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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第34話

第34話 風季の確固たる信念

ーー前回ーー

ーーーーーー



「当たっ・・・た!!」

想定通り、麻痺針まひばりを風季に当てることが出来たココロ。
一瞬喜んだのも束の間、異変を感じ眉をひそめた。
「・・・な・・・なんで・・・立っていられるんだ?」

コウモリの翼に備え付けられた麻痺針まひばりを刺しても、立ち続ける風季ふうき。ココロが戸惑っていると、幸十がそのまま風季を羽交い絞めにしようと近づいく。
しかし、ココロは風季のグローブが赤くなっていることに気づき叫んだ。


「幸十!!だめだ!!離れろーーーー!!!」

第二血響けっきょう、熱狂の炎・・・!」
「・・・・っ!!!」
"ドシーーーーン!!!"

近づいた幸十は、風季の拳で勢いよく吹き飛ばされてしまった。



「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
幸十を飛ばした風季の息は先ほどと比べ、かなり荒々しくなっていた。

”ビリッ!”
「っく・・・はぁっ・・・お・・・俺は・・・」
苦しそうな表情をする風季。
ココロに刺された麻痺針は、確かに効いていたのだ。
身体は痺れ、立っているのもやっとだ。


(・・・俺は・・・俺は・・・!!!!こんなところでやられる訳には・・・いかない!!!!)

しかし、風季には関係なかった。
ここで倒れるわけにはいかない、確固たる信念・・・・・・が風季を倒れさせなかった。


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『ぉお!風季!お前がいると、やっぱり安心感すげーわ!』

『お前、次期副隊長になれんじゃねぇか?!』

『風季!助けてくれー!』

『風季!!』

腕を失うまでは、軍隊の中でも有望な方だった風季。
人より身体も力もあったことで、助けられるより助けることの方が多かった。皆んなから頼られ、必要とされていた。


——しかしそれは、風季が強くみんなを助けていられたからだった。


『うわ、お前、利き腕を失ったのか?使えねぇじゃん。』

『ちょっと!ちゃんと動いてよ?!腕一本無くしたくらいで、ピーピー言ってんじゃないわよ。こっちも傷負ってるんだから。』

『副隊長どころか、お荷物じゃねぇか。誰かこいつをどうにかしてくれ!』

月族との戦闘で仲間を庇って腕を無くすと、以前より力が劣り、同時に軍でお荷物扱いされるようになった。誰も助けてはくれなかった。
その内、身体も精神も疲労し、軍隊から捨てられた。

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朦朧とする意識の中、風季は何故か昔を思い出し、残っている右腕の拳を強く握った。


(・・・片腕を失い・・・力も軍の仲間も地位も・・・全て失った・・・。)
息絶え絶えに風季は眉間に皺を寄せ、痺れて制御の利かない身体に苦しい表情をする。
しかし次の瞬間、風季は顔を上げ太陽の見えない空に力強い瞳を向けた。


——だが・・・神よ・・・太陽神よ・・・!俺は・・・俺は片腕を無くしたことに感謝している!



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『ふーきっ!!ふーきっ!!今のもっかい、もっかいやって!!』
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『風ちゃん!!肩車して!!ぐるぐる回るやつも!!』
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風季は頭に蘇る眩しく尊い記憶に、覚悟を決めたように再び拳を握ると、幸十を飛ばした方に目をやり、構える。

(このシャムスの土地で・・・俺に・・・こんな俺に、かけがえのない大切な宝・・・・・・・・・・・を沢山与えてくださった。だから俺は・・・!!!)


"シュン!!!"
勢いよく幸十を飛ばした方に向かう。
すると、奥に木に当たったのか、グッタリしている幸十がいた。

(例え・・・鬼と悪魔とクズと極悪人と罵られようと・・・宝を必ず取り戻す!!!)

そのまま幸十の方へ向かおうとした時——

「グスッ・・・ぅう・・・グスッ・・・」
左側から何やら泣き声が聞こえ、そちらに視線を向けると子供たちが涙をながしていた。横にはコウモリの翼が剝ぎ落ちている。
風季と目が合い、泣いていた子供たちは手を口にあて、静かにしようとするも、もう遅い。

(・・・ぐずぐず泣かれては、後々厄介か。今のうちに気絶させておこう。・・・すまない・・・本当に・・・。)
風季は泣いている子供たちに身体を向け、拳を構えた。

「・・・っひ!!」
「あ・・・ぁあ・・・」
「と・・・父ちゃ・・・」
ココロに静かにしているよう言われた子供たちは、いつの間にかコウモリの翼を剥いで泣き崩れていた。

「やめろーーーーー!!!」
急いで後を追ってきたココロが、子供たちに攻撃しようとしている風季に向かってきた。
しかしそんなのお構いなく、風季は拳を子供たちに向けた。

