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DESIGN : 竹尾 海外用グリーティングカード + OUWN年賀状
ファインペーパーをはじめ、多種多様な紙を取り扱っている紙の専門商社・ 株式会社 竹尾。竹尾が海外に送るグリーティングカードの2021-2022年版をOUWN・石黒が担当しました。
今回はその制作話と、 OUWNの今までの年賀状について。会社として送るグリーティングカードという括りで、様々な話を聞いていきます。
紙の特性を生かしたグリーティングカード
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石黒 : 竹尾さんの海外用のグリーティングカードを制作させてもらいました。これは毎年1人のデザイナーさんに発注がいってて、デザイン業界では登竜門のようなものだと思っています。攻めた印刷方法ができたり作品として言えるような案件だから、やらせてもらえたのは嬉しかったです!
グリーティングカードであること、海外向けであること、そして使いたい紙の特性からデザインを考えていきました。今回は海外に向けたものというところで、日本らしさを出すことがポイント。日本のカルチャーであるコミックをモチーフに選びました。
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ー 日本らしさと言うと他にも和なモチーフなどがあると思いますが、コミックにしたのはなぜですか?
石黒 : 今回は2021-2022年版で、東京オリンピックが終わった後に受け取るものだった。既に海外の人たちは日本を意識した年だっただろうし、日本の文化もたくさん感じた1年だったと思うんです。なので和のモチーフを盛り込むというよりも、日本のカルチャーとか他の要素をたくさん出してあげる方がいいんじゃないかなと。何か別のイメージで日本を感じてほしいと思いました。
ー コミックがモチーフだとポップでカジュアルなイメージになりやすいのかなと思ったのですが、すごく洗練されたデザインですよね。
石黒 : 作っていく段階で4つ意識したことがあって、1.複雑性を感じる日本の色彩、2.海外の人が好むようなカラフルさ、3.日本のカルチャー、4.精密さや精巧さという技術的な日本らしさ。その4つを軸にした上で、枯山水や雪景色のようなレイヤー感のある景色も意識しました。縁側で庭を見るとか、四季を感じながら空間を見る文化が日本にはあるなと。なので空間として捉えられるようなものにしたいと思いました。
空間としての奥行きを出すために、フレーム部分に厚みを出して影を感じさせたり、色も一色じゃなくグラデーションに更にノイズを重ねたり。コミックのフレームだけだと平面になるけれど、格子のようなイメージで日本の建築的な部分を表現したいと思いました。
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石黒 : 建築的な表現で言うと、フレームの形は日本の城の城壁をイメージしています。海外のお城って均等で綺麗な石が積み上がっているけど、日本は六角形や四角形など、様々な形の石で積み上がっているじゃないですか?それをフレームの形では意識しました。日本と海外の違いをできるだけ色々なパーツで盛り込もうと思い、お城の城壁からの着想と、コミックのフレームってことを考えながらデザインしましたね。
ー フレームの厚みがあるから、それぞれの色彩がより際立っているように感じます。
石黒 : 色彩については日本を感じるような複雑性を意識しつつ、鮮やかな印象になるように。色の再現性が重要になるので、発色に優れているインディゴ印刷と、その印刷方法に適したヴァンヌーボの新しい紙「ヴァンヌーボLT-FS」を使用しました。逆に表面はシンプルに白にして、中はなんだろうって想像させる構造にしています。
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ー フレーム部分の質感はふわっとしていますね。
石黒 : フレームの部分は「スノーブル-FS」という紙を使用しています。雪のような手触りを感じる紙で、つるっとしたヴァンヌーボの蓋を開けた瞬間に、華やかな色合いと温かみのある紙を感じる。それって海外の人に向けて日本が届けるメッセージに合っているんじゃないかなと。
箔押しは、日本の職人的な美っていうのを出したくて入れました。
ー 吹き出しに文字を入れなかったのはなぜですか?
石黒 : 想像力を掻き立てるという点で、ここに何か言葉を入れた瞬間にメッセージが固定されてしまうからです。このフレームでいろんなものを想像してほしいから、そこを決めないっていうことをしたかった。なのでメッセージもあえて入れず、外に出しています。
ここに入っている言葉の和訳は「いつだって、私たちは触れ合うことで新しい対話を生み出してきた。肌触り、美しさ、匂い。紙の可能性は、新しいイマジネーションと同等に存在する。」という意味。書体もちょっと挑戦してますね。今まであまり使っていない書体です。
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ー 黄色のフレーム内の線は、あえて平行にしていない部分がありますよね。ここだけバランスを崩しているのは?
