王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第6話
第6話 太陽の医療班
ーー前回ーー
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オレンジ髪の少年が盛大にベッドから落ちると、目の前にタマゴの様な3人と、頭に包帯を巻いた少年が現れた。
茶髪の少年は、何かしたのだろうか。身体は傷だらけであり、身に着けている深いオレンジと紫紺の服もビリビリに破れていた。
深い茶色の髪色に丸いフォルムの髪型が特徴で、左耳には、琥珀色の雫のイヤリングがキラリと光った。
その少年は、ベッドから転がり落ちるオレンジ髪の少年を見て驚いた表情をした。
「え、誰?」
「班長~♪班長~♪班長~♪」
タマゴが白衣を着たようなフォルムの3人組は、驚く茶髪の少年のことなどお構いなしに、ポンポンと跳ねながら誰かを呼びに行った。
「え・・・ちょ・・ちょっと!!」
茶髪の少年は、走り去っていくタマゴたちに呼びかけるも、誰も聞いてない。戸惑いを隠せず、依然としてベットから転げ落ちているオレンジ髪の少年を気まずそうな顔で見た。
「・・・えっと・・・、きつくない・・・?その体制?」
話しかけられたオレンジ髪の少年は、茶髪の少年をじっと見た。
「うん。でも、・・・動けない。」
「・・・・・。」
転んだ状態のまま、表情一つ変えずに言うオレンジ髪の少年。
少年たちはお互いそのまま見つめ合っていると、茶髪の少年が抑えきれず、吹き出した。
「・・っぷ、あは・・あはははは!ははははは!!!」
笑い始めた茶髪の少年に、オレンジ髪の少年は何故笑うのか分からず、その体制のままじっと見ていた。
「い・・いや・・・!その・・その体制のまま・・あはは・・・そんな真面目な顔で動けないって・・あははは・・・なんかアホっぽくて。あははは!!いや・・ごめん・・あはは・・・馬鹿にしてるんじゃないよ・・!ないんだけど・・あははー」
すると、笑っている少年の背後に大きな人影が・・・
”ゴツン!!!”
「いてっ!!!」
「こら、琥樹!!何、動けない病人見て笑ってるんだい!!それを馬鹿にしてるっていうんだよ!!」
「ひぃ!!メリー班長!!」
そこには、先ほどのタマゴたちと一緒に、同じく白衣に四角い帽子を被った大柄の女性が立っていた。
四角い帽子からは、大きな三つ編みをした白髪交じりの赤毛がでている。
顔や手に皺が沢山みられるところを見ると、それなりの年齢のようだ。
メリーと呼ぶ女性に、琥樹は一気に顔が真っ青になっていく。
「琥樹は、治療も受けないなら早く出ていきな!!」
そう言いながら、メリーはオレンジ髪の少年に近づき、片手でヒョイっと少年を持ち上げた。
”フワっ”
まるで、軽い毛布かのように少年を簡単に持ち上げるメリー。
その隣でタマゴたちはポンポン跳ねながら、何やら色々な医療道具を持ってきて、少年に近づいた。
「診察っ♪診察っ♪診察っ♪」
「え」
オレンジ髪の少年の身体をぺたぺた触りだし、なすがままに硬直する少年。
タマゴたちは、いつの間にか用意された太い針のついた大きな注射器をオレンジ髪の少年に向けた。
「うわっ」
先ほど刺されそうになった琥樹は嫌そうな顔をすると、メリーがタマゴたちを見て口を出した。
「こら、キミ、シロミ、カラ。それは違うよ。武器用だから、治療用を持ってきな。」
「・・・・・・・。え、ちょっと、俺、さっきあれで刺されそうになったんだけど。」
メリーが注意しているのを見て、信じれられないという表情でタマゴたちを見る琥樹。
「人は誰でも間違いがあるさ。」
どうってことないという表情で、診察の準備を始めるメリー。
「え、いやそういうことじゃないでしょ!?!え、なにこれ、俺殺されそうになってたの?!」
「ピーピーうっさいねぇ!!」
「ひぃ!!だ・・・だって!殺されそうになったんだぞ!!」
琥樹はガタガタ震えながら、オレンジ髪の少年に思いっきりしがみ付き訴えた。メリーやタマゴたちは、琥樹にお構いなしに治療の準備をしている。
渋々諦めた琥樹は、しがみついても特に反応がないオレンジ髪の少年に注目を変えた。
「・・・見ない顔だね。ねぇ、メリー班長、誰?」
琥樹の質問に、メリーはため息をついた。
「あたしたちが聞きたいよ。あんたんとこの隊長がいきなり連れて来たんだからね。」
「え・・・坂上さんが!?!?」
「2週間前!2週間前!ずっと!ずっと!寝てた!」
タマゴたちはカタコトに喋りながら、何やら少年の傷だらけの肌に、白いなにかをペタペタ張り始めた。
はたしてこれも治療道具なのだろうか・・・。
「2週間?!え、何があったの?むしろ2週間も寝てられるってすごいね。」
”ゴン!”
