王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第19話
第19話 太陽の泉の所有権
ーー前回ーー
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「太陽の泉は、今立ち入り禁止だ。そして・・・これから参謀本部で管理し、参謀本部が認めた者たちしか入れないようになる。これは本部の決定事項だ!」
太陽本部から来た参謀本部学部庁のブラシカとロッタは、養生のためシャムス地方北端の太陽の泉に向かっていた幸十たちに言い放った。
「まだ決まった訳じゃないだろう!シャムスは同意しておりません!!太陽の泉は、シャムスで戦う我々セカンドやプライマルにとって、傷を癒す命の泉でもあります!!それを取り上げるなんて!!」
そこにいたシャムス軍の隊員が反論した。
「そんなの、シャムス軍が弱いのが根本的な問題でしょう?他の地域は太陽の泉などない中でやってるじゃないか。不公平だろう?」
「なにを・・・!?!?我々の土地は太陽が照らないんだ!!そんなハンデがあるのに何が不公平・・・」
シャムス軍の隊員たちが言い返そうとしたが、夕貴が手をあげ、反論する隊員たちを抑えた。
「あんたらね、何回言えば通じるんだい。そもそも、今太陽の泉はマダム発生地帯よ。かつ、子供が頻繁に消えてる場所でもあるの。これは、軍部にも報告済よ。だから立ち入り禁止にしているのに、プライマルのあんたらが管理・対処出来るとは到底思えないね。」
するとブラシカはニヤッと口角を上げた。
「ぇえ。知ってます。だからですよ。」
「は?」
夕貴が苛立ち、眉間に皺を寄せる。
そんな夕貴を嘲笑うかのように、ブラシカは続けた。
「貴重な太陽の泉が立ち入り禁止になって、もう3ヶ月も経ってます。なのに解決できてないのは何故でしょう?」
ブラシカは、夕貴やシャムス軍の隊員たちに勢いよく人差し指を向けた。
「ひとえに、シャムス軍の無能さからでしょう!!!」
「なんだと?!?!!」
ブラシカの言葉にくってかかろうとするシャムスの隊員たち。しかし、また夕貴が手をあげ、隊員たちを止めた。
そして、落ちていた太い枝をおもむろに掴むと・・・
”バキ!!ボキ!ガギッ!!”
片手で簡単に散り散りに握り潰し、次はお前たちだと言わんばかり視線を向ける。
「・・・で?参謀本部でどう解決するんだい?マダムを倒す力も持たないプライマルが。」
相当お怒りのようだ。その迫力に、ブラシカたちは思わず後退りする。
しかし夕貴は逃がさんと、どこかの壁が崩れたのか、今度は地面に落ちていた頑丈そうなレンガを掴むとー
"バキッッッッ!!!"
またもや軽々と片手で真っ二つに割り、驚くブラシカたちに近づいていく。
「今、シャムス軍の可愛い可愛い隊員たちが調査のために太陽の泉に行ってんのよ。このクソ忙しいときにねぇ??アンタらみたいに、ぬくぬく部屋の中で茶菓子食ってぺちゃくちゃしてる訳じゃないんでねぇ?!??ぇえ??」
顔を近づけ、圧強めに迫る夕貴。ブラシカとロッタは、あまりの迫力に震え始めていた。
そんなことお構いなしに迫り続けていると・・・
"トントン"
「軍隊長、やり過ぎです。」
いつのまにか、圧をかける夕貴の隣にシャムス軍の隊服を来た女性が立っていた。
眼鏡をかけ、体格は細く、肩まで伸びたサラサラな濃い紅色の髪を耳にかけて、夕貴の肩に手を置いた。
特に表情をかえずじっと夕貴を見つめていると、夕貴は舌打ちをして、諦めた様子で怯えるブラシカたちから離れた。
表情はあまり変わらず冷たい印象を持たせるが、その顔立ちはどこか異性を惹きつける綺麗なものであった。
ブラシカたちがそんな女性に見惚れていると、その視線に気づき、ブラシカたちの方に身体を向けた。
「あらかた事情を聞きました。」
奥には息を切らしたシャムス軍の隊員がおり、どうもこの女性を呼んできたようだ。女性は眼鏡の縁をくいっと上げた。
「隊長からお話があった通り、太陽の泉は現状危険地帯です。セカンド以外が向かうのは危ないため、いくら参謀本部の方々の決定でも、推奨しません。無理に向かえば、貴方方の命が危ないのですから。」
冷たい口調の中でも、どことなくブラシカたちの安全を思慮する言葉を挟む女性。
「ご・・・ごほん。ま、まぁ・・・そ、そうだな。」
チラチラとその女性を見ながら、ブラシカは咳払いをした。
「ですから、私たちに猶予期間を頂きたいです。」
「猶予期間?」
「ぇえ。2週間下さい。その間に解決できればこれまで通り、太陽の泉はシャムス地方の管轄で。できなければ、参謀本部の方々にお任せいたします。」
するとブラシカはニヤッと笑い、人差し指を立てた。
