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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第54話

第54話 よみがえる襲撃

ーー前回ーー

ーーーーーー




"ドォォォォォォン!!"





かがりはハッとし勢いよく振り返ると、城壁にいた隊員たちが第一血響を空に放っていた。その合図に、かがりは咄嗟に近くの見晴らしの良い高台に立ち、城壁の方へ目をやる。

!!?
城壁の少し先に、うじゃうじゃ動く黒い物体を確認し、それが大量のマダムたちだと気づいた。
想像以上の量に一瞬たじろぎ言葉を失うも、胸に掲げた太陽のブローチを握りしめて無線を繋げた。



”ギュッ!!!!”
全軍用ーーーーー意!!!!




かがりの叫びに、シャムス軍たちは武器を持ち立ち上がる。

「マダムの大群が出現!!!武器を持ちシャムスの民を守れ!!!!2度と以前のような惨事を起こすな!!今こそ我らシャムス軍のリベンジである!!!!胸に掲げた太陽の元、シャムスの光を守れ!!!!!!!!」


かがりの声が首都シャムス中に響き渡ると、シャムス軍たちは一斉に雄叫びを上げる。
ブラシカたちはマダムの大群が来たことを知ると、みるみる顔が真っ青になっていく。静かになった2人はそのままシャムスの傘に入り、再び住民たちの避難が始まった。するとかがりは再びブローチを口元に当てた。

「第一部隊!マダムとの距離は?!」
「"お、おおよそ5キロ!!想定到着時間15分!!"」

(・・・15分。)
無線からの応答に、厳しい表情をするかがり
背後で避難している住民たちを見ると、かがりは再びブローチを掴んだ。

「第一部隊!!氷の壁・・・を使う!!武器をしまい、城壁に手を当てなさい!!」

その指示に驚く隊員たち。
「"し、しかし!!私たちの力だけでは数分しか持ちません!!"」
「数分だけでもいい!まだ住民たちの避難が終わっていないの!!15分で避難を完了させるのは難しい。少しでも時間稼ぎをしたい!」
「"わ、わかりました!!準備します!!"」
「第二部隊!!住民はもう市内にいない?!」

今度は市内にいる隊員たちに声をかけるかがり
「"はい!全体見渡しましたが残っている者は見当たりません!"」
「よし、これから15分程度でマダムが襲撃してくる!悪いけど・・・こちらはまだ住民の避難が終わっていない。できるだけシャムス軍施設に寄り付かせないよう援護を頼みたい!!マダム討伐は、住民の避難が完了してからよ!!」
「"わ、分かりました!!"」

(・・・彼らにはまだ荷が重すぎるけど・・・私たちが皆を守らないと・・・!!)

続々と住民たちが避難していくも、同時にマダムが近づいてくる。すでに10分は経ち、マダムの大群は目の前だ。かがりも高台から目前に迫る大群をじっと見つめる。

「第一部隊」
かがりが無線に声をかける。すると、城壁にいるシャムス軍たちは手のひらを壁に当て始める。

(5・・・4・・・)

近づいてくるマダムをじっと見ながら、タイミングを測るかがり

(・・・・2・・・1・・・)



そして——



「今よ!!!!」

「「「「「「 第一血響けっきょう!!!!! 」」」」」」
その瞬間、シャムス軍たちが手を当てる壁が光りはじめると・・・


"ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!!!"


"キィィィィィイン!!"
大きな氷の壁・・・が首都上空を包み込むように現れ、首都全体を覆っていく。
あと少しで入ってこようとしたマダムたちは、不快な鳴き声を発し、氷の壁に行く道を阻まれた。
その光景に、シャムスの住民たちも圧巻に囚われ目を見開く。

「今のうちに早く!!!」
高台から降りてきたかがりが、足が止まっている住民たちを急かした。

(あと5分くらい・・・耐えられるか微妙なラインね・・・)


かがりは焦りながら周囲の状況に目をやる。
住民たちはシャムス軍たちの誘導に、足を急いだ。どんどん入っていき、あと十数人程度になった時・・・


「"かがりさん!!!"」

無線に隊員からの掛け声が響く。

「?どうし・・・・」
「"上!!上です!!"」

その瞬間——




"パリィィィンッ!!!"
"キィィィィィイン!!"





