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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第52話
第52話 太陽より輝かしいもの
ーー前回ーー
ーーーーーー
琥樹がシャムス軍たちに説明している間に、黒い不格好な球体へと化す達に近づいていく幸十たち。
"ドシーーーーン!!"
爆発が酷く、近づくにつれて破片のようなものが飛んでくる。
「洋一!!右に避けるぞ!!」
「よしゃっ!!」
「次は下!!」
「ほい!」
「左だ!!」
「あい!」
「幸十!頭をさげろ!!」
頷き、破片を避ける幸十。ココロは、頻繫に爆発する達の様子に視線を集中させ、頭をフル回転させる。
"バーーーン!!!!!!"
再び大きな爆発が起き、幸十たちの前に避けきれないほどの破片が飛んできた。
「うわっ!!!」
「っ!!!こりゃ、ぎょうさん降ってくるでーーー!!」
無数の破片を目の前に、ココロたちは為す術なく唖然としていると――
「猛!!」
「はい!!第五血響、焚天熊撃!!!!」
地上から熊の形をした炎の塊が登って来るや否や、破片を一掃していく。ココロが振り返ると、琥樹と共に夕貴率いるシャムス軍たちがいた。副隊長の猛は武器を握り締めている。
「破片はなるべく猛の熊が援護する!!お前たちは達の方に集中しな!!!」
夕貴の呼びかけに、ココロは頷くと再び前を向いて達に向かい始める。
その言葉通り、猛が放った炎の熊たちが幸十たちと合わせて移動し、ココロたちに破片が当たらないように援護していく。そのままココロたちが達に向かっていると・・・
"バーーーーーーーーーーン!!!!!!!"
再び爆発が起きたかと思うと、球体の達の左半身が豪快に破裂し、物凄い音と共に無数の破片が散らばっていく。
"ヒュン!!"
「わわ!!!!」
「洋一!!!」
その衝撃に洋一の翼に破片が当たり、そのまま燃えてバランスを崩す。ココロが何とか幸十を支え、洋一の方を振り返るも・・・
「振り返らんで前見い!!ココロ、サチ!!はよ向かうんや!!!」
ココロは洋一の言葉に背中を押され、そのまま達の方を見て幸十を運び始めた。
(・・・頭は追いついても・・・俺の身体がついてこれるか・・・)
ココロはどんどんに近づくにつれ、巨大な黒い球が、まるで生きた生物のように脈動しているのを感じた。その中心には、かつて達と呼ばれていた存在のかけらも感じられず、ココロは恐怖に震えていた。
「・・・っ!!さ・・・幸十!もうそろそろだ!!近づいたらどうすればいい?!」
「投げて。」
「え?」
「あの中に投げて。ココロは危ないから、その場から離れたほうがいいかも。」
何の迷いもなく、真っ直ぐ前を見て言う幸十に、ココロは頷くしかなかった。しかし同時に、幸十の言葉でココロの震えはいつの間にかおさまり、ただただ真っ直ぐ、目の前の達に向かっていた。
どんどん近づき後少しのところで・・・
"シュュュュュュュュウ!!!"
爆発の名残か、近づかせないようにしているのか、物凄い勢いで熱風が幸十とココロを襲う。
「・・・っく!!ぁあっ・・・!!!押せない!!!」
熱風は皮膚を焦がし、まるで火の中を歩いているかのようだ。ココロは全身に力を入れるも、体が吹き飛ばされそうになる。
先の風季との戦闘による負傷もそうだが、プライマルであるココロは、身体が動いている今の状況がおかしいくらい限界を超えていた。
すると・・・
「第一血響!!!セロの風巻!!!!」
"ヒュゥゥゥゥゥウウウウ!!!!!!!!"
「!!」
地上から勢いよく風が吹き、ココロと幸十を達の方へ押し上げる。ココロが驚き振り返ると・・・
「っ!琥樹!!」
地上では、残りわずかなセカンドの力を振り絞って、追い風を送る琥樹が武器を掲げ叫んだ。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」
琥樹の風に押され、あと少しで達に触れられそうなタイミングで幸十が言った。
「ココロ」
「!」
その合図に、ココロは身体に残る全ての力を込めて、幸十を達の方へ押し投げた。
「頼んだ!!もうお前しかいないんだ!!!」
そして言われていた通り、すぐその場を離れるココロ。
幸十は、ココロの押し出しと琥樹の風に押され手を伸ばすと、達の熱い熱い表面に人差し指の先端が微かについた。
その瞬間――
"キィィィィィィイイイイイイイン!!!!!!!"
