見出し画像

王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第46話

第46話 シャムスの太陽

ーー前回ーー

ーーーーーー



「シャムスの人間に手を出すんじゃないよ。クソどもが。」

無数にいたマダムを一撃で仕留めたシャムス軍軍隊長の夕貴ゆうき
悔しそうに身体中に蔓延る唇を噛む月族朱理あかりに、夕貴は即座に攻撃を始めた。

「第二血響けっきょう 水柳乱舞すいりゅうらんぶ!!」

空中で始まった朱理と夕貴の激しい戦闘は、かなりのスピードで繰り広げられ、地上にいたココロたちは全く目で追えずにいた。

「はー!さっすがやなぁ・・・速さもそやけど威力が桁違いや。朱里相手に全然攻撃させる隙を与えてないやん。」
「俺の翼・・・壊れて返ってきそう・・・」

夕貴が今使用しているのは琥樹こたつのコウモリの翼。
風季ふうきたちが攻撃を受けた直後、夕貴が琥樹こたつから奪い取り飛んでいったのだ。

(初めて扱うのに・・・上手く翼を使いこなしてる。やっぱり天神は格が違うな・・・それに、圧倒的に夕貴軍隊長が押してるじゃないか。)

ココロが夕貴の戦闘能力の高さに改めて感心していると、空中では夕貴に押される朱理あかりいたるに叫んだ。
「”あんた!!!せっかく能力を分けてやったんだから、早く攻撃しなさい!!!”」
「!!」

朱里の言葉に、いたるが困惑していると――

「第六血響 海嘯斬かいしょうざん!!」
「っく!!」
朱里は何とか身体中の口から吹き出した黒い霧でカバーしようとするも、隙間から夕貴の攻撃が襲う。

「”ふざけんじゃねぇぞ!早く加勢しろよ!のろま!!”」
「”そうよ!!今すぐあんたの子供を殺すわよ!!?私たちの一言で・・・”」
"ガキン!!"
「うっさいんだよ!!ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ!!!あんたの相手は私だろう!!!!」

隙を与えるかと、夕貴が朱里に猛攻を浴びせていく。
いたるは、地上で息絶える那智、風季、榛名の無残な姿や、朱理と死闘を繰り広げる夕貴の姿、掌に広がる鮮やかな紅にやつれた顔を埋め、絶望の淵に沈んでいく。

「や・・やめて・・・やめてくれ・・・」
あまりの無惨な出来事に、いたるの精神は普通ではいられなかった。自分たちが守るべきこのシャムスの地で、同族に対して罪を犯し続けていただけでもおかしくなりそうだったが、共に支え生きてきた三人まで奪われ、この無力感、この絶望感は、いたるの心から光を奪っていく。

「もう・・・もうやめてくれ!!!俺が・・・俺が全て・・・全て悪いのは俺なんだ!!殺すなら俺を・・・っ!!」

悲痛な叫びを発するいたる。血で塗れた手で自身の腕を掴み、身体を硬直させる。

「ぁぁあ・・・・ぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

(——まずいな・・・)

精神が壊れそうないたるの様子に、夕貴が目を向けた瞬間――

「”使えないなら望み通り殺してやるわよ!!”」
全て夕貴に集中していた攻撃の一部が、容赦なくいたるに向かう。

「っ!!」
"ドシーーーーン!!!"
夕貴はとっさに翼を急旋回すると、いたるを庇い攻撃を受けた。

武器を構える瞬間もなく、身一つで朱理の黒い霧の攻撃を受ける。先程風季たちを攻撃した硬い刃ではなく、少々柔らかい鞭のように、夕貴を弾き飛ばした。
夕貴はそのまま地上に叩きつけられる。

「ゆ・・・夕くん!!!!」

夕貴が落ちた方へ視線を向けようとするも・・・

「”どこ見てんだ?”」
いつのまにか目の前に来た朱里は、いたるに冷たい視線を向け・・・

"ザシュッ!!"

