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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第41話

第41話 邂逅の果て

ーー前回ーー

ーーーーーー



「ごめんよ。君に罪はないんだ。全て俺が悪いんだ・・・・・・・・。でも、俺たちのを取り戻すまでは・・・俺は・・・俺は何だってすることにしたんだ。」
気絶し聞いてるはずもない幸十に、いたるが弱々しく呟くと、緑色の玉を懐から取り出し、目の前にいる幸十にトドメをさそうとした。


「じゃあね。」


しかし――

"シュン!!"

「!?」
"ゾクッ!!"

いたるは一瞬で、背後にかなり大きな威圧と恐怖・・・・・・・・・・・を感じた。敵うはずがないと、諦めさせるような感情にひれ伏しそうになる。
そしていつの間にか、自身の首元によく知る武器・・・・・・が向けられていた。と同時に背後から、誰よりも聞き馴染みのある声が発せられた。



・・・何をしてる?いたる



そこには怪訝そうに眉を潜め、武器を向けるシャムス軍軍隊長の夕貴ゆうきがいた。
いたるは夕貴の姿に身体が硬直し、その場に立ち尽くす。無言を貫くいたるに、夕貴はもう一度聞いた。

いたるその物騒な玉・・・・・・持って、幸十この子に何してるんだい?・・・そもそも、お前は今日ここにいるはずではないだろう。・・・何があったんだい?」
「・・・・。」

沈黙が続く中、暫くすると雪が弱々しく降りだした。

「いた・・・・」
夕貴が再度呼びかけようとした時――
”シュン!!”

いたるは突然夕貴の方を向くと、幸十に向けようとしていた玉を夕貴に向けて飛ばした。いたるの額には大量の汗がつたう。
一瞬の出来事ではあったが、夕貴は軽くかわした。

「・・・っ!いたる!!!」
何度呼びかけようと、いたるは夕貴の言葉に返そうとせず、カラフルな玉を投げ始める。
夕貴はかわしながら、いたるの投げる玉を目で追った。

(この玉・・・ただの玉じゃないね。セカンドか何か・・・異様な力・・・・を感じる。当たって爆発するか・・・何か出てくるか・・・下手に触らない方が良さそうだ。)

すると夕貴は武器を構えると唱えた。

「第二血響 水柳乱舞すいりゅうらんぶ!」

すると大量の滝のような水が吹き出し、いたるが投げた玉を夕貴の周辺から流し落とす。と同時に、夕貴の攻撃の中で玉が消えていく。その光景に、夕貴は眉をひそめた。

「・・・いたる。これはセカンドの力のようだね。プライマルのお前が、どうしてセカンドの力を使えてるんだい?今更開花したとは到底思えない。しかも・・・私に攻撃してくるってことは、太陽の泉での事件にお前が絡んでるのかい?」
夕貴が再び問いかけるも、いたるは答えず攻撃を続けた。

"シュンシュン!!"
夕貴は武器を振り回し、飛んでくる玉を違う方向に飛ばしていく。
しかし――

"シュン!"
飛ばした玉が再び夕貴の方に飛んでくると、夕貴がかわすため武器を当てた。すると――

"パァァァアン!"
「!」
玉が爆発し黒い霧・・・が現れ、夕貴の右腕にまとわりつくと、かなりの力で絞め始めた。
その様子に、先程幸十が何やら黒いものにぐるぐる巻きにされていたのを思い出し、躊躇いもなく武器を自分自身に向ける・・・・・・・・

「第二血響 水柳乱舞すいりゅうらんぶ!!」
「!?」
自身の攻撃により勢いよく水をかぶる夕貴にいたるが目を見張っていると、夕貴は何事もなかったかのように、全身ずぶ濡れの状態で立っていた。

「まったく・・・手こずらせて・・・」
いたるは夕貴の行動に驚くも、夕貴の右腕を絞めていた黒い霧が無くなっているのを見て理解した。

(流石だな・・・夕くん。俺の黒い霧は掴んだり離したり出来ない。だから、わざと自分にセカンドの攻撃をして、腕にあった黒い霧をセカンドの力で洗い流したか・・・・)
いたるが考えていると、夕貴が再び口を開いた。

