【質問箱】自費診療はどこで受けられるの?
私が代表を務める卵巣がん体験者の会スマイリーでは匿名で質問をしたい方のために「質問箱」を設置しています。
回答はスマイリーのTwitterやYouTubeチャンネル、noteなどで回答していきます。
今日の質問と回答は以下のとおりです。
お答えします
ご質問をいただきありがとうございます。スマイリーの片木です。
最初に本音を申し上げると「これを質問箱で答えるのは難しい!」と頭を抱えました。
それはこの下から続く超難読長文からご理解いただけるかと思います。
正直知らんぷりしてゴミ箱に捨てようかと思いました・・・。
でもね、きっと必死な思いでご質問くださったんだろうなと思うので、私では力量が足りない部分も相応にあると思いますが回答をします。
相談者さんには共感できるところもあれば、否定したいことも書くかもしれませんが、これがせいいっぱいの回答です。
最後のまとめにも書いてありますが、必ず、主治医と相談者さんにとって現状でどうすることが最善か話し合いをしていただけましたら幸いです。
自分に合うかもしれない薬が見つかったけど使えない
遺伝子パネル検査は保存していた細胞から検査するもの・血液から検査するものなど、いくつかの方法があります。
例えばある遺伝子パネル検査では324もの遺伝子に対して変異がないかを調べます。
検査を受けたうち1割ほどの患者さんに、遺伝子変異に合うかもしれない治療薬(既承認薬または治験薬)が見つかります。
例えば、MSI-Highが見つかればペムブロリズマブ(キートルーダ)というお薬が承認されているので、今後の治療の選択肢になります。
他の遺伝子変異が見つかった場合、その遺伝子変異のあるがん患者さんを対象とする治験が見つかれば治験に参加する形で薬にアクセスすることができます。
※遺伝子パネル検査は現状の国民皆保険制度では人生で1回しか保険が適用されないため、行う時期については主治医とよくご相談ください。
なかには相談者さんのように遺伝子変異が見つかり、合うかもしれないお薬が見つかっても、その薬にアクセスすることが難しい患者さんがおられます。
自分の持っている遺伝子変異に合うかもしれないのに使えない。
それはまるで自分の生存権を奪われたかのような腹立たしさを覚えたり、タイミングの悪さやアクセスできない運の悪さに深い悲しみを覚えているのではないかとお察します。
自分の持つ遺伝子変異にお薬が合うかもしれない、そうであればチャレンジしたい・・・そう思う気持ちは当然だと思います。
治療薬が販売されるまで
お薬が承認されるまでには15年以上の長い時間を費やし、安全性の確認・効果の確認が行われます。
くすりのもとが発見されて承認されるのに至る確率は1/10000ともいわれ、基礎研究や動物実験で画期的な効果がみられたとしても、人に効果があるとはいえません。
お薬が本当に人に対して安全であり、効果を発揮するのか確認する試験のことを「臨床試験」といい、そのうち国(厚生労働省)の承認をめざすものを「治験」と呼びます。
治験は患者さんの安全を守るため、また研究が正確に行われるため、手順や約束事を定めたプロトコール(治験実施計画書)に沿って行われます。
治験実施計画書には研究協力者(被験者)になる患者さんの安全を守るため、またどこの施設・医師でも同じ研究ができるように細かく手順やルール、患者さんの選択基準・除外基準が定められています。
そのため遺伝子パネル検査の結果、治験が見つかっても、治験実施医療機関で検査を行った結果、除外基準にあたってしまうなどして、希望をしても治験に参加できないこともあります。
治験が実施された結果、有効性や安全性が確認されれば、必要な資料が準備され承認申請が行われます。そして国(厚生労働省、独立行政法人医薬品医療機器総合機構)による厳しい審査が行われます。
審査の結果、承認が決まれば、薬価や添付文書(くすりに付属している細かい説明文書)など必要な事項を検討・決定するなどの一連の手続きが踏まれ、やっと患者さんの手元に届くことになります。
※ご相談者さんが治療を受けたいと願う薬はこの段階なのだとお察しします。
2006年、私が患者会を立ち上げた頃には申請から承認までに4年程度かかるといわれていました。
患者会によるドラッグラグ解消を求める戦いと、それを受けて国が前向きに体制整備をおこなったおかげで、現在は承認申請されたあと特段の問題がなければおよそ1年で承認されます。薬価や添付文書など一連の手続きも承認から1ヶ月〜1ヶ月半ほどという速やかな期間で実施されています。
ただ患者さんの気持ちになれば、承認申請まで何ヶ月かかるかわからないうえに、承認申請から薬が使えるようになるまで最短でも1年かかるの!?待ってたら自分はどうなるの!?と思うところは当然のことだと思います。
ただ承認され、手続きが終わり、いざ使えるようになっても、希望するすべての患者さんにすぐ使えるようになるわけではありません。
承認後は、治験協力者に比べ多くの背景(病気の進行の違い、年齢の違い、体力の違いなど)を持つ患者さんが新薬で治療を行うことになります。
そのため、お薬は市販後調査という、多くの人に診療の場で使っても本当に安全かさらなる確認が行われます。
お薬は承認されてから「ほんとうのところ」がわかる場合もあり、薬害被害を出さないためにも大切なことです。
そのため市販後調査の協力に前向きな医療機関では早く治療薬にアクセスできますが、協力に消極的な医療機関では使えるまで数ヶ月待つ必要が生じることもあります。
提案:人道的見地から実施される治験(拡大治験)
人道的見地から実施される治験(拡大治験)をご存知ですか?