無数のマダムたちが、鋭い刃の形をした手を思いっきり"氷の壁"に打ち付け、割って入ってきた。

「きやぁぁぁぁあ!!」
「マ、マダムだ!!」
「は、早く!!早く入ってよ!!いやぁぁぁあ!!」

目の前に向かってくるマダムの姿に、避難が終わってない住民たちはパニックに陥る。

(一番防御が薄い上を狙ってくるとは・・・)
かがりは額に汗を滲ませると、懐にある短い棒を掴んだ。

「セカンド、水の解放!!!!」
短い棒は長く伸び、まるで水を含んだように澄んだ色になる。その棒を構えると・・・

「第三血響!壺水天地こすいてんち!!!!」
そこから水で作られた壺が現れた。そして、かがりがその壺を棒で叩くと・・・

"ブシャァァァァァア!!"
勢いよく水が上空に上がり、その水の勢いにマダムたちはことごとく飛ばされていく。しかし、数体のマダムがかがりの攻撃を避けこちらに近づいてくる。

「セカンド、火の解放!!」
「セカンド、風の解放!!」
「セカンド、雷の解放!!」
シャムス軍基地、"シャムスの傘"周辺に配置された隊員たちも続々と武器を手にすると、攻撃を始めた。
かがりも引き続き避難する住民たちに向かってくるマダムたちに攻撃をする。

"キィィィィィイン!!"
「ひっ、いやぁぁぁあ!!」
「第二血響、水華の切咲すいかのきりさき!!!」

かがりが、花びらのように舞う水の刃をマダムに放つと同時に、マダムに襲われ腰が抜けた住人を立ち上がらせる。

「早く!!」
残る住民は数人。
かがりが声をかけて走らせるも・・・

"ズシャ!!"
「!!」
老婆が倒れてしまった。その背後にマダムが襲いかかる。

「第四血響!!!水幻の輝ついげんのかがやき!!!!」

"ブアァァァァアアア!!"
かがりが放った水の塊が瞬く間に眩しく輝くと、その光と同時にマダムが倒れていく。
その隙に老婆の元に向かうかがり

「おばあちゃん!!立てる?!」
「ご・・・ごめんなさい・・・腰が・・・」

その言葉に、かがりは老婆を担ごうとすると・・・

"キィィィィィイン!!"
"ザシュ!!"
「・・・っぐ!!!!」

マダムがかがりたちを襲い、咄嗟に老婆を庇ったことで、マダムがかがりの太ももに刃を入れた。

かがりさん!!!」
「・・・・っ!!!!!」
他の隊員たちが向かおうとするも、大量のマダムたちに押さえ込まれる。
かがりは太ももから流れる血も関係ないと、唇を噛み締め立ち上がると、再び老婆を担ぎ、少し先の"シャムスの傘"を見た。



(1人も・・・1人も死なせるものですか!!!)



「おばあちゃん!!しっかり私に捕まって!!」
そう言うと、輝は刺されていない足に力を入れ、武器を持ち上げた。

「第三血響!壺水天地こすいてんち!!!!」

かがりは再び水で出来た壺をマダムに向けると、思いっきり叩き水を放出する。その衝撃にマダムが離れると、太ももから血を流しながらもかがりは老婆を背負ってシャムスの傘へ走る。

(あと・・・あと少し!!!!!)
残るは老婆のみ。かがりは追ってくるマダムを横目に走る。あと少しのところで、背後に迫ってきたマダムが再び切り掛かる。

"キィィィィィイン!!"

するとかがりは入り口付近にいる隊員たちに叫んだ。

「あなたたち!!!構えなさい!!!!!」
「え?」
するとおぶっていた老婆を掴み・・・

「おばあちゃん、ごめん!!」
"ブンッ!!"
「ひぇっ!!」
少し先、シャムスの傘入り口にいる隊員たちに向かって、老婆を投げ込んだ。なんとかキャッチし老婆をシャムスの傘へ避難させるのを見ると、瞬時にかがりはシャムスの傘入り口に駆け寄り、手すりを掴んだ。
そして、シャムスの傘内で不安そうにしている住民たちに叫ぶ。


今度こそ、みんなで生き残るわよ!!!!!
「か、かがりさん?!!」



"ドン!!!!!"
そう言ってかがりは、入り口のドアを精一杯の力で閉めた。
と同時に・・・

"ザシュ!!"
「うっ!!!!!」
"キィィィィィイン!!"