石黒 : 海外だと洋食器でも左右対称のものが多いけど、日本の器だったら窯から出して薬の色を楽しむとか、温度によって違うとか、ノイズ感を楽しむ部分があるかなって。それを色でも表現しているんですが、ラインでも一部分表現している感じです。全て平行にしたり、色もベタ1色とかにすると洋風で、色の剥がれとかノイズ感っていうのが日本らしさを表すことができるかなと思いました。
ー 縦型のスリムな形がスタイリッシュですが、カードのサイズ感は決まっていたのでしょうか?
石黒 : 封筒で送るので重さや形に規定があって、そこを合わせた上で、飾っても良いようなサイズ感かなと。グリーティングカードなので、一番は貰い手がどう思うかっていうところが大切で。クライアントワークとはまた少し違うから、自分たちの色というよりも、できるだけ人に寄り添うように考えています。
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石黒 : OUWNが送る年賀状もそうなんですが、こういったものって単純にデザインの挑戦もできるし、デザイナーとしても楽しいお仕事です。竹尾さんってなると紙の良さを感じられるところが最も大切だから、クリエイティブなことに挑戦できたり、実験的なことができました。
OUWNの年賀状(2021 & 2022)
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石黒 : 竹尾さんとはお仕事としては初めてですが、ブレーンの企画でも竹尾さんの紙を使っているし、新しい紙が出たら見に行ったりもしています。
それこそOUWNの年賀状は実験の場として、その年に出た新しい紙を使うことも多いです。
2022年の年賀状は、つい最近発売したタントボードという紙。タントって昔からある紙だけど、厚みのあるものが新しく出たんですよ。厚紙で色モノってあんまり多くないので、使ってみたいなと。
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ー 白い紙に色をのせるのと、元から色のついた紙を使うときの差はどこに出ますか?
石黒 : 一番はフチですね。フチまで色がのるかのらないかで印象が違ってくる。そこは意外と人間の感覚でも感じる部分かなと思います。逆に言うと、色紙の上に色をのせると完全に地の色の影響を受けるから、使えないことも多いです。版ズレもあるので1回白インクを挟んだとしてもキツイ。なので上の黒い部分は全部箔です。
箔とインクの違いとしては、箔は一発で色が出るイメージ。版を押すから、全く透けないんですよね。でもインクは絶対に透けるから、色紙にリッチブラック(4色掛け合わせの濃い黒)を擦ったところで気持ち透けるかもしれないし、紙の質感も残る。今回のタントも結構質感があるけど、箔だと質感も消えるので、そのメリハリの面白さも出せます。紙質を拭うってことは結構やる技法の1つかもしれないですね。
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ー 2021年も箔ですね。この紙もすごく特徴的です。
石黒 : 2021年はSDGsが広まってきて、環境を意識した紙の取り扱いも増えてきた。この紙はグムンドバイオサイクルという、牧草を50%使っている紙です。2021年は丑年ということもあって、こういう紙はクライアントワークだとなかなか使えないから、使ってみたいなと思い決めました。これが束で届いた時、本当に草の匂いがしましたね。
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ー (嗅いでみる)確かに、お茶みたいな香りがします!自然の色を生かしてこの発色なのもすごい。
少しずつ振り返る、(2014 〜 2019)
石黒 : この紙も当時(2014)は新しい紙で、上にシルクを刷りました。2013年にNOTEBOOKを作ってて、その時に使われてて良いなと思っていた紙を使用しました。当時は日本にその紙がなかったので、入ってきたことが嬉しくて。発色もすごい良いですよね。蛍光が流行っていた時期で、他にも明るい色が揃ってました。
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石黒 : 2015年は羊毛紙って言って、羊の毛がちょっと入った紙。このときはクリスマスカードとして出したんですが、年賀状として見ると未年だったからぴったりかなと。この時も質感の違いを出したかったので、白箔で印刷しています。デザインとしてはリースをイメージしながら、羊だけでなく鍵とかプレゼントとか、すごく小さくモチーフを混ぜています。見つけた時にちょっと嬉しい気持ちになったらいいなと。
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ー 白い地に白い色だと、より質感を感じられますね。見えにくいからこそしっかり見る気がします。