これは2013年3月から12月まで厚生労働省で開催された厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会で医薬品アクセス制度として議論されたものが、その後いろいろな審議会でも検討が受け継がれ、2016年4月に人道的見地から実施される治験(通称:拡大治験)として設けられたものです。
厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会は次の薬機法の改正を睨んでのお薬のあり方を検討するもので、2013年の検討会は「薬害被害の再発防止」が最重要課題でした。
実は私はこの検討部会の委員でした。
薬害被害の再発防止は大変重要なことです。
しかしお薬があるのにさまざまな事情で希望する治療にアクセスできない患者さんの尊厳を守ることも大切であると検討部会で再三再四訴えさせていただき、この制度の導入を強く求めました。
しかし薬害被害の再発防止が最重要課題のこの会議では、そもそもアクセス制度について議論することすら反対であるという意見も多く記録に残らない可能性がありました。そこで、このアクセス制度が最終のとりまとめに記載されなければ委員を辞任すると迫り、なんとか記録としてのこしていただきました。(とりまとめの公表が翌年1月末になったのはそのためです・・・)
その後もいろんな検討会でこの医薬品へのアクセスについては議論され、2016年に人道的見地から実施される治験(拡大治験)として実施されるようになりました。
拡大治験は、生命に重大な影響がある疾患かつ既存の治療法に有効なものが存在しない疾患を対象として、患者が享受できると期待されるベネフィットの蓋然性が比較的高いと考えられる国内開発の最終段階である治験の実施後あるいは実施中(組入れ終了後)の治験薬・治験機器及び治験製品を、治験の枠組みのもとで提供するものです。
まず主たる治験情報でそのお薬に関する情報を検索し、その治験が見つかれば主治医に「拡大治験」を受けたいという旨をお知らせください。
そして主治医からその情報に書かれた連絡先窓口に問い合わせをしていただき「拡大治験を希望する」旨をお伝えいただくことになります。
患者さんが連絡先窓口に直接問い合わせても、窓口は正確な患者の情報を得られない(患者さんが病状などを誤認している可能性がある)ため対応ができません。また薬機法では、製薬企業は未承認薬について患者さんへの情報提供は厳しい制限が設けられていて法に触れる可能性が高いのです。そうした事情をご理解いただけますと幸いです。問い合わせは主治医からとなりますのでご注意ください。
もうひとつ、患者さんにご理解いただきたいことがあります。
製薬企業が優先的におこうなうべきことは「多くの患者さんを救うために速やかに治験や諸手続きを行い承認申請をすること」「承認後は医師に適切な情報を提供しながらそのお薬が最善の形で多くの患者さんに使われるようにすること」です。
拡大治験を申請してきた患者さんがやむを得ない事情を抱えていたとしても、その患者さんのために治験や承認のプロセスをいたずらに遅らせてしまってはならないということはご理解いただけると思います。
そのため、拡大治験の申請をしても以下の事柄を示す形で製薬企業は断ることが認められています。
制度該当性事由:既存の治療法に有効なものが存在する、あるいは生命に重篤な影響がある疾患ではない
絶対事由:治験薬の供給に余裕がない等
時期的事由:主たる治験の組入れ期間中等の理由で主たる治験の実施に悪影響を与えるおそれあり
個別事由:患者の病状に鑑みて、明らかにリスクが高いことから、安全性の観点から拡大治験への参加が勧められない等
その他
製薬企業が断ってきたうちの1.制度該当性事由に関してのみ、異論がある場合は厚生労働省に対して申し立てることができます。
その場合は「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」または別の審議会で公開で検討されることになります。そして厚生労働省が拡大治験の必要性を感じた場合は実施の検討を製薬企業に打診することができます。
しかし、あくまでも主導権は製薬企業にあり、製薬企業が最終的に実施の判断を決断することになるため、患者さんの希望が叶わないこともあります。
