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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第53話

第53話 シャムス軍の誓いと使命

ーー前回ーー

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"カンカンカンカンカン!!!!"




——首都シャムス。
シャムス地方の中心地区であり、色とりどりの光に照らされ一際ひときわ輝くこの場所では、鐘の音がけたたましく鳴り響いていた。

「全員、シャムスの傘・・・・・・へ向かえー!!」

「荷物は最小限に!早く移動するんだ!!」

「焦らずに!!怪我しないように!!」


街中では、シャムス軍隊員たちの大きな呼びかけが、いたる所で飛び交っていた。
その様子を、神妙な面持ちで見つめるのはシャムス軍書記官のかがり。相変わらずサラサラな濃い紅色の髪を耳にかけ、避難していくシャムスの住民たちを目で追っていた。

(・・・・みんな不安に決まっている。どこの誰よりも、私たちはあの日・・・経験した恐怖と苦痛を覚えているんだから。)


―シャムスの大空襲―
休戦直前に、月族が大量のマダムを引き連れ襲撃をしてきた。
休戦がほぼほぼ決まっていた段階であり、激戦を強いられていた当時のシャムス軍は、疲弊と安堵していたタイミングを狙われたのだ。
大量のマダムが持ってきた灼熱な大石を落とされ、月族セカンドたちの攻撃もあり、人々は無差別に大量虐殺された。
夕貴ゆうき軍隊長が率いるシャムス軍たちが激闘を繰り広げるも、休戦直前ということもあり、参謀本部の決定で軍の増援を受けられず、被害を抑えることが出来なかった。
首都では半数を超えるの人々が亡くなり、シャムスに暗黒をもたらした出来事である。


当時、新人の隊員としてシャムス軍にいたかがりも、目の前で何人を殺されたか分からなくなるほど悲惨な思いをしていた。

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『・・・かがり。前を見なさい。失った光だけじゃなく、残っている命の光にも目を向けるのよ。』

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"ギュッ"
シャムスの大空襲後、卑怯なタイミングで襲ってきた月族への憎しみと、自身の無力さに打ちのめされていた時に、夕貴に言われた言葉を思い出すかがり。同時に、近くにあった手すりを固く握りしめた。

(あんな思いは二度と・・・)

そう思うかがりであったが、不安が払拭できないのは軍隊長である夕貴ゆうきの不在と戦力不足が原因だった。

(今ここに残っているのは、新人や入って間もない戦闘経験がほぼない隊員ばかり・・・比較的近くにいるであろう隊員たちに帰還指示は出したものの・・・直ぐにこれる距離じゃない。)

かがりは軍施設の門に向かいながら、行方不明となっていた副隊長のたけるから、突如として無線が入った時のことを思い出す。

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かがり、すまん!!!!マダムの大群が首都に向かっている!!正確な位置は分からないが、あと数時間でつく可能性がある!!だ・・・・だが安心しろ!すぐ・・・・・』

"ブツ!!!ツー・・・ツー・・・"

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たけるの無線は話の途中で切れてしまい、マダムの大群が来ていることしか分からなかった。そんなたけるに少々苛立ちを感じるかがり

(全く・・・無線が全然繋がらなかったのに、やっと繋がったかと思ったら・・・・。いきなりマダムの大群が来るとか言い出してまた切れるし。軍隊長にボコボコにされればいいわ。)

かがりさん!!」
苛ついていると、隊員が駆け寄ってきた。

「装備配置、人員配置完了しました!」
「分かった。まだマダムは見えてない?」
「はい!まだ確認できてません。」
「少しでも確認できたら、城壁に待機している隊員たちは、上空に向かって軽く第一血響けっきょうを放ち、合図をだすように。」
「はい!」

隊員は元気よく返事をすると、城壁に戻っていく。するとかがりは、再び避難する人々に目を移した。

(避難速度が鈍いわね・・・)
人々の移動速度が遅く感じたかがりは、入口に向かい歩き出した。

シャムス軍拠点には、首都シャムスに暮らす人々全員を収容できる防護施設がある。

——通称、”シャムスの傘・・・・・・”。

これはシャムスの大空襲を教訓として作られたもので、セカンドたちの力を組み込ませた壁は固く、マダムの攻撃だけであれば1ヶ月ほど耐えられる代物である。
そのシャムスの傘に、かがりが急いで向かうと、入り口付近で何やら人々が止まっていた。

「・・・?何で・・・」
かがりが走り向かうと、何やら怒声が響いてきた。

「だから!!俺たちを、こいつらと同じこの施設に入れようとするなどふざけるな!!こんな狭い所・・・居れたもんじゃない!!」
その声色に、かがりは思わずため息をついた。