背後に迫って来ていたマダムたちに背中を切りつけられる。
しかし、かがりはすぐ体制を立て直すと・・・

「第二血響、水華の切咲すいかのきりさき!!!」

"キィィィィィイン!!"
かがりの水の刃にやられていくマダムたち。
その隙にかがりは、頑丈な入り口の前に立ち、鋭い瞳をマダムたちに向けた。

「ここから・・・ここから先・・・シャムスの輝かしい光に手出しはさせない!!!」  

決意を持った瞳で叫ぶかがり
しかし、目の前には大量のマダムが集まって来ていた。周囲に視線を移すも、次々と倒れていくシャムス軍たち。かがりは正気を失わないよう、必死に目の前のマダムを相手した。

(もう・・・もうあんな思いは・・・)

数年前の大空襲で、沢山の人が死んでいく姿を目にしたかがり。まだ新人で中々力を発揮できず、生まれ育ったシャムスが見るも無惨な姿へと変貌し、数えきれない人々が目の前で死んでいった。その中には、大切な仲間・友人、そして愛する両親も含まれていた。
その時を思い出し、唇を噛みしめる。

(だから・・・だからこの数年間、色々やってきたんじゃない。)
しかし大量のマダムに攻撃を避けきれず、ボロボロになっていく。

(私たちが・・・・)

"キンキン!!"

(私たちシャムス軍が・・・!!!)

================

『大丈夫よ、かがり。あんたは弱くない。胸にはめ込んだ太陽を忘れずに、いつでも立ち上がれる。そんなあんたは、立派なシャムス軍の一員さ。』

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"ドォォォォォォン!!"

「・・・っぐぁ!!」
マダムにシャムスの傘入り口に叩きつけられるかがり
人間の気配に敏感なマダムたちは、シャムスの傘内にいる大量の住民を目当てに、近くにいるかがりの方へ集中的に向かってくる。
打ちどころ悪く頭から血を流すも、微かな意識の中でかがりは胸にある太陽のブローチを強く握り、ふらふらしながら立ち上がった。

"ポタ・・・ポタ・・・・"

「・・・何度やられたって・・・」
今にも倒れそうな自身の身体を、武器をつかんで支えると、背後のシャムスの傘入り口に手をやった。

「ここから先は絶対に・・・絶対に行かせない!!!!第四・・・」
すると、群がるマダムたちが一斉にかがりに向かって攻撃をしようとした。
かがりは武器を持ち立ち向かうとしたが・・・・

"グラッ・・・"
「・・・っ!」
頭の打ちどころが悪かったのか、上手く立ち上がれない。

かがりさん!!!」
近くにいた隊員が呼びかけるも、周りの隊員たちも無数のマダムを相手に動けない状態だ。


”キィィィィイイン!!!”


(・・・軍・・・隊長・・・・)
目の前に迫りくる数百のマダムに、かがりは身体が動かず、ただただ呆然と見つめていた時——








”シュンッ!!!!”

セカンド、雷の解放・・・・第四血響、稲妻の裂空いなずまのせっくう

"ピカッ!!!!!!"



「!?」

瞬く間に、周囲が眩しいほどの光に包まれると・・・




"ドゴォォォォオン!!"
"キィィィィィイン!!!!!!!"




雷のような大きな電流が、どんよりと広がるシャムスの雪雲を貫き、かがりの目の前にいた大量のマダムたちに直撃する。
一瞬にして、マダムたちは黒い粉塵と化し、辺り一面を覆い尽くした。まるで黒い雪が降り積もったかのように、かつて生命があった形跡すら見当たらない。
あまりの強烈な一撃に、かがり含め周囲にいたシャムス軍たちが息をのんでその光景を見つめていると・・・





"トンッ"

黒い雪が積もる場所に、黒いマントを羽織った者・・・・・・・・・・・が降り立った。マントの下からは、紫紺の隊服・・・・・が見え隠れする。





「・・・っち、くそ不愉快だな。」


そこに降り立ったのは、1匹のコウモリ・・・・・・・だった。





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