王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第45話
第45話 生きた闇の饗宴
ーー前回ーー
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「「「「「我々は月族の選ばれし者の1人、朱里。私の崇拝なる力をセカンドなどと同様にするな。」」」」」
そこにいた誰もが、突如として現れた月族の存在に驚きを隠せずにいた。そんな中、ココロは少し前に坂上が言っていた言葉を思い出す。
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『このロストチャイルド現象に・・・月族が絡んでいる可能性があると、私は考えてます。』
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この場面に遭遇してなければ、ココロを含めた誰もが坂上の発言を信じなかっただろう。
いや、信じたくなかっただけかもしれない。
太古から続く月族との戦争。
五年前、参謀本部主導により血染めの戦場を鎮めた月族との協定。その脆い平和は、人々の心に安らぎをもたらした。誰もが、あの無数の犠牲を伴った戦場に再び足を踏み入れたくはないのだ。
だからこそ坂上の発言に、人々は再び心の奥底に潜んでいた恐怖を覚え、誰もが儚い平和が再び打ち砕かれることを恐れて耳を向けたがらなかった。
むしろ、批判さえ起きていた。
――しかし、実際目の前には月の刻印を右腕に持つ者が領地内に現れた。
(これは・・・・・)
ココロは緊張からか、カラカラに乾いた喉に唾を飲み込む。
(・・・坂上さんが言った通りかもしれない。)
坂上の発言を認めることは、つまり月族が太陽族に対し攻撃を開始したことを意味する。
”休戦が・・・終わる・・・?!!!!”
緊張状態が続く中、シャムス軍軍隊長の夕貴は一人変わらず淡々と朱里に声をかけた。
「——選ばれし者・・・?訳が分からないけど、一番分からないのは・・・どうして月族が我が太陽族領地にいるんだい?休戦協定では、コントロール不可能と言われたマダム以外は、お互いの領地や財産、人々への危害を加えないことが含まれていたはずだ!!なのに朱里は・・・・イタルアサーカス団に何をしたんだい?!!!!」
夕貴の問いかけに朱理は鼻で笑うと、右ひじと首の皮膚が裂け、そこから現れた深紅の肉塊のような口が不気味にも喋り始めた。
「”俺たちは、そいつらの望むことを助けてやっただけだぜ。”」
「”そうそう!逆に褒めてほしいくらいよ!”」
「・・・望むことだと?」
「”こいつらの子供を助けて欲しいって、馬鹿の一つ覚えのように縋り付いてくるから、助けて欲しいなら代わりの子供連れてきなって。そうしたら・・・のこのこ付いてきて、指示した通り一生懸命子供を攫ってきんたんだよ、馬鹿正直に・・・それがどうにも面白くてね。あはははっ!!!”」
「”本当に・・・滑稽ですねぇ!!ほほほほほほほほ!!”」
「こいつ!!!」
猛が怒り心頭で攻撃しようとするも、夕貴が止めた。
「夕貴!!」
「もう一つ。ロストチャイルド・・・最近太陽族で子供たちが失踪してるのは・・・月族の仕業かい?」
その問いに、朱里の体表が亀裂走った大地のように割れ、深紅の裂け目から這い出てきた無数の口が口角を一斉に上げ笑みを浮かべる。
「「「「”そうだとしたら・・・?”」」」」
「・・・もう充分だ。」
その瞬間、夕貴は構えた。
「第六血響 海嘯斬!!」
夕貴の武器から、大きく波うつ大量の水が空中の朱里を襲う。
しかし――
"グィッ!"
「!!」
朱里は達たちを自身の目の前に出し、盾にしようとした。
その様子に夕貴は咄嗟に気付き、攻撃を止める。
「・・・っ!!卑怯者!!自分では夕貴の攻撃を避けきれないからと!!!」
シャムス軍隊員たちが叫ぶも、左太ももに現れた口が反論した。
「”何を馬鹿なことを。こいつらはもう我々の駒だ。お前たちを裏切り子供を我々に渡した時点で、ここにこいつらの居場所などない。どう扱おうと、裏切られたお前たちに関係ないだろう?”」
すると――
「ぅう・・・」
気絶していた達が意識を取り戻し、目を開けた。
その様子に、何やら思いついた朱理。
「”あははは!!丁度いい!”」
「”グッドタイミンググッドモ~ニング~♪”」
「な!!こ、これはどうなって・・・!?!」
空中に浮かんでいることに気づいた達は混乱していた。
自身が黒い霧に掴まれていることに気づくと、隣にいた那智・榛名・風季を見て顔を真っ青にする。
辺りをキョロキョロと見渡すと、背後にいる朱里に達は叫んだ。
「は・・・話が違う!!」
「”・・・?何が?”」
「もし指定された人数、子供を連れて来れなかったとしても、俺だけを罰すると約束したじゃないか!!那智、榛名、風季は関係ない!!!!!!」
達の必死な抗議も、朱里は頭を捻った。
「”そうだったっけ?”」
「”んー・・・って言っても関係なくはないだろう?だって現に関わってるじゃねぇか。今まで子供を攫っていたのもお前たち4人が仲良く力を合わせて・・・・・・・ねぇ?”」
その瞬間――
"グサッ!!!"
