王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第44話
第44話 選ばれし者
ーー前回ーー
ーーーーーー
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
「・・・?!琥樹!!?」
奥から琥樹の叫び声が周囲に響き渡る。
驚いたココロたちが急いで向かうと、琥樹が何やら空中を指していた。
「琥樹?!何が・・・・・っ?!!」
琥樹の指差す方には、何やら黒い霧の塊に縛られ空中に連れ去られていく那智と榛名がいた。
「な、なんやあれ?!」
(今度は何なんだ・・・・・)
立て続けに事態が急変していくことに、ココロは疲労感を滲ませながらも、怖がる子供たちを落ち着かせ、空に浮かぶ那智と榛名を見た。
(黒い霧・・・フィジー村でマダムが大量発生する前にも見たな・・・あの時より濃いはっきりした色・・・・セカンドの力か?それならどの系統だ?)
思考を巡らせるも、今までの経験・知識で説明できるようなものではなく、何一つ検討のつかないココロ。
「・・・とりあえず、夕貴軍隊長と合流しましょう。何が起きているのかわかりませんが、俺たちだけで対処できるような事態では・・・」
ココロが提言するも、奥で震え始める人たちが・・・・
"ブルブルブル・・・・"
「み・・・みみみみんな・・・聞いたか・・・お・・・おおおお俺たちが音信不通だったもんだから・・・あ・・・・あああああ夕貴がここに・・・・っぐぁ!!」
「副隊長!!!」
今にも気絶しそうなシャムス軍副隊長の猛。シャムス軍隊員たちも、顔を真っ青にして今にも倒れそうな猛を支えている。
「え、何してんのこれ。」
ココロが怪訝そうに、怯えるシャムス軍を横目に洋一に聞く。
「ようわからん。とりあえず、あの夕貴の事が怖いっぽいな。ははっ。さっきのマダムに囲まれてた時より深刻そうや。」
「と・・・とととりあえず・・・み・・・みみみ見つからない内にパパッと解決して、夕貴に見つからない内に・・・うっ・・・胸が・・・・」
「副隊長!!」
「今にも死にそうやな。」
すると・・・
"ザッ・・・"
「私がなんだって?」
「だ・・・・だだだだだから・・・夕貴に会う前に逃げ・・・」
「・・・・・・・・」
「逃げるのは結構だが、その後は覚悟できてんだろうね?」
「・・・・・・・・」
少しの間があった後、みるみる顔を真っ青にさせていくシャムス軍。
「あ・・・・あああああ夕貴ーーーーーーー!!!!」
いつのまにか目の前に現れたシャムス軍軍隊長の夕貴に、一斉に逃げようとする隊員たち。
"ガシッ"
"ズシッ"
"バシッ"
"ズシャッ"
しかし夕貴は、子供を相手にするかのように逃げようとするシャムス軍たちを足を器用に使って仕留めた。
その後は見事に縛り上げられ、夕貴の前に正座させられるシャムス軍たち。全裸ということもあり、なんとも滑稽だ。
「全く、可愛い可愛い馬鹿なあんたたちを心配して来てやったんだ。ぇえ?感謝するところでしょ?この私が!直々に!迎えにきてやったんだから・・・ねぇ?猛?」
「ひ・・・ひゃい、夕貴!ありがとうございます!!!」
「あ・・・夕貴は最高っす!!」
「ありがとうございます!夕貴!!」
シャムス軍たちが感謝を述べるも・・・・
「声が小さい!!!!!」
「ひゃい!!!ありがとうございます!!夕貴!!最高です!!!」
「なんや哀れに見えて来たわ。」
「しっ!!余計なこと言うな!!」
洋一の言葉に、巻き込まれたくないココロが止めに入る。
すると、グインっと夕貴が首を回してココロたちに視線を向けた。
”ビクッ!!”
あまりの迫力に、固まる2人。
夕貴はそんな2人の前まで来ると、肩に担いでいたものを目の前に落とした。
"ぼとっ"
「ほら、落ちてたわよ。」
「幸十!!!」
達との一件後、ボロボロにやられた幸十は、幸いにも夕貴に拾われここまで来た。
ココロは幸十の痛々しい姿に眉を歪ませるも、夕貴と合流していたと知って安堵した。
「サチ!!大丈夫か?!?あんさん、さらに傷だらけにやってるやん!!!」
そして・・・
"ガシッ!!"
