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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第20話

第20話 坂上からの手紙

ーー前回ーー

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"ぐるるるる~~~ぎゅるるるる"
広い軍隊長室に思いっきり響く幸十のお腹の音。
あまりの音に、その部屋にいた誰もが幸十を見た。

"ぐぎゅるるるる"

当の本人である幸十は、特に恥ずかしがる訳でもなくそのまま座っていた。そんな幸十を見て、夕貴はかがりとの押し問答をやめ、思いっきり笑い始めた。
「あっははははははっ!!!すっごい音だね、あは、あははははっ!ここまでの音だと清々しいわ!」

暫く腹を抱えて笑っていると、夕貴はやっとココロたちの方に体制を向けた。

「はははっ・・・あー、腹痛い。ふ~。・・・で、コホン。あんたらか。ある意味有名なコウモリ部隊って。」
「・・・はい。太陽王直下の調査部隊です。」
ココロが答えると、夕貴は何やら品定めをする様にココロたちをじっと見つめた。

「・・・若いわね~。ひよっこばっかじゃない。ダリ・・・坂上の部隊は。まぁ、参謀本部にのさばってるブッサイクなジジイどもよりはましか。あははっ!」
(笑えない冗談だよ!!)
口の悪さに冷や冷やするココロたち。
そんなことお構いなく、夕貴は足を組み替えると話題を変えた。

「で、あたしらに付いてきたって事は、なんか用?」
頬杖をつく夕貴に、ココロはバックから坂上の手紙を取り出した。

「坂上隊長から預かった手紙です。軍隊長にお渡しするようにと・・・」
「ふーーん。」
夕貴は乗り気のしない顔で、しぶしぶ手紙を開いてその場で読み始めた。
ココロたちは夕貴の迫力に圧倒され、どことなく緊張が走った。
最初はふてぶてしく読んでいた夕貴だったが、読んでいくうちに顔を輝かせ始めた。そしてー

”バシーーーンッ!!!!”
突然、壊れるかと思うような音を立て目の前の机を叩いた。

「っひ!」
「ちょっと!やだ!もう!坂上!!あいつたまーーーーーーーーっにはいいことするじゃない!!」
壊す勢いで机を叩き続け、興奮気味に嬉しそうにする夕貴。

「なんです?」
かがりが夕貴のもつ手紙を覗きこむと、夕貴は身体をくねらせながら言った。

紫戯しぎちゃんを派遣してくれるって~!!いやー、もう!!どんなに言ってもうちの部隊には寄越さなかったくせに、やーーーっと私の気持ちをわかってくれたのねー!!!もう!!焦らすわね~!」
今までの不機嫌さは、坂上の手紙一つで上機嫌へと一変していた。

「うわぁ・・・しーくん、どんまい・・・」
「なんや、生贄にされたんか紫戯は。可哀想やな。」
「おい!!!」
気の毒そうにする琥樹こたつと洋一に、ココロがやめてくれと止める。・・・も、遅い。

"ポキッ"
正座している4人の前に、指を鳴らしながら立つ夕貴。
「なんか、言ったかしら・・・?」

夕貴の迫力に、洋一と琥樹こたつは全力で首を横に振る。
夕貴が放り投げた手紙をかがりが拾うと、ため息をついた。
「軍隊長。喜ぶのはいいですが太陽の泉の件、どうするんですか?あと1週間しかありません。また本部に殴り込んでどうにかするなんて、やめてくださいよ?後処理が大変なんです。」

また・・・・・?)

ココロたちはかがりの言葉に一部引っかかっていたが、そんなのお構いなく夕貴が答えた。
「わかってるわよ。どちらにしろ、もう3ヶ月も解決出来てないのはまずいわ。あそこは元々観光地だし、住人も首都シャムスここの次に多い。このままにしたら被害が拡大する一方だからね。・・・で、たけるから連絡は?もう行ってから5日は経ってるだろう?」
「ーいえ、それが連絡が取れずにいます。」

かがりの言葉に、眉をひそめる夕貴。
「なんだって?取れないってどう言うことだい?」
「言葉のままです。副隊長の無線機とつながりません。」

夕貴は指を顎にあて、何やら考え始めた。
「軍隊長、これは他の隊員たちと同じ状態です。副隊長の性格です。軍隊長の目を盗んでサボる勇気など、微塵も持てないちっぽけな人ですよ。」

(・・・これは褒めてるのか、貶してるのか・・・)
ココロが心の中で疑問に思っていると、夕貴は続けた。

「・・・残ってる隊員は?」
「何人かはいますが、戦闘経験が少ない者たちばかりです。彼らに行かせても変わらない気がしますし、シャムスここの管理業務が回らなくなります。他にもマダム出現などで、何人かは違う地区におりますし・・・」
「なるほどねぇ・・・。まぁ、そんなんなら私が行っちゃった方が良さそうね。どう考えても、プライマルの仕業でここまで出来る気もしないし。・・・ただねぇ、2~3人は隊員連れてきたいのよねぇ。ちなみに紫戯ちゃんはいつ来るって?」
夕貴の質問に、坂上の手紙を見るかがり

「えっと・・・ぁあ。3日前後ぐらいになるそうです。」
その言葉に、舌打ちする夕貴。

「ーそう。かなりの即戦力になると思ったけど・・・。3日後じゃ遅いわね。やっぱり本部に殴り込みに行こうかしら。」
「紫戯さんと太陽の泉に行きたい欲望は捨ててください。」

残念がる夕貴に、ばっさり切り込むかがり
「はぁ・・・面倒ねぇ・・・なんだってこんな・・・」

ぼやいていた夕貴は、目の前で正座する4人を見ると、ピタッと視線を4人に集中させ始めた。
・・・何か考えているようだ。

”・・・ッサ”
ココロたちはなぜか嫌な予感がして、幸十以外は一斉に視線を逸らした。
それでもじっと見つめる夕貴は、いきなりニッコリと笑みを浮かべ、正座している4人と目線を合わせるためしゃがみ込んだ。
「ねぇ・・・そういえばあんたたち、太陽の泉に行きたいって言ってたわよね?」

誰もが何かを察し、ダンマリをきめこんでいたが・・・

「うん。」
”むぐっ!”
幸十が素直に答えてしまい、ココロたちは幸十の口を急いで押さえた。
その様子に、夕貴はにっこりと不気味に微笑む。

「ねぇ、そこのオレンジの坊主。いま肯定したわよね?」
「い・・・いや・・・こ、これは・・・」
幸十の首も縦に振らせるかと、ガッチリホールドするココロたち。

ね、肯定したわよね?
「いや・・・その・・・」
ね?
有無を言わさぬ夕貴の圧力に、負けたのはココロたちだった。

「・・・は・・いぃぃぃ。」
その回答に満足したように夕貴は顔を縦にふると、立ち上がりココロたちに指さした。

「光栄に思いなさい?太陽の泉、私が直々に案内してあげよう!!!
その言葉に、幸十以外の3人は絶望感たっぷりの表情を浮かべた。

「え、いいんですか?軍隊長。彼らのことは何も手紙に触れられてないですが・・・」
かがりが念の為聞くも・・・

「大丈夫よ。だって、この子たちの目的は太陽の泉に行くことなんだから。」

(・・・俺たちの目的は養生・・なんだけどなぁ・・・)

ココロたち3人は泣きべそかきながら、夕貴の前でなす術もなく、地獄の観光地へと化した危険地帯”太陽の泉”に向かうこととなった。

”ぎゅるるるる”
そんな中、幸十はただただ空腹を感じていた。


ーー次回ーー

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