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王神愁位伝 プロローグ 第4話
第4話 サンバン
ー 前回 ー
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西塔に住む少女の部屋を訪れていた爛は、少女と会話すると扉を開け出ていこうとした。
”ー ガタンッ”
部屋の奥から何やら物音がした。
奥には淡いピンク色のカーテンがかかった窓と、その隣にクローゼットがあり、誰もいないはずのクローゼットから物音が聞こえた。
爛がクローゼットをじっと見つめ、その様子に少女は緊張が走った。緑が多い茂り太陽を拒むように日差しを受け付けないこの場所は、肌寒い時が多い。しかし、この瞬間ばかりは少女の手が汗ばんでいた。
そんな少女の様子に、爛は鋭い視線をクローゼットに向け、近づいた。徐々に近づくたび、少女は手だけではなく、額にも汗が垂れそうになっていた。
そして、クローゼットの前まで行くと、爛は扉に手をかけた。
「ら・・・爛!今日ってオルカが来るんじゃなかった?」
少女が焦りを醸し出しながら聞くと、爛は鼻で笑った。
「ええ。来るのは夕刻です。それが・・・?」
爛が聞くと、少女はどもった。
「い・・・いえ・・・その・・・」
「姫さん。俺に何か隠しているのでは?」
その言葉に、少女は何も言い返せず口を閉じた。少女の様子に、爛は握ったクローゼットの取手を、そのまま勢いよく開けた。
”ガラ!!!”
ー 開いたクローゼットには、いくつか少女の洋服がかけられており・・・
”ー チュウ”
「・・・な!!?」
そこにいたのはネズミだった。
土色の毛に覆われ緑色の瞳を持つそのネズミは、先ほどオレンジ髪の少年が追いかけていたネズミのようだ。
ネズミを見て、少女は唾を飲み込みながら爛の様子を見ていると、暫く黙っていた爛は肩を震わせ、耳と尻尾が徐々に上に向かって立ち始めた。
「ら・・・爛・・・?」
少女がおそるおそる聞くと、爛はネズミを掴み・・・
”グシャ!!”
「きゃっ!!」
ネズミを捻り潰し、周囲にはネズミの血が飛び散った。少女はあまりの驚きで小さな悲鳴をあげ、手で口を覆った。
そして、爛は物凄い形相で後ろにいる狼たちに言った。
「今すぐ・・・あのクソ奴隷共を外に並ばせろおぉぉぉぉおお!!」
あまりの形相に恐怖に怯える少女。
狼たちは爛の言葉に従い、勢いよく下へ降りていく。
「ど・・・奴隷って・・・?」
少女が聞くも、爛は捻り潰したネズミを片手に不気味な笑みを少女に向けた。
「姫さんは気にしなくていいっすよ。永遠に。」
不気味な笑みがこぼれる口からは鋭い牙を覗かせ、爛も後を追って部屋を出た。爛や狼たちが去っていた後、ネズミの血が飛び散った部屋に残された少女は、この出来事に唖然とするしかなかった。
暫く放心状態でいると・・・
”コン、コン、コン・・・”
クロ―ゼットの隣にある窓から、何やら音が聞こえた。その音に少女はハッと我に返り、急いでカーテン奥の窓を開いた。
「ご・・・ごめんなさい!ちょっとびっくりして・・・」
少女が開けた窓から、オレンジ髪の少年が入ってきた。足場が少ない中で、少女に引っ張られ、何とか部屋に入る。
”ドサッ!”
倒れこむ少年に、少女は申し訳なさそうに言った。
「ご・・・ごめんなさい。あんな危ない場所に・・・」
爛が部屋に入ってくる前、少女は少年に窓の外で待つように提案した。ここは地上から遠く離れた上層階。下を見ただけでも心臓が凍える高さだ。足の踏み場も少ない鳥の巣型の部屋であったが、部屋の窓の真下に20センチ程の足の置き場があり、手すりとなりそうな太い枝もあることから、バランスを整え耐えればなんとか隠れられる場所であった。
少女はクローゼットでも、引き出しでも、ベットの下でもなく、この危険極まりない窓の外に避難するように少年に言ったのだった。
しかし少年は特に責めるわけでも、怒り始める様子もなかった。淡々と汚れているのかも分からない服を整えていた。服を整えていると、少女は少年の肩に刻印されている「3」の数字を見た。
「なんで・・・”3”が肩に書いてあるの?」
少女の視線を感じた少年は、少女の方を見た。
不思議そうに少年の肩を見る少女に、自身の肩に書いてある「3」に少年も瞳を向けた。
「これのこと・・・?」
「え・・・えぇ。」
「・・・これ、サンっていうの?」
「・・・え?」
少女は困惑しながら聞き返した。
困惑する少女を気にも留めず、少年はまじまじと肩に刻印してある数字を見た。
「その・・・数字・・・知らない?」
少女がおそるおそる聞くと、少年は表情を変えず頭を傾けた。
「スウジ・・・?」
少年の更なる質問に、少女はどう答えていいか考えていると、少年は思い出したように窓の外に顔を向けた。
”アオ―――ン!”