「第四血響けっきょう熱弾ねつだん!!!!」
風季から複数の炎の弾が子供たちに放たれた。

”ドンドンドン!!!ビュゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!!!”
「・・・・っく!!!」
攻撃の反動で、熱風がココロを襲う。
近くの木に掴まり何とか耐え、急いで子供たちがいる木の方に視線を向ける。暫く雪が舞い見えづらかったが、晴れてきた時再び目を見張った。


「幸十!!!!」
子供たちの前には、白目をむき、気絶しながらも何とか膝を立てている幸十がいた。
子供たちを守るため、風季の攻撃を直接浴びたようだった。かなりのダメージか、意識はなく身体は一部熱で皮膚がただれていた。

「っ!!!!」
その光景にココロは取手をギュッと掴むと、スイッチでも入ったかのように頭を回転させ、風季に向かって急旋回した。

(ここから風季標的まで、約1200m。射程圏内は50m。)
ココロは先程と打って変わって冷たい瞳を風季に向け近づいていく。

(1000・・・・500・・・・100・・・・)
コウモリの翼をこれでもかと開き、かなりのスピードで向かうココロ。

(この辺りで俺の気配に気づき、振り返って攻撃がくる。多分、技の特性的に第四血響けっきょうだろう。)
その読み通り、風季はココロに気付き、空中から向かってくるココロに向けグローブを向けた。

「第四血響けっきょう熱弾ねつだん!!!!」

その瞬間——

"ギュイン!!"
「!?」

ココロは勢いよく右へ急旋回し攻撃を交わすと、逆さまの状態のまま、手すりを風季に向けた。

(右に45度、左に30度。2発はいける。)

計算・予測・判断

ココロが天才と呼ばれる所以だ。パッと見ただけで瞬時にその攻撃の特性を全て数値化し、なにがどうなるのかを予測、何をすればいいのか判断する。常人では、これをやるのに1日でも足りない所業を、ココロは数秒で行う。
プライマルはセカンドに力で及ばない。しかしココロは頭脳で向かっていく。
ココロは取手の赤いボタンを押すと、風季にむけ針を2発放った。

"ブスッ!ブスッ!"
「っく・・・?!」

見事に2発とも、風季の左足と右脇腹に当たった。
(当たったが・・・)

先程肩に当てても効果が見られなかったことから、ココロは風季を暫く観察していると、やはり風季は倒れず、そのままココロにグローブを向けた。

「っく!!!」
ココロは左へ急旋回し、見事に攻撃を避ける。

"ドン!ドン!ドン!!"
なんとか避けるも、風季は逃すまいと炎の弾をココロに放つ。

(っ!!麻痺針を刺されて、どうしてそんなに身体が動いているんだ・・・!!)
ココロはふと振り返り風季を見た時、何か・・に気付いた。
しかし同時に——


"シュン!!ジュッ!!"

「っ!!」


風季の攻撃がかすめたかと思うと、コウモリの翼に火がついた。そのままバランスを崩し落ちるココロ。

"ドシーーーーン!!"
少し先で、ココロが落ちる音が響いた。

(あのまま落ちれば、あのプライマルはもうだめだろう。)
風季はココロが落ちた方向から、目の前の気絶している幸十に視線を移した。

「ここまでプライマルにやられるなんて・・・思ってなかったが・・・・もう終わりにしよう。」
風季が幸十に攻撃しようとした時——


"ぽすっ!"
何やら雪玉が風季にあたった。あまり固めきれてないやわいもので、風季の肩で即座に溶けた。
見ると、幸十の背後にいる子供たちが涙を流しながらも、雪玉を持っていた。子供たちが投げたようだ。

「に・・・にいぢゃんに・・・さ・・・さわるな!!!」
1人の男の子が、勇気を振り絞り風季に叫ぶ。
"ぽすっ・・・ぽすっ・・・"

「さ・・・さわるな!!!」
他の子供たちも、泣きながらも必死に雪玉を風季に当てる。ダメージを何も受けることもない柔らかい雪玉だ。
当てられた雪玉を見て、ふと風季は思い出した。


================

"ぽすっ"

『風ちゃんに全然当たらない!!なんで!!』

『ははっ。雪玉が柔らかいんだよ。もっと思いっきり握って・・・・そうだ。そのままあそこの那智に当ててみろ。』

"ドスっ!"

『いって!!!おい!!地味にいてーよ!!やったなぁ~?!!』

『ひゃー!!那っちゃんが怒ったー!!きゃははっ!!』

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風季は当てられた雪玉のカケラに手をやり、ボソッと呟いた。
「もっと・・・硬く作らないと・・・」

そのまま子供たちに近づいていく風季。子供たちは怖がりながらも風季に雪玉を投げ続ける。
そして目の前までくると——

"グィッ!!"