幸十から物凄い光が発せられ、天を貫くかのように一本の光の柱ができた。
一帯はその光で覆われ、あまりの眩しさに、ココロや地上にいたシャムス軍たちは目を覆う。暫く光続けていると・・・
(・・・なん・・・だ・・・?どんどん体が・・・軽く・・・・)
達の身体からどんどん息苦しさが消えていき、正気を取り戻していく。
そして・・・
"パリィンッ!!!!!!"
達を包んでいた黒い硬いできものが弾け散り、消えていく。達の視界が開けてきた時、目の前にいた幸十に手を差し出された。
達が咄嗟に幸十の手を掴むと・・・
"シュュュュュュユウ!!!!"
達と幸十の身体に光がまとった。温かい光だ。
光はどんどん大きくなっていき、二人の周囲一帯を包み込んでいく。
その温かく、居心地の良い光には達の記憶の断片なのだろうか。映像のように、色々な記憶が流れ始めた。
(なんだ・・・これ・・・物凄く温かくて・・・安らぐような・・・)
光の柱の内側で流れる達の記憶。
その記憶には、達が関わった沢山の人たちがいた。
(・・・!コ・・・コハル!!!!)
その中には満面の笑みを浮かべるコハル。
(・・・夕くん!!)
どんな困った状況でも、支え助けてくれる夕貴。
(那智!榛名!・・・・風季!!)
一番つらい時期も楽しい時期も、共に支え生きてきた大切な仲間たち。
(・・・っ!・・・スニフ地方庁長!!)
自分を信じて、大切な人を託してくれたスニフ地方庁長。
・・・・そしてもう1人、笑顔を向けるかけがえのない女性。
達は大粒の涙を流し叫んだ。
(・・・っ・・・ハナぁぁぁぁあ!!!!!!)
すると同時に、だんだんと光の柱が細くなっていく。
幸十と達は上へ流れていく記憶とは逆の地上に降りていき、光がほぼ無くなるタイミングで地上に降りた。
2人は手を繋いだまま地上に座り込むと、達は暫くそのまま動かず幸十の手を掴んでいた。幸十も何も言わず、そんな達をじっと見つめる。
暫くして、達がポツリと話し始めた。
「・・・俺は・・・生きてて・・・いいの・・・かな・・・」
話していると、夕貴やシャムス軍、ココロたちが駆けつけた。しかし、達は周囲など気にせず続けた。
「・・・沢山・・・選択を間違えて・・・沢山の人に迷惑かけて・・・・・・大切な人を巻き込んで・・・死なせて・・・」
下を向く達は大粒の涙を流し、答えのない問いに、今まで溜めていたものを吐き出すかのように言った。
「俺は・・・俺は・・・こんな俺が憎くて・・・憎くて・・・仕方ない!!!!死なないといけないのは俺だろ!!!!!生きる価値もない俺は・・・!!!」
うずくまり身体を固くする達に、誰もがどう話しかけていいのかわからずにその場に立ち尽くす。
辺りはシンと静まり返るも、それを破ったのは幸十だった。
「・・・なんで?」
幸十の問いに、達が顔を上げると表情を変えず淡々と言った。
「おじさん、生きてるじゃん。」
「え・・・・」
「なら、生きればいいんじゃない?それ以外に、何が必要なの?」
そう言い放つ幸十に、言葉のでない達。当たり前のことを言う幸十の何気ない言葉は、どこか達の不意をついた。
"パラ・・・"
すると達のボロボロなピエロ服の懐から、何やら髪束と一枚の写し絵が落ちた。色褪せ茶色くなっている写し絵には、満面の笑みを浮かべる女の子が写っていた。その写し絵を幸十は拾うと、何やらじっと見つめ始めた。
「おじさんが探してるの・・・この子?」
達はいつの間にか落ちていたコハルの写し絵を大事そうに触ると、自分の心臓に当てた。
「・・・そうだよ。俺の・・・」
言い淀みながらも、瞳を閉じて達は続けた。
「俺の・・・俺たちの大事な宝だ。」
切実に言う達に、幸十は暫く考えると再び口を開いた。
「・・・まだ生きてる。」
「・・・え?」
「その子、生きてるよ。」
その言葉に驚き、周囲にいたシャムス軍たちが話に入ろうとして夕貴が止めた。
「生きてるって・・・なんで・・・」
「俺、その子知ってるよ。」
「え・・・なんで・・・君が・・・」
混乱する達に、幸十は続けた。
「ちょっと前まで東塔にいたんだけど、俺が狼たちに鞭で撃たれて動けなくなった時、こっそり薬を塗ってくれたんだ。でもバレたらその子も罰を受けるから、塗ったらすぐ離れてっちゃったけど。ピンク色の髪の毛だったかな。」
”ガシッ!!!!”
