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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第28話

第28話 山小屋での再会

ーー前回ーー

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「・・・ぅ・・・ぐすっ・・・ぅう」
「・・・ぐすっ・・・お母・・・さん・・・」
「ぅう・・・ぐすっ・・・」

「・・・んん・・・」
氷山の東側。とある古い小屋の中。
雪が静かに降り積もるこの場所に、啜り泣く声が響く。
そんな中で、ココロは目を覚ました。

"ズキッ!"
「・・・っい!」
起きた瞬間、頭に激痛を感じ思わず呻き声をあげると、あたりがシーンと静かになった。

「?」
徐々に視界がはっきりしていく中で、ココロが目を擦ろうとすると——

"ググッ"
「ん?」
手が動かず辺りを見渡すと、手と足が縄か何かできつく縛られていた。

(・・・縛られてる?!これは・・・)
朧げな意識の中、ココロは小屋の前で誰かに頭を殴られたことを思い出した。

(ここは・・・あの小屋の中か?・・・あれからどのくらい・・・)
薄暗い部屋の中で、状況を整理するため辺りを見渡していると・・・

「ひくっ!」
右奥の方から、誰か声が聞こえてきた。

「?」
ココロは声が聞こえる方向に顔を向けると、暗い中でも小さい人影・・・・・が数人いることがわかった。
驚いたのか、誰かしゃっくりしているようだ。
その甲高い声色的に女性か子供か・・・。
そこでココロはハッと思い出した。殴られ倒れる前に、小屋の隙間から泣いている子供を数人見かけたことを。

「君たちは・・・、いや・・・大丈夫・・・?」
何を話しかければいいのか迷いながら、そこに居るであろう子供たちに話しかけてみた。

「ひくっ!」
返事はなく、しゃっくりが返ってくるだけだ。
空気感的に、怖がっているのであろうとココロは察した。
どうするか考えていたとき、ココロは胸にかかげた太陽のブローチを腕でなんとか長押しした。
するとー

"ピカッ"
太陽のブローチが光り、辺りを照らした。
そして再度、子供たちの方に顔を向けると、そこには7人の泣き腫らした子供たちがいた。
眩しそうにしていたが、太陽のブローチを見て、どことなくホッとしているようだった。

「大丈夫?」
もう一度問いかけると、子供たちは戸惑いながらも頷いた。

(女の子が3人、男の子が・・・4人か・・・。見た目的に、5~7歳あたりか・・・?)
「君たちは・・・どうしてここに?」
「わ・・・わかんない・・・き・・・気づいたらここにいて・・・」
「はやくお家帰りたい・・・ぅう・・・」
「ママ・・・パパ・・・」
「うわーーん!!!」
どこかほっとしたのか、一斉に泣き始める子供たち。

「ぁあ・・・」
どうあやせばいいのか、困るココロ。
あやすにも、手足が縛られた状態じゃ何もできない。
とりあえず、子供たちに身体を向けられるように、くねらせながら移動するもー

「あ・・・ぁ・・・うわーーん!!!」
その動きが怖かったのか、さらに泣き始める子供たち。

「え、あ、ご、ごめん。だ、大丈夫だ。お兄ちゃんは、みんなを助けるために来たんだよ。」
すると、一人が涙を拭きながら聞いた。

「・・・ぐすっ・・・助けに・・・?」
「うん、助けに来たよ。太陽本部から来たんだ。そう、太陽城から。」
「本部・・・うわーーーーーん!!!」
その言葉に、さらに泣き始める子供たち。
そして、さらに戸惑うココロ。

「え、ど、どうして?」
「マ・・・ママが、太陽本部の人間は悪い人ばかりだって。うわーーーん!!」
(・・・参謀本部のことか・・・。シャムス全体に、"本部=悪"って染み付いてるじゃないか・・・。)

顔を引き攣らせ、日ごろの参謀本部の行いを恨むココロ。
このままでは埒が明かないため、気を取り直して話し始めた。

「否定は・・・しないけど、全員が全員じゃないよ。俺たちは夕貴軍隊長の指示で、君たちを助けに来たんだ。ほら、シャムス軍の・・・」
その言葉に、子供たちは一斉に泣き止むと途端に表情を明るくした。

「夕貴のお姉ちゃんが?」
(あの人・・・子供たちにも"お姉さん"と呼ばせてるのか・・・。)

ココロは呆れながら、子供たちの問いかけに頷いた。
「そうだよ。君たちをお父さん、お母さんの元に返すためにね。」
「お父さんとお母さんの元に戻してくれるの?」
「うん。もちろん。そのために俺がいるんだ。この太陽に誓うよ。」
(本当はシャムス軍隊員たちを探しに来たんだけど・・・)

太陽のブローチを掴み、ぎこちない表情をするココロに、子供たちは表情をより明るくさせた。
なんとか泣き止んだ子供たちに、一先ずココロはほっとした。
目が慣れてきて子供たちの様子がより見えてきた時、ココロは気づいた。

「・・・あれ?君たち・・・もしかして、フィジー村・・・・・の子たちか?」
「兄ちゃんよく分かったね!俺たちを知ってるの?」

ココロは思い出した。
シャムス地方に入って、首都に行く前に立ち寄ったフィジー村。巨大雪だるまを作って、いたると一緒に悪ふざけをしていた子供たちだった。
ただ、その時のいじめた相手と分かればまた泣き出しかねないと思い、ココロは伝えるのをやめた。