「う・・・うわぁ!!!」
1人の子供の腕を掴んだ。

「じゃないと・・・雪合戦、負けてしまうぞ。」
腕を掴まれた子供は、何処か狂気に満ちた風季を見て、声にならない叫びを上げた。
しかし——

"ガシッ!!"

「?!」
「ガッ・・・ゴ・・ゴホッ・・・ほら・・・痛いのはダメだよ。」

先程まで気絶していた幸十が意識を戻し、子供の腕を掴む風季の腕を掴んだ。

「!!」
再び幸十に触れられた腕に力が無くなり、子供を逃す風季。
その瞬間——

"ドスッ!!"
「・・・うっ!」
幸十が風季の顔に思いっきり蹴りを入れる。瞬時の出来事に避けられず、受けた風季はよろめいた。

"ガシッ!!"
その瞬間を逃すまいと、幸十は風季を羽交い絞めにした。
身体全体を触れられ、力がどんどん抜けていくのを感じる風季。

(っく・・・!!まずい!!力が!!!!!)
ジタバタと抵抗する風季。幸十も逃さないと必死に喰らいつく。

「にいちゃん!!!」
すると子供たちが、幸十を助けようと先程作った雪玉を風季の身体にどんどんのせていく。効いているのか分からないが、なんとか幸十を助けようと、どんどんのせていく。

「っくそ!!離れろ!!!」
暴れる風季の下敷きになりながらも離れない幸十。
そして——




"ッバ!!"
「幸十ーーーー!!!そのままだ!!!そのまま逃すなーーー!!!」

落ちたはずのココロが、空中に現れた。先程の攻撃やマダムに刺されたことも含め血だらけだが、このチャンスを逃すものかとボロボロの翼を広げ、風季に向け取手を再び向ける。

(効いている!麻痺針は効いている!さっき2発当てた時、微かだが攻撃のスピードが遅くなり、何より針を当てた足に力入っていなかった!たぶん、体格的にかなり厚い筋肉に包まれて、神経まで届くのに時間がかかるんだろう。なら・・・筋肉の薄い部位に針を!!)
「皆んな退いて!!!攻撃をするから!!」

ココロは子供たちに言うと、子供たちは咄嗟に離れていく。
全員離れたことを確認し、ココロが麻痺針を再び放った。

"ズブッ!!!!!"
「・・・っぐぁ!!」
(膝の後ろ!効いてる!!それなら!!)

"ズブッ!!!ズブッズブッ!!!"
そのまま3発続けて攻撃すると——

「っ・・・」
そのままぐったりと動きが止まる風季。


「ハ・・・ハナ・・さ・・・ごめ・・・コ・・・ハル・・・」



抵抗もなくなり、幸十が力を緩めると、そのまま風季は気を失った。麻痺針により、身体が痺れ意識を無くしたようだった。
その瞳には、一筋の涙・・・・が流れていた。


"ツンツン"
「ね・・・寝ちゃった?」
「うん、ねんねしてる。」
「ほんとだ。ねんねしてるね。」
「よかったね。」
子供たちが静かになった風季の身体をつつく。動かない風季に、子供たちはすこし安堵した表情を戻した。

「幸十!!」
"うんしょ、どっこいしょ"
ココロが地上に降り、幸十たちの方に向かうと、子供たちが風季の下敷きになっている幸十を引っ張り出そうと手を引っ張っていた。
全くと言っていいほど動いていないが・・・。

「ココロ。でれない。」
幸十の腑抜けた表情に、ココロが駆け寄りながらふと笑った。そして風季を何とかどかすと幸十はボロボロの身体を起こした。

「大丈夫か?」
「うん。身体中チクチクする。」
「だろうな。重度の火傷なんだ。もう動くな。」
「死んじゃったの?」
幸十が風季を見て聞くと、ココロは首を振った。

「いや、多分気を失ってるだけだ。麻痺針は、あくまで相手を気絶させるか動けなくなるようにするだけだから。とりあえず、縛らないと・・・」

ココロが縛るものを探すため、辺りを見渡した。
「雪ならいっぱいあるよ。」
「雪でどうやって縛るんだよ・・・なんか持ってたっけな・・・」

ココロが自身のカバンの中をゴソゴソと確認していると——

”ピクッ”
「!」
幸十は何かに反応したのか、周囲をキョロキョロと見渡し始める。
「幸十?どうし・・・」
そして——

"ドン!!!"
「きゃっ!!!?」

いきなり近くにいた子供たちを押し飛ばし・・・

"ガシッ!!!シュン!!!!!!"
「え」



あまりの一瞬の出来事に、何が起こったかわからず呆然とするココロと子供たち。
何か・・がかなりのスピードで目の前を通っていったかと思うと同時に、目の前に居たはずの幸十の姿は忽然と消えていた。



ーー次回ーー

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