地域資源に新しい価値を生み出す、「編集とプロデュース」の極意
「鬼滅の刃」無限列車編、ついに観客動員・興行収入が歴代2位。SNSやニュースで見ない日はないくらい、全集中が止まらない勢い。
原作の魅力はもちろんですが、
私達の行動に変化まで起こしているのは、メディアを活用したPRノウハウが詰まってるからです。
今回は、藤本智士さん著「魔法をかける編集」と博報堂ケトルの日野昌暢さんのお話から、
地域を変えるためのPRに必要な「編集」と「プロデュース」の力について紹介します!
地域を活性化させるPR
あの「本屋大賞」の仕掛人でもある博報堂ケトルさん。
芥川賞や直木賞はあったけれど、本が売れなくなってきた時代に、読者と一番接点のある書店員が、売れる本をつくり出す画期的な仕組み。
いまや毎年の大賞が気になるようになりました。
ちなみに本屋大賞は、広告ではなくPR(Public Relations)と呼ばれる手法をとっています。
PR = 人々の認識を変え、人々の行動をも変えること
このPRは、メディアにどう取り上げてもらえるかが大切ということで。
(メディアとは、マスメディアやWEB、SNS、ヒト(口コミ)などあらゆる媒体を指します。)
東京には豊富なメディアがありますが、ローカルではどうしても少なくなる。さらにWEBで検索できないと、今や認知もされない。
だからこそ地域では、"編集とプロデュース"の力を駆使した、地域の潜在能力を引き出すPRが重要なのです。
PRに必要な二つの力。日野さんによると
◆編集力
メディアを活用して状況を変化させる力
◆プロデュース力
地域のヒト・コト・モノ・カネの関係を編集して社会実装していく力
と定義されてます。それでは具体的な事例とは?
みんな持ってるマイボトル
会社に持っていくマイボトル。このカルチャー、まさに藤本さんが世に送り出したもの。
2004年当時、ペットボトルを消費する文化に疑問を持っていた藤本さんは、水筒を持ち歩く世の中を提案する「すいとう帖」なる本を制作。
すると象印の社長から声がかかり、「マイボトル」という新しい言葉を生み出すと、商品棚に企画コーナーができたり、スタバでマイボトル持参が認められたり。徐々に生活に定着。
2004年の600万本から、2016年で1,800万本まで商品売上を伸ばしています。藤本さんから始まったPRは、色々なメディアを巻き込みました。
鞄の中のペットボトルを、マイボトルに変える。そんな行動が一般的になるまでに。
さらに自身の発行する雑誌「Re:S(りす)」でも水筒のある生活を紹介していたところ、タイガー魔法瓶さんと一緒に商品開発することになり、12年の歳月をかけて「& bottle」が誕生します。
大切なのは世界をどう変化させるかのビジョン。
「水筒を持ち歩く夢」を発信し続けたことで、未来を引き寄せていると感じます。
絶滅の危機にあるお店たち
群馬県高崎市で始まった絶メシリスト。
かつて街を賑わせていた、個人経営のお店。
知る人ぞ知る、無くしてしまうには惜しいお店を紹介して、後継者も募集するという尖った企画。
例えば、日野さんから紹介のあった「大豪」
チラッと見える文章だけで衝撃ですが、魅了されるファンがお店を支えているそう。
現在61店舗が掲載されているものの、閉店してしまったお店の記事も見られます。
ですが、閉店に至るまで丁寧に取材された記事は、店主の想いが詰まった物語で、心揺さぶられるものがあります。
ちなみに絶メシリストによって、掲載店の売上は平均20〜30%上がり、大繁盛したお店も。
その後、絶メシは他のエリア(柳川、石川)にも展開され、本の出版、ドラマも公開されました。
さらに新橋には「鳥森絶メシ食堂」がオープンし、メニューが提供されたお店には売上の5%が還元される仕組みになっているそうです。
普通は「美味しいお店の紹介」って企画にしそうですが、当時は「企業の後継者不足」が新聞などで話題になっていました。
そこで課題解決に合わせた、打ち上げ花火にならないPRを。と考え抜かれたのが、店主の人柄やストーリーも重視される絶メシリストでした。
なんと自治体のプロモーションとしては異例の広告賞も受賞されています。
