【超短編】カエルの子はお玉杓子
短躯郎はお玉杓子です。
たくさんの兄弟姉妹といっしょに生まれました。
ある日のことです。
楽しく遊んでいると大きな魚がやってきました。
「うまそうなのがいっぱいいるな」と目を輝かせて言いました。そして「お前ら好きなだけ食っちまいな」と後に声をかけました。
すると大きい魚や小さな魚がいっせいに襲ってきました。
短躯郎は大慌てで藻の中に隠れました。
いじめられっ子の短躯郎はなにかあるといつでもここに身を潜めていたのです。
隙間から覗くと魚たちの丸い口の中に尻尾からどんどん吸い込まれていく兄弟姉妹の姿がみえました。
満腹になった魚は「残さず食べたか」と言いました。
「食べた」「お腹いっぱい」と返事がありました。
「全部食ったか、逃した奴はいないだろうな」
短躯郎はドキドキしました。みつかれば食べられてしまいます。
「そのへんの草に隠れていないだろうな」
その言葉に短躯郎の尻尾はブルブル慄えました。
大きな魚の口が藻を揺らしました。
「ヒッ」
思わず短躯郎は息を呑みました。
「とうちゃん、早く帰ろうよ」と小さな魚が駄々をこねたので大きな魚は「わかった、わかった」と渋々答えました。
短躯郎はホッとしました。そして思いました。
「ぼくのとうちゃんとかあちゃんは何処にいるのだろう」
短躯郎は孤独な日々を過ごしていました。
その日、ぼんやり游いでいると爆音とともに大きな蛙が飛び込んできました。
短躯郎の眼前に蛙が近づいてきました。暫く沈黙が続き悟りました。
「とうちゃん」
蛙は呼ばれた瞬間大きな口を開けてパクと短躯郎を呑み込みました。
「とうちゃんだと。蛙の子は蛙に決まってる」そう言って地上に揚がって繁みに帰って行きました。