王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第43話
第43話 崖の上から雪だるま
ーー前回ーー
ーーーーーー
”キィィィィイイン”
「おっさん!!!あんた正気の方か?!」
「え、あ、誰・・・?」
起きたばかりの猛は、洋一の問いかけに戸惑っていると――
「正気な方だ!!」
洋一の問いに、シャムス軍隊員たちが真っ先に答えた。
「じゃあ、はよ武器構ええや!!」
「え?」
「もう琥樹が限界なんや!!」
その言葉に猛は振り返ると、扇子型の武器を手に持ち、セカンドの力を絶えず放出し風を引き起こしている琥樹の姿が目に入った。
「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
既に立ってられず、膝を付き気力だけで耐えている状態だった。
「こ・・・琥樹くん!!」
「おっさん!今この風の向こう側には無数のマダムがいるんや!琥樹にこの風の壁を作ってもらったがもう限界や!あと十数秒で風が完全に止まる・・・いや、止める!だからおっさん、なんとか食い止めてくれや!!俺はコウモリの翼で、空からできる限りのマダムにこの麻痺針を刺す。しばらくは動けなくなるやつや!!!」
「む・・・無数?!そ、そんなになのか!?!」
「おっさんしか武器もってないんや!琥樹はもうこれ以上無理させられへん!!」
猛は近くにいる丸裸の隊員たちを見て察した。そして、洋一の叫びに息を吸い込むと覚悟したように頷く。
「・・・わ・・・わかった!!どこまで出来るか分からないが、やってみよう!!」
「それでこそ副隊長や!!頼んだで!!」
「みんな!!武器はないだろうが、そこら辺の木の枝でも何でもいい!何かもってマダムを抑えろ!!身体は動くだろう!!こんなにボロボロな琥樹くんが頑張ってくれたんだ!!俺たちはシャムス軍だ!!胸にはめた太陽の元、マダムに立ち向かうぞ!!!!!」
「おーーーーーー!!!!!」
猛の言葉に鼓舞され雄叫びをあげるシャムス軍隊員たち。
その様子に、洋一は琥樹の近くまで行くと、扇子型の武器をしっかり握りしめる琥樹の手に触れた。
「琥樹、もう大丈夫や。よう頑張った!少し休んでや。」
その言葉に、琥樹は言葉を発する気力もなく、武器を離しその場に倒れこむ。
「風が止むで!!!!頼んだおっさん!!」
少しでも寒くないように、琥樹をコウモリの翼で包み、気絶している那智や榛名の側に一旦避難させると、洋一は再びコウモリの翼を広げた。同時に猛は武器を構える。
"シュュュュュ・・・・"
風がどんどん弱まり収まっていく。
"キィィィィイン"
同時にマダムの不快な鳴き声がどんどん大きくなっていく。
そして・・・
「いくぞ!!」
猛の呼びかけと同時に、風がやみ、周りに無数のマダムが再び現れた。
「!!」
四方八方に広がるマダムの数に驚く猛だったが、槍型の武器を力強く握りなおす。
「第五血響、焚天熊撃!!!!」
すると、熊の形をした炎が猛たちを囲うように5体現れた。
「夕貴が居ない中、こんな大量のマダムを相手にしたことないが・・・続けぇぇぇぇえええ!!」
猛の掛け声に熊たちがマダムたちに噛みつき始めると、それを援護するようにシャムス軍隊員たちがマダムに向かった。
流石は日頃から戦いシャムスを守るセカンドたち。コンビネーションはとれており、シャムス軍隊員たちがマダムを制した所で熊たちが噛みつき一撃を食らわす。
(・・・ほえー、さすがやな。武器なくともあそこまでやるなんて・・・・シャムス軍が弱小なんて、一昔前の話やん。)
コウモリの翼を広げ、空中で見ていた洋一も関心した。
(でもなあ・・・)
”シュン!!”
洋一は急旋回すると、マダムに背後から攻撃されそうな隊員に向かい、襲うマダムに麻痺針を放った。
"ズブッ!"
「・・・っ!助かった!」
「どうってことない!!それより前見い!!来とるで!!」
(やっぱり数が多すぎるわ!!!!)
洋一はシャムス軍たちの戦いに加勢し、マダムからの攻撃がなるべくシャムス軍隊員たちが受けないように麻痺針を放っていく。
しかし、やはり数が多すぎる。段々とシャムス軍たちが押されて来ていた。
「うわぁ!!」
"ザシュ!!"
「おい!!」
隊員がマダムに切り付けられ倒れる。
マダムは躊躇うことなく、もう一撃入れようとする。
「第五血響、焚天熊撃!!!!」
"グァァァァァァァァ!!"
