王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第51話
第51話 黒き翼を解き放て、目指すは苦しむかの彼へ
ーー前回ーー
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「達!!大丈夫だ!!私がお前を守る!!いつだって・・・いつだってそうだったじゃないか!これからも、いつだって、お前が苦しい時は私が駆けつけてやる!!だから戻ってこい!!一緒に・・・戻ってくるコハルを温かく迎えよう。大丈夫、あの子は強い子だ。まだ生きてる!方法は間違ってたが、お前が守ってきたんだろう!!?帰ってきてお前がいなかったら、あの子悲しむよ。ねぇ、達!!コハルを取り戻そう!また一緒に暮らそう!!このシャムスで!!!」
"バーーーーーーーン!!!!!!"
「っ!!」
非愁位となり罰を受け、黒いできものに身体を覆われ見るも無惨な様相へと化す達。爆発を繰り返す達の身体に、夕貴は諦めず、黒いできものを素手で剝がしていた。
しかし夕貴の必死な呼びかけも虚しく、夕貴が剥がそうとした部分が爆発し、夕貴は飛ばされた。体制を立て直そうにも、コウモリの翼は焼け焦げ落ちていく。
「姉貴ーーー!!」
「――っ!第二血響!水柳乱舞!!」
"シュュュュウ"
夕貴は自身の攻撃をクッションに、地上に降りる。
そんな夕貴の元に、咄嗟に猛たちが心配して走ってきた。
「姉貴!!大丈夫ですか!?!」
「――ぁあ。それより・・・」
夕貴はどんどん膨れていき、爆発を繰り返す達の方に視線を向け唇を噛みしめた。
(非愁位の対処なんか・・・血響で攻撃すれば達が危なくなる・・・今度は・・・今度は大切な弟まで諦めろとでも言うのか!!!)
夕貴は武器を固く固く握りしめ、太陽の隠れる空を見上げる。
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『夕貴。お前は天神になりセカンド最強の称号を得た。ならば、その先に見据えるものは何だ?』
『太陽ってね、暖かくて眩しいんだって!まるで夕くんみたいだね!』
『私は・・・・シャムスの太陽になります!!!!』
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「第一血響・・・」
”シュゥゥゥゥゥゥゥウウウウウ・・・・”
「姉貴!!!?」
(私は・・・私はお前に言われたから・・・お前と共に生きるこのシャムスを守ると決意したんだ!!)
まるで深淵から湧き上がってきた渦潮の中心で、シャムスの女王は瞳を輝かせ、空に浮かぶ達に力強い視線を投げかけた。
「それなのに・・・・・・ここで諦められる訳がないだろう!!我が弟も、シャムスの民も!!!誰一人ここで死なせはしない!!!!」
夕貴の周りに巻き起こる渦潮が、まるで夕貴の固い決意と覚悟を一身に受け止めていくように大きくなっていく。
そして——
「百誓の帰海!!!」
同時に大量の水が、夕貴の周りを囲うと、そこから水で出来た大きな手が伸び、熱くなった達を鎮火するかのように飲み込む。
「ぉぉぉぉぉおぉぉおおおおおおおお!!!!」
水により周りを冷やし、勢いで達の周りにできた黒いできものを剥がそうとする夕貴。
夕貴の力全てを、無造作に放出する第一血響の攻撃。
周囲にいた人々は夕貴の圧巻の力の放出に、月族 朱里でさえ言葉がでなかった。
(夕・・・くん・・・)
薄れゆく意識の中、夕貴のセカンドの力を感じる達。
(ごめん・・・ごめん・・・ごめんみんな・・・俺が・・・俺が選択を誤ったせいで・・・)
達は、最愛の女性 ハナと暮らした日々、コハルや那智、風季、榛名、そして夕貴と笑い合っていた日々を思い出す。
すると、夕貴のセカンドの力だろうか・・・
達にまとわりついていた黒いできものが少しづつ取れていく。
「・・・・っ!周りが取れて・・・!!!」
しかし――
"ドクンッ!!!!!"
「ガハッ!!!!」
「姉貴!!!」
血を吐き倒れる夕貴。
第一血響は、セカンドが持つ力を無造作にどんどん放出していくのみの攻撃である。
細かい操作や経験などなくとも、誰もが使える攻撃でもあり、単に火・水・雷・風を起こしたい時などに使用するものである。
しかし反対に、ずっと使用すれば、セカンドの体内にある力を、全て喰らいつくすと言っても過言ではないものでもある。
セカンドの力を全て放出した結果、夕貴の体はまるで燃え尽きたマッチ棒のように、力なく地面に倒れ込んだ。自身で放出した冷たい水が体にしみ込み、意識が遠のいていく。悔しさ、無力感、そして絶望が入り混じり、夕貴は地面を叩きつけた。
”ゴンッ!!!!!”
「達・・・達!!!!」
夕貴は、空中に散りゆく達の姿を、茫然自失の面持ちで見つめていた。その瞳には、深い悲しみと悔恨が渦巻く。「どうして・・・!」と、叫び声が太陽の見えない空に響き渡る。
その時——
"シュン!!!"
