王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第38話
第38話 形勢逆転、のち猛獣退治
ーー前回ーー
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(・・・うぅ・・もう・・・動けな・・・)
琥樹の思考回路は止まりかけていた。ただただ目の前で、榛名が猛たちシャムス軍に攻撃をしようとする光景を見ていることしかできなかった。その状況が何とも悔しく、涙を浮かべ唇を強く噛みしめる。
そして、榛名と那智が同時にとどめの攻撃をしようとした。
"シュン!!!!"
その時
太陽の泉奥の崖から、何か黒い物体が飛び上がった。
その物体は現れるや否や——
"ブスッ!!"
何やら針のようなものが飛ばされ、榛名に命中する。
「っ!!」
”ジャボーーーーン!!!”
「!?榛名!!!」
針が当たるや否や榛名はそのまま泉に倒れ、泉は大きく波打つ。
那智は急いで榛名の元に行こうとするも、その黒い物体が急旋回すると、那智に向かって針を飛ばした。
那智は瞬時に気づき、なんとか避ける。
(・・・あの・・・針は・・・!)
意識が朦朧とする琥樹は、飛ばされた針を見てハッとした。
「琥樹ーーーー!!!起きぃや!!!!」
琥樹は声のする頭上へ、視線を移すと——
「洋一さん?!?」
そこにはコウモリの翼を身にまとった洋一が、空中にいた。コウモリの翼は付けているが、中身は依然素っ裸だ。
「あんさんの翼もあるで!!!・・・でもその前に、那智やな!」
「う、う、うわぁぁぁぁぁあん!!!よ、洋一さん、いぎでだぁぁぁぁぁぁあ!!!よがっだぁぁぁぁぁあ!!!」
崖から落ち、死んだと思っていた洋一が生きていたことに安堵する琥樹。再びその場で泣き始めた。
「琥樹!泣いてる暇ないで!!!起きい!!右から攻撃や!!!」
その合図に、琥樹は右に向け扇子を開き受け身を取った。
再び蹴りを那智に入れられそうになるも、洋一の合図でなんとか止められた。
「ったく、次から次へと出てきやがって!」
「やめて欲しけりゃ降参しぃや!!!那智の足技、もう見切ったで!!!逃げられへん!!!」
「はっ!強がるなって!」
那智はそう言って、右の足から左足に変えて琥樹に攻撃しようとした。
「琥樹!いくで!!!ついてこい!!」
「うん!!!」
そこからは太陽王直下の調査部隊、通称コウモリ部隊の琥樹と洋一のコンビネーションが始まった。
「左!!」
"シュッ!"
「上や!!」
"カキン!!"
「また左や!!!」
"シュン!!"
「っち!」
「琥樹!そのまま下に向けて攻撃しぃ!!」
「第二血響、飄風の乱!!!」
"シャッ!!!ザシュッ!!!"
「っく!!」
琥樹の攻撃を受ける那智。先程までは逃げることに精一杯だった琥樹も、洋一の的確な指示で那智に攻撃を入れるまでになっていた。
「左!!」
"シュ!!"
「上!!」
"シャ!!"
「後ろに攻撃や!!!」
「第二血響、飄風の乱!!」
"ビュゥゥゥゥゥウウ!!!"
「ぐわっ?!?」
洋一の登場により、圧倒的に琥樹が優勢になっていく。
暫くすると、指示をせずとも、無意識に身体で攻撃をかわせるようになっていた。
(本人は気づいてるか微妙やけど・・・琥樹は、気配を読み取る能力がピカイチや。それに気づかず活かしきれてないのは惜しいことや・・・。そして、那智は速いが動きは単調!一連の動きを伝えれば、あとはどうにか出来るやろ。)
そして洋一は太陽の泉に視線を移した。
(あの巨体は・・・イタルアサーカス団員やったか・・・。周りのおっさんたちは・・・全員素っ裸でようわからんが、一旦泉から出した方が良さそうやな。琥樹の右腕とあの隊員たちの症状見ると・・・あの巨体は雷使いやな。水ん中いると面倒や。)
洋一はコウモリの翼を閉じると、隊員たちがいる泉の中に入る。
"ピリッ"
「うわっ、まだ微妙に電気流れとるやん。どんだけ大量の電気流したんや。」
気絶する榛名の腕に刺さった針を見て、ニヤッと笑う洋一。
「コウモリの麻痺針もよう効くやろ?うちの武器マニアが結構エグい設計したもんやから、その巨体でもよう効くはずや。」
洋一は、気絶している隊員たちを1人ずつ泉から出していく。
「寒いが堪忍な。泉ん中いるよりかは生存率高まるやろ。」
せっせと洋一が運んでいる隣では、息を吹き返した琥樹に追い込まれる那智がいた。
(おいおいおいおいおい、さっきまでの逃げ腰が・・・どうなってんだ?!なんで俺が追い込まれてんだよ。このままじゃ・・・!)