その言葉に、達は残った片手で幸十の腕をガシッと掴んだ。
「そ・・・そうだ!コハルはハナに似てピンク色の髪なんだ。肩ぐらいまであって・・・」
達は懇願するように、幸十にコハルの特徴を話した。
「多分、その子ならまだ大丈夫だと思う。」
「・・・・っ!」
その言葉に、どことなく安堵し幸十の膝に項垂れる達。そんな達に幸十は続けた。
「そんなに会いたいなら、乖理のついでに連れてきてあげるよ。乖理とまた会うって約束したのに、あそこって何処だったのか分からなくて・・・探さないとなんだけどね。」
「え・・・」
達は初めてだった。
コハルのことについて、誰かに情報を求めても、返ってくるのは無言か、あるいは当惑の声ばかり。それはまるで、一生出ることの出来ない迷宮に迷い込んだような、無力感に苛まれていた。
しかし幸十の言葉は、まるで迷宮の出口を示す道標のように、達の心を照らした。
「き・・・君が・・・連れてきて・・・くれるのか?コハルを・・・助けて・・・くれるのか?」
腕を強く掴む達に、幸十は悩む素振りもなく頷くと言った。
「いいよ。その代わり・・・生きててよね、おじさん。」
幸十の言葉に、無意識に再び涙がこぼれ落ちる達。
しかし今流す涙は、希望に満ちた温かい涙だ。
「・・・東塔にいた頃、みんなオカアサンとかオトウサンに会いたいって泣いてた。乖理がそれはカゾクだって、みんなカゾクに会いたいって言ってた。俺は、カゾクが何か知らないけど・・・今回おじさんたち見てて少し分かった気がする。」
そして、幸十は達を真っ直ぐ見て続けた。
「家族って温かいね。」
幸十の言葉は、達の心にそっと降り積もり、凍りついた心を溶かしていく。
「うん。太陽城で見た太陽なんかよりも、ずっと温かくて輝いてるよ。」
そう言い放つ幸十に、達はただただ涙をながすしかなかった。
「だから生きて待っててよ。きっとおじさんが探してる子も、その温かい場所に帰りたいだろうから。」
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『いたくん!!早く遊ぼうよ!!いたくんいないとつまんない!!!』
『やだやだやだ!!いたくんにおんぶしてもらう!!!』
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笑顔でかけてくるコハルを思い出す達は、幸十の手を優しく、残った左手で包むと頭を深く深く下げた。
「・・・あ・・・ありがとう・・・ありがとう・・・ありがとう・・・・!幸十くん!!!」
ただただそう言って涙を流し続ける達に、夕貴も目元を少し擦ると、そんな達と幸十の近くへ歩いていく。
"ガバッ!!!"
すると、夕貴は泣いている達を幸十ごと抱きしめた。
「全く!あんたはどこまで泣き虫なんだい!?年下のガキに励まされて!!いつまでも子供なんだから!」
そう言う夕貴に、達は夕貴の方を向いた。
「夕くん・・・ごめん・・・ごめんね・・・いっぱい酷いことして・・・・」
夕貴は、地面に落ちていた髪束を拾うと達に渡した。
「ほら。これ。」
「あ・・・いつの間に落ちて・・・」
「まだ持ってたのかい?」
その言葉に、達は久々に屈託のない笑顔を夕貴に向けた。
「夕くんだって。」
2人とも瞳からは嬉し涙が流れていた。
「幸十!!」
”ガシッ!!!”
ココロたちも幸十に近づき、一斉に幸十を抱きしめる。
「全く!!どうなってるのか分からないことだらけだけど・・・生きてるのがおかしいくらいだよ本当・・・」
いくら心臓があっても足りないという表情のココロ。
「サチ!!あんさんあれ何や!あのパーと光るやつ!!どうやったんや!!」
「さっちゃぁぁぁぁあん!!無事でよがっだよーー!!」
3人はそれぞれ生きていることを確認するかのように、幸十を中心として固く抱きしめあったが、幸十はとくに表情を変えず、なすがままにされながら言った。
「うん。よかったね。」
そんな一安心する幸十たちに、空中からの視線が突き刺さる。
(”あのガキ・・・・非愁位の罰をどうやって・・・!!!”)
