DESIGN : GIVE UP PLASTIC
OUWNのプロジェクトの中で何度か登場している、“PEOPLE AND THOUGHT”というキーワード。OUWNのアートディレクター・石黒が発信するこのプロジェクトでは、今までCirculationやBLACK & BLOCKなどが発表されてきましたが、そのすべてに共通するテーマや伝えたいこととは何なのか。
クライアントワークではない制作をする理由や、自身の根本にある学生時代の話まで。深く掘り下げて聞いていきます。
“ PEOPLE AND THOUGHT ”とは
ー PEOPLE AND THOUGHTというのは、どんなプロジェクトなんですか?
石黒 : これはOUWNというよりも、自分のプロジェクトとしてやっているものです。OUWNのクライアントワークでは3つの指針を持っているのですが、1.クリエイティブを突き詰められるもの、2.お金が潤沢なもの、3.その人だからやりたいっていうもの。会社ということもあり、その3つのバランスを意識しながら仕事を精査しています。でもその3つだとなかなか縛りがあって、できないものももちろんある。
OUWNの作品はカラフルだったりキャッチーなデザインが多く、今は自分以外にも出井さんとfumiがメインにサポートしてくれていて、クリエイティブを変化し続けていますが、基本的にはカラフルな印象が強いのかなと。
それはOUWNの1つの正解だなーとは思うのですが、そういうところとは別軸で、デザインクオリティの向上を図るためにも、個の力でクリエイティブを突き詰めたり、新しい挑戦をする場所が必要だと思ったのが最初のきっかけです。その中で自分が主に置いている想いがあるのですが、それが「PEOPLE AND THOUGHT」の主軸になっていると思います。
石黒 : 自分が通っていた高校ってちょっと変わってて、文系と理系が入学の時から分かれちゃうんですよ。自分は理系に行ってて、本当に数学ばっかりやるんですよね。なので当時は数学や生物、物理が絡むようなことに興味があった。農家になりたいなーと思ったり、獣医になりたいなーと思ってたこともありました。環境問題や生物に関わるもの、そういうものに意識が向いていた。それは今の自分にも根付いているものなんです。
なので自分の指針で考えていくときに、何もないところから作品を作るというよりも、自分自身が興味のあるもの、学んできたことを絡める方が気持ちが入ると思った。そこで始まったのがこのプロジェクトです。
ー 環境問題や、生物がテーマということ?
石黒 : もちろん題材になっているものはそういうものが多いですが、「PEOPLE AND THOUGHT」っていうのは直訳すると「人と考え」みたいなことで、作品を通して疑問を投げかけたい。
作品を見た人が今までの過去の人生を見つめ直したりとか、もう一回考え直したりとか、「こういう考えもあるんだ」っていうきっかけ作りのようなことをしたいと思ってやっています。
ー 思想というか、考え方ってことですね。
石黒 : そうそう。思想というと格好が良すぎな気もするけど、今でいうとSDGsとか、そういった開発や何か訴えかけるようなものもモチーフにしていきたいと考えています。
PEOPLE AND THOUGHTの一番最初は、2017年に初台のスタバがあった頃にCirculationっていうエキシビジョンをやったのが始まりです。スタバの店内は木目が綺麗な内装だったので、そこからコンセプトを膨らませて。
近隣の木を写真に撮って、そこに虫とか自然のものをグラフィックで配置して、スタバの中をグラフィックの森にするみたいな展示をしました。昔はお店があった場所も森林だったわけだし、近くの木々を撮って店内に展示することで、もう一度森に戻すみたいなことをしたかった。紙も木からできているので、グラフィックひとつをとっても木に戻すという、全てをCirculationさせるといったコンセプトでした。
スタバに休憩しに来た人とかが、そういう環境や、循環について考えるきっかけになればいいなって。これをやった時に、なんか自分らしさってこういうことなのかなって感じたんですよね。
「Circulation」と題し、STARBUCKS初台一丁目店にて行った作品展。
飲食に応じて命をいただくこと、デザインに応じて命を循環させていくことをリンクして制作。(2017)
GIVE UP PLASTIC
ー 今回は海洋プラスチック問題がテーマですが、それはどうやって決めたんですか?