社会課題をキャッチーに、前向きに表現したことで質の高いPRに繋がり、「チェーン店でなく地元のお店を!」という認識と行動の変化まで生み出したのは、まさにお手本になる取組。
世界一おいしい牡蠣が食べられる街
続いては広島の「牡蠣食う研」
広島市は当時、観光客数は増えているものの、一人当たりの消費額は横ばいの状況でした。
都市課題として
・観光客一人当たりの消費金額が少ない
・観光客の宿泊率が低い
広島で美味しいものといえば、何をイメージするでしょうか。日野さんの調査によると
東京では「牡蠣」と答える人が一番多く、広島の人は「お好み焼き」が圧倒的に多かったそうで。
しかも広島では、牡蠣は家で食べる文化。
原価が高いことや、食中毒のリスクなど、美味しい牡蠣を提供する店舗は少なかったそうです。
観光客がもっと美味しい牡蠣を食べられたら、消費額も増えて、面白いんじゃないか。そんな想いからスタートしたのが「牡蠣食う研」
最初の企画は「白いカキフライ」
広島県出身の超人気とんかつ店「成蔵」の店主である三谷さんと、広島で最高の牡蠣をつくる(株)ファームスズキの鈴木さんの最強コラボで開発した「異次元のカキフライ」は大ヒット。
続けざまに、牡蠣に合う究極のレモンサワーを開発したほか、エキニシ地区と呼ばれるエリアでレモンサワーガーデンを企画したりと、さらにお店が儲かる仕組みを構築しました。
さらに、広島でも浸透していなかった「本当に牡蠣が美味しいのは"春"」という事実をPRすることで、新たな観光シーズンまで作られています。
改めてプロセスを検証すると
①どんなPRが本質的に地域が活性化するか検討
②それまでのネガティブな固定概念の払拭
③飲食店が牡蠣で儲かるモデルづくり
④地域で頑張る人を見える化するメディアづくり
⑤頑張る人たちを繋げるコミュニティづくり
⇒牡蠣を食べにきた人が本当に楽しめる地域に
PRだけで終わらず、地域に根づいたビジネスを作り上げました。
こうしたプロデュースの原点は徹底した取材にあるわけですが、そこで意識されていたのは
新たな価値を生んでいるか、楽しいか、応援されるか、継続するか、街の人が話題にし、参加できるか、街が儲かるか、自走するか
だったそうで。
取材のときから、地域にあるピースをどう繋げていくかデザインされていることが分かります。
外からの目線で、牡蠣の魅力を掘り起こし、みんなが面白そう!関わりたい!と思えるPR。なんというか、今日はカキフライが食べたい…
PRの極意を振り返る
これまでの事例から、
地域の資源を編集、プロデュースするために重要だと感じた点は
①強いビジョンを発信し、半歩先の未来を見せる
藤本さんの書籍によれば
手前の目標ではなく、理想とする未来の強いビジョンが大切。そのビジョンを具現化させるのが、編集とプロデュースの力。
そして「こんなのあったらいいな」を形にすることで共感を呼ぶ。それは一歩二歩先の未来ではなく、イメージしやすい半歩先の未来であること。
夢を語り、小さくとも実行していくことって、やっぱり大切。
②「関わりしろ」がある物語
絶メシリストや牡蠣食う研でもありましたが、
みんなに伝えたくなる共感、共創・課題解決に繋がる物語であること。
さらに聞いた人が参加できる「余白」があれば、物語の登場人物は連鎖的に増えていきます。
「ナラティブ」な考え方が重要なのですね。
③認識を変え、行動の変化を狙う
国際的な広告祭のカンヌPR部門では、PRが最終的に世の中をどう変えたのか(認識・行動の変化)が評価基準にもなっています。
その場限りでなく行動の変化に繋がって、今より豊かな生活になる。そんなPRが求められているのですね。
まとめ
PRは、ビジョンと地域資源があってこそ活きるものですが、何よりもスタートは取材から。
色んな人からお話を伺うと、点が繋がってストーリーになったり、心強い仲間ができたり。
そういう意味でも、都市経営も自治体職員も、自分がまちに出ることから始まるのは同じで。
地域の魅力を見つけて、編集して、自分ならどんなPRができるか。
メディアリリースなど含めて、チャレンジしてみると新しい発見があるかもしれません。
私もチャレンジしてみます!読んでいただき、ありがとうございました!