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『なち!!!すごい!すごい!足すごい!!』
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『なっちゃん!私もタップできるようになりたい!!』
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那智は追い込まれていく中思い出す。
(・・・こんなところで・・・こんなところでしくじる訳にはいかない!!また・・・またあんな思いはもう絶対したくねぇ!!!)
「第四血響・・・閃風疾走!」
すると、戦っている目の前の琥樹からいきなり離れた。
「・・・っえ」
いきなり戦線離脱した那智に驚くと、琥樹は何かに気づき急いで洋一の方を見た。
「洋一さん!!!逃げて!!!!!!」
那智が物凄いスピードで、隊員たちを移動させる洋一に向かっていく。
「なっ!?」
琥樹も急ぐも、那智の全力のスピードに間に合うはずもない。
洋一にコウモリの翼を広げる時間さえ与えない速さ。
追い込まれているのか、全力の力を足に込めている。
「洋一さん!!!!!!!!」
洋一に向かって、那智の足技が向かった。
"ガキン!!"
しかし、洋一の目の前で止まる。
止めたのは——
"バシャァァアン!カキン!!!"
洋一の目の前ギリギリで止めたのは、再び目を覚ました猛だった。
「!!猛さん!!!」
琥樹は表情をパッと明るくさせた。
・・・が、猛はどことなくさっきとは雰囲気が違った。
那智の攻撃を止めたかと思うと——
"ギュイン!ガッ!!!"
「・・・っぐ!!!!」
「なっ!?」
持っていた槍型の武器を振り回し、物凄いスピードで那智の溝落ちに攻撃を入れた。
一瞬だった。そのあとは、間髪いれず勢いよく攻撃を那智に入れていく。
「グルルルルル・・・・」
「な・・・なんやこのおっさん。強いな。」
「え・・・誰・・・」
先程の柔い猛とは異なり、名前のとおり、猛々しい姿へと化していた。
那智に攻撃を入れる隙も与えない。猛攻の末、既に那智は白目をむき意識を失っているようだ。
「・・・こ・・・これ以上は!!」
「ぐおおおぉぉぉぉおおおお!!!!」
限度を超えた猛の攻撃に、琥樹と洋一が止めに入ろうとするも・・・
”ザバァァァァアアアン!!!!!ダッダッダッダ!!!!”
今度は榛名が最後の力を振り絞り起き上がって猛に攻撃しようとする。そして、必死に走ってくる榛名の瞳には大量の涙が溢れていた。
「猛さん!!」
しかし——
"バァァァァアン!!"
どんな隙をも与えず、襲ってくる榛名を勢いよく吹き飛ばした。
榛名の巨体をいとも簡単に飛ばすとは、もの凄い勢いである。
「え、どうしよう・・・こ、これ、だ、大丈夫?!?」
「琥樹!このおっさん誰や?!」
「シャ・・・シャムス軍の副隊長なんだけど・・・」
「副隊長?!なんや、なんでこんな暴走してんねん!」
「わ、わかんない!さっきまで弱かったんだけど!!なんか激変してて俺もわからない!!」
「まずいな・・・同族殺しは色々面倒や。琥樹、止めるで!」
「え、え、あれ?!?凶暴な熊より怖いんですけど?!まだマダムが可愛く見えてくるほどなんですけど?!」
「ごちゃごちゃ言っとらんで・・・」
その時——
「ん・・・な、なんだこれ?!」
「寒っ!!え・・・なんで裸?!」
「ハックション!さっむ!!」
奥に移動させた隊員たちが起き始めた。その様子に、逃がすものかと洋一が詰め寄った。
「なぁ!!!!あんたらシャムス軍の隊員か!?あのおっさん止めたいんやけど、どしたらええん?!」
「え、は、ぇ、誰って・・・ぇえ?!?副隊長?!!何でいるのって・・・また暴走してる!?!!」
起きたばかりの隊員たちが驚いていると、洋一は急かした。
「早よいいや!!あんさんらの副隊長が同族殺しの罪被ることになるで?!?いつもどうしてんねん!!?」
「ふ・・・副隊長は・・・いつも大人しいんですが・・・その・・・攻撃され続けてボロボロになると・・・戦闘能力が目覚めて、無敵な状態になるんです。」
「なんやそれ、やられないと本気だせへんって不憫な体質やな。で!!止めるにはどうしたらええ?」
「いや・・・いつもは夕貴が頭殴ったら意識なくなって止まるんだが・・・俺たちじゃ止めるのは・・・」
「・・・っくそ!!琥樹行くで!!」
「え、うん、え!!!?行くの?!?隊員が止められないのに?!」
「ほら早よコウモリの翼着て、飛ぶで!!」
洋一は琥樹にコウモリの翼を渡し、暴走する猛に向かう。戸惑いつつも、琥樹もコウモリの翼を広げ嫌々向かった。
「っ!いた、あれや。」
"ドシーーーーン!!"