「ぐぁッ!!!」
「ッ!!!!!」
「ガッ!!」
朱里は多数の口から吐き出した黒い霧を刃のように尖らせると、思いっきり那智・風季・榛名の心臓をぶっ刺した。
あまりの一瞬の出来事に、達や地上にいたシャムス軍やココロたちは理解が追いついてない状況だ。
刺された三人は、その衝撃で起きるも――
「い・・・いた・・・る・・・」
"ブシュッ!!"
血を周囲に飛ばしながら、刺した胸から三人の心臓が一気にくり抜かれた。
「あ、あ・・・ぁあ・・・・ぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
血飛沫が達の顔一面を濡らし、瞳は恐怖で大きく見開かれた。目の前で繰り広げられる光景は、まるで悪夢。三つの心臓が、まだ温かそうな鮮やかな赤色で、朱里の放つ黒い霧に串刺しにされていた。
「風季!!那智!!榛名ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
達の悲痛の叫びが周囲に響く。
そんな達の様子などお構いなしに、取り出した三人の心臓をまじまじと見つめる朱里。
「”うっわー、きったねー心臓。捨てようぜ。”」
「”あははは、びっくりして叫んでるよ!!・・・じゃあさ、ほら、下にいる奴らに攻撃しなさいよ。そうしたら、あんたの子供、まだ生かしてあげる”。」
涙を流し混乱する達に、更に追い討ちをかけるように朱里は冷たく言い放つ。しかし、目の前で起きた出来事を受け入れられずにいる達は朱里の言葉など到底耳に入ってこない状況だ。
そんな達に朱里は近づくと、左肩に現れた口が不気味に喋る。
「”・・・何渋ってんの?もしかしてこの状態で、あいつらに助けて貰おうなんて考えてんの?無理にきまってんでしょ?同族裏切って、子供攫っといて、今更助けてくださいなんて虫が良すぎ・・・・.”」
その時――
"ズゥゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥウン!"
「!!」
「第七血響 大海蛇の咆哮!!!!!!」
"ズシーーーーン!!"
朱里の目の前に突然、水を纏った大蛇が姿を現し飲み込もうとする。
急いで避けるも、いつのまにか朱里の背後にはコウモリの翼を羽織った夕貴が姿を現した。
そして・・・
"シュン!!"
「洋一!!」
「あいよ!!猛!!」
その隙にココロと洋一はコウモリの翼で心臓を切り抜かれた三人の元に行くと・・・
「第六血響 炎輪火瓶斬!!!」
地上から猛の炎の攻撃で、三人を縛っていた黒い霧を除去すると、ココロは風季と那智を、洋一は榛名を掴み、その場を離れた。
”ズシッ!”
「あかん!これ翼の重量制限超えてんで!!」
「翼を思いっきり広げてどうにかバランスとるんだ!!下に降りるくらいならいける!!!」
コウモリの翼の重量制限をゆうに越しているも、なんとかバランスをとって地上まで3人を運んだ洋一とココロ。
夕貴が朱里の相手をしている隙に、今度は達の方へいこうとするも・・・
"キィィィィィイン"
いつのまにか集まってきたマダムたちが地上のココロたちに向かって飛んでくる。
「うわ!!またマダム!!」
「なんやこんだけ頻繁に会うと愛着わいてくるな。」
「馬鹿なこと言ってないで・・・」
ココロたちが話していると・・・
「第八血響!!!暴雨の鉄槌!!」
"ザァァァァァァァア!!"
"キィィィィィイン!!!!"
「こ、これは・・・」
夕貴の一撃により、先程までいた大量のマダムが瞬く間に一斉に消えた。いや、消された。
かなりの威力に驚くココロたち。
朱里も夕貴の攻撃に唇を悔しそうに噛み締めていると、夕貴が目を光らせて言った。
「私の目の前で・・・・シャムスの人間に手を出すんじゃないよ。クソどもが。」
シャムスの女王は隠しきれない怒りで、氷結した深海の如く、彼女の瞳を冷たく光らせ、周囲の空気を切り裂いていた。
ーー次回ーー
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