「いいでしょう。・・・ただし、猶予期間は1週間だ。それ以上は待てない。」
そう言い張るブラシカに女性が冷たい視線を向けていると、後ろから夕貴がガバッと出てきて言った。
「いいだろう、1週間!!受けて立とうじゃないか!!!!!!」
夕貴は楽しくなってきたと言わんばかりに、口角を上げ答えた。
いきなり前のめりに出てきた夕貴に、再び驚き縮こまるブラシカたちを見て、女性はため息をついていた。
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シャムス地方の首都、シャムス。
周りは豪雪地帯の一角にぽつんと煌びやかに佇む。
その一角だけ光輝き、遠くから見るとまるで宝箱に宝石が沢山詰まっているかのようだ。
シャムスから溢れる光により、周りの豪雪地帯の雪が照らされ、付近の雪は様々な色合いをなし、一層幻想的な光景を広げていた。
首都シャムスは滑らかな三角形のようになっている。
その三角形の頂には、太陽の印が記された立派な水色の旗が掲げられており、シャムス軍の拠点を表していた。
軍部に所属するシャムス軍は、4つの軍の内の一つであり、太陽族領土では珍しい豪雪地帯をまとめ上げる軍である。
その軍のトップ、シャムス軍の軍隊長 夕貴。
太陽族では4人しかいないと言われる、セカンド最強の称号 天神の1人でもある。
セカンドとしての強さもそうだが、破天荒な我の強さも相まって、シャムスの女王様とも言われている。
ーそんなシャムスの女王様は、ただ今絶賛不機嫌である。
"ブスッ"
「・・・はぁ。まったく。いくらムカつくとはいえ、参謀本部相手に喧嘩売らないでください。」
眼鏡をかけた女性が、不機嫌オーラをぷんぷんに醸し出す夕貴に臆せず口を開いた。
「輝、あんなクソどもに情けをかける必要なんてないのよ。一発ドカンと言ってやんないと分かんないのよ。」
「そのクソどもから食料の配給を受けて生活できてるんです。止められたら、シャムスの民は生きていけなくなります。」
輝と呼ばれる女性は、表情一つ変えず、書類を見ながら言い返す。輝の言葉に、夕貴はキョトンとした。
「何言ってんだい。アンタは馬鹿?」
「はい?」
「止められたら、本部に殴り込めばいいだけじゃない。参謀本部の上の奴らを半殺し程度にすればどうにかなるわよ。」
(この人やばい・・・・)
そんな夕貴の問題発言を、膝を突き座っているココロたちは内心冷や汗をかきながら、聞いてないふりを必死にしていた。
ここはシャムス軍拠点の軍隊長室。
白を基調とした建物の中はさらに温かく、首都に入るまでの寒さが嘘のようだ。
軍隊長室は十数人は入れるのではと思うほど広く、中央には大きな机と、太陽の彫り物が入った椅子があった。
そこに現在、夕貴がふてぶてしく座っている。
地方庁前でひと騒動あってから、これ以上喧嘩勃発しないよう、ブラシカたちを地方庁が預かり、シャムス軍の隊員たちはガンを飛ばす夕貴を引っ張って拠点まで帰ってきた。
幸十たちはというと、ココロが夕貴に用事があったため、シャムス軍の方に付いてきて現在に至る。
"コソッ"
「ねぇ、ココロさん、早く用事済ませて帰ろうよ・・・。ここやばいよ・・・」
夕貴と輝の押し問答の最中、琥樹は泣きべそをかきながらココロに小声で訴えかけた。
「なんでや、面白いことになっとるやないか。太陽の泉争奪戦を目の前で観戦できんやで?なんで帰るん。太陽の泉にも入らんと。」
すぐさま洋一も小さな声で言い返した。
「いやいや、これ巻き込まれたら面倒なだけだって!俺ら休息に来たのに・・・!今だって、なんで4人並んで軍隊長室で正座してるの!なんか罪人みたいじゃん!」
自席に座る夕貴の前に4人綺麗に並べられ、正座させられている幸十たち。琥樹の言う通り、縄などで縛られてはないが、何か処罰を言われるのを待つ罪人のようだ。
「ちょっと待って!坂上さんから託された手紙があるから、それだけは渡さないと・・・」
ココロがバックの中を探し始めた時ー
"ぐるるるる~~~ぎゅるるるる"
広い軍隊長室に思いっきり響く幸十のお腹の音。
あまりの音に、その部屋にいた誰もが幸十を見た。
"ぐぎゅるるるる"
当の本人である幸十は、特に恥ずかしがる訳でもなく、そのまま座っている。そんな幸十を見て、夕貴は輝との押し問答をやめ、思いっきり笑い始めた。
「あっははははははっ!!!すっごい音だね、あは、あははははっ!ここまでの音だと、清々しいわ!」
暫く腹を抱えて笑っていると、夕貴はやっとココロたちの方に体制を向けた。
ーー次回ーー
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