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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第10話
第10話 ココロの作戦
ーー前回ーー
ーーーーーー
"キィィィィィイン!"
"ガキン!!"
一方琥樹は、複数のマダムを相手に涙を流しながら戦っていた。
「ぅううう・・・もう!」
"キン!"
「何これ全然減らないんだけど!!!っはぁ・・・っはぁ・・・はぁ・・・」
倒しても倒しても、湧いてくるマダム。もう何体いるかも考えるのが億劫になっていた。
"キィィィィィイン!!"
「ぎゃっ!!いきなりでてくるな!!」
"ガン!!"
扇子型の武器の縁で、襲ってくるマダムをなりふり構わず殴る琥樹。もう何体相手にしているのだろうか。息も切れ、体力も消耗してきていた。
(大きな風を起こして、うじゃうじゃいるマダムを一気に片付けたいけど・・・。そんなの起こしたら、俺のセカンドの力、一気に使い果たしちゃうし・・・。そもそも村人が沢山倒れてるここでやったら巻き込んじゃう・・・。うぅ・・・。)
何を考えても打開策が見つからず、悶々としているとー
"キィィィィィイン!!"
「あ!!」
"グサッ!!"
一体のマダムが琥樹を背後から襲い、鋭い鎌のような手で背中を切り裂く。
「っい・・・!!」
背中を負傷した琥樹は、思わず倒れ込んだ。
「いって・・・」
そうこうしていても、マダムは待ってくれない。
ここぞというばかりに襲ってくる。
「っ!飄風の乱!!!」
扇子型の武器から織りなす小さな風の刃がマダムたちを攻撃するも、マダムたちは慣れたと言わんばかりに、琥樹が出した風の刃をかわし始めた。
「あーもう!!無駄に学習能力いいんだけど!!俺より頭良さそうでむかつく!!」
背中を押さえながら、なんとか立ち上がろうとする琥樹。
よろめく体に、容赦なく近づいてくるマダム。
ーその時
"カンカンカンカンカン!!!"
何やら金属を叩くけたたましい音が、頭上から琥樹の耳に響いてきた。その音に、琥樹もマダムも音がする空中へ目を移すとー
"シュン!!"
「うぎゃっ!!!」
かなりのスピードで飛んできた何かに琥樹は捕まり、そのまま森の中を飛んでいく。
琥樹は訳もわからず、マダムにでも捕まったのかと混乱して暴れた。
「はっ・・・はなせ!!!!お、俺を食べようとしたって不味いからね!!絶対絶対絶対食べない方が良いんだからな!!!お腹壊しても知らないぞーーー!!」
涙を浮かべ必死に抵抗する琥樹にバランスを崩しそうになると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「落ち着け!琥樹!!」
その声に、ピタっと抵抗を止める琥樹。
視線を向けると、琥樹を掴み飛んでいるのはココロだった。
「ゴ・・・ゴゴロざん・・・?ぐすっ・・・」
鼻水を垂らしながら呆然とする琥樹。
「頼むからこれ以上暴れないでくれ。翼の重量制限ギリギリだから。」
冷や汗をかきながらココロが言うと、再度頭上からけたたましい音が聞こえてくる。
"カンカンカン!!"
「ほれほれー!!マダムー!!こっちやで~!!こっちの方が、あんさんらの獲物ぎょうさんおるでーー!!」
同時に洋一の大声が聞こえてきた。
「え・・・洋一さん?!」
村の周辺は木々で覆われた森であり、地上スレスレで飛んでいるココロと琥樹には、空の様子はわからなかった。
しかし洋一の言葉に反応したのか、大量のマダムたちの不快な鳴き声が同じ方向から聞こえてくる。
「え、これ、どうなってるの!?!え?」
混乱する琥樹に、ココロは地上スレスレでかなりのスピードを出しながら森を駆け抜けていく。
「詳しい説明は後で!!この作戦が成功するかどうかは琥樹にかかってるんだ!!」
「へ?」
さらに混乱する琥樹。ココロは険しく続いた木々の道を通り抜けると、再び口を開いた。
「いいか!一度しか言わないからしっかり聞いて!」
「え、ちょ、ちょっとま・・・」
木々を器用にかわしながら、スピードを更に上げるココロ。
「今、俺たちはさっきまで居た雪の大地に向かってる!そこに洋一がありったけのマダムたちを引き連れてくる予定だ!」
「え・・・え、どうやって・・・?」
「全く・・・まだ覚えてないのか?マダムは音に敏感だろう?!」
「あ・・・」
琥樹は頭上から聞こえてくる音と洋一の掛け声に気づいた。
「マダムを倒せるセカンドは琥樹しかいない。でも、倒れている村人たちを気にしながらあのまま戦うなんて器用なこと、お前にはできないだろ!」
「え、うん、いや、そうなんだけどなんか貶されてる気が・・・」
「マダムは、人の気配と音に敏感だ。ここは村の人が沢山いるからマダムが集まって来やすい場所だけど、幸い全員寝ていて静かだ。だから、気配を忘れるほどの音を出せばそっちに反応する!!今、洋一が音を立ててマダムを村人たちから引き離しているんだ!!」
「ひ・・・引き離すのは分かったけど、その後どうするの?そこで戦えばいいの?」
「持久戦になるとこっちが不利になる。だけど・・・さっき俺たちがいた雪の大地でなら形勢逆転だ!だろ!琥樹の風なら!!」
「・・・え、あ、え、まさか・・・」
何かに気づき、嫌な予感のする琥樹。そんなのお構いなしにココロは叫んだ。
「森を抜けるぞ!!琥樹!!」
「え、ちょっとまって、こ、心の準備が!!」
たじろぎながら、琥樹は扇子型の武器を急ぎ持ち直す。
森に囲まれ暗かった景色の中に、光が徐々に射しこんでくる。
"パァァァア!"