「?!!!」
何かが前を通り過ぎたかと思えば、コウモリの翼を広げたココロと洋一、そして2人に押され空中へ向かう幸十の三人だった。
――向かう先は、非愁位の罰により苦しむ達のもと。
「あ、あいつら何を・・・?!!」
猛が驚いていると、背後から足を引きづりながら琥樹が来た。
「そ・・・その・・・・一回俺たちに任せてもらいたくて・・・・」
もじもじしながら琥樹が話し始めた。
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――数分前
シャムス軍が落ちていく夕貴の元へ駆けつけている時、ココロは何か策はないかと数十、数百通りのパターンを巡らせていた。琥樹と洋一に至っては、諦めているのかうわごとを言っている。
そんな時・・・・
"クィッ"
幸十がココロの服の裾を引っ張った。
「幸十?」
すると、幸十は膨張する達を指差した。
「・・・?」
指差す先の達を見るも、意味が分からずココロが怪訝そうにしていると、幸十がいつものように無表情のまま淡々と言った。
「達、連れてってほしい。」
「・・・え?」
その言葉に、瞬時に幸十の言っていることを理解できなかったが、これまで幸十が戦う場面を数回見たココロは閃いた。
「・・・まさか・・・どうにかできるのか?」
ココロが半信半疑で聞くと・・・・
「わからない。」
曖昧な返事にガクッとうなだれるココロ。しかし、幸十は達に再び視線を移すと言った。
「でも・・・・なんかいけそう。な、気がするんだよね。」
幸十の曖昧な表現に困惑するココロ。
(確かに・・・マダムといい、風季さんとの戦いといい・・・それに、さっきの月族への頭突きも・・・。まるでセカンドの力を消滅してるような感じなんだよな。・・・いや、普通に考えたらそんなこと出来るわけもないし、セカンドだったとしても・・・)
"バーーーン!!"
爆発が酷くなっていく達の様子にココロは頭を抱えると、考えるのをやめてパッと顔を上げた。
「洋一!!琥樹!!」
「へ?」
うなだれている2人は、寝っ転がったまま力のない返事をすると、ココロは2人の首根っこを掴んだ。
「どうせ、何もしなくて死ぬんだったら・・・一か八かだ。」
「え・・・何、妙案思いついたん?」
「洋一、まだ翼に力、残ってるか?」
「ん、まだ大丈夫やで。」
「飛ぶぞ。」
「え、どこに・・・」
ココロは爆発する達を指した。
「・・・・・・・・。」
ココロの指さす方向を見て、洋一も琥樹も固まる。
「え、何、自ら死にに・・・」
"バチン!"
「ちゃんと聞け!!」
叩かれた頭を抑える洋一と琥樹。
「俺と洋一で、幸十をあそこまで連れていく。」
「え、さ・・・ささささっちゃんを?!?何で?!」
どう説明すればいいか悩むココロは、頭を抱えながら続けた。
「・・・~~今詳しいことを話してる時間はないけど、もしかしたら幸十ならどうにかできるかもしれない。」
「・・・・ココロ、あんさんそんなにサチのこと嫌いなんか・・・」
「さっちゃん逃げて!!!!!」
"バチン!!"
「色々理由はあるけど、幸十がどうにか出来るかもしれないと言ってるんだ!!!」
再びココロに頭を叩かれた2人は、咄嗟に幸十の方を見た。
「さ、さっちゃん本当?イマイチ理解できないんだけど・・・あそこ、本当に危ないよ?」
「そやでサチ!!無理せんでや!!」
2人に言われた幸十は、必死にどうにかしようとしている夕貴の姿を横目に見た。
「 ・・・うん、なんかできる気がする。」
そんな幸十を、洋一も琥樹も心配そうに見ていると・・・
"ドーーーーン!!"
爆発がより一層激しくなってきた。
その様子に焦るココロ。
「幸十、これが最後だ。本当にやるか?」
ココロは幸十の肩を掴み真剣な眼差しを向けると、幸十は悩む素振りもなく頷いた。その様子に、ココロは頭を整理するため深く息を吐くと、頷き口を開いた。
「幸十はコウモリの翼を使えない。だから、動ける俺と洋一で達まで連れていく。爆発が酷くなってるから、無事にあそこまで行けるか分からないけど・・・爆発の頻度や部位を見て計算すれば・・・避けられないことはない!!行くぞ!!!」
「わ・・・わかった!!」
洋一も頷くと、ココロは琥樹に視線を向けた。
「もう時間がない。琥樹、あそこにいるシャムス軍に説明よろしく。」
「え、ほ・・・ほほほほほ本当にいくの?!」
「洋一、準備いいか!!」
「よっしゃ!!どうせここにいても死ぬだけや!!なら出来ること、精一杯やったるで!!サチ!!終わったら”太陽の泉”入るんや!!!!」
幸十はコクリと頷くと、ココロと洋一がコウモリの翼を広げ、幸十をそれぞれ両サイドで担いだ。
「「よし、行くぞ/行くで!!!達さんの元へ!!!!」」
ーー次回ーー
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