拡大治験の希望を製薬企業が受け取り、行うと判断した場合は、実際の治験と同様に治験実施計画書と同様程度の拡大治験の計画書が作成され、治験施設と同等の設備を有する施設で拡大治験が行われることとなります。
患者さんの安全を大切に、オンコロジーエマージェンシー(がん救急医療)の知識がある医療スタッフが配置されたり、がんセンターなどで対応が難しい内分泌系や心臓・脳に関する緊急事態が起きた時に備えて連携する病院が準備されるなど、できる限りの事態に備えて拡大治験が行われます(その度合いは治験の内容や実施施設によって差があります)。
拡大治験の問題点
ここまで読んでいただいてご想像がつかれたかと思いますが、拡大治験は申請して実施が認められても、治験実施計画書などを準備するなどの準備に数ヶ月から数年程度時間が必要になる場合があります。
また費用負担に関しては患者に請求してもよいということになっていますから、お薬によってはかなり高額な費用負担が必要になる場合があります(ただし後述する自由診療クリニックのようなぼったくりはありません)。
そして一番の障壁が主治医です。
拡大治験が導入されて4月で6年になりますが、この制度自体を知っている医師はまだまだ少なく、実際に申請をした医師となると数えるほどしかいません。経験がない医師が医薬品医療機器総合機構が出している資料を読み理解をして手続きをするのは相当ハードルが高いと言えます。
なにより患者さんに与えられた時間がどれほどか、そこも含めて最善の方法が本当に拡大治験なのか検討する必要もあります。
最近では、がんセンターや大学病院など大きな医療施設において「臨床研究センター(施設によって微妙に名前が違う)」が設けられ、そこにいる治験の経験が豊富な医師、治験コーディネーター(CRC)などが主治医をサポートする形で拡大治験の申請を行うこともあります。
主治医はそういったサポートを求めることも検討してください。
自由診療クリニックについて
きっとここまで読まれて「私にはそんな悠長な時間はないのよ!」と思われたのではないかと思います。
実際に私も未承認薬を求められる患者さんに15年間同じ言葉を何度・・・何十度とかけられてきたので、本当にその通りだと思います。
拡大治験なんて治験を実施するときに製薬企業が準備しておけば問題ないじゃん?と思うのですが私はその後、薬機法の委員に任命されることがないため(そりゃそうですよね、アクセス制度書いてくれなきゃ辞任するとか騒いだわけですから・・・)改善を申し入れる機会がなくなかなか難しいです。
日本では自由診療というかたちで、患者さんの全額自己負担により、未承認薬の治療にアクセスできるクリニックがたくさんあります。
そういったクリニックに希望を持たれ、治療を受けられた患者さんを何人も知っています。
そうした患者さん、ご家族から相談をうけることもしばしばあるのですが、自由診療クリニックは必ずしもハッピーなことばかりではありません。
1つ目の問題は高額な医療費負担です。
自由診療クリニックでは国民皆保険制度は利用できず患者さんは全額自己負担で治療を受けることになります。
例えばリムパーザ(オラパリブ)の薬価は150mgが1錠5185.1円です。患者さんはそれを朝夕2錠ずつ毎日服用します。1日20,740円、1ヶ月あたり643,952円となります。
自由診療のクリニックでは診察などの諸手続きも全額自己負担になります。レントゲンなどの画像診断、血液検査も全額自己負担です。
薬が奏功すれば数ヶ月、数年単位で自由診療が続くわけですからその価格は想像していただくことができると思います。
2つめの問題は予期せぬ副作用が起きた時の対応です。
自由診療クリニックの多くが平日の9時から17時くらいまでの診療です。入院設備がない場合は24時間医療スタッフがいるということは少なく、平日の時間外・土日祝日はおやすみです。
未承認薬で治療を受け副作用が出たとしても時間帯や曜日によってはクリニックに電話連絡すらつかないということもあります。
そうしたときの緊急対応をどこでしてもらえるのか?24時間対応してもらえるのか?そもそも自由診療クリニックが対応できない場合にフォローしてもらえる医療機関があるのか?という問題があります。
またフォローしてくれる医療機関があったとしても、未承認薬の知識がありオンコロジーエマージェンシー(がん救急医療)の知識・経験・スタッフ・設備を持つ医療機関なのかといった問題があります。
