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王神愁位伝 プロローグ 第13話
第13話 憎しみの怒鳴り声
ー 前回 ー
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志都のいる西塔。
部屋にはオレンジ髪の少年、幸十がいた。
”カタっ”
「!!」
階段の方から何か物音が聞こえ、幸十は咄嗟に気づき立ち上がる。
「幸十?」
呼びかける志都に、静かにするように人差し指を立てた。
「誰かいる。」
驚く志都に、幸十は少しづつ扉に近づき耳をつけると、目を閉じ階段のほうからの微かな物音を聞いた。
ー爛か、狼たちか。それにしては、やけに静かだ。
幸十は思い切って扉を開く。
”ガチャ!”
「!!」
ーそこにいたのは
「あ・・・兄貴・・・」
乖理が冷や汗を流しながら、不安そうに階段にいた。
「乖理?」
幸十は驚き目を見張っていると、後ろから志都が呼びかけた。
「誰?」
幸十の後ろから、志都が出てきて驚く乖理。
「?!兄貴・・・!誰!?」
乖理が幸十の腕をぎゅっと掴み、訝しそうに志都を見た。
「乖理、志都だよ。」
「シヅ?何者なの?それに・・・兄貴、ここって禁止区域じゃ・・・」
「?志都は何者だ?」
乖理の質問に答えられず、志都に聞く幸十。
そんな幸十を見て、乖理は不安なのか、より一層腕を掴んだ。
「あ・・・兄貴・・・化け物だよ!!ほら、この間95番の印付けた子供が言ってたじゃん!ここは化け物が出るって!」
乖理は見慣れない志都の存在に、驚きと極度な不安を感じている様だった。そんな警戒している乖理をなだめようと、志都が近づいた。
「あ・・・えっと・・・私は・・」
「兄貴!!ここでよう!!危ないよ!!」
志都の言葉など聞こえていないのか、乖理は幸十の腕を引っ張って、階段を降りようとした時だった。
”バターーーーン!!!”
「!!!」
”ゾクッ!!”
西塔の扉が物凄い音と共に開かれ、誰かが足音と共に物凄いスピードでこちらに向かってくる。
ーこの聞きなれた足音、背中に悪寒が走る気配。
幸十はすぐに察知した。
「乖理」
不安げな乖理を抱き上げ、志都の部屋に急いで入り扉を閉めた。
志都も気づいている様だ。
「多分爛よ!この部屋じゃ匂いで気づかれるわ。外に・・・あぁ、でも・・・、外の隠れる場所は一つしか・・・」
志都の言葉に、迷うことなく幸十は乖理を抱き上げたまま窓を開けた。そして、乖理を窓の柵に立たせると、
「あ・・・兄貴・・・?」
乖理は大きな紫色の瞳を、不安そうに揺らして幸十を見つめた。
そんな乖理に、幸十は両手をぎゅっと握った。
「乖理。ここで見つかったら、いつものムチ打ちどころの話じゃない。たぶん・・・消される。」
「け・・・消される・・?」
乖理は口に手を押さえ、真っ青な表情になった。
「だから、ここにしがみついて。絶対に離しちゃだめ。ここなら大丈夫。」
幸十は、窓外の何とか隠れられそうな手すりと足場を指した。
そんな幸十に乖理は幸十の手を掴み返した。
「あ・・・兄貴も・・・」
懇願する乖理に、幸十は首を振る。
「ここは一人しか無理。俺は大丈夫。志都がいいって言うまで絶対にここに隠れてるんだ。」
「ま・・・待ってよ!あ・・・兄貴はどこに・・・嫌だ!一人は嫌だ!!兄貴と一緒に・・・」
駄々をこねる乖理だが、爛がこちらに来る時間は待ってはくれない。どんどん足音が大きくなってくる。確実に近づいていた。
「さ・・・幸十、もう・・・もう来るわ!」
志都の言葉に、幸十は無理やり乖理を窓外の下のスペースへ追いやった。幸十は、腕を離そうとしない乖理のまん丸な紫の瞳から流れる涙を拭った。
「乖理。ここにいる子供たちは、瞳に光をすぐ失うんだ。でも、乖理の瞳はまだ輝いてる。そんな君は、強い。ここの誰よりも。」
「!!あに・・」
「俺が消えたら、探しに来て。大丈夫。また会える。」
幸十はそう言うと、無理やり乖理の腕を振り払い、窓を閉めた。
もう爛は扉の目の前だ。
「幸十!!」
”シャッ!!”
気休めにクローゼットにでも隠れようかと考えたが、そんな時間などなかった。とりあえず窓付近の不自然さをなくすため、カーテンを閉める。
”バン!!!”
大きな音と共に、幸十が予想した通り、物凄い形相の爛が入ってきた。
「ら・・・爛・・・。」
まるで獣の様だ。銀色の毛におおわれた耳と尻尾は威嚇を示すかのようにピンと逆立ち、金色の瞳は怒りだけではなく憎しみもこめた様子で、幸十を見た。
「てめぇ・・・」
低い獣がうなるような声。一言発しただけで、幸十も志都も何かに縛りつけられたように動けなくなった。
「この・・・下等種族共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
爛の憎しみのこもった怒鳴り声が、部屋だけではなく敷地全体に響き渡り、緊張感が走った。
ーー次回ーー
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