物凄い音を立て、気絶する那智と榛名に攻撃をつづける猛。
「うわ、あ・・・あああああれはおば・・・じゃなくて夕貴じゃないと色々な意味できついって!!!」
琥樹は完全に怯えていると、洋一は何てことないと続けた。
「なんや、軍隊長の拳と同じ衝撃与えりゃええんやろ?」
すると、洋一は猛たちが森のとある場所に入ったタイミングで琥樹に言った。
「いいか!俺が合図したら、えーっと・・・あそことあそことあれ!!あとあの二本も追加や!丸々大きなあの5本の木を風で切るんや!!」
「へ?えっと・・・あれと・・・」
「あれとあれとあそこ!!・・・あ、今や!!木を切りいや!!琥樹!!」
「え・・・ぇええ・・・」
「はよ!!!あれとあれとあれ!!!」
「わ、分かった!!!第二血響、飄風の乱!!」
琥樹が風の攻撃で、洋一が指定した木々を倒していく。と同時に、いきなり洋一が那智や榛名に向かって飛び始めた。
”シュンッ!!”
「洋一さん?!?」
そして、瞬時に那智と榛名をぎりぎりのところで引きづりだし・・・
"ドシーーーーン!!"
雪が舞い周囲が白一色の世界へと化していく。
暫くして徐々に視界が晴れてくると、見事に洋一の読み通り猛だけ木の下敷きになっていた。
「グルルルル・・・」
「ひぃ!!まだ起きてる!!!あ・・・ああああんなに血流してるのに!!!」
しかし、まだ木の下で暴れようとする猛。その様子に洋一が叫んだ。
「琥樹!!もう一本や!!あの雪がぎょうさんついてるあの木!!!」
「う、うん!!!第二血響、飄風の乱!!」
”ドシーーーーン!!!バサアァァァァァアア・・・”
琥樹は言われた通り、もう一本風で切り倒すと、先ほど同様物凄い音を立てて倒れ、また雪が木の枝や葉に沢山積もっていたため、大量の雪も猛を襲い、埋もれさせた。
”しーーーーーん”
「し・・・・死んでないよね・・・?」
先程とは打って変わって静かになり、心配しながら猛が埋もれているであろう場所に近づく琥樹。
「んーー、大丈夫やろ。掘るで。あ、おーーーい!!あんさんらの副隊長!!ここに埋まっとるでーーー!!掘るの手伝ってやーー!!」
先程起きた隊員たちも遅れて駆け付け、洋一の指示で皆で埋まっている猛を掘り起こす。すると・・・
"ぐーっ・・・ぐーっ・・・"
気絶したのか、寝ているようだ。
その様子に全員安堵すると、那智と榛名は隊員たちが即席で作った木の皮の縄で縛り付け、猛は木々の下敷きから引っこ抜いた。
「は・・・はぁ・・・な、なんとか・・・ひと段落・・・」
力が抜けて琥樹は座り込んだ。やっとひと段落だ。
「もう無理、動けない。でも寒い・・・。」
しかし——
"キィィィィィイン"
その不愉快な鳴き声に、琥樹は空耳だと思いたかった。
顔を真っ青にし、瞳は涙ぐんでいく。
「・・・う・・・うううううそでしょ?!」
やっとひと段落つこうとした琥樹たちの背後に、今度は大量のマダムたちが出現したのだった。
ーー次回ーー
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