「・・・いたるコハル・・・のことかい?」
その言葉にいたるはピクッと反応すると、唇を噛み締め再び攻撃を始めた。

"シュン!パァァァアン!!"
「第五血響 深淵の牢獄しんえんのろうごく!!!」

夕貴は避けるため、武器を構えるといたるが投げてくる玉を水の塊のようなものに含んでいく。
「達ーー!!!!この力をどう使ってきたか知らないが、コハルを守るためだと言いたいのなら・・・・間違っている!!こんな風に、誰かから奪うために使うものではないと言っただろう!!!!!!」

その言葉にハッとし、いたるはとある日の思い出が脳裏によぎった。


==============

『・・・夕くん、僕はいつも夕くんに助けられてばかりだね。ごめんね。』
小さい頃のいたる。空き家に入り、食べ物を探していたら大人に横取りされ、夕貴共々酷く殴られた帰路。
いたるに至っては歩けず、夕貴におんぶされていた。

"ピンっ"
『いてっ!!』
夕貴がいたるの額に突然デコピンをした。

『何馬鹿なこと言ってんの。』
『だ・・・だって・・・さっきだって僕を守ろうと、僕を庇って僕の数倍は殴られちゃってたのに・・・』
『うっさいねぇ。私の方が身体が頑丈なんだ。当たり前だろう。』
『ぼ.・・・僕も・・・もっと強くなって、夕くん守れるようになる。』
涙を流しながら、おんぶする夕貴の肩を必死に掴むいたる

『無理に決まってんでしょ。私の方が数百倍あんたより強いんだから。無理無理。』
"ガーーーーン"
ばっさり切り捨てる夕貴。
容赦ない夕貴にいたるが落ち込んでいると、夕貴は暫くして口を開いた。

『・・・でも・・・今後成長して、お前が守りたいものができたら、私がお前を守った分、守ってあげな。』
『守りたいもの・・・僕は夕くん守りたい。』
『だから、数十年、数百年経っても無理だね。ってか弟に守られるほど、私弱くないから。』
『ふぇ・・・』
再び泣き出しそうになるいたる

『ほら。また泣く。』
しばらく鼻を啜っていると、いたるはおんぶする夕貴の横顔を覗き込みながら聞いた。

『夕くん。僕に・・・夕くん以外で守りたいものなんて出来るかな。』
『・・・出来るさ。大人になって、もっと広い世界みたら。私なんか放り出されちゃうかもね。』
『ぼ・・・僕、そんなこと絶対しないよ!!』
『本当かね~。』
ほっぺを膨らませ、不機嫌になるいたる
そんないたるに、夕貴は雪が積もる冷たい地面を歩きながら続けた。

『でもさ、達。もし何かしらの力を得て、守りたいものができたら、しっかり守る側・・・にいるんだよ。』
『守る側?』
『月族みたいな奪う側じゃなくて、弱くても私たちを守ろうとするシャムス軍みたいに・・・守る側で、ね。』
『シャムス軍みたいに?』
そう。弱っちくても、胸に光り輝く太陽はめ込んだシャムス軍やつらみたいに生きよう。いたる。誰かの太陽になれるように。

==============


いたるが以前、夕貴と会話した内容を思い出していると、その隙に夕貴は武器を構えた。

「第二血響 水柳乱舞すいりゅうらんぶ!!」
「っ!!」
いたるが気づいた時には遅かった。

"ブシャァァァァァア!!"
物凄い水の勢いにいたるは何もできず、その場に倒れ込む。

"コツコツコツコツ"
倒れ込んだいたるに、夕貴は容赦なく近づいていくと――

"グイッ!"
いたるの首根っこを掴み叫んだ。
「私は!!!!!お前にこんなことするために、シャムス軍にいるんじゃない!!!!!」

夕貴の勢いに圧倒されるも、いたるはすぐさま眉間に皺を寄せ夕貴を睨んだ。

「・・・夕くんには・・・強い夕くんには俺の気持ちなんて分からないんだ!!」
やっと話し出したいたるに耳をむける夕貴。

「守りたいものが・・・俺は守りたいものが出来たって、何にも・・・!!何にもできなかったんだ!!ハナの時なんか・・・俺は・・・俺は・・・ハナを・・・ハナを見殺しに・・・!!」
頭を抱え、降り積もる雪の地面に拳をぶつけるいたる
そのいたるの表情に、夕貴も顔を歪ませた。