そこにいたのは、参謀本部から来ていたブラシカとロッタだった。
入り口で、地方庁の副庁長ゲインは焦りながらも、2人を宥めようと必死だが聞く耳を持たないようだ。
その隣では苛立ちを隠せずにいるシャムス軍の隊員たちの姿が。
足を止められている住民たちは不安そうな表情をしていた。その状況に、かがりは嫌々ながらも近づいていった。

「・・・どうしました?」
かがりの登場にホッとした表情を見せるシャムス軍の隊員たち。ブラシカとロッタはかがりを見るやいなや、指を差して主張し始めた。

「おい!貴様らシャムス軍はどうなっているんだ!!」
「何がでしょうか。」
「俺たちは太陽の心臓、太陽本部から来た参謀本部の者だぞ!!?高貴な存在である俺たちが、神からも見捨てられているお前たちと、どうして同じ空間にいなきゃならないんだ!!」

その言葉に、周囲にいたシャムスの人々は不快感を露わにした。
「もうすぐマダムの大群が来るんです。この建物・・・シャムスの傘の中なら安全です。少しの間我慢を・・・」

かがりが2人を落ち着かせようとするも、拍車はかかる。
「だから!!?コイツらと一緒が嫌だと言っているんだ!!」

シャムスの住民たちを指差すブラシカ。そんな態度の2人に再びため息をつくかがり。マダムが近づいている今の状況は、一分一秒も惜しい。
「・・・シャムスの傘はここだけなのです。一緒に入っていただくしか・・・・」
「ならコイツらは別の場所にしろ!!俺たちと一緒の空間にいようなどと、おこがましいぞ!!!」

その言葉に、そこにいたシャムスの住民たち全員が怒りを露わにし始めた。

「ちょっと!!!どこの誰だか知らないが、邪魔だぞ!!!」
「そうだ!!そうだ!!!どけ!!!入れないだろ!!」
「子供がいるんです!!!早くしてください・・・!!!」

シャムス軍の隊員も住民たちと一緒に抗議しようとしたが、かがりが止めた。

(・・・全く・・・おこがましいのはどっちやら・・・)
段々と焦りと共に面倒くさくなってきたかがり。いつもはここで、夕貴が拳をあげ脅迫し黙らせ、かがりをひやひやさせるが、今はその存在が愛おしくも思えてくる。

「それに・・・・こんな事態に軍隊長も地方庁長もいないだと?!?どうなっているんだシャムスここは!!どこをほっつき回っているんだ?!?」

(・・・参謀本部貴方たちが、1週間で太陽の泉をどうにかしろと言ったんでしょう・・・はぁ・・・。)

かがりが呆れていると、ブラシカは何か閃いたようにニヤッと笑い、後ろで抗議する住民たちを見て言った。
「そもそも・・・そんなに大量のマダムが来るなら・・・シャムスの住人こいつらエサにすればいいじゃないか!!」

その言葉に、そこにいた全員が目を見開き絶句した。
それは、単なる言葉ではなかった。そこにいた全員の心に深く切り込む、鋭い刃のような言葉だった。
「マダムの大群の餌になれば、少しはマダムたちも動きが散り散りになる!その間にシャムス軍お前たちが攻撃すればいいじゃないか!!そうだ!いい考えだ!なぁロッタ!!」
「そうですね、ブラシカ様!」

すると我慢の限界か、住民たちの抗議がより一層酷くなり、ブラシカとロッタに一斉に詰め寄った。
「ふざけるな!!俺たちをなんだと思っている!!」
「そうよ!!人の命をなんだと思ってるのよ!!」
「うわぁぁぁあん、ママぁ!!」
「なんであんたたちのために私たちが犠牲にならないといけないのよ!!」
「もう・・・もうシャムスの大空襲あの時のようなことは、ごめんだ!!やめてくれ!!!助けてくれ!!!!」

シャムス軍や地方庁がなんとか抑えようとするも、どんどん抑えが効かなくなっていく。ブラシカは近づいてくるシャムスの住民たちを腕で跳ねのけた。
「うっっっっっっるさいんだよ!!貴様ら!!誰のおかげで生きてられてると思ってるんだ!!俺たち参謀本部が、食料の支援などしなければとっくに飢えて死んでいるんだぞ?!?ただでさえ太陽族のお荷物なんだ!!こういう時くらい、役に立ってみろ!!!こんだけうじゃうじゃいるんなら、マダムも嬉しいだろう!?!ほら!!地方庁!!シャムス軍!!こいつらをここからつまみ出せ!!息苦しくて仕方ない!!!!!!」