石黒 : 2016年は紙象嵌という技法を使った年。紙に紙をのせているんです。OUWNが引っ越した時なので、年賀状兼、挨拶のカードです。ハートの部分が重なってるんですが、紙に紙をのせるから1枚ずつ変えることができて、なんでもいけるんですよ。その時は普通の赤い紙に加えて、赤い紙の上に赤ペンでOUWN、とか色々書いたのを印刷所に持っていきました。何百枚って作ったけど、全て違う紙が合わさっている。
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ー この赤い「ouwn」の文字、印刷じゃないってことですね…!これも言われなくちゃ手書きって思わないかもしれない。
石黒 : そうそう。事前に文字を書いた紙を貼り合わすことで、印象的な仕上がりになるように。だからこの年は1つも同じものはないんです。
スタンプみたいに1枚ずつ押すから大変だったな。印刷所に立ち合いながら作りました。
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石黒 : ちょっと年が飛びますが2019年は箔の実験をしようと思って、シャンパンシルバーという、ちょっと珍しい箔を使用しました。あとはドットがどこまで箔で表現できるか試そうと思い、細かい箔押しによってお茶碗の柄を表現しています。あまりにもドットが小さいから印刷所からはできないって言われたんですが、「それでも良いです」って言って。再現できるところまでやってくれれば、その限度を見たいなと。
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ー くり抜かれて下の紙が見える部分はデータ上でも穴を開けているんですよね。ベタ面にも盛り上がってドットが見えるのは、データ的にはどういう状況でしょうか?
石黒 : それは多分デザインデータでは若干白がある(穴がある)んだと思います。版にした時にはそこが潰れて、逆に盛り上がっているような感じになった。小さくしすぎるとこうなるっていう実験になりましたね。普通のクライアントワークでは絶対NGで印刷所もやらないって言うけど、もしかしたら作品を作る時にはこういうのが使えるかもしれない。面白いですよね。
ー OUWNの年賀状って、紙見本とか印刷の参考として取って置く人も多そうですよね。
石黒 : やっぱり基本的に関係者に送るものだから、普通に可愛いデザインっていうよりもなんか面白かったり、紙見本や印刷の参考になるっていう方を意識してるかもしれないです。新しい紙を積極的に使っているので、竹尾さんにも「その紙にこの印刷をするとこんな仕上がりになるんですね」ってリアクションをもらえたり。
ー 今後やってみたい印刷や使いたい紙などはありますか?
石黒 : 新しい紙が出たらやっぱり使ってみたい!トリッキーなもの、通常では使えないようなものはグリーティングカードで使いがちですね。新しい紙は、青山見本帖の人と話して教えてもらったりして知ります。
最近は特にSDGsで紙のあり方とかも考えるので、そことの難しさも感じています。どんどん削減している時代でもあるから、特殊な印刷や紙を日常の中で見つけにくくなってるかもしれない。再生紙を使ってたり、ライトなパッケージも増えましたよね。そういう部分も意識しつつ、何か新しいものを生み出せたらと思います。
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CL : 株式会社 竹尾 / @takeopaper
AD+D : ATSUSHI ISHIGURO(OUWN) / @ai_ouwn
【オフトーク】 好きな漫画は?
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ー コミックモチーフのデザインにかけて… ハマってる(ハマってた)漫画はありますか?
石黒 : 漫画はめちゃくちゃ読むので、あります!本誌でも読むし、電子書籍でも読みます。有名だけど、最近だと『チ。-地球の運動について-』を読んでますね。あとは『ザ・ファブル』の新しいシーズン(ザ・ファブル The second contact)が始まったから読んでます。
漫画はカテゴリー問わずなんでも見ますね。少女漫画は少ないけど、薦められたら見るし、『君に届け』も読んだ。話題になってるやつは全部見るので、「趣味って言ってもいいんじゃない?」ってティーチャー(OUWN・藤田)に言われました。映画も見るけど、映画はサスペンスとかホラー、アクションしか最近は観ないから。(と言いつつ、最近で言うと『Coda コーダ あいのうた』は観ました 笑)
ー 映画はリフレッシュなんですね。
石黒 : 確かに、それは今言われて初めて思ったかも。漫画はちょっと仕事の枠入ってるかもしれないです。今の流行を追ったりとか、内容の構成とか。写真集見てるみたいなノリかもしれない。最近の漫画は時代を反映したようなテーマのものも多いし、そこから知識を得ることも多いです。何か面白い作品があれば、石黒に一報ください!
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聞き手 ・ 執筆 : 星成美