石黒 : 海洋プラスチック問題を題材にしたい、というのは元々頭の引き出しに入っていました。デザインを考えていたときに、太さの強弱をつけた線で単純明快に表現すると強いグラフィックになるなと思い、この題材と組み合わせることで、何か従来にはない表現ができるのでは?と思いました。そんな感じで題材と表現のイメージができたときに作ります。
そこから表現方法を深く掘り下げるのですが、有機的なラインをカチッと強くシャープにも描いたものって他に何があるかなーって考えたときに、和文書体だなと思った。単調で明確、短長・太い細い・ハネやハライなど、明朝体などは特にそういった要素が多く含まれているなと。平仮名の「わ」とかも、そういった要素が多いですよね。
だから海洋生物を強弱をつけながら単純化していけば、文字としても見えるなと思ったので、タイポグラフィに寄せた表現方法にしました。
ー これは最終的にゴミ袋に印刷されていますが、最初から決めていたんですか?
石黒 : 最初は決めてなかったです。途中から、グラフィックを作るだけだとイメージによりすぎて遠すぎてしまい、分かりにくいなと思った。もっと海洋プラスチック問題のことをPEOPLE AND THOUGHTで考えさせるにはどうしたらいいんだろうと思って、「ゴミはゴミ箱に」の考えで、ゴミ袋に刷るってことが一番分かりやすいかなと思ったんです。
実際にレジ袋やゴミ袋も海に漂っていることは問題の1つなので、ゴミ袋を題材にすることで伝わりやすくなるかなと。さらにプラスチックゴミからゴミ袋を作ったらより深く掘り下げられるかなと思って、実際にプラスチックゴミを集めてゴミ袋を作りました。
ー そんな背景があったんですね…!
石黒 : そうなんです。それ自体はエコなことをしているわけではないんですが、人が見るときに「これはプラスチックゴミから作ってる」っていうベースがあれば、よりプラスチック問題について考えられるだろうなと思って、そういった手法をとりました。ゴミ袋は表面も凸凹しているし印刷自体が綺麗なわけではないんですけど、そこはそれでも良くて、行為で気付きにつながればいいなっていうのがこのプロジェクトの一番のこと。
なのでぶっちゃけ伝わるのであれば、制作物がなくてもいい。
ー 映像も作ろうってなったのは、より伝えるためですか?
石黒 : はい。グラフィックとポスターだけでもある程度成立してはいたんですが、もうちょっとこのグラフィックを通して意味を考えさせるものがあってもいいなと思って。
ゴミ袋に印刷されてるだけだったら、プラスチックゴミのことだなっていうのは分かると思うけど、環境が壊されていくっていうイメージが伝わりにくい。さっき書体の話もしましたが、文字と「崩す」っていうことも合わせやすい要素だなと思っていて、映像の中でプラスチックの「P」が海洋生物たちを崩していくことを表現できれば、より問題の大きさを感じられるんじゃないかなと。欧文のゴシックの「P」が無機質なイメージで、和文・明朝体のような生物たちとも相反するので、映像は効果的なメディアになるとも考え、それで映像も作りたいなって思いました。
映像だからこそ感じる強さ
グラフィックからムービーを制作。
モーションデザインは川島 真美(DRAWING AND MANUAL)が担当。
石黒 : 今回、星さんの紹介で川島真美さんに映像を頼んだのですが、「P」っていう文字がこの子たちにどれだけ影響があって、壊していくのかっていうのが明確に分かるシーンを入れたいっていう話をしました。ただし「気持ちが沈むから見るのをやめよう」ってなってしまわないように、単純にいい映像だなーって見てもらえることも意識して。キャッチーなグラフィックだから、途中の映像はできるだけテンポよく進むように。モーションとして面白いとか、そういったところに注力を注いでほしいっていう話をしながら作ってもらいました。
ー この映像はかなりショッキングですよね。それはやっぱり音なども含めて、映像ならではの強さがあって。
石黒 : ショッキングにはかわりないですよね(笑)。でも、実際に映像にしたらすごく分かりやすくなったし、川島さんの表現力があったからこそですが、自分の中でも腑に落ちました。
映像を作ったことによって、他のデザイナーの方からも「めちゃくちゃいいじゃん」って言ってもらえたりして、海洋プラスチック問題を身近に感じられる環境ではない人へのアプローチもできた実感がありました。そういった部分で、PEOPLE AND THOUGHTのこういった題材では、ちゃんと分かるための映像っていうのはすごく重要なんだなーって感じました。
○ モーションデザイナー・川島さんからもコメントをいただきました!
大好きなOUWNの石黒さんからのお話、舞い上がる嬉しさを感じました…!デザインの世界観を崩さず、今回映像にすることでより伝えられる「痛み」だったり「重み」を意識して、動きや展開を作りました。映像後半はテンポよく、流れるように進んでいく部分ではあるのですが、一瞬一瞬の切り取りでも、見て見ぬ振りはできない衝撃は残って欲しい、と思いながら制作していました。作ることで自分の考えも改まる、そんな作品にこれからも携わっていきたいと思える作品でした。ありがとうございました!