「??」
何かが物凄い勢いで幸十にしがみつく。
「さっちゃぁぁぁぁぁぁあん!!痛かったよーーー!!」
共にボロボロな琥樹が、幸十に抱きついて泣き始めた。
そんな琥樹に、幸十は動けない体をなすがままに口だけ動かす。
「・・・琥樹、服着てない。暑いの?」
「んな訳ないでしょ!!寒いよ!寒すぎて死にそうだよ!!今度からコウモリの翼に防寒機能も付けといてよ!!!隊服とられちゃったんだよ!!」
"ぐぅぅぅぅぅぅう・・・"
そんな琥樹の泣き声を遮るように、幸十のお腹がなった。
「・・・さっちゃん、相変わらずだね・・・。」
「沢山動いたから、お腹すいたみたい。」
そんな幸十たちの隣で、夕貴はシャムス軍隊員たちに依然として冷たい視線を送っていた。
「なんだい、お前たちは任務を中々終わらせないだけじゃなく、全裸になって変態にでも目覚めたのかい。」
「ち・・・違いますよ!!き・・・気づいたらこんな状態で・・・」
すると、夕貴は少し先にある太陽の泉と隊員たちを交互に見た。
「・・・で、みんな仲良く太陽の泉で寝ていたと?」
「すみませんでした!!!!」
怒りが中々収まらない夕貴に、シャムス軍たちが必死に土下座をしていると・・・
「・・・夕貴の姉ちゃん?」
ふと子供たちの声が聞こえ、夕貴は勢いよく振り返ると、ココロの周りに子供たちがいた。子供たちは、ココロの配慮でコウモリの翼をかぶっているため、視界が見えてない状態だ。
「あら、」
すると、夕貴はもう一つ抱えていたものをシャムス軍たちに投げた。
「早く着な!!!その汚い姿を子供たちに見せたらただじゃおかないよ!!」
投げ捨てられたのはシャムス軍隊員たちの隊服だった。夕貴がここに来るまでの途中で、落ちていたようだ。
シャムス軍たちは嬉しそうに受け取ると、急いで着はじめる。その中には紫紺の隊服も混ざっており、洋一と琥樹も飛びつき、隊服に腕を通した。
「あ、あたたかい・・・」
「隊服・・・窮屈な時もあるけど、こんなに嬉しいのは初めて・・・。」
涙を浮かべている隊員たちをよそに、夕貴はコウモリの翼を被っている子供たちに近づいた。
子供たちに視線を合わせるため膝をつくと、コウモリの翼をとった。
"バッ!"
「ばあ!」
「夕貴の姉ちゃん!!!」
夕貴の顔を見るや否や、みんな夕貴の胸に飛び込む。
そんな子供たちを優しく抱きしめる夕貴。
「よしよし、みんな怖かったね。よく頑張ったね。」
夕貴の顔を見て安心したのか、泣き出す子もいた。
夕貴が優しく撫でていると、1人の男の子が得意げに言った。
「姉ちゃん!!俺、マダムやっつけたんだよ!!」
「お前がかい?」
「うん!!たくさんたっくさーーん、雪だるま作ってね、パクって!」
「すみません軍隊長。どうしようもない場面があって、子供たちの力を借りました。」
ココロが夕貴の顔色を伺いながら謝るも、怒るでもなく、夕貴はニッと笑って子供たちの頭を力強く撫で始めた。
「そうか・・・そうか!皆んながこのシャムスを守ったんだね、えらい!!お前たちの胸には、もう立派な太陽がはめ込まれてるよ。」
子供たちの胸を指す夕貴。その言葉に、嬉しそうにする子供たち。そんな夕貴の姿に、シャムス軍隊員たちは遠い目で言った。
「・・・・俺たちも、あれぐらい優しくしてもらいたい。」
「おい、何か言ったかい?」
「なんでもないっす!」
皆が合流し、各々一安心するが・・・
しかしまだ全て解決したわけではない――
”シュゥゥゥゥゥゥウウウウウウ・・・・”
「!」
"シュンッ!"