もっとぶっちゃけていうなら、自由診療クリニックの医師は卵巣がんに対する最新の情報を持ち合わせているのか、その未承認薬に対する最新の情報を副作用も含めて持ち合わせて診療にあたっているのかという問題があります。
また自由診療クリニックによっては、患者さんが「A」というお薬を希望したとしても、「A」だけではなく「B」も「C」もと組み合わせて本来負担する必要もない薬剤の価格まで上乗せしてくるクリニックがあります。
患者さんも「抗がん剤を増やせばもっと効果があるかも」という錯覚に陥りますし、併用薬が増えれば計算が難しくなり高額な費用ボッタくっても気づかれにくいのです。
※卵巣がんではかつて初回化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン)に対してゲムシタビンやドキシル・トポテカンなどを追加して効果や安全性を比較する試験が行われました。しかしこれらには生存期間や無増悪生存期間を延長する効果は見られませんでした。このように抗がん剤を追加すれば必ずしも良い結果をもたらすものばかりではなく、場合によっては副作用を必要以上に受ける場合もあります。
自由診療のクリニックでの治療は事例も含めてあげさせてもらった「安全性」の問題、「費用負担」の問題、「医師の専門性」の問題、「効果や安全性の不明な薬が併用されてしまう(インチキ医療)」問題、「詐欺的ぼったくり」の問題など多くの問題が散見されています。
米国などでは「未承認の治療は原則として治験で行う」ことが法のなかで定められているのに日本ではこの法制度がないことが大きな問題だと私は思っています。
私が患者会活動をしていて出会う医師の大半が患者さんのことを第一に考えて診療を行う医師です(コミュニケーションが下手くそなどの問題がある場合はあります)。
一部の医師が患者さんに対して例にあげたような科学的根拠がない治療や設備・経験が不足している施設で医療行為を施し、患者さんから高額な医療費を受け取っているのはとても問題だと思っています。
私はこうした自由診療クリニックを患者さんに薦めることは絶対にありません。むしろ明日にでも日本から消し去ってもらいたいくらいです。
相談者さんにはくれぐれも自由診療クリニックに関しては落ち着いて考えてもらえたらと願ってやみません。
もし私でよければ何時間でもお話を聞きますので、いつでも卵巣がん体験者の会スマイリーの問い合わせ先にご連絡ください。
さいごに
私は、ここまで「あなたに合う」とは書いていないことに気づいていただけましたでしょうか?
遺伝子パネル検査で遺伝子変異などが見つかり、それに効果があるかもしれないお薬が見つかったとしても、がんの種類により奏功率はバラバラです。
すでに承認されているMSI-Highに対するペムブロリズマブ(キートルーダ)でさえもがん種により奏功率にばらつきが見られます。
その遺伝子変異に「合うかもしれない」、でもお薬の効果や副作用などについては「ほんとうのところがわからない」から治験を行っています。
ながいながい9000文字を超える回答になりましたが、私の回答を超短くまとめると以下のようになります。
主治医とよく話し合い、あなたにとって主治医がいま最善と思っている治療について話し合ってください。
場合によってはセカンドオピニオンを受けて婦人科腫瘍専門医や卵巣がんの治療経験が豊富な腫瘍内科医など専門家の意見をきいてみてください
※ただし婦人科腫瘍専門医の資格を持っている医師のなかにもインチキ医療をしている医師もいるし腫瘍内科の医師の中にもなんちゃって腫瘍内科医もいるので必要があれば相談にのります。主治医と拡大治験について検討してみてください。主治医が拡大治験申請の経験がない場合は、病院の臨床研究センター(病院によって多少名前が違います)などの協力を仰いでみてください。
患者会としては自由診療クリニックは安全性や適切な診療を受けられるかといった観点から疑問があるため絶対にお勧めしません。
※もしがん診療連携拠点病院(準拠点病院を含む)などで自由診療を勧められた場合はご一報ください。がん診療連携拠点病院の指定要件が見直されることがきまり、承認されていない治療を勧めるような病院に関しては指定要件を満たさないため拠点病院だと名乗ることができなくなります。多くの患者さんのいのちと安全を守るためにご協力お願いします。
これが患者会からできるアドバイスになるかなと思います。
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