”キィィィィイイン!!”
「副隊長!!」
”ガクガクガク・・・”
「ど・・・どうってことないぞ!!」
猛の熊により、助けられた隊員。猛に感謝を伝えるも、恐怖からか猛は足をガクガクさせながら耐えていた。
(あ、怖いんだろうな・・・)
隊員たちはそんな猛の姿を見て察する。
(・・・ほんま、たぶんあのおっさん本気出したらすごいんやろうな。あの熊5体を同時に操作するって・・・大量のセカンドの力だけではなく、細かい操作能力が必要となる至極の業や。でもまぁ・・・あの性格直すんは難しいやろうな。)
シャムス軍を支援しながら洋一は、怖がりながらも頑張る猛を見て感心していた。
しかし時間が経つに連れ、どんどんマダムに押されていく洋一たち。シャムス軍隊員たちも、武器が使えず、生身一つで戦うことにかなり苦戦を強いられている。猛も、かなりのセカンドの力を消費し、疲れが出始めていた。
その時――
"キィィィィィイン!!"
「!」
洋一は嫌な予感がして振り向くと、気絶し倒れる琥樹たちの方にマダムたちが向かい始めた。
「なっ!?!」
(サーカス団員たちとマダムは今回何か繋がっとるような気がして、那智と榛名の側に琥樹を置いたが、はずれやったか?!!)
向かったマダムたちが、意識のない琥樹たちに刃を向ける。
「琥樹ーーーー!!!」
洋一はコウモリの翼を思いっきり広げ、急加速させながら琥樹の方に向かうももう遅い。マダムの刃が琥樹に直面する。
"ガキン!!!"
しかし、あと少しのところで猛がなんとか食い止めた。
向かった洋一は、翼をマダムに向けると叫んだ。
「おっさん!!!!感謝やで!!!」
"ブズッ!!"
"キィィィィィイン!"
”ザクッ!!!!!”
洋一の麻痺針が当たり怯んだ隙に、武器でマダムを一突きに刺す猛。そのマダムは倒れるも、猛の前にはさらに数十のマダムが立ちはだかる。
「副隊長!!」
シャムス軍隊員たちの方も手に負えず、負傷が相継ぎ戦うのが困難な状態だ。
(まずいな・・・)
洋一は、襲われそうになる隊員たちを守るためマダムに麻痺針を放ちながら思考を巡らすも、打開策が思いつかない。
(何か・・・何か突破口を・・・)
「おい黒髪の坊主ーーーー!!避けろーーー!!」
猛の叫びに洋一がハッとすると、背後にマダムがいた。
気づいた時には遅く、思いっきり尻尾で叩かれると――
"ドシーーーーン!!"
地面に叩きつけられる洋一。
「カハッ!!!」
かなりの衝撃で息もできない洋一。そのままマダムたちが洋一に向かってくる。なんとかしようにも、誰もが余裕なくどうしようもない。
(あ・・・あか・・・ん・・・)
洋一が薄れゆく意識の中でそう思った時――
「いくよーーー!!!よーーーいっドン!!!」
崖の上から、何やら掛け声が響く。
その瞬間――
"ドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!"
大きな地響きと共に、大量の雪だるまが崖の上から駆けてくる。
「え」
「は」
「ゆ・・・雪だるま?」
突然現れた大量の雪だるまたちに、唖然とするしかない洋一たち。
雪だるまたちは降りてくるや否や・・・
"アーーー、パクッ!!!"
「え・・・マダムを食べた?!」
そう。マダムたちを食べ始めたのだ。1人で歩く不気味さだけでなく、マダムたちを食べると言う奇怪さ。
「ゆ・・・雪だるまがマダムを食べとる・・・なんやこれ・・・。おかしくなったんか俺。」
シャムス軍たちも意味がわからず、猛に至っては熊と一緒に怯えている。
(あれ・・・・食べる雪だるま・・・なんやこの既視感・・・)
マダムに壊される雪だるまもいるものの、その分わんさか崖から雪だるまたちが駆け下りてくる。
洋一はこの雪だるまに、どこか見覚えを感じていると――
「洋一!!!ぼさっとしてるんじゃない!!翼を広げろ!!」
「え、は・・・コ・・・ココロ?!?」
空中から声が聞こえ、見上げるとそこにはココロがコウモリの翼を広げ現れた。
いきなりの登場に驚いていると、近くにいたマダムたちが再び洋一を襲おうと迫ってくる。
"ブスッ!"
