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王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第10話

第10話 コウモリの洞窟

ーー前回ーー

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正門を出ると、何やら怪しい建物・・・・・が見えてきた。

”ーモワァァアン”
薄いグレーと暗い水色を基調とした建物だが、見た目はどこか暗い洞窟・・・・を思い出させる。建物からは、呪われているのではと感じるような、何やら黒いもやが出ており、鬱蒼としている。
誰しも近づくことをためらいそうな、キラキラと輝く太陽城に似つかわしくない一角だ。

その建物が見えてきたところで、坂上は足を止めた。
「ーそして、ここが3つ目の建物、”雲の宮殿”です。・・・まぁ、”コウモリの洞窟”なんて言われてたりもしますが。」
最後の方は、少々早口で坂上が言った。

雲の宮殿は他の宮殿よりも少し小さめであり、少々どんよりとした雰囲気を醸し出している。
「ーここ、なんで門の外にあるの?」

幸十が聞くと、坂上は待ってましたと言わんばかりにニコっと微笑んだ。
「ここは、この太陽城を守る一つの要・・・・・・・・・・なんです。」
「かなめ・・・?」
「はい。もちろん、番人さんや太陽王がいればこの城は安全です。なので、いままでこの城にはセカンドがいなかったのです。」
「セカンド・・・力をもっている人たち・・・?」

幸十は以前聞いたことを思い出していた。
「そうです。この城を中心として構えるこの地域を”太陽の心臓”と呼びますが、その他の地域にはそれぞれセカンドの専属部隊・・・・・・・・・がいます。その部隊たちが、その地域に住む人々を守っています。でも、ここの地域はセカンドの部隊がいません。・・・なので、一応そういった部隊も置こうという意味合いも含めてできたのが、私たちの部隊です。」

そして、坂上は目の前の”雲の宮殿”を指した。
「そんな私たちの部隊の拠点がここ、雲の宮殿です。不審者や敵が攻撃をしてきた際に、城の中に入る前に食い止めることも考え、雲の宮殿は外に作られてます。・・・まぁ、最近できたので後付けってことも関係してますが。」
最後の方はボソッとつぶやく坂上。

「私たちの部隊は、現状全員で11名の隊員が所属してます。是非みんなに会ってー」
坂上が幸十に握手を求めようとした時ー

「あーー!坂上はん見ーーーーっけ!!」
雲の宮殿屋上らしき場所から、何やら誰か・・が叫んだ。
その声と共に、宮殿の中が騒がしくなる。
”ガタガタ!!ドタドタドタドタ・・・・”

「あ」
坂上の表情はにこやかであるものの、どこかまずいという雰囲気を醸し出す。
「くぉらぁぁぁぁぁああああああああああ!!!坂上ーーーーーーーー!!」
”バン!!!”

階段を下りてくる音だろうか。もの凄い足音とともに怒声が響き、勢いよく扉が開いた。今にも扉は壊れそうだ。いや壊れたかもしれない。
その扉を勢いよく開け、出てきたのは薄い茶色のぼさぼさ頭の男性であった。特徴は目の下の物凄いクマと死んだ魚のような目をしている。
坂上と同様に、紫紺と深いオレンジ色の服を着ていた。隊服なのだろうか。
しかし、どこかその服はくたびれている。

その人物を見て、坂上は両手を上げた。
「やぁ、バンくん。お昼ご飯はしっかり食べましたか?」

その言葉に、バンと呼ばれる男性は勢いよく坂上に近づき、逃がすまいと坂上の襟元を掴んで引きづりだした。
そのまま雲の宮殿に引き込もうとしている。
「あ・・・バンくん、少し・・・少し待って・・・」
”ギロ”
「待ーーてーーだーーとーー?!?」

今にも目の前の坂上を殺しそうな、血走った目を坂上に向ける。
坂上は冷や汗を流しながらなだめた。
「あ、待たなくていいです。すみません。」
「これ何回目だと思ってるんだ。えぇ?!極悪の囚人でも、こんなに脱走しませんよ、えぇ?あのね、あんたがいないと仕事が進まないの!分かります!?ただでさえ、能無し部隊・・・・・って言われてるのに・・・えぇ、”洞窟の中でぶら下がってることしかできないコウモリかよ!”なんてこの間言われたんですからね!?!本当!何が通称”太陽のコウモリ”だ!!やめたいわ!!」
「あ、はい、ごめんなさい。」

血走った瞳を向けるバンに、謝ることしかできない坂上。
鬱憤がたまっていたのか、吐き出すだけ吐き出すと、バンはそのままくるっと雲の宮殿に向きを変えた。
「はい、仕事です。」
”ズルズルズル・・・”

そのまま引きずられていく坂上。
「あ、幸十くん!こっちですよーー!」

バンの迫力に呆然と立ち尽くす幸十を見て、引きずられながら笑顔で手を振る坂上。すると、雲の宮殿屋上にいた人物が、幸十の存在に気づいた。

「あれ・・・バンはん!!もう一人!もう一人誰かおるで!?」
なにやら特徴的な喋り方だ。
「あぁあん?洋一よういち、何訳のわからないことを言ってー」
振り返ると、やっと幸十の姿がバンの目に留まった。
そして、幸十の姿を見て、思考が一時停止するバン。

「ほら幸十くん。こっちこっち。」
そんなバンにお構いなしに、坂上は笑顔で幸十に再度呼びかけるとー

「おい、坂上。誰だこいつ。」
バンは何やら嫌な予感を感じ始める。
と同時に、雲の宮殿の一室の窓が思いっきり開き、誰かが手を振り身を乗り出した。

「あ!さっちゃん!!こっちこっち!!」
手を振っているのは医療室で一緒だった琥樹こたつだ。傷はもう治り、ぴんぴんしている。
琥樹こたつの様子に、バンは坂上に素早く視線を戻す。

「ーおい、坂上・・・」
「はい、新しいメンバーです!あははっ。」
「は・・・・・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁああああああああ?!?」
坂上の言葉に、再度怒声を飛ばすバン。
幸十はどうしたらいいのか分からず、その場で首を傾げ、坂上たちのやり取りをじっと見ていた。



ーー次回ーー

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