王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第14話
第14話 コウモリの食堂
――前回――
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その後、幸十は琥樹に手を引かれ、雲の宮殿内の寮に連れていかれた。
明日から太陽族領地北部、シャムス地方に向かうための準備と幸十の寮部屋の案内も兼ねてだった。
雲の宮殿の最上階には、コウモリの隊員たちが暮らす寮がある。
家族がいる者たちは、家に帰ることもあったが、大半はこの寮で寝泊まりすることが多かった。
下の階と同様、寮のある最上階もオレンジ・黄色・青のタイルで壁一面作られており、細く長い廊下の壁には木目調の扉がいくつもあった。
その奥の空いている一室が幸十の部屋としてあてがわれた。
部屋の中は質素で、パイプで作られたベットと机のみだった。奥にはステンドグラスで作られた窓があり、質素な部屋を少し煌びやかにしていた。
一通り寮を案内されると、琥樹にお腹は空かないかと言われ、そのまま食堂に向かった。
雲の宮殿地下。そこには、コウモリ部隊専用の食堂があった。
そんなに大きな場所ではないものの、長いテーブルが部屋の大半を占拠していた。約20名ほどが座れそうな大きさだ。
そして、部屋に入って右側には厨房があった。琥樹は、その静かな厨房に顔を出す。
「やっほー!まめじぃいる?」
幸十も琥樹の後に続き、ひょこっと顔を出した。
すると、厨房の奥から小さい何かが来た。
「あ!琥樹さん!早めのお食事ですか?」
背は幸十の腰あたりくらい、乖理と同じくらいの身長だろうか。
小さな瞳には、分厚く重そうな眼鏡をかけていた。
「あ、旬稲!」
旬稲と呼ばれる小さい人物は、短い脚で一生懸命走ってくる。
腰には白いエプロンをつけているところを見ると料理人のようだ。
「あれ?琥樹さん、その人は?」
「あ、新しく入った・・・あー・・仮入隊したさっちゃ・・・幸十だよ!」
幸十は何やら新しい生物を見るかのように、小さな旬稲をじっと見つめていた。
「あぁ、仮入隊・・・って、え?!仮入隊って何ですか?そんなのありましたっけ?」
一瞬受け止めかけた旬稲は、すぐに琥樹に聞き返す。しかし、琥樹は説明しようとするも面倒になったのかやめた。
「あー・・・とりあえずさ。さっちゃん、お腹空いてるから何か作ってほしいんだ。」
「え、まぁ、食材あるものでしたら、なんでもつくりますけど・・・」
旬稲は、どう受け止めたらいいか混乱しながら幸十を見た。
「さっちゃん、食べたいものある?」
聞かれた幸十は、少し考えた。
「食べれるものだったら何でもいいよ。草とか、土とか・・・」
「え?」
驚く旬稲に、琥樹は旬稲の肩を掴んだ。
「うん。なんでもいいから作って。本当に何でもいい。いっぱいね。」
「あ・・・え、ぇえ・・・。」
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ーーーーーーーーーーー数分後☀
”ドン!”
「・・・いやさ。そりゃなんでもいいって言ったけどさ。うん。本当。言ったけど・・・」
”ドドン!!”
大きな海老、鳥一匹丸焼き、数々の炒め物、数々のパン・・・(その他諸々)。
琥樹と幸十の目の前に、沢山の料理が並べられてた。
「ねぇ!こんなに食べれないでしょ!?どう考えても!!加減って分かる?!」
琥樹がヒステリック気味に言った。
そうなるのもわからないでもない。目の前の食事は軽く10人前くらいの量はありそうだ。
一方旬稲は、少し恥ずかしそうに頭をかく。
「えへへ・・・なんでもいいとおっしゃいましたので・・・料理人魂といいますか・・・そうしたらあれこれ料理のレシピがいっぱい浮かんだものですから・・・ありがとうございます。」
「いや何にも褒めてないけど?!」
琥樹はため息をつくと、隣でじっと料理を見つめる幸十を見た。
「さっちゃん。多分全部食べれないだろうけど・・・好きなもの食べていいよ。」
「・・・・・」
返答のない幸十。
「・・・さっちゃん?」
沈黙を続ける幸十に、琥樹が幸十の顔を覗き込むと―
”キラキラ”
「?!」
いつも無表情の幸十であるものの、何やら目の前の食事を見て目を輝かせていた。
「琥樹。」
「んん?!」
「これ、食べれるの?凄くいい匂い。」
「え、あ、うん。食べれるよ。うん。好きなだけ食べて。」
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ーーーーーーーーーーー数分後☀