ココロはとっさに翼から麻痺針を放ち、マダムたちを抑える。
「雪だるまたちがどんどん来てマダムを食べるから!!援護するぞ!」
「え、雪だるま・・・って、でも翼のエネルギーがもうつきてんねん!!」
その言葉に、ココロは周囲を見渡した。
所々にいる裸の男たちを見ると、ココロは言った。
「あの人たちはシャムス軍隊員か?!!なら、セカンドの力を入れて貰え!!」
「あ。」
洋一は納得した。シャムス軍隊員たちは疲れ切ってるものの、そもそも武器自体無いため、セカンドの力は使っておらず、体内に満タンの状態だ。
ココロの言葉に、洋一は急いでシャムス軍隊員の近くにいくと、腕を掴んだ。
「すまん、この取手を掴んでや。ちょっとちくっとするが堪忍な。」
「え、え?」
シャムス軍隊員たちは訳が分からず混乱するも、なすがままに翼の手すりを握った。
すると、どんどん取手にセカンドの力が溜まっていき、半分まで回復した。
「よし!もうええで!!おおきに、助かった!!!」
すると、洋一は翼を広げて空中にいるココロの元に向かう。
「ココロー!!一先ず入れてきたでー!」
嬉しそうに笑みを浮かべる洋一に、呆れ返るココロ。
「何を呑気な・・・。というか・・・なんでお前ら全員裸なんだよ!!!」
「そやで、可哀想やろー?慰めてや。服取られて皆凍え死にそうなんや。ってか、あんさんもボロボロやな。」
そんな洋一の言葉を無視して、ココロは琥樹が倒れている方に目を向けた。
(琥樹は・・・もう戦うのが難しそうだな・・・。隣りにいるのはサーカス団の2人か?あの様子じゃ、俺たちと同じく戦闘でなんとか止めた感じか・・・。)
ココロが考えていると、洋一が口を開いた。
「ココロ、それよりあの雪だるまなんや?なんで動いてんねん。」
「お前の記憶力はミジンコ並みだな。」
「なんやて?!そんなこと・・・」
「今は説明してる時間も惜しいんだ。洋一、これは時間との勝負だ。今この時は俺たちに有利な状況かもしれない。この大量の雪だるまたちと、シャムス軍がいるならどうにか抜けられる。でも・・・」
「時間が経てば経つほど不利になってくわけやな・・・」
「そう。マダムは疲れ知らずの化け物だからな。シャムス軍の中で、セカンドの力を今使えるのは何人だ?」
「1人や。」
「1人?!他は?」
「なんせ、俺たち裸や。俺は偶然落ちてたコウモリの翼発見できたんやけど、他はすっぽんぽんやからな。武器もないわ。」
「・・・まさかあの奥で、熊っぽいのと一緒に怯えてるのがその1人?」
ココロが嫌そうに、雪だるまに怯える猛を指さす。
「そやで。シャムス軍の副隊長らしいで。」
「え、うそ、あれが?!」
「へへっ、オモロイよな。副隊長クラスが戦場で怯えてるなんて初めて聞いたわ。」
洋一の言葉に信じられないと、ココロは頭を抱えた。
「~~~~・・・分かった。あの大量の雪だるまはせいぜいあと10分くらいしか持たないと考えてほしい。」
「10分か・・・その間にどれだけ雪だるまたちにマダムを食わせるかっちゅうことやな?」
「そう。今マダムを倒せるのはあの副隊長と雪だるまたちだけだ。俺と洋一、あと他のシャムス軍たちは、なるべく雪だるまたちを壊されないように支援するんだ!」
「おっしゃ!!ええで!!」
「洋一は山側、俺は泉側だ!行くぞ!」
「おう!まかしとき!!」
"パチン!!"
洋一とココロはハイタッチすると、直ぐ様分かれ、地上で混乱しているシャムス軍たちに今の話を伝えた。
「よ・・・よよよよよし!わ、わかった!雪だるまは敵ではないんだな?」
先程まで怖がっていた猛は、洋一の話を聞き足をガクガク震えながらも、再びマダムに攻撃を始めた。
ココロはシャムス軍たちに計画を伝え、雪だるまにマダムを食わせるように支援してほしいと伝える。
その後、ココロと洋一も空中から麻痺針を放ち、マダムたちを動けないようにしていく。そのマダムたちをシャムス軍たちが雪だるまの近くに持っていく。連携が徐々に取れていく。
そして、状況はあっという間に形勢逆転だ。
「あと数体!!!」
”サァァァアアアア・・・”
残り僅かになった所で、時間切れか雪だるまたちがどんどん崩れていく。
「雪だるまが!!」
しかし――
「後は任せろ!!」
そう猛が叫ぶと・・・
「第六血響、炎輪火瓶斬!!!」
炎の輪っかが無数に放たれ、残り僅かのマダたちの首にきっちりはめられた。
「捕まえた・・・!!」
"キィィィィイン"
暴れまわるマダムたち。
一体が輪っかを首から取ろうとするも・・・
"ズブッ!"
