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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第21話

第21話 出発前の噂話

ーー前回ーー

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シャムス軍基地 食堂。
シャムス軍に所属するセカンドたちがお腹を空かせて集まる場所である。
大きさは一同集まることもできるように、数百人が入れるほどだだっ広い。
シャムス軍基地は、基本白と青で統一されており、食堂も白い壁に地面は青いタイルが敷き詰められていた。
その中に、数十人座れる透明な長机が幾つも並べられており、部屋の所々にある柱には、シャムス軍の青い旗が掲げられていた。

"ドドン!!"

「さぁ!お腹空いてるだろう?たんとお食べ!小汚いガキども!」
「うわぁ!!!」
夕貴とかがり、幸十たち4人は食堂の一角にいた。
近くの長机には、沢山の料理が机から落ちてしまうのではと思うぐらい積み重ねられている。

「・・・軍隊長、なんでこんなに出すんですか・・・。只でさえ、シャムスここは食料不足なのに。」
かがりが眉間に皺をよせ、怒りをあらわにする。

「大丈夫よ、かがり。太陽の泉に行って、帰ってこないシャムス軍セカンド可愛い馬鹿どもの分が残ってんだよ。ほら、あんたたち、食べな。」

(え・・・食べづら・・・)

ココロと琥樹こたつが食べづらそうにしているのをよそに、洋一と幸十は遠慮なく食いついた。
「ほな、いただきまーすっ!」
「ちょっとは遠慮しろ!!」
「さ、さっちゃん、あんまり食べすぎないようにね。ほら、またお腹大きくなって歩けなくなっちゃうから・・・」
琥樹こたつ、これ美味しい。」
「聞いてないね・・・。」

各々食べ始めると、かがりはため息をつき諦めたように食べ始めた。
「明日、太陽の泉に移動するからね。ちゃんと体力つけとくんだよ。どうなるかわからないから。」
「ひぃっ!」

幸十と洋一の食べっぷりに夕貴が満足そうに話すも、琥樹こたつは相変わらず怯えている。ココロはというと、そんな夕貴をチラッと見て重い口を開いた。
「あの・・・太陽の泉に行ったシャムス軍隊員が消息不明って、何があったんですか・・・?」

ココロの問いかけに、夕貴は食べながら答えた。
「さぁね、よく分からない。だから行くんだよ」

夕貴の端的な回答に、かがりはため息をつくと付け加えた。
「・・・最初のきっかけは、コウモリ部隊あなた方も追っているロストチャイルドが多発し始めたことでした。」
「いつからですか?」
半年くらい前・・・・・・です。その前もぽつぽつ、行方不明の通報はありましたが、休戦直後の頃は珍しくはないという状況でした。しかし、半年前から子供だけがやたらと失踪し始めたのです。休戦から5年経っていた当時、この状況はおかしいと誰もが感じていました。」

"カサッ"
すると、かがりは赤い印がついたシャムス地方の地図をココロに渡した。
「これは?」
「ロストチャイルドと思われる事象が発生した地点を記した地図です。」

(なんだろう・・・。なんか見たことある・・・・・・・・・ような・・・

ココロはその地図に記載された赤印を見て、なぜか既視感を覚えた。
すると、かがりがココロの持つ地図のとある場所を指で差した。
「その中でも、多発しているのが太陽の泉周辺・・・・・・です。」

地図の端、太陽の泉のある一帯には、かがりの言う通り沢山の印がつけられていた。
「いつから多くなったのですか?」
太陽の泉ここは、3~4ヶ月くらい前でしょうか・・・。それと同時に太陽の泉付近でマダムが発生するようになって、本格的にシャムス軍私たちが関与することになりました。」

ココロは、かがりの言葉を聞きながら地図をじっと見た。

「まぁ、そこから数人の部隊作って行かせたんだけどね。途中で連絡とれなくなってね。初めはマダムを退治して、馬鹿どもが太陽の泉でさぼってんだと思ってたんだけど。ほら、太陽の泉あれは一度入ると疲れがすっ飛ぶから、皆ずっといたがるのよ。特にセカンドの私らには病みつきになっちゃうところがあってね。だからもう数人、連れ帰ってくるよう向かわせたんだけど、まーた連絡つかなくなってね。最終的にうちの副隊長・・・・・・も行かせたけど、これまた連絡とれなくなった・・・ってなわけ。」
夕貴はお皿の上の肉をフォークで勢いよく刺し、ため息をつきながら口に運んだ。

「子供だけじゃなく、シャムス軍のセカンドうちの馬鹿どもが消えてどうするんだい。・・・まぁ、精神年齢は子供か。ったく、仕事増やしてくれちゃって。」
不機嫌そうに、夕貴はまた肉にフォークをブッ刺した。

