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北浜〔青山ビル〕での『霜乃会プラス』第四回「浪曲+文楽」へ。

『霜乃会プラス』今回は「浪曲+文楽」、浪花節と義太夫節。プラスシリーズも今日が最終回。とあってか、予約で満員御礼。

18時45分、開演。

座布団から違いがあって、面白い。
上手、分厚い方に文楽チーム、碩太夫さん・燕二郎さんが座られ、下手の座布団に浪曲チーム、真山隼人さん・沢村さくらさんが座られる。

男性は黒の紋付、さくらさんは淡い藤色のお着物、そして舞台と客席の間に、今日の司会、京山幸太さんが立たれる。幸太さんは、黒のスーツに黒のシャツ、臙脂色のネクタイ。

沢村さくらさんは、霜乃会メンバーではない為、今日は〔特別出演〕。
隼人「看板が一枚上です」
さくら「年齢制限で……」
という、特別出演。山村若隼紀さんや沢村さくらさん、こういう輪が増えたり、または重なったりしていくのが、伝統芸能の面白い深み。

さて、役割や構造がよく似ている浪花節と義太夫節。共通項、また違う所を、と言い出すとキリがない。そこで、今日は主に、三味線に注目していきます、とのこと。待ってました!

燕二郎さん、さくらさん、三味線を高く掲げて解説して下さる。

まずは、三味線自体に就いて。

太棹ではあるものの、浪花節は津軽三味線と同じもの。義太夫節の方は、義太夫三味線という、専用の三味線を用いる。鳩胸が角張っているかいないか、の違い。
駒は、義太夫三味線は太夫の声に負けてしまわぬように、高く重たく作られている。それに比して浪花節は、低い。「薄いですね」と表現されてた。
撥。義太夫節の材質は象牙。浪花節は、さくらさんのは、水牛の先に鼈甲。
燕二郎「弾くのに、力が要るので、大きく、重たい撥です」
さくら「持ち手が細いです」

続いて、その調子に就いて。

義太夫節は本調子。浪花節は三下り。
今日この後に実演の『仮名手本忠臣蔵』裏門の段は、A♭、シチホンという、本来より低い調子だそうな。

ここで浪曲チームより質問。
「何枚か並ぶ時がありますが、誰に合わせますか?」に、……位が上の人に合わせます。じゃあその、位の上下がビミョーな時は?には、……微妙さを見分けて、と。燕二郎さん、冷汗三斗。

この浪曲チームからの突っ込んだ質問。なんとなれば、浪花節は、三味線を、浪曲師個人の調子に合わせる。風邪なんで一本下げて、てなことも。義太夫節は完全に場面で決まっている。
また、浪花節には、何人かでの掛合い、というものが無いので、さっきの質問に相成った。てもまぁ、突っ込んでいく浪曲チームの仲の良さよ。

では、三味線と、太夫との関係は?

さくらさんすかさず「どっちが偉いとか?」
それは言わぬが花の吉野山。
「舞台の上での主導権」のこと。ウ~ンと両チーム考え込まれながら。

燕二郎「太夫と三味線は、別個のもの、という感じです。
浄瑠璃も、三味線も、前を向いてる感じ。
ですが、三味線は太夫の"道しるべ"でもあって、太夫がそれについていく、という部分もあります」
ここで碩太夫さんのお話。
碩太夫「霜乃会にお誘い頂いた時に、僕一人では無理なんで、三味線も呼んで下さい、と言いました。
三味線弾きさんには、三味線弾きの芸があるので、「浄瑠璃」、「義太夫節」という芸には、別個ではありますが、不可欠な存在です」
朴訥、セツセツ、というような話し方の碩太夫さん。太夫と三味線の関係がよく解る話。夫婦、相方、バディ、種々。

さて、浪曲チームは。
隼人「真山隼人個人の見解ですが、浪曲師が主導権を握っています。ですが、ペースの遅い速い、その節は似つかわしくないからコッチに戻りや、なんかは、三味線がやってくれます」

では、フシに行く時の合図は?

文楽チーム
燕二郎「これはもう、受け継がれてきたものがありますので、それをやるだけです」
浪曲チーム
隼人「基本的に、浪花節の三味線に譜面はないんですが、浪曲師によっては、キッカケ帳を拵える方もいますし、"こういうフシでいくよ"と合図を送る方もいますし、"テキトーにやっといて"でホンマに30分テキトーに弾かせる方もいます」

ここでそのフシに行くキッカケの実演。

浪曲チームは、隼人さんがもうデタラメな「何がナニしてなんとやら」てな詞章でもさくらさんが、ハッと声かけて、目を見て合わせている。
さくら「最初の3文字で、見極める」
浪曲師の節次第。でも、場違いや、時間が無いよ!という合図を、三味線側から出すこともある。

文楽チーム。裏門の段フシオチの部分を。
まず、三味線だけ聴かせて。
次に、太夫と一緒に。
〽️︎身拵へするそのところへ。
この、そのところへ、でが微妙に人によって違う。
燕二郎「その、を上に伸ばす方、また、回される方もいます。ですが、伸ばさない、回さない、という前提で弾いています」。