「させへんで!!」
咄嗟に洋一が麻痺針を放つ。そして・・・
「爆ぜろ!!!!!!!」
"ドーーーーーーン!!!"
猛の言葉で、首輪をつけたマダムたちが同時に爆発した。
その様子をみんな息切れ切れに、マダムが消滅した痕跡を見つめる。
「・・・や・・・やった・・・?」
猛が怯えながら、辺りをキョロキョロ見ながら言うと――
「やったー!!」
"ガシッ!!"
「やったぞ!やった!!」
「マダム全滅だ!!」
シャムス軍たちが猛を中心に抱きしめながらはしゃぎだした。
その様子に、洋一とココロも空中からマダムが消えたことを確認すると地上に降りる。
そして、お互いボロボロな状態なのを見てくすっと笑うと・・・
"パチン!"
ハイタッチをした。
「やっぱり持つべきは親友で相棒や!」
「なにが親友で相棒だ。本当。」
ひと段落し、2人ともホッとした表情をしていた。
「に~~~~いちゃーーーーん!!」
すると崖の上から、何やら子供の声が響いた。その声に、はっとするココロ。
「あ、そうだ。」
声が聞こえてきた方の崖の上をみると、ぴょこっと子供たちが顔を出していた。
「え、子供?」
「あ!待って!目に悪いものがいっぱいあるから待ってて!」
「ちょっ!ココロ、目に悪いってなんや、目に悪いて。」
洋一を無視して、ココロは崖の上に向かってコウモリの翼で飛んでいく。
しばらくして崖の上から再びココロが降りてきた。翼の中に子供たちを引き連れて。
「お兄ちゃん、目は開けちゃ駄目なの?」
翼から出てきた子供たちは目をぎゅっと閉じている。
「うん、目を開けると腐っちゃうからだめだよ。」
全裸の男たちを見てココロが言った。
「腐る・・・」
「腐るのか・・・」
そんなココロの容赦ない言葉に、シャムス軍たちは先ほどとは正反対に落ち込む素振りをする。
「なんや、腐らないで?熱き戦いを繰り広げたかっこいい兄ちゃんたちや!」
洋一が誇らしげに言っていると、子供たちを見た猛が言った。
「まさか・・・あの雪だるまはこの子たちが?」
その言葉に、ココロは頷いた。
「幸・・・俺たちの連れ去られた仲間を探していたのですが、探しているうちに苦戦している貴方たちを見つけて・・・。考えているうちにこの子たちがセカンドの卵であることを思い出したんです。」
以前村で、琥樹と幸十を襲った雪だるま。
大胆な動きで細やかな動作は出来ていなかったが、子供にしてはかなり良いコントロール力だった。
雪などこのシャムスに捨てるほどある。後は子供のセカンドの力がどれだけ続くかだ。
セカンドの力ではあるものの、訓練も受けてない子供たちの力でマダムを飲み込み倒せるかまではココロでも分からず、賭けに出たのだった。
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『いいか?みんな。俺とゲームしよう。君たちが作り出した雪だるまで、あそこにいる怖いトカゲを沢山飲み込んだ人が勝ちだ。』
『雪だるまなら、僕たちの得意分野だよ!!』
『ねねはちょっと怖い・・・』
『大丈夫。俺が皆んなを必ず守るよ。約束したじゃないか。皆んなをお父さん、お母さんの元に返すって。だから皆んなの力、貸してほしい。』
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「そ・・・そうだったのか・・・」
驚き中々言葉が出てこない猛に、ココロは突然頭を下げた。
「すみません。セカンドとはいえ、幼い子供たちを戦闘に巻き込まないことをモットーとしているシャムスで勝手にやってしまい・・・」
ココロの突然の行動に、猛は慌てた。
「・・・な!あ・・・頭を上げてくれ!謝るのはこっち・・・というよりも、君たちには感謝しかない。子供たちも含めシャムス軍までも助けて貰った。本当にありがとう。」
猛の素直な感謝に、ココロも洋一も嫌な気は全くしなかった。
「ってかココロ。サチは?」
「あ!そうなんだ!早く幸十を・・・・」
幸十の話題になり、経緯を伝えようとした時――
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
「・・・っ?!琥樹!!?」
奥から琥樹の叫び声が突然響いた。
驚いたココロたちが急いで向かうと、顔を真っ青にした琥樹が何やら空中を指している。
「琥樹?何が・・・っ?!!」
琥樹の指さす方には、何やら黒い霧の塊に縛られ空中に連れ去られようとしている那智と榛名の姿があった。
ーー次回ーー
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