王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第17話
第17話 シャムスの女王様
ーー前回ーー
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"ドドドドドドドっ!!!"
「くぉぉぉぉぉぉぉぉおおおらぁぁぁぁぁああ!!!!」
「うわ!!」
「ひぃっ!!」
「な、なんや?!!」
凄まじい地響きとともに、地方庁の開いた扉からこれまた凄まじい怒鳴り声が響いた。立派な地方庁の建物が、声量だけで壊れそうだ。
幸十たちも驚き、地響きで体制を崩したまま唖然とする。
「な・・・なに!?!やだ、またマダム?!?」
琥樹はぶるぶる震えながら、幸十にしがみつく。
「ひょえ~!雄叫び声でこんな地面揺らすて、誰や?」
洋一はあまりの驚きに、地方庁の少し開いた扉を凝視した。
「おい、なんか怒らせるようなことをしたのか?」
何やら風季が聞くも、達は少し考え困った表情をした。
「俺の記憶には・・・ないかな・・・ゴフォ・・・。ぁあ、今すぐにここから離れたい。」
すると、ゲインと呼ばれる小太りの男性が更にきつく達にしがみついた。
「だめです!!」
懇願するゲイン。離すものかと達から離れようとしない。
(どこも同じなのか・・・)
達にしがみつくゲインの光景が、ココロはどこか、坂上とバンのいつもの光景と重なって見えた。
「どうしてあんなに不機嫌そうなんだ?今にもシャムス全土が吹っ飛びそうな勢いじゃないか。」
勘弁してくれと言わんばかりの表情を浮かべてゲインに聞く達。
「そ・・それが・・・来客が・・・」
「来客?誰がシャムスに来るっていうんだ?」
「そ、それが・・・参謀本部中央庁の方々でして・・・」
「ーえ?」
ゲインの一言に、ココロや風季たちは驚きを隠せなかった。
達も、先程とは表情が打って変わった。
「中央庁が・・・直々にここに来ているのか?」
「は・・・はいぃ・・・」
達が驚いているとー
"ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!"
今度は地面を揺らしそうな大きな足音を立て、誰かがこちらに近づいてくる。
全員身構えているとー
"バン!!!"
大きな音と共に、地方庁の大きな扉が壊れるのではと思うほど、扉が勢いよく開いた。
そこには背の高い女性らしき人物が立っていた。
身長が180くらいはあるだろうか。
色素の薄い力強い瞳と、一つに縛った白いもこもこの長髪が特徴的である。その容姿は、どこか雪を彷彿とさせる様相だ。そして、琥樹たちが着ている隊服とは配色が異なる隊服を着ており、短いスカートから長い脚がスラっと伸びる。
コウモリ部隊の隊服は、濃い紫色を基調としたオレンジのラインとの組み合わせだが、その人物が着ている隊服は、水色を基調としたオレンジのラインとの組み合わせであった。
その隊服の上には、踝まである濃い青色のマントを羽織っている。マントの襟元はもこもこのファーが取り付けてあり、防寒効果がありそうだ。
この色の隊服を着れるのは、シャムス軍のみである。そして何より、太陽マークを掲げた濃い青色のマントを羽織れるのはシャムス軍の中でも軍隊長のみである。
「まさか・・・あの人が・・・」
ココロがボソッと呟いた時、その女性はキリッと力強い瞳を達の方に向けた。
「あ・・・」
咄嗟に視線をそらす達。
しかし、逃げる気配はない。気配はないというよりも、睨まれて動けないというのが正解かもしれない。
「シャムス軍の夕貴軍隊長だ!!!」
「わー!夕貴さーーーん!!」
「夕貴さーーん!今日も別嬪だよ!!」
「いつも綺麗だねーー!!!」
そこにいた街の人々が、その人物を見るや否や歓声をあげた。その歓声に、先程まで人を殺しそうなオーラを纏っていたその人物は、すぐさま微笑み街の人々に手を振る。
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。」
手を振りながらも、確実に達に近づいてくる。
顔は笑っている・・・のだが・・・
"ガシッ!!"
「うっ・・・」
達の首根っこを腕でホールドオンするとー
「お・か・え・り♡達庁長?」
”グググッ・・・”
にこやかな表情と裏腹に、達の肩に回した腕の力と、どこから出しているのかわからないドス黒い声は、なんとも言えない圧力を醸し出していた。
達は冷や汗を流しながら、夕貴の気を損ねない様に口を開いた。
「や・・・やぁ・・・夕くん。た・・・ただいま・・・。」
「いっっっっっっっっっやぁ~、待ちすぎて、待ちすぎて・・・もう少しでこの地方庁をぶっ壊しちゃうとこだったわよ。」
終始にこやかな表情ではあるものの、言葉と態度は裏腹であった。
"ギギギギ・・・・"
「あ・・・あんま・り・・首・・・しめない・・・でゴフォ・・・!!」
達が血を吐こうが何だろうが、関係なしと言わんばかりの態度だ。
洋一やココロは夕貴の迫力に圧倒されており、琥樹は怖すぎて震えながらペポとラビと一緒に幸十にしがみついていた。
「あの・・・もしや・・・あの人がシャムス軍の軍隊長・・・ですか?」
ケラケラ笑う那智の隣でため息をつく風季に、ココロが恐る恐る聞いた。
「・・・ぁあ。そうだ。」
「ははっ、すごいだろ?あの迫力。通称、シャムスの女王様って呼ばれてんだ。」
那智は他人事のように笑いながらココロに伝えると、ココロは太陽城を出発する際に坂上に言われたことを思い出した。
『少し・・・ほんの少し・・・癖のある方ではありますが・・・』
「いや・・・、全然少しじゃない気がする。坂上さん。」
愕然とするココロ。
すると地方庁の建物から、夕貴と同じく水色の隊服を着た隊員たちが慌てて夕貴に駆け寄ってきた。たぶんシャムス軍の隊員たちだろう。
「あ・・・姉貴!それ以上絞めたら、庁長本当に死んじゃいますって!」
2~3人の隊員たちが止めようとするも・・・
「あ?あんたら如きが私を止められるとでも思ってんの?ぇえ?」
「無理です!失礼しましたー!」
(はやっ?!?)
夕貴の迫力に、そそくさと下がる隊員たち。誰も助けられず、依然夕貴に首を絞められている達。
するとー
「おやおや。やっぱり、セカンドが野蛮な奴らの集まりというのは本当のようだな。特に、太陽族のお荷物であるシャムスは特に・・・。」
地方庁からまた誰か出てきたのかと思うと、どこか高そうな服に、胸元には幸十たちと同じように太陽のブローチをつけた男2人が出てきた。
「うわっ。」
その2人を見て、思わず嫌そうな顔をするココロ。
1人は、天然パーマのボリュームがある髪に面長な顔が特徴の青年。厚手の服を着て、完全防寒対策をしているようだ。
もう1人は、ねずみのような大きな出っ歯が特徴の青年。頬のそばかすに、細い目でジロジロと周りを舐めるように見渡す姿はあまりに好ましい印象を与えない。
二人がコートの下に着ていたのは、白にオレンジ色のラインが入った、琥樹たちと同じ隊服だった。
ーー次回ーー
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