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ヘンリー・ダーガーについて語りたい

これまで4回ほど、「アール・ブリュット」と「アウトサイダー・アート」という言葉について、その言葉が生まれた経緯や使われ方の歴史などを調べてきました。その過程で何冊も本をめくり引用文を書き写したりしてきたのですが、どうも文字ばかり追いかけていて、きちんと作品を見ていないのではないかという気がしてきたので、この後しばらくは作品に向き合っていきたいなと思っています。

まずはアール・ブリュットに関心を持つきっかけになったヘンリー・ダーガーから。

タイトル上の画像は、ダーガー本人ではなく生成AIに描いてもらった「ヘンリー・ダーガー」です。何となくイメージを捉えているような気もしますが、ヒゲすごいですね。こんなに長くないよ。それに部屋の中で帽子はかぶっていなかったと思います。

ダーガーの絵を初めて見たのは、2012年に広島市現代美術館で鑑賞した「解剖と変容 アール・ブリュットの極北へ」でした。

この時は別の用事で広島へ行ったのですが、せっかくなので美術館へ行っておこう!と思い訪問しました。正直この時点では「アール・ブリュット」という言葉すら知らなくて、ポスターから「何かちょっと変わった感じで面白そう」と感じていたように記憶しています。

で、実際に展示を見てみて。メインのプルニーとゼマーンコヴァーより強い印象を受けたのが、2点(表裏に描かれているので実質4点)展示されていたヘンリー・ダーガー作品でした。

一見すると「子どもの絵」のような稚拙な描線と平面的な着色。しかしそこに描かれている光景は、木に吊るされた、あるいは裸で首を絞められている少女たち――この光景で、一瞬フリーズしました。これは何なんだ?

今思うと、それは「アンバランスの世界」を見た驚きだったのかもしれません。素朴な描線と残酷な光景。モチーフのひとつひとつは形が取れているのに、全体で見ると大きさの比率が何だかおかしい。動きのある情景なのに人物のポーズは静止しているなど。なのに全体として統一された世界観のようなものは感じられます。これは既成のイメージをトレースして組み合わせたことと、ダーガーの頭の中に明確な世界のイメージがあったせいではないかと思います。

この「解剖と変容」展の図録はAmazonでも販売されていますが、中古で5000円超え(2024年11月現在)はちょっと高すぎます。巡回した兵庫県立美術館のミュージアムショップにまだ在庫があるようなので、こちらの方がお勧めですよ。(売り切れていたらすみません)

東京に戻ってから「アール・ブリュット」について検索したり服部正さんの本を読んだりして情報収集しました。その中で何とも残念だったのは、前年の2011年にヘンリー・ダーガーの展覧会が東京で開かれていたこと!その頃はアール・ブリュットやアウトサイダー・アートに関心がなくて、というか存在すら知りませんでした。しかも作品は劣化が心配され、今後大規模な展覧会は困難ではないか、とのこと……。実際、開催されてないですよね。

この後ダーガー作品の実物を見たのは、2016年に横浜美術館で開かれた「村上隆のスーパーフラット・コレクション」展と、2024年に東京国立近代美術館で開かれた「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」の2回だけです。

日本でダーガー作品を見ようとすると、現在の所もっぱら画集ということになります。というわけで、日本で現在入手可能な本を(私の知っている限り)リストアップしていきますね。

ジョン・M・マグレガー『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』

現在日本語で読める本として最も詳しいのがこれではないでしょうか。ダーガー作品のカラー図版、ダーガーが創作した小説『非現実の王国で』の抜粋、ダーガーの生涯や暮らした部屋、作品の分析などが記載されています。お高いのでまずは図書館などで現物を確認することをお勧めします。

「美術手帖」2007年5月号 特集:ヘンリー・ダーガー

前回でもご紹介しました。カラー図版、『非現実の王国で』の舞台設定やキャラクターなどの解説、ダーガーの生涯、キヨコ・ラーナーさんのインタビューなどが掲載されています。

小出由紀子編著『ヘンリー・ダーガー 非現実を生きる』

作品のカラー図版、『非現実の王国で』の内容紹介と抜粋、作品についての解説、ダーガーの生涯など内容は上掲の「美術手帖」と重なりますが、こちらは1冊まるごとヘンリー・ダーガーで、内容が豊富です。

版元の平凡社では「現在品切れ中」となっており、Amazonではとんでもないお値段になっています(2024年11月現在で9802円!)。定価は本体1900円だったのですけどね……。正直これに1万近く出すよりは、マグレガー本7150円の方がお買い得だと思います。

また、日本の古本屋(https://www.kosho.or.jp/)ではもっとお安く買えることがあるので、こちらでも検索してみてください。

小出由紀子、都築響一『HENRY DARGER'S ROOM』

ヘンリー・ダーガーが人生の後半(40~80歳)を過ごした部屋の写真集。ダーガーがこの部屋を出て老人ホームに移った後、部屋を整理していた大家のネイサン・ラーナーが大量の作品群を発見したのは有名な話ですね。

写真集を出版した経緯は、上記「美術手帖」の特集に含まれている、小出由紀子氏と都筑響一氏の対談で言及されています。写真はある程度片付けられた状態になっていますが、本来はもっと乱雑な「ごみ屋敷」状態だったのではないでしょうか。対談でも「長居はしたくない場所」「廃墟感がある」などと言われています。ダーガーが亡くなった後も部屋は保存されていましたが、2000年に撤去され、現在はシカゴのIntuit(アウトサイダー・アートの普及センター)で再現・保存されているそうです。

日本語で読めるものといえば、こんな所でしょうか。ただ、ヘンリー・ダーガーは今や人気作家ですから、アール・ブリュット全般を扱った作品集や解説書にも作品や略歴が載っていることが多いです。

そんなこんなで。今回は本の紹介ばかりになってしまいましたが、まずは手始めに「ひとり読書会」としてマグレガー本を再読してみようと思います。

#アール・ブリュット #アウトサイダー・アート #ヘンリー・ダーガー

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