ブラシカは近くにいたシャムス軍と地方庁に指示をだす。しかし、地方庁もシャムス軍たちも誰一人として動き出そうとしない。

「・・・おい、そんな態度でいいのか?帰ったら直ぐに本部に報告するぞ?この土地は、反逆を企てているとな。その瞬間、この土地にいる全員が反逆者として扱われることになるんだぞ!?!今のような暮らしは夢のまた夢!!食料や物資の支援は止まり、みんな仲良く飢え死にか?!マダムに食い殺されるか、飢え死にか、好きな方選ばせてやるよ!!なあ!?!!!!!」

その言葉に、たじろぐシャムス軍と地方庁。
確かにブラシカの言葉にも一理あった。食物が育たないこのシャムスの地で、支援を止められては生きていく方法などない。ましてや参謀本部の言葉とシャムスの言葉では、どちらが本部に優先されるか・・・明らかでもある。
誰もが苦しい表情で判断に迷っていると、かがりは夕貴に言われた言葉をふと思い出していた。

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かがり、このシャムスに足りないものって、なんだと思う?』
『突然なんですか。・・・んー・・・やっぱり太陽でしょうか。』
『違うね。』
『・・・え?』
『ここに足りないのは、光の輝きだ。』
『光?』
そう。ここに暮らす人々の、命の光の輝きだ。
『命の・・・光?』
『太陽の光なんか、無くたって生きていけるんだ。現に今、私たちは生きている。でもね、輝きが足りないのよね。』
『輝き・・・』
『そう。だからね。私たちシャムス軍は、この地の命の光を守り、より輝かせることが使命だ。一人一人の命の光が、眩しいくらいに光輝きこの地を照らせば、太陽なんて無くたって私たちは生きていける。でもそれをね、もしどこかの馬鹿が、弱みを握って脅迫し奪おうとするなら、まずこう言ってやりな。——』

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大いに結構!!!




突然のかがりの叫びに、周囲は驚き静まり返った。

「・・・何?」
ブラシカが眉を顰めると、かがりは二人に近づきながら続けた。

「私たちはシャムス軍!!!この土地と、この土地に住む人々を守るのが使命!!!その2つを守ることさえ出来ないなら、私たちに存在意義などなし!!」

先程とは打って変わって、迫力のあるかがりの言葉にたじろいでいくブラシカたち。
しかし、怒りの沸点を超えたかがりは遠慮なく続けた。

「反逆と報告したいならどうぞ。最終的に決めるのは貴方たち参謀本部ではなく、我らの王、太陽王です!!我らの・・・尊厳であり偉大なる王は、状況を的確に把握し、適切な判断を下してくれると私は信じています!!」

ブラシカたちの目の前に迫りくるかがりに、怖気づきながらもブラシカは言った。

「ふ、ふざけるな!!早く言うことを聞け!!そうすればお前たちだけは・・・」
「この私・・・私たちシャムス軍に命令を下せるのは、シャムス軍の軍隊長である夕貴ゆうきただ一人!!」

その言葉に、近くにいたシャムス軍たちもブラシカたちに鋭い視線を送る。

夕貴ゆうき軍隊長が、この地の軍隊長として君臨する限り、私たちの守るべきものははっきりしています!!第一にシャムスの民!!その民たちが危険に晒され、命の光が消えようとするなら・・・・私たちシャムス軍が容赦しない!!!」

そして、かがりはブラシカたちの目の前に来ると、胸を指差して言った。
「あなたたちの命の光を消されたくなければ、言うことを聞いてください。ここはシャムス。貴方たちへの優先順位はかなり低いですから。」

かがりの迫力に、ブラシカが言葉を失っていると・・・





"ドォォォォォォォォォォォオオン!!"





かがりはハッとし勢いよく振り返ると、城壁にいた隊員たちが第一血響を空に放っていた。その合図に、かがりは咄嗟に近くの見晴らしの良い高台に立ち、城壁の方へ目をやる。

!!?
かがりは城壁の少し先に、うじゃうじゃ動く大きな黒い物体を確認し、それが大量のマダムたちだと気づいた。

(この量・・・!以前の比じゃ・・・)
想像以上の量に一瞬たじろぎ言葉を失うも、胸に掲げた太陽のブローチを握りしめて叫んだ。





ギュッ!!!!
全軍用ーーーーー意!!!!





かがりの叫びに、シャムス軍たちは武器を持ち立ち上がる。



「マダムの大群が出現!!!武器を持ち、シャムスの民を守れ!!!!2度と以前のような惨事を起こすな!!今こそ我ら、シャムス軍のリベンジである!!!!胸に掲げた太陽の元、シャムスの光を守れ!!!!!!!!」


ーー次回ーー

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