再び琥樹を叩くメリー。
「いって!!ちょっと!!俺も立派な患者なんだけど!!何ここ、治療するために来たのに、殺されそうになるし、傷増えるし!!」
盾突く琥樹に、メリーはギロリと睨んだ。
「全く・・・あんたんとこのセカンドはすぐに大きな傷を作っきては、グダグダ文句ばかり言って・・・。あんたは即刻ベッドに戻って、クスリ飲んで寝な!怪我人!」
「げ、いつものやつ?!やだよー・・・あの薬、ゲロの味が・・・」
「あぁあん?!」
「ひぃ!!」
琥樹は、オレンジ髪の少年に再度抱きつき、蛇に睨まれた蛙のように震えている。
そんな琥樹をよそに、メリーはオレンジ髪の少年に顔を近づけ触診を始めた。
「ん。相変わらず顔色悪いね。・・・点滴、ちょっと変えようか。栄養失調は勿論だが、お前は身体全体の機能が低下しているからね。」
そう言って、ベッドの隣にあった点滴の袋を変えた。
オレンジ髪の少年はその袋から出ている管をたどると、自身の腕に針で刺され固定されていることに気づいた。
”ーゾクっ”
その瞬間、少年におぞましい悪寒が襲った。
ー赤い部屋。
ーいくつもの大きなカプセル。
ー複数の管のついたヘルメット。
かすかに震え始める少年。その震えに抱き着いていた琥樹が気づいた。
顔色もさっきより悪くなっているのを見て、少年の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
点滴の管を気にする少年に、琥樹も管を見て言った。
「大丈夫だよ。メリー班長は医者なんだ。しかも、医療班の班長。存在と治療方法は怖いけど、腕は確かだよ。あのタマゴたちは例外だけど。」
「あんたには大きめの針で刺したろうか?」
「嘘です。ごめんなさい。優しいです。」
悪態をつく琥樹を横目に、メリーは首にかけていた聴診器を耳に着け、少年の患者服からはだけた胸に当てた。
暫く胸や腹部に聴診器を当てると、少しうなづき近くの椅子に座った。
タマゴたちはというと、点滴替えに全力を注いでいる。
「ーあんた、名前は?」
座ると、良いとは言えない目つきでメリーが聞いた。
「ナマエ・・・」
オレンジ髪の少年はその問いかけに記憶をたどる。
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『兄貴、名前わすれちゃったの?』
『名前ないの・・・?じゃあ!私が付けるわ!えっと・・・』
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「・・チト・・・幸十。」
「幸十かい。自分の名前、ここに書けるかい?」
メリーは何やら手に持っていたボードを幸十に渡した。
しかし、ボードを受け取った幸十は、ボードを持ったまま停止した。
「?どうしたんだい?」
メリーが顔を幸十の方へ向けると、幸十は首を傾げた。
「・・・何をすればいいの?」
その問いかけに、その場にいた全員が驚いた。
隣にいた琥樹も驚きながら聞いた。
「・・・えっと・・・文字って知ってる?わかる?」
「文字・・・聞いたことある。本に書いてあるものだ。けど読めない。」
幸十の言葉に、更に驚く。
メリーは頭をかきながら座りなおすと、幸十の持っているボードを奪って書き始めた。
「たぶん・・・こうだろう。」
メリーはボードに”幸十”と書いて見せた。
しかし、その字を見ても幸十はピンと来てない様子だった。
「幸十♪幸十♪幸十♪」
軽快なステップで幸十の名前を連呼するタマゴたち。
「キミ、シロミ、カラ、うるさいよ。」
メリーが指摘すると、タマゴたちは口に手を抑え黙った。
静かになると、メリーは幸十の無表情な顔を再度見て質問を続けた。
「ちなみに、その名前は・・・誰が付けたんだい?」
「志都。」
「志都?誰だ?」
「分からない。西塔にいる女の子。志都の出すクッキーは美味しかった。」
「・・・西塔?それはどこだい?」
「西塔は西塔だよ。」
中々理解が進まないメリーは頭を抱えると、何か諦めたようにため息をつき、手で口を押えているタマゴたちの方に顔を向けた。
「シロミ、明日坂上隊長を呼んできなさい。あたしらは治療専門。これ以上の質問は、見つけた本人がしないとな。今日一日様子みて、明日体調良さそうだったら坂上隊長に会わせる。」
「あ、俺呼んでこようか?帰ってきた報告をしようと思ってたから。」
”キッ!”
「ひっ!」
そう言う琥樹を睨みつけるメリー。
「あんたは怪我人!さっさと薬飲んで寝な!!治して早く出てってくれ。」
「えーーー!あの薬は・・・」
また駄々をこね始める琥樹に、メリーの頭に角が生え始めているとー
”コツ・・・コツ・・・”
誰かの足音が近くで止まった。
「・・・騒がしいと思ったら、戻ってましたか。琥樹くん。」
「あ!坂上さん!!」
いつの間にか、カーテンの横にとある男性が立っていた。
スラっとした高身長の体系も特徴的ではあるものの、その長い茶色の綺麗な髪と、深い水色の瞳はなにより特徴的である。
肩には、頭に包帯を巻いている黒猫がのっかっていた。
坂上と呼ばれる男性をじっと見つめる幸十に、坂上はクスっと優しい笑みを浮かべた。
ーー次回ーー
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