フシの系統、そのいろいろ。

隼人「浪花節は、関東節と関西節があります。もっと細かく言うと、中京節、九州系統の中京節。
関東節は、イキにサラッと、江戸っ子だってね、お名前をご存知の方もいらっしゃるでしょうが、虎造、勝太郎といった、イキにサラッと。
関西節と言いますと、こちらの幸太さんもそうですが」
幸太「フシの後に、さぁ手ぇ叩け、というような」
隼人「何とやらァゞゞゞゞみたいな。ここで3列目のお客さん見たら手が来る、と大師匠が言うてました」エエ事聴いたと幸太さん、早速明日やるそうな。
ちなみに、関東節の三味線の典型は、「浪花節だよ人生は」のオープニングで流れているあの一節。

続いて文楽チーム。

燕二郎「文楽系と彦六系があります。
彦六系は、小気味よい、ノリマを大事にするやり方で、"三味線が語る"という名言が残っています。
文楽系は、どっしりとしたもので、僕は、こちらです。彦六系は、今は寛太郎さんですね」

フシの次は、語り。タンカ、コトバ。

この時の三味線は何を弾いてますか?

さくら「コトバの合間に、短音を入れていくパターンもありますし、泣いてるような曲を入れたりします」
隼人「歌舞伎を観てましたら、雪の手とか、船を漕ぐ曲とか、我々と同じでした」

場景を描く三味線。文楽にも、

燕二郎「日高川入相花王の、清姫が川を渡る場面に、メリヤスというものがあります。人形の動きに合わせて、伸縮自在で、そこから、メリヤス」
では、人形を、と隼人さんに振る幸太さん。出来るか。

さくら「あの、やめ際は?」
燕二郎「人形キッカケですね。人形遣いさんの、ハッ、て声とか」

やめ際の話が出た訳ではないだろが、丁度時間となりまして、実演のコーナーに。
まずは、義太夫節から。舞台転換、着替えにと、文楽チームと沢村さくらさんがハケられる。
替りに、今日もお手伝いに来ていた、講談の旭堂南龍さん、能楽の林本大さん、今村哲朗さん、落語の桂紋四郎さんが、登場。

南龍さん、今日が一番面白い、感動した、と。
紋四郎さんは、幸太さんの服装をイジル。どこのホストや、と。
林本さん、幸太さんの司会ぶりを褒める。
幸太さん、告別式とか呼んで下さい、と。なんで結婚式やないねん、とツッコまれてはった。
隼人さん、霜乃会来たら、ギャグがうまくなるんですわ。
で、楽屋でずーっと喋ってるのが、能楽チームだそうな。意外。なのに舞台では黙ってる。
哲朗さん、能楽のイメージ崩さんようにね、と。
紋四郎さん、プロの楽屋が笑う位のレベルですよ、と。この辺の、和気藹々さも、霜乃会さん、会を重ねたら徐々に見せて欲しい。

実演のコーナー。
まず、文楽チームによる、『仮名手本忠臣蔵』より裏門の段。茶の肩衣、深緑の袴。やっぱり碩太夫さん、巧いなぁ、としみじみ。そしてこの、デーンデーンという音の良さ、それを、良さ、と感じられる人間で良かった。

続いて、浪曲チーム。

空色の着物にこちらも渋い緑の袴に着替えた隼人さん。
客席との距離に改めて、近いですね、と。これでワッと浪曲の空気に。この自在さも、違う点。
義太夫も物々しいが、浪曲もテーブルがある。けれども、このテーブルに掛けてある布、正式名称は、テーブル掛け!なんのことはない。テーブル掛けの上に敷く白い布、これはテーブル掛けに唾が掛からないようにする為のもので、正式名称を、ツバ掛け……。
隼人「どちらかと言うと、演芸というジャンルになるのかな、と思いつつ、沢村さくらさんのお三味線に導かれ、お時間の見えますまで……」
と、「俵星玄蕃」(作・室町京之介)を。

お時間の見えますまで……、この辺りから、浪花節声になってらした。ダミ声の魅力。「浅草寺の鐘が不気味に響く」という所で、三味線がドーン、ドーンと、弾いてらしたように聴こえたのが、今日の収穫。

この近さよ。

実演終わって、文楽チーム「緊張しました」浪曲チーム「違いが判って楽しかった」。
最後に、なんと今日、お誕生日の碩太夫さんを祝って全員で「ハッピーバースデー」を歌う。隼人さん、♪ディア碩太夫さぁん、ンアッ、ハッピーバースデー、と杖ついてらしたのが、面白かった。

20時15分、終演。音曲自体の楽しさ、さくらさんと隼人さん、幸太さんと隼人さん、浪曲チームの"演芸味"で、賑やか。

佐々木八郎『語り物の系譜』(笠間選書)より、義太夫節と浪花節に就いて少々引く。

ひとしく語り物の系統を承けて発達したものではあるが、義太夫節は人形と結合したことによって、その詞章はいちじるしく戯曲化したし、三味線の機能を極度に活かした結果、その曲節は甚だしく複雑な音曲化を遂げたのであったが、浪曲は人形を伴うことなく、聴衆の耳に訴えることのみを本位とする語りの域を守って、部分的に劇化した面もあるにはあるが、しかし全体としてはあくまでも語り物であり、また伴奏楽器である三味線もその語りの調子を著しく音曲化するまでには至ってない。

てな事を、楽しく、理解できた、霜乃会プラス。継続決定とのこと。

まずは8月6日、7日の本公演を楽しみ。大阪の8月頭は、晴の会に霜乃会がある夏。