森を抜け、一面真っ白な雪景色が続く大地に到着した。周りを遮るものなどなく、広々と開けている。
琥樹は、ふと振り返って目にした光景にギョッとした。
「ひぇ?!!何あれ!マダムあんないたの!?!」
後方空中から大量のマダムを連れてこちらに向かってくる洋一を見て、空いた口が塞がらない琥樹。
「お!ココロ!琥樹!!」
仮にも大量のマダムに追われている身の洋一だが、優雅に手を振り向かってくる。満面の笑みも浮かべて。
「いやなんで洋一あんな楽しそうなの?!後ろにいるの、味方じゃなく敵だからね?!化け物だからね!!?!」
琥樹が叫んでいると、ココロは随分村から離れたことを確認し頷く。
そしてー
"パッ!"
「え」
"ドサ!!"
雪の地面に琥樹を落とした。見事に雪の上に顔から着地する琥樹。
「・・・っぷは!!え、ちょ!!ココロさん?!?」
驚く琥樹だが、ココロはそのまま離れていく。
「琥樹!!後は頼んだ!!!」
「え」
そして、空からは洋一が笑顔で手を振りながら、大量のマダムを引き連れ琥樹に向かってくる。
その状況に、みるみる琥樹の顔が真っ青になっていく。
「いやいやいやいや・・・・うぅ・・・あーもう!分かったよ!!!これ終わったら俺動けなくなるからね?!ちゃんと介抱してよ?!?」
顔面蒼白な琥樹は、震える手で扇子型の武器を力強く握る。
「”第一血響”!!」
その言葉に、扇子の扇面全てが緑色に変色し光始めた。同時に琥樹の周りに大きな風が巻き起こる。
そして、琥樹を中心として風の渦が発生した。
そこに洋一がスピードを上げ向かい、追いかけてくるマダムたちもその後を追ってくる。
「ウッヒョー!すごいなぁ。琥樹のセカンド最大出力や~。じゃ、俺も離脱せな。」
そして、洋一は左取手の青のボタンを押す。すると、洋一の姿が一瞬で消えた。
マダムたちは驚くこともなく、その先の風の渦に注目を変えた。
”ッカ!”
そのタイミングで琥樹は目を見開くとー
「ー全部飲み込め。”セロの風巻”!!!」
同時に爆風が荒れ吹く渦が、琥樹を中心に巻き起こり、巨大な竜巻となった。マダムたちは抵抗できず、その巨大な竜巻に飲み込まれていく。
(よし。これなら・・・!)
マダムたちがどんどん琥樹の巨大竜巻に飲み込まれ倒されていく光景に、ココロは確信した。だがまだ終わってはいない。
ココロと洋一は琥樹が起こす巨大竜巻を、心臓が飛び出そうになりながら遠くから見守っていた。
(・・・っ!)
巨大竜巻の中心にいる琥樹は、吸い込まれていくマダムたちを見ながら扇子型の武器に自身のセカンドの力を絶えず注ぎ、風を起こしていく。
(・・・まだ・・・まだ・・・マダムが・・・!)
ここでやめてしまっては全てのマダムを倒しきれないことを確認し、必死にセカンドの力を絞り出す。
全身には大量の汗がつたり、琥樹の周りはセカンドの力により温度が高くなっていく。同時に雪が舞い、白い巨大な竜巻が広大な大地を飲み込んでいく。
"グラッ・・・!"
(・・・っ!!)
しかし、琥樹も限界が来ていた。
身体の重心がままならず、立っているのもやっとである。
"キィィィィィイン!"
マダムの不快な甲高い鳴き声が響き、全てのマダムが処理しきれていないことを認識する琥樹。
朧げな意識の中、フラフラの身体を足でなんとか踏ん張りなおす。
「っ!!ここで倒れたら・・・」
”ヒュウウウウウゥゥゥゥ”
外から見ても、風の威力が弱まっていることが一目瞭然であった。ココロと洋一も滴り落ちる汗を拭うこともせず祈る。
「琥樹・・・!踏ん張るんや!!」
「・・・頼む。お前しかいないんだ!!」
「「琥樹ーーーーーーーーーーーーー!!!」」
洋一とココロの叫びに応えるように、琥樹も最後の力を振り絞る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉお!!!!!」
”ビュゥゥゥウウウウウウウウウウウ!!!”
再度一気に風の威力が増し、残っていたマダムたちが飲み込まれていく。
"キィィィィィイン!!"
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」」
"ピタッ!"
一気にマダムを飲み込んだかと思うと、巨大竜巻が突然姿を消し風が止んだ。
"ドサッ"
「琥樹!!」
同時に、琥樹がその場で力尽き倒れた。
「琥樹!!」
"グゥ・・・グゥ・・・"
洋一とココロは急いで駆け寄るも、疲れ果て寝ているようだ。
その様子に一安心すると、2人はお互いの顔を見て笑みを浮かべ、手を合わせた。
"パン!"
「一件落着や!!」
「・・・そうだな。」
2人は疲れ果て寝ている琥樹を担ぎ、一旦幸十が待っている村へ戻ろうとした。
ーしかし
"キィィィィィイン"
「・・・なっ!?」
聞こえないはずの不愉快な鳴き声が遠くから響く。
二人はあたりを必死に見渡すと・・・
どこに潜んでいたのだろうか、3体のマダムが村に向かっていた。
ーー次回ーー
ーーーーーー