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『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』を読む/本文(1)

それでは本書の2番目のパート『非現実の王国で』の抜粋部分を読んでいきましょう。絵は好きなのですが、そういえば文章の方はしっかり読んだことがありません。 ヘンリー・ダーガーはこの長大な物語を18~20歳の頃に書き始めたようです。原稿はタイプライターで清書されて本の形に製本され、全部で15巻(製本されていない原稿もあり)。内容は前回述べたように、「子ども奴隷」をめぐって邪悪な国とキリスト教徒の国が戦いを繰り広げる架空の世界の物語ですが、大きなストーリーラインがあるわけではなく、

    • 『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』を読む/カラー図版

      ジョン・M・マグレガーの『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』を読み始めました。 ヘンリー・ダーガーは1892年にシカゴで生れ、幼年期に両親を亡くし、シカゴの病院で雑役夫として働きながら、自宅で誰にも見せずに絵や小説などの作品を制作し続けていました。本書のタイトル『非現実の王国で』(In The Realms of the Unreal)は、ダーガーがひっそりと制作し続けてきた作品のタイトルでもあります。 本書は大きく3つのパートに分かれていて、最初がカラー図版、次がヘン

      • ヘンリー・ダーガーについて語りたい

        これまで4回ほど、「アール・ブリュット」と「アウトサイダー・アート」という言葉について、その言葉が生まれた経緯や使われ方の歴史などを調べてきました。その過程で何冊も本をめくり引用文を書き写したりしてきたのですが、どうも文字ばかり追いかけていて、きちんと作品を見ていないのではないかという気がしてきたので、この後しばらくは作品に向き合っていきたいなと思っています。 まずはアール・ブリュットに関心を持つきっかけになったヘンリー・ダーガーから。 タイトル上の画像は、ダーガー本人で

        • アール・ブリュットとアウトサイダー・アート:雑誌記事に見る言葉の変遷

          これまで「アール・ブリュット」と「アウトサイダー・アート」という言葉について長々と考察してきました。 結論として「アウトサイダー・アート」は最初は「アール・ブリュット」を紹介するための英語として考案されたものの、今では本来の(ジャン・デュビュッフェが定義した)アール・ブリュットを超えて広い範囲を意味する言葉となっている――ということですね。 そして、最初の記事で述べたように日本国内では当初「アウトサイダー・アート」が優勢でしたが、2000年代の後半あたりから徐々に「アール

        • 『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』を読む/本文(1)

        • 『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』を読む/カラー図版

        • ヘンリー・ダーガーについて語りたい

        • アール・ブリュットとアウトサイダー・アート:雑誌記事に見る言葉の変遷

          「アウトサイダー・アート」という言葉:カーディナルの著書

          「アウトサイダー・アート」という言葉は、英国の美術評論家ロジャー・カーディナルが1972年の著書タイトルとして使用しました。その後、前回書いたようにデュビュッフェが「アール・ブリュット」という用語の使用を制限していたという事情もあって、代替の用語として急速に広まっていきます。 カーディナルのこの著作は邦訳版がありません。原書も現在入手困難となっており、Amazonで検索するとすごいお値段になっています(2024年10月26日現在30,855円)。 というわけで、この本は読

          「アウトサイダー・アート」という言葉:カーディナルの著書

          「アール・ブリュット」という言葉:画家デュビュッフェによる命名

          まず「アール・ブリュット」という言葉は、いつどこで生まれたのでしょうか。 この言葉を考案したのはフランスの画家ジャン・デュビュッフェ(1901-1985)です。デュビュッフェはハンス・プリンツホルンの『精神病者はなにを創造したのか』を通じて精神病院での創作活動に興味を抱き、1945年にスイスの精神病院を訪問して作品を鑑賞。この時の作品には、後にアール・ブリュットの「巨匠」とも呼ばれるアドルフ・ヴェルフリやアロイーズ・コルバスなどがありました。 『評伝 ジャン・デュビュッフ

          「アール・ブリュット」という言葉:画家デュビュッフェによる命名

          アール・ブリュット/アウトサイダー・アートが好き

          このnoteでは、アール・ブリュット(アウトサイダー・アート)と好きな作品・作家について思うこと、調べたこと、参考になりそうなことなどを書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。 アール・ブリュットって?まず言葉の意味をしっかり定義しておきたいところなのですが、「アール・ブリュット」ってそもそも何なのか? 「アウトサイダー・アート」とはどう違うのか? という所が実は私自身しっかり理解できていないので、まずはそこから考えていきたいと思います。 「アール・ブリュ

          アール・ブリュット/アウトサイダー・アートが好き