月族の朱里は幸十に異様な目を向けた。
幸十の放った光により、非愁位の罰を逃れた達。
「”・・・ちょっと待て。あの子供の容姿・・・。オルカ様が探していた子供の特徴とそっくりじゃないか?!”」
「”・・・っな!!”」
「”確かに!!!”」
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『朱里!検体集めと一緒に、3番の検体を探して!!』
『”あいよっ!右肩に3の刻印があると思うが、それ以外に特徴あるか?いく分古くて・・・覚えてねぇっすわ。”』
『——あぁ、オレンジの髪色だったかな?』
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(・・・夕貴が居るのが厄介ね・・・一旦ここはオルカ様に報告を・・・)
朱里はその場を去ろうとしたが——
「第六血響、炎輪火瓶斬!!!」
逃すものかと、猛が炎の輪を投げ、朱理の首に嵌め込んだ。
「”・・・っく!!ちょっと!!”」
「”なんだこれ!!!取れねぇ!!!”」
「逃すわけないだろう!!」
夕貴は目を光らせると、武器を構えた。
「第二血響、水柳乱舞!!!」
追い討ちをかけようとするも、朱里は咄嗟に黒い霧で防ぎ、猛の攻撃も弾き返した。首を塞がれ息切切れになりながら、朱里は言った。
「”ふざけんじゃないわよ!!私たちにこんなことただで済むと思ってるの!!!”」
「”クソが!!!ただじゃ済ませね・・・”」
すると朱里は何か思いついたように、身体中に蔓延る口が一斉に口角を上げニヤッと笑い始めた。
「”あは・・・・あははは。おいおいおい天才かよ、いいこと思いついた!!!!”」
「?」
夕貴達が怪訝そうに視線を向けていると、身体中に付いた口が一斉にしゃべり始めた。
「「「「「”シャムスに眠るマダムども!!!!今すぐ飛び立て!!!目指すは首都シャムス!!!!再びこの地に悪夢を再来させるのだ!!!”」」」」」
その言葉に、一同目を見開いた。
そして・・・
”キィィィィイインッ!!!!!!”
「な・・・なんだこの量・・・!!!」
「ひぃ!!!え!!やだ!!もう無理!!」
「これは・・・」
朱里の言葉と共に、どこに隠れていたのか、空中に大量のマダムたちが現れた。
——その数は数十どころではない。数百・・・いや数千だろうか。
どんよりとしたシャムスの空を覆いつくさんとばかりだ。
途方もない数のマダムたちが現れたかと思うと、一斉に物凄い勢いで首都のある方へ向き飛び出した。
夕貴はその光景に朱里を睨み叫ぶ。
「貴様ーーー!!!!」
「”あははは、なんだっけ、昔起きた・・・ぁあ、そうだ。シャムスの大空襲?だっけ?あははは。”」
「”ぎゃはははは!!!再来、悪夢の再来だあ!!!存分に苦しめよ!!!馬鹿どもが!!!!”」
その言葉に、夕貴やシャムス軍、達は怒りをあらわにした。
「第二血響、水柳乱舞!!!」
夕貴は怒りのあまり、朱里に攻撃するも朱里は避ける。
「”ほらほら、私を相手してたら首都が壊滅状態になっちゃうわよ?じゃあ、またね。シャムスの太陽さん”。」
「”バイバーイ!!!”」
「な!!!待て!!」
そう言い残し、朱理は黒い霧と共に忽然と消えた。
「姉貴!!やばいです!今首都には・・・!!」
「ぁあ、主要なセカンドが揃ってない・・・あたしも副隊長のあんたもこっちにいるんだ。首都まで頑張っても半日はかかる・・・。しかしあのマダムの脅威的なスピード・・・数時間で首都に着くだろう。・・・くそっ!!とりあえず、急いで輝に無線入れて!!あと、出来る限り、首都の周辺にいる隊員たちに戻るように伝えなさい。私も急いで戻る。どこまで間に合うかわからないが・・・。あとはここ任せるわよ、猛!!!」
「え・・・あ・・でも姉貴、姉貴もあんまりセカンドの力が残ってないんじゃ・・・」
「そんなこと言ってたら、軍隊長なんか務まらないわよ!!!」
夕貴が急いで首都に向かおうとした時――
"ザザッ・・・"
「??」
ココロの無線が何かに反応した。ココロは太陽のブローチを掴むと、行こうとした夕貴に咄嗟に叫んだ。
「ま・・・・待ってください!!」
ーー次回ーー
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