「あ・・・集合だ。いかないと。」
狼たちの遠吠えと共に集まる子供たちを窓から見て、部屋を出ようとする少年。そんな少年に、少女は少年の腕を掴んだ。掴んだ手は震え、緊張なのか怯えているのかよく分からなかった。
掴んだまま離さず何も言わない少女に、少年は頭を傾げた。
「俺、いかないと。」
”ぎゅ!”
しかし、腕を離さない少女。
暫くすると、少女は意を決したように言った。
「そ・・・その・・・。また・・・またここに来てくれない?」
少女はびくびくしながら、少年の返事を待った。暫く部屋は沈黙が続くと、ふと少年が口を開いた。
「むり。」
「え」
見事な拒否に、少女は驚いた。
ここまで真っ向から拒否されるとは思っていなかった。
「な・・・なんで・・・?」
「・・・?ここは立ち入り禁止だから。」
「立ち入り・・・禁止・・・?」
「うん。それに、ここは人を食べる大きな白い怪物の住処だ。」
”ガ―――ン・・・”
その言葉に、自分が怪物と言われている気がして余計落ち込む少女。少年は不思議そうにした。
「君もここを離れた方がいい。食べられちゃうよ。」
そう言って再度部屋を出ようとする少年に、少女は力いっぱい少年の服を掴んだ。
「い・・・いないわよ!そんな怪物!だって・・・だって、ここは・・・私が住んでるもの!」
少女の言葉に、少年はじっと少女を見た。
「・・・君が・・・怪物?」
「ーえ、そうなる・・・?」
少女が釈明しようとしているとー
”アォーーーーーーン!!”
狼たちの遠吠えが再度聞こえてきた。
遠吠えを聞いて、少年の服を引っ張ったまま少女は言った。
「か・・・怪物じゃない・・・けど。隙間時間を見て、また来て!絶対!そ・・・その・・・怪物の正体教えてあげる!」
必死に言う少女に、少年は表情を変えずじっと少女を見つめた。少女は負けじと更に言った。
「貴方の肩に書いてあるその刻印が、何の言葉かも教えてあげる!!」
まだ表情の変わらない少年。
少女は必死に考えた。何を言えば少年の気を引けるか。
折角、話相手になってくれそうな人が目の前にいるのだ。しかも自分と年齢も近そうな人間が。あまりの寂しさに死にそうな少女は必死だ。
「お・・美味しい食べ物も用意してあげるわ!!」
「・・・」
”っぽ”
「!」
少女は見逃さなかった。無表情な少年の表情が微妙に変わるのを。
表情は変わっているのか微妙だが、どことなく嬉しそうな感じがする。少女はそう思うと、ぼさぼさの髪から覗く唇の口角を少し上げた。
「決まり!絶対来てね!わ・・私は、志都。貴方は?」
「何が?」
「え・・えっと・・・名前。貴方の名前は・・・?」
「ナマエ?」
「え・・・えぇ。その・・・貴方が日頃なんて呼ばれているかよ。」
「呼ばれている・・・」
少年は少し考えると、思い出したように言った。
「・・・サンバン」
「え?」
今日少年と話していて、少女は何回聞き返したのだろう。しかし少年はお構いなしに繰り返した。
「サンバン。俺が呼ばれているナマエ。」
すると、狼たちの遠吠えがひどくなり、今度こそ少年は部屋を出ていった。
少女は、少年がなぜ自分の名前を番号で答えたのか理解できず、暫くその場で考えていた。
ーー次回ーー
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