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王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第3話

第3話 太陽の落としもの

ー 前回 ー

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街から歩いて数分。
街はそこまで広くはなく、少し歩くと森が広がっている。
山や川が流れ、戦争など起きてなければせせらぎを感じられる絶好の場所だ。
老婆たちの家は、街と森との境に位置していた。質素ではあるものの、しっかりとしたレンガ造りの家である。
家は広いとは言えないものの、2~3人が住むには必要最低限の大きさではあった。入ってすぐ大きな机と4つの椅子があり、そこに座るように坂上は言われた。

「ここにはお孫さんと二人ですか?」
お茶の用意をする老婆に、坂上は家の中を見ながら聞いた。
「えぇ。息子夫婦がいるのですが、武器職人としてアテン地方・・・・・に年の半分は出稼ぎしております。丁度その時期でして、今は私と孫の二人で暮らしてます。」

太陽族の領地は、大きく5つ・・に分かれている。
1つは、太陽城がある太陽の心臓・・・・・だ。
その心臓を囲うように、4つの地区に分かれている。
ー北は、シャムス地方
ー西は、ソール地方
ー東は、タイヤン地方
ーそして、南がアテン地方だ。

領地図



人々は安全地帯と言われるここ、太陽の心臓で暮らすことを誰もが願ったが、それが叶うのは極一部の限られた人間だけだ。なにせ、ここで暮らしていくにはお金がかかる。そのため、太陽城で働いている者か、お金や権力があるものが太陽の心臓に集まっていた。
また、ここで暮らす一部の人々は、老婆たちの息子夫婦のように地方に出稼ぎに行き、子供たちや老人だけ安全なこの場所に暮らせるようにするということも多かった。

(相変わらず悪弊あくへいですね。お金や権力がないと、安全地帯にいられないというのは・・・。)
坂上はテーブルに飾られた家族写真に目をやった。

「ーそうでしたか。」
「・・・しかし、最近は本当物騒です。各地で子供たちが消えてる・・・・・・・・・・・っていう噂。息子夫婦がよく働いてくれているので、ここにいる間はあの子も安全ですが・・・。」
老婆は、心配そうな顔で女の子を見ながら言った。
すると、先ほどまでクロにべったり引っ付いていた女の子が、クロを抱きかかえ(引きづり?)ながら、坂上に近づいてきた。
クロはというと、女の子にベタベタ触られぐったりしているようだ。

「あのね!昨日ね!太陽がお空から何か落としたの・・・・・・・・・・・・・・!」
「太陽が?もうちょっと詳しく教えてくれるかな?」
通報時もこのような話をしていたのだろう。坂上が状況を把握しようと、女の子に質問した。すると老婆も座り、話始めた。

「すみません。このようなことでお呼びたてしまして・・・。しかし、この子だけではなく・・・その・・・変に思われるでしょうが、私も・・・見ましたので・・・」
落とし物・・・・・・・をですか?」

坂上は老婆の話に耳を傾けた。
聞いた話はこうだ。

昨日、老婆と女の子が街の裏山で薬草を摘んでいた時、物凄い音と共に
山の谷に何かが落ちていった・・・・・・・・・・・・・
女の子が”太陽の落とし物”と言ったのも、空から光り輝く何か・・・・・・が落ちてきたからだという。
何か落ちたことは確かだが、谷を覗くと底は深く真っ暗で何かは見れなかった。しかし、落ちた何かによるが、谷の壁に大きくついているそうだ。


事情を聞いた坂上は老婆と女の子にお礼を伝え、用意してもらった馬に乗ってその山に向かった。もう夕暮時でもあったことから、老婆と女の子は同行せず家にいるよう伝え、坂上とクロだけでその山の谷に向かうことにした。

ー馬を走らせること30分程度で、言われていた山の地点まで来た坂上。
「よいしょ。ここからは歩きますかね。」
山の道が細く険しくなっているのを見て、馬では登れないと判断し、坂上は一旦馬から降りて手綱を近くにあった木に結んだ。

「ちょっと待っててください。」
馬を撫でると、クロを肩にのせ歩き始めた。

「ここら辺ですよね、ご老人が言っていた谷は・・・」
「あの娘・・・我にベタベタと・・・。疲れた・・・」
通報した女の子に気に入られたクロは、坂上が老婆から話を聞いている最中、ずっと抱きしめられ、撫でられ、耳や尻尾を掴まれたりして遊ばれていた。

「良かったではないですか。あまり小さな子と接することも少ないでしょう。」
「他人事のように・・・特に尻尾を掴まれた時の不気味な感覚、主には分からにゃいだろ!!」
少し逆立って坂上に訴えるクロ。坂上がどう答えていいか悩んでいるとクロの表情が一変した。

”ピクっ”
「クロ?」
クロの異変に坂上が呼びかけると、クロは何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡した。

「この感じ・・・・」

”キィィィィィィィイイイイイン!”
「!!」
何やら奥から、耳に響く何かの鳴き声・・・・・・が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、坂上もクロも驚いた表情でお互いを見ると、頷き静かにその声がする方へ向かった。

もう夕暮時もすぎ、森の中は夜を迎え暗くなってきていた。
太陽族領地は、夜の時間が極端に少ない。2~3時間程だけ、太陽が空から消え、その後また辺りを照らすための光を輝かせる。
その暗い2~3時間が始まろうとしていた。

坂上たちは慎重に声のする方に向かうと、谷が見えてきた。
谷の壁には大きな傷・・・・がついている。これが老婆が言っていた谷であろう。

”キィィィィィィイイイイイイイ!!”
同時に、先ほどの耳障りな鳴き声が坂上の耳に入ってきた。あまり聞きすぎると、耳を傷めそうだ。坂上たちはこの声のを知っていた。
目の前の谷にいたのは、白いトカゲ・・・・・のような大きな怪物だった。手は鎌のような形をしており、不気味な赤い鋭い目と大きな口から覗かせる大量の鋭い牙は、人に恐怖を与えるような外見であった。
そして、額には月の刻印・・・・。この谷に複数体いるようだ。

「・・・マダム・・・。」
坂上は呟くと、マダムと呼ぶ怪物をじっと見つめた。
「これは・・・私の良くない勘が当たってしまったやもしれません。」

辺りは短い夜にはいり、真っ暗闇に包まれていた。



ーー次回ーー

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