「い、いや。何となくね。服装も、この土地にしては薄いから。南の方かなってね。みんな、ここにくる前の記憶って何か覚えてる?」
子供たちは考え始めると、1人の男の子が口を開いた。

「えっと・・・村長の誕生日だったんだ。だから村の皆んなで朝から誕生会の準備してて・・・」
「あたしも!ママに頭叩かれながら起きたの。すごい痛かった。」
「ねねがいつもお寝坊だからだよ。」
「ねね、お寝坊じゃないもん!」
「お寝坊だろ!」
「違うもん!」
「うぅ・・・」

(あ・・・これ・・・)
ココロが察した時——
「うわーーーん!!!」
「え、あ・・・」
話がどんどんずれていき、再び泣き出す子供たち。つられて周りの子供たちも泣き出す。
どうして泣き出すのか理解出来ずに困るココロ。

ココロは何事も論理的に考えることが良いことだと考えてきた。どんなに困難なことも、しっかり筋道立てて考えれば解決できないことはないと自負している。
・・・だから、今のように筋の通っていない会話は苦手だし嫌いだ。

しかし、今の状況でそんなことを言ってはいられない。こんな時、洋一でもいればと思いながら、ココロは不器用にもなだめようとした。

「・・・だ、大丈夫だよ。寝た方が成長するって言うし・・・」
自分でもどんなフォローをしてるんだか分からなくなっているココロ。
もちろん、子供たちは泣きやまない。
ココロはとりあえず、強引に話を変えてみた。

「え、えっと・・・。みんなの大好きな村長さんはいくつになったの?」
「・・・ぐすっ・・・ぅう・・・84歳だよ。」
ちょっと泣き止みはじめ、ココロは続けた。

「そ、そっか。村長さんは、みんなに祝ってもらえて嬉しかっただろうね。」
「うん!あのね、俺の父ちゃんが歌って村長喜んでた!」
「あたしのお母さんは、セーター編んであげたの!とっても喜んでた!!」
「俺の母ちゃんは、ケーキ作ったんだ!すげえだろ!!」
「俺の父ちゃんの方がすごいぞ!」
「あたしのお母さんの方が!!」
「俺の!」
「あたしの!!」
「うぅ・・・」

また収拾不可能になりそうなことを察知して、ココロはまた話を変えた。
「そ、そっか。すごいね。豪華な誕生会だったんだ。」
「うん!それにイタルアサーカス団も来たんだ・・・・・・・・・・・・・・!」
「——え、また・・?」
男の子の言葉に、ココロは咄嗟に疑問を口にした。

ココロたちが村に行った時もイタルアサーカス団がいたことを思い出し、少し不可解に感じた。
いたる庁長が、俺たちの出発前日に首都を出ていたけど、あれはフィジー村に行くためだったのか?それにしても、何でまた・・・)

疑問が広がるココロに、子供たちもキョトンとした表情をした。
「兄ちゃん、イタルアサーカス団が前も村に来たこと知ってるの?フィジー村のファンなの?」

"ギクッ"
ココロは”初めましての設定”を思い出した。
「え、あ、ぁあ。そうかも。」

琥樹こたつと幸十がこの子たちの雪だるまで苦しめられたとも言えず、適当に流すココロ。
「でも、途中までしか覚えてないの・・・・・・・・・・・・。」
「・・・途中まで?」

女の子が悲しそうな表情で言った。
「わかんない。楽しく見てたら、いつの間にか寝ちゃったのか、起きたらここにいたの。」

(・・・いつの間にか寝てた・・・?)
そして、ココロはハッと何か閃いた。

「!この間も・・・」
ココロたちが村に寄った時も、イタルアサーカス団の公演中に倒れる事態が起きたことを思い出した。

(あの時、琥樹こたつと幸十が起きててくれたから、俺たちを起こして何とかマダムの襲撃を免れたけど・・・)

そしてまたもや疑問が湧く。
(そういえば、ほぼ大半が寝たあのタイミングでなんでマダムが・・・あまりにもタイミングが良すぎ・・・・・・・・・ないか・・・?)

その時、ココロはイタルアサーカス団たちと首都シャムスに移動した時のことをふと思い出した。

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『そや、そのアカリってフード被った子もセカンドか?なんや、不思議な黒い霧みたいなもん出してたやろ?』
『あ・・・ぁあ、それは・・・』
"プシュッ"
『水に黒インクを仕込んだただの霧吹き。アカリはセカンドではないから。ちょっとした仕掛けだよ。あ、これ口外しないでよ?面白みがなくなっちゃうから。』

霧吹きこれ、皆んなを眠くさせるの?

『なんやサチ、こんなんで眠くなるわけないやろ。』
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(まさか・・・。幸十が言っていたこと、あながち的外れでは・・・)
同時に、ココロはもう一つ記憶を掘り起こした。
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"ヒラッ"
『・・・地図?』
『・・・それは、僕たちサーカス団が行った場所を示した地図だよ。赤点がすでに行った村や街の場所なんだ・・・ゴフォ!』

『あー、団長、血を荷物につけんでくださいよ~』

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「あ・・・あの地図・・・・・・・・!!!」


ーー次回ーー

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