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!くっ・・・!!い・・・いた・・・い!!」
いたるさん!!!」
朱里の刃は、いたるの右腕をごっそり切り取った。
その瞬間、血が溢れ出し、雨のように地上に降り注ぐ。

「第五血響、焚天熊撃ぼんてんぐうげき!!!!」
咄嗟に地上から攻撃を放ついたる

「”邪魔だあっ!!!!!”」
朱里の黒い霧が熊たちを覆い、そのまま動けなくさせる。
朱里はその様子に鼻で笑うと、身体中の口が一斉に喋り始めた。

「「「「”これだから・・・これだからやめられない!!”」」」」

朱里は悲痛な表情をするいたるの顔を優しく撫で始めた。
「「「「”・・・ぁあっ。いい表情。馬鹿で無力な人間が苦痛に歪むこの表情は・・・何回見たって飽きるもんじゃないぃぃい!”」」」」

興奮しているかのような表情を向ける朱里。
「「「「”太陽の刻印が入ってた右腕を、斬られた気分はどうなんだ?あぁ?悲しいか?それとも痛いが先かぁ?なぁ、答えろよお!?!!”」」」」
「な・・・なんだあいつ・・・く・・・狂ってる・・・!!!」

失われた右腕から鮮血が脈打ついたるの姿。朱里は、その惨状をまるで芸術作品でも鑑賞するかのように、狂喜に満ちた瞳で凝視していた。
涙に濡れたいたるの顔は、まるで泥の中に投げ込まれた彫刻のようでありながらも、震えながら言葉を探し始めた。

「も・・・もう・・・俺は・・・死んだ方がいい・・・。俺は・・・いつだって・・・いつだって間違えて・・・大切な・・・大事な人を・・・誰1人として・・・助けられない・・・馬鹿な人間なんだ・・・」

先程夕貴が撃墜され、未だその場所に粉塵が舞う場所に目をやる。

「夕くんにだって・・・お・・・俺は・・・みんなに・・・迷惑しかかけな・・・い!!!」

絶望に打ちひしがれるいたるの様子に、朱里は笑い始め、身体中についた口が各々話始める。
「”あははは!!そうそう!それ!その表情。”」
「”きったねぇ顔で死を請えよ!!最高だろ!!。”」
「”族の印である右腕を切られて、子供も連れ去られて、力無くして同族を裏切る・・・何たる所業!!!”」
「”そもそも、”太陽から見捨てられた土地”なんかで生きてきたからですよ。可哀そうにねぇ。太陽、見たことないのでしょう?太陽族なのに・・・。哀れですねぇ。太陽のないこんな土地で生きるなら、死んだ方がマシでしょう?それではご希望どおりに・・・”」

”シュルン!!”
朱里は散々言葉でいたるいためつけると、再び口から黒い霧をだし刃のように鋭く尖らせ、いたるに向けて攻撃しようとした。


その瞬間、いたるの脳裏に走馬灯のように幼い頃の記憶が蘇る。

==============

『夕くん、太陽見たことある?』
『太陽?あるわけないでしょ。ここはシャムスよ。』
『太陽ってね、太陽神様の化身で、眩しくて暖かいんだって。ほら、本に書いてある。見てみたいなぁ~。』

==============


(——俺はもう・・・あの頃のように、太陽を望めるような人間では・・・)


いたるの瞳から光が消え、目を閉じようとした時――





"ザッ!!"


私が!!!!!シャムスの太陽・・・・・・・だーーー!!!!!!!!!!!






――地響きのような雄たけびが、周囲に轟き、人々は息をのんだ。

全員その地を揺らした声の方へ目をやると、先程地上に落ちた夕貴が、傷だらけになりながも立ち上がり、空中のいたるに力強い瞳を向けていた。




太陽がない土地?神に見捨てられた土地?大いに結構!!この土地で生きているのは私たち人間だ!!一人一人の命の光が集まって輝き、この地を照らしている!!しかし、暗闇が続き命の光がかげろうものなら、私がこの地の太陽となって光を降り注ぎ、照らし続けよう!!いたる!お前が何度暗闇に落ちようとも、何度でも私がお前の元に太陽の光を与え続ける!!!!この地の・・・シャムスの太陽として!!!