「・・・・・」
「・・・コハルまで・・・また見てるだけなんて・・・そんなこと絶対・・・絶対!!絶対守るって・・・今度こそ・・・・!!そう誓ったのにまた・・・。本部に何百回掛け合ったって、夕くんたちが探してくれたって、コハルは一向に見つからないじゃないか!!!!!だから・・・」
いたる・・・お前まさか・・・」
「・・・そうだよ。ここ最近発生してたロストチャイルドは俺たち・・・俺がやったことだよ。」
いたる!!!」
「夕くんには!!!!!なんでも守れる夕くんには分からないよ!!!!何もできず失ってきたどうしようもない俺の気持ちなんて!!」
”グイッ!!!”
その言葉に、夕貴はいたるの襟ぐりを強く掴んだ。

「ふざけるな!!・・・私が全て守ってきた・・・守れたと思ってるのか・・・?これまで私のてのひらから何人がこぼれてったと思ってる!!シャムス軍の仲間たち、地方庁を代々収めてきたスニフ家、ハナ、そして・・・シャムスに住む民たち!!無数の人々を守れなかった!!!・・・でも!!だからこそ、残った命の光を失うことの無いよう、必死に戦ってきたんだ!!その命の光を・・・・誰よりも光り輝く太陽に憧れていたお前が!!その光を奪ってどうするんだ!!!・・・ハナが・・・コハルがそんなことをして嬉しいとでも思っているのか!!!!!自己満足にも程があるぞ、いたる!!」

夕貴の物凄い剣幕に、何も言えないいたる。息の上がっていた夕貴は、呼吸を整えると、掴んでいた襟ぐりを離した。

「・・・ここ・・・シャムスは・・・太陽神から見捨てられた土地と揶揄され、生きていくには過酷な環境だが・・・それでもここは、私たち2人で生き抜いてきた場所で、これからも生きていく居場所・・・じゃないか。それは、お前が攫ってきた子供たちも一緒だ。この土地で大切なものを守り奪われてきたが・・・無実の・・・力のない人間から奪っていいわけがない!!それこそ・・・太陽神に目を背けられる行為だ。」

その言葉に、いたるは顔を歪ませ下を向いた。
その時――

「ぅう・・・」
少し先で気絶していた幸十が息を吹き返した。夕貴は、呆然とするいたるにこれ以上攻撃する気力がないと判断し、幸十の方に足を運んだ。
先程まで黒い霧でぐるぐる巻きにされていたが、いたるが力を無くしたのか、幸十の身体から消えていた。

「おい。大丈夫かい。」
夕貴が幸十をかかえ、話しかけると・・・

"パチッ!!!"
黄色く輝く瞳を勢いよく開いた。あまりの勢いに一瞬驚く夕貴。

「え、あ、お、おはよう。」
「・・・・・・。」
驚き言葉が辿々しくなる夕貴をじっと見つめる幸十。

「・・・・・・・・身体が動かない。」
やっと出てきた言葉に、はたからみれば当たり前だろうと思うほどボロボロだ。

「そうだろうね。あんま動くんじゃないよ。身体中骨折れてるだろうし。内臓にブッ刺さってなきゃいいけど。」
さらっと怖いことを言う夕貴だが、幸十はなにやら夕貴の背後・・・・・に視線を集中させていた。

「ちょっと。オレンジ坊主、聞いてるのかい?」
話を聞いてなさそうな幸十に夕貴が聞くと、幸十はおもむろに夕貴の背後を指差す。

「?なんだい・・・・」
振り返った途端、夕貴は目を見開き武器を構えた。

いたる!!!」
いつのまにか、いたるより濃い黒い霧・・・・・・・に身体を掴まれ空中に引き上げられていた。

(あの力の気配、さっきのいたるのとは桁違い・・・他に誰かいたのか?!?)
「第四血響 水精の華すいせいのはな!!」
夕貴が円型に武器を振り回すと、大きな花形の水が現れ、いたるごと飲み込もうとするも――

"クニッ"
「な!?!」
まるで生きているかのように、夕貴の攻撃をかわした。先程のいたるの闇雲な攻撃とは全く違っていた。
そのまま空中に攫われていくいたる。遠くなっていくいたるの様子は、いつのまにか気絶したのか意識がないようだ。

――連れ去られる方角は、太陽の泉がある方角。
その様子に夕貴は舌打ちすると、寝っ転がっている幸十を肩に担いだ。

”ガシッ!”
「オレンジの坊主、太陽の泉にいくよ。」
「・・・なんか濡れてる。」
「我慢しな。」
「わかった。」

短く返事すると、夕貴は物凄いスピードでいたるが連れ去られる方角、太陽の泉を目指して走り出した。



ーー次回ーー

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