(川島 真美・DRAWING AND MANUAL)
自分の中に持っている「理系」の性格
ー 作るときには、事前に調べることなどありますか?
石黒 : 意識的に調べ物をするというよりも、日常の中で見直していくってことを常に意識しているかもしれないです。最近では、魚が吐き出すレジ袋を高校生が作ったっていう記事を見ました。素材には海の中で分解される成分のものを使っていて、1〜2年かけて無くなるみたいです。僕、本当にこういう高校だったんですよ。だからすごい共感して、自分もこういう目線は持っているから、そういうところでプロジェクトを作っていけたらなって思います。
ー 高校では何を学んでいたんですか?
石黒 : 自分は生物を取ってました。理系とは別の選択授業もあったので、それは美術を選んでましたね。ほんと数学の授業とかは難しすぎて(笑)、大変だったけど、自分の根底はそこで作られたものだと思います。
こういう題材で作っていくことは、元の自分との対話もできる機会。環境問題もどんどん取り上げられる時代になってきて、そういう意味でもやっていることは間違いじゃないと思うので、積極的に作っていきたいです。
ー 自分はやっぱり理系だなって思いますか?
石黒 : 思いますね。デザインは整理整頓だったりもするので、理論で考えてる部分も多いかも。そこをあえて壊すってことも重要で、そこがデザインの難しさだったりもするのですが…。
ー 今回作ったからこそ感じたことや、より考えが深まったことなどありますか?
石黒 : より深まるってことはありましたね。デザインの話でいうと、こういう手法は割と使えるんだなとか、こう描くと強いものになるんだなとか、発見がありました。
あとは、環境省がやっているプラスチックスマートっていうプロジェクトがあり、このグラフィックと映像を見てもらったんです。そしたらいいですねって言ってもらえて、WEBに掲載してくれました。届くところには届くんだっていう実感にも繋がったし、直近で言うとNYのGraphisという賞ではSilverを受賞、アジアではJAGDA2021やTDC2021にも評価をいただきました。純粋に新しい手法の実験の場でもあるので、考えや技術にも深度が深まったと思います。
ー クライアントワークじゃないものを作るとき、モチベーションの維持の仕方など意識していることはありますか?
石黒 : 今は発表の場所はいくらでも作れると思っているので、SNSに出すだけでもメリットがあるし、それこそグラフィックデザインの賞に出しても良いし、見せる場所はいくらでもあると思います。
発表するというのも一つですが、先ほど話したように新しい技術の実験の場でもあるので、OUWNの技術向上のためにっていう部分もありますね。結局はOUWNが根本にあるから、それがモチベーションになっていると思います。
ー 最近は環境問題や多様性にまつわるものなど、様々な発信が増えていますが、発信するときに気をつけていることはありますか?
石黒 : そこは難しい部分もあるとは思いますが、最後までを詳しく調べて知って、「だから絶対にあなたは動いてください」っていうことを求めてるわけではない。自分はデザイナーでありCDでありADであり、広告的な発想だから、PEOPLE AND THOUGHTのプロジェクト自体も、気づきを与えてあげることが一番の成功なんです。なので、押し付けがましい発信にはならないように気をつけています。
GIVE UP PLASTICのコピーも「私たちが考え、向き合えることは何か。」って言っているくらいで、これはこういう問題だから、何かしなさいって言っているわけじゃない。だから題材としては重いけど、訴えとしてはそんなに重いものではないんです。難しいテーマではあるかもしれないけど、自分の出来る範囲で最大限やっていけたらいいかなと思っています。
ー 今後、PEOPLE AND THOUGHTでテーマにしたいものなどはありますか?
石黒 : 直近ではないのですが、自分がPEOPLE AND THOUGHTで気づきを与えられそうなものが見つかれば、積極的にチャレンジしていきたい。デザイナーとして、表現を打ち出すっていうことが前提にあるので、デザインとの相性も考えながら見つけていこうと思います。
最初は個人プロジェクトとしてやっていたけど、来年くらいからはもうちょっと本気を出してやっていきたいなと。地球が終わらない限りは続いていくプロジェクトだと思うので、しっかりと育てていきたいなと思います。
CL : PEOPLE AND THOUGHT
AD+D : ATSUSHI ISHIGURO(OUWN) / @ai_ouwn
MD : MAMI KAWASHIMA / @mmkw_design
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聞き手 ・ 執筆 : 星成美