生きる気力を失くすいたるに呼びかける夕貴の力強い言葉。その言葉を伝えたと同時に、夕貴はかつて太陽王に謁見し問われたことを思い出す。

『夕貴。お前は天神になりセカンド最強の称号を得た。ならば、その先に見据えるものは何だ?』

(あの時・・・あの憎たらしくも、まるで太陽のように光り輝く王を目の前にした時、私は分かったんだ。シャムスに必要なのは実物の太陽じゃない。本当に必要なのは・・・・太陽のように光り輝く人々の命の光だ!!!!



私は・・・・シャムスの太陽になります!!!!




そして、夕貴は胸元から何かを取り出し、掴んた手を真っ直ぐに挙げる。その拳には髪束・・が力強く握られていた。


だから・・・・だからいたる!!これからも一緒に生きていこう!人々の命が光輝く、このシャムスで!!!

==============

『ほら。』
『?』
『裏路地のじいさんが言ってた。髪の毛を交換して持ち歩いてると、兄弟になれるって。』
『兄弟?』
『そう。家族。家族は特別。切っても切れない。そんな関係だよ。』
『・・・家族は・・・離れない?』
『まぁ・・・そうだね。』
『はい!これで兄弟だね!夕くん!いつも一緒!!』

==============

夕貴の言葉と掲げた髪束にいたるの瞳には再び光がともり、大粒の涙がこぼれていた。

「ゆ・・・夕くん・・・」
そんないたるの瞳に、夕貴はニッと力強い笑顔を向けると、再びコウモリの翼を広げ飛ぶ。

第五血響! 深淵の牢獄しんえんのろうごく!!!

その瞬間、朱理に向かって大量の水の塊が降り注ぐ。朱里に当たると、水の塊は朱理に吸い付き、どんどん侵食していく。


「”な、何これ!!”」
「”と・・・とれねぇ!!”」

朱里が夕貴の攻撃に動揺している隙に、夕貴はいたるの元までいくと・・・

「第二血響けっきょう 水柳乱舞すいりゅうらんぶ!!」

黒い霧を追い払い、いたるが解放される。
同時に身体に力が入らないいたるを抱きあげ、そのままその場を離れ地上に降りたった。見事な解放劇である。




たける!!早く止血を・・・」
地上につくと、夕貴は急いでたけるに指示を出すも・・・・

「・・・ぅう・・・ぐすんっ・・・」
目の前には大量の涙を流したたけるがいた。

「は?何泣いてんのよあんた。」
たけるだけじゃない。他のシャムス軍隊員たちや、洋一なども涙を浮かべていた。琥樹こたつなんかは幸十の服がびしょ濡れになるのではと思うくらい、幸十に抱きついて涙を流している。

「何なのよ、気持ち悪い。」
夕貴が引いていると、たけるが涙を拭きながら言った。

「ここの・・・シャムスの太陽は姉貴です!!い・・・いつまでも・・・ぐすっ・・・どこまでもづいでいぎます!!」
「づいでいぎます!!」
そう言うシャムス軍たちに、夕貴は面倒くさそうに頭をかくと、たけるの頭を叩いた。

”バシッ!!”
「わかってんなら、早くいたるを止血しなさい!死んだらあんたら全員焼き殺すわよ。」
「ひゃ・・・ひゃい!!」


(きょっ・・・強烈な太陽だ・・・・)

そんなシャムス軍と夕貴のやり取りに、ココロたちは思わず凍り付いた。洋一と琥樹こたつに至っては涙が引っ込んだようだ。




"ドシーーーーン!!!!!!!"



暫くすると、夕貴たちの近くに地響きを立て何かが落ちてきた。
見ると、夕貴の水の牢獄に掴まり落ち、息絶え絶えな朱理の姿だった。



ーー次回ーー

ーーーーーー

いいなと思ったら応援しよう!