夕貴は何かに気付き、急いで子供たちを背後にやると――
「セカンド水の解放!!!」
首にかかった細長い水晶を手に握り、武器を取り出すと攻撃を開始した。
「第六血響 海嘯斬!!」
子供たちに向かって来ていた黒い霧の塊を大きな波で跳ね返す。
ここにいた誰もが気づかなかったが、さすがセカンド最強の称号、天神であり、シャムスの女王と呼ばれる軍隊長でもある。
「おい、あんたたち!ぼさっとせず、隊服来たんなら子供たちを安全な場所に避難させな!!」
「は、はい!!」
隊服に身を包んだシャムス軍の隊員3人は、子供たちを保護し少し離れた先に向かった。
「夕貴、あれは・・・・」
夕貴の隣にきた猛は、夕貴の視線の先、空中を見た。
「なんや・・・あれ?」
洋一たちも空に浮かぶ、黒いモヤの塊に目を向けた。その黒いモヤがある程度、地上にいる夕貴たちに近づいてくると、夕貴は眉間に皺をよせた。
「っ!!!・・・全く・・・・。あんたが今回の騒動の首謀者かい?」
そこには、イタルアサーカス団の団員、アカリがいた。両隣にはペポとラビが空中に浮かび、アカリを中心として濃い黒い霧が充満している。その中に、那智・榛名・風季・達の4人が黒い霧に気絶した状態で縛られていた。
「夕貴!達たちが!!」
猛が気絶している達たちを指差すも、夕貴はアカリに鋭い瞳を向けた。
「”なぁ・・・早く子供渡せよ!!!!”」
「!?」
やっと口を開いたアカリから声が発せられたかと思うと、その声は中年男性の声だった。
アカリはいつもフードを被っており、全身を見たことがある者はいなかったが、フードから少し見えるまつ毛の長い瞳と緑色の長い髪を見る限り、少女のような様相だった。
予想外の声色に驚く一同。
「”ちょっと・・・!あんたでしゃばるんじゃないわよ!”」
「え」
すると今度は、アカリから女性の声が発せられた。
「”なんだよ!早くしろよ!オルカ様からのノルマ、達成してねぇぞ!!”」
「”ほらほら、喧嘩しないで・・・太陽族の人たちが驚いてますよ。”」
アカリのフード内から、次から次へと様々な人々の声色が流れてくる。その異様な光景に、そこにいた誰もが理解できない状況だった。
「なんやあいつ・・・フードん中に複数おるんか?」
「いやでも・・・あの小さなフードの中に何人もいるわけ・・・」
洋一とココロも訳が分からず混乱していると、夕貴は関係ないと前に出た。
「アカリを迎え入れると聞いた時から違和感があったんだ。あんたは何者だい?!!プライマルじゃないだろう?セカンドか?!!」
どんよりとした雪雲が続く空に浮かぶアカリに、夕貴が問いかけると、アカリは突然笑い始めた。
「”アハハ・・・ハハ・・・アハハハハハ!!”」
「”ギャハハハハハハハハ!!!!!!”」
「”ガッハッハッハッハッハッハ!!!!!”」
「”グアッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!”」
「な・・・なんなんだ・・・」
アカリの不気味な笑い声が地に響く。その声は一人ではなく、複数人の笑い声が重なり大きくなっていく。
暫くしてアカリは笑い終えると・・・
"ズウゥゥゥゥゥゥゥゥウウウン!"
「!?」
「・・・っ!!な、なんだこれ・・・!?」
今度はアカリの冷たい視線が地上に降り注ぎ、一気に異様な威圧感を周囲に与えた。喉はピリつき、夕貴以外は立っているのがやっとな状態である。
そして、アカリは口を開いた。
「”セカンド・・・?ふざけんじゃねぇよ!!”」
「”そうだそうだ!!!”」
「”馬鹿にしないでくれる?そんな弱い分類と一緒にしないで。”」
本気で怒っているのか、フードから覗く瞳は血走っている。
夕貴はそんなアカリの様子に、話しても意味がないと武器を構えた。
「第四血響!!!水精の華!!」
”シュン!!!”
その瞬間、水でできた大きな花が一瞬の隙に上空に向かいアカリをとらえる。閉じ込めたかとおもったが・・・
"ジュワ!!!"
「!」
瞬く間に黒い霧が充満し、夕貴の攻撃を排除した。と同時に、アカリが被っていたマントが取れる。
”シュルン・・・”
その瞬間、そこにいた全員がアカリの様相に驚きを隠せなかった。
「なんだ・・・あれは・・・」
「身体中・・・口が・・・」
フードを脱いだアカリは、若い女性の様相だった。しかし、ノースリーブ型の衣服から見える腕や足、また首には大量の口がついていた。そして、口からは何やら黒い霧のようなものが吐き出ている。一方で、アカリの顔にあるはずの口はなく、何やら火傷した跡のようなものがあるのみであった。
それだけでも驚きだが、皆、アカリの右腕にある刻印にもさらに驚いた。
「どうして・・・あの刻印が・・・」
「月の・・・刻印・・・?!」
地上で驚く太陽族の人間たちにアカリは、身体中にある口を一斉に開いた。
「「「「”我々は月族の選ばれし者の1人、朱里。我々の崇拝なる力をセカンドなどと同様にするな。”」」」」
そこにいた誰もが、アカリ・・・いや朱里が放った言葉をすぐに理解できずにいた。
ーー次回ーー
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