなと思います。
まとめ(さいごに)
医学生は本当に忙しいです。
勉強に、アルバイトに、試験に・・・浜松医大は部活も結構活発だったり。
いまも医学生のみなさんは試験に必死に取り組んでいます。
学業はおろそかにしないが活動のお約束ですから、頑張ってる様子にエールを送りたいと思います。
この勉強会は1回では終わりません。
また運営の学生さんたちと話し合いながら、あらたに2回目の計画を立てて行けたら良いなと思います。
普段は患者支援のお話が多いですが、今日はこうした私が個人的に関わったひとつの活動について投稿させいただきました。
活動の裏には多くの思いがあること・みなさんの経験が未来の医療を育てることに繋がること、実際にこうして勉強会に出て活かしてくださる方たちがいることをお伝えしたくて書きました。
本当にありがとうございました。
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