「・・・ですから今、太陽の泉付近を閉鎖しているのです。」

そこまで話していると、何やらシャムス軍の隊員が夕貴に向かって話しかけて来た。
「姉貴!いたる庁長がきてます!」
いたるが?分かった、向かうよ。」

口元を布巾で拭うと、夕貴は立ち上がった。
「そんな訳だから、ガキども。明日寝坊すんじゃないわよ。寝坊なんかしたら、太陽の泉に行く前から命ないよ。」

不気味なことをさらっと言うと、夕貴はさっそうと去っていった。
琥樹こたつは硬直し、顔色は真っ青だ。
「行っても地獄・・・行かなくても地獄・・・もうヤダ!!」
「なぁ~に騒いどんねん、ほれ、食べーや!」

怖がる琥樹こたつの口に、無理やり野菜をつっこむ洋一。
「ちょっ!野菜嫌いだからって、俺に押し付けないでよ!!」
「ほれほれ!はよ食べな、サチに全部食べられるで~。」
「やめて!肉食べさせて!!」

ギャアギャアと騒ぐ洋一と琥樹こたつの隣で、ココロは夕貴の背中を見ながらかがりに話しかけた。
「シャムスは、軍と地方庁の仲が良いですね。本当に。」
「・・・シャムスの地方庁は、他の地方庁と比べて孤立してますから。」
「孤立・・・?」

かがりは食べながら答えた。
「はい。シャムス地方庁は参謀本部に所属してますが、雪が多く太陽が姿を隠すこの土地は、参謀本部にとって旨味・・がないってことです。だから、本部からの接触や無理難題はあまり言われません。それにシャムスの土地柄、海を挟んで月族領地があるため、戦場にもなりやすいのです。そんな厄介な場所とは関わりたくないのでしょう。」
「ふーーん、まぁええやん。仲良いことは。」
「あと・・・そもそも、夕貴軍隊長地方庁長は兄弟です。それが大きいかと・・・」

「・・・え?」

さらっと言うかがりに、幸十以外の3人は食べる手を止めた。
「え・・・ぇぇえ?!?」
「きょ・・・兄弟?!!あのガリッガリの弱々なおっさんと、凶暴なおばはんが?!」
「どこに同じ血が流れてるんだろう・・・」

正直に驚く3人に、かがりは呆れながら答えた。
「ーまぁ・・・本当の兄弟ではないそうです。同じ環境で育ったとか。私もよく知りませんが、お二人とも戦争孤児で、シャムスの裏路地で暮らしていたそうです。小さい時から一緒なので、家族のようなものなのでしょう。」

かがりの話を聞いて、ココロの頭にふと疑問が浮かんだ。
「その・・・地方庁長のいたるさんは、孤児なんですか?何処かの家門にも属せず?」

その問いに、かがりはふと皮肉っぽく笑った。
「・・・っふふ。いかにも本部にいる人の質問ですね。」
「どゆこと?」

琥樹こたつが口に肉を含みながら聞いた。
「・・・普通なら参謀本部に所属するには、どの家門・・に所属してるかが重要になってくるんだ。自分の生まれがかなり見られるから、参謀本部の・・・とくに地方庁長という役職につくには、かなりの重責を担ってきた家門の生まれじゃないと着くことは難しいってことだよ。」
「つまり、能力よりも生まれが重要視されるんや。どーーーーんな馬鹿でも、生まれよけりゃ全てよしっ!が参謀本部の考えや。シャムス地方庁前で会ったあの馬鹿そうな2人見てみぃ。太陽族の頭脳を担う参謀本部もお先真っ暗ってことや、ひひっ。」

たっぷり皮肉を含めながら、洋一が付け足した。
「え、じゃあシャムス地方庁長は、どこの家門出身なの?」
「ですから家門も何も、孤児ですよ。」

琥樹こたつの疑問に、かがりがあっさり答える。
「え、でも・・・」

納得していない3人の様子にかがりが少し考え込むと、暫くしてから口を開けた。
「・・・前地方庁長の婿養子むこようしになったから・・・と言えば、少しは納得できると思います。」
婿養子むこようし?え、あのおっさん結婚してたんか。」
「へぇー!奥さんはどんな人なんですか?」

その質問に、かがりは持っていたフォークを置いた。
亡くなりました・・・・・・・。休戦直前の5年前に起きた”シャムスの大空襲・・・・・・・・”に巻き込まれまして。」

そう伝えるかがりの表情は、幾らか落ち込んでるように見えた。



ーー次回ーー

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