”ガランっ”
「え・・・」
あっという間に、目の前の食事が消えた。
「うん。美味しい。」
「・・・っていや、うん、美味しいだろうけど・・・え、全部食べた!?ねぇ、嘘!うそでしょ?!」
旬稲が作った食事たちは、大きく膨らむ幸十のお腹の中だ。
「ちょ!?さっちゃん!?無理して食べなくていいんだよ!?ねぇ!吐き出していいんだよ!」
琥樹は、10人前はあった食事をペロッとたいらげた幸十の肩を掴み、大きく振る。そんな琥樹をよそに、旬稲は新たに食事を持ってきた。
「うわぁ!嬉しいです!ささ、まだまだありますよ!」
「いやもう持ってこなくていいから!」
”パクっ”
「いやもう食べちゃだめだよ!だめ!!!」
普通に食べ始める幸十を必死で止める琥樹。
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ーーーーーーーーーーー追加で数十分後☀
”カランっ”
結局旬稲が厨房の食材を使いきるまで作り続け、永遠と幸十は食べ続けた。
隣にいた琥樹はというと、なぜか疲れきっていた。
「いや・・・もう・・・俺がお腹いっぱい・・・気持ち悪い・・・。」
「大丈夫?医療室行く?」
「行かんわ!あんなところ!!!」
「いやー・・・幸十さん、凄いですね。」
旬稲は、何処か達成感のある満足気な表情で言った。お肌も先ほどよりつるつるしている。
「お前は厨房の食材使い切っちゃってどうするんだよ!!俺たちの食事は?!まめじぃに怒られても知らないからな!!」
「あ、琥樹さんに食事出してなかったですね。どうしようかな・・・。」
「俺はいらないよ!目の前であんなに食べられたら・・・こっちが胃もたれ起こしそうだわ!!」
げっそりとする琥樹とは反対に、お腹をパンパンに膨らませてどこか満足気味の幸十であった。
琥樹は机に顔を突っ伏していたが、ふと隣の幸十を見た。
「はぁ。・・・凄い食べるね。元からそんなに食べるの?」
「・・・どうだろう。分からない。今までこんなに食事を出してもらったことないから。」
すると、満足気味な旬稲はすっきりした顔で瞳をキラキラさせ、幸十を見た。
「すごいです。こんなに食べてくれるのは嬉しいです。雀さんや千鶴さんもかなり食べる方だと思ってましたが・・・規格外です。」
「いや、あの馬鹿二人組も規格外だけどね。もちろん。」
「誰?」
「コウモリ部隊のセカンドだよ。今は任務でいないけど、俺と一緒のセカンド。」
あまり良い顔せず、ぶすっと答える琥樹。
「琥樹はセカンドなんだね。」
「あ、言ってなかったっけ。俺はセカンドだよ。セカンドは分かる?」
「うん。物凄い強い人たちって聞いてる。」
その言葉に、琥樹は少し渋い顔をした。
「まぁ・・・人それぞれだよ、セカンドも。コウモリ部隊は二つの班に分かれてるんだ。戦術班とセカンド班。」
「戦術班?」
「戦術班はね、俺たちセカンドをサポートしてくれる存在だよ。みんなプライマルの中でも、特に頭がいいんだ。何か攻撃を受けた時とか、何かあった時、どういう風に攻めたらいいかとか・・・色々考えて指示を出してくれるんだ。俺らセカンドだけでは思いつかないこととかね。」
「そうなんだ。」
「戦術班は全部で6人。さっき部屋であった、バンさん・洋一さん・ココロさん・ミドリさんと、今任務中でいないけど後2人いるんだ。」
「俺もプライマルだ。」
幸十がいうと、琥樹は幸十の方を見た。
「さっちゃんプライマルか。やっぱりそっか。まぁ、一応後でバンさんから能力探知機で調査されると思うよ。」
「のうりょくたん・・・?」
「うん。その人にセカンドの力があるかを確認する機械だよ。身体の中に少しでも力を持っていれば、機械が反応するんだ。坂上さんが考案して、バンさんたちで作った優れものだよ。精度がとても高いんだ。」
「でも俺はプライマルだ。掃除が上手いプライマル。」
その言葉に、琥樹は少しクスっと笑った。
「さっちゃん、掃除が得意なの?」
「うん。掃除ばかりしてきたから。前いた所では、掃除の腕は一番だったと思う。」
何処か得意げにいう幸十。
「それではコウモリ部隊専属の掃除屋さんなんていかがですか?重要です。何せ、皆さんの部屋、驚くほど汚いじゃないですか。」
「旬稲。それはね、コウモリ部隊にとって、触れてはいけないパンドラの箱だよ。」
真面目な顔でいう琥樹。旬稲はため息をついた。
「んでね、もう一つの班がセカンドの班だよ。俺含めて4人。みんな大体は任務に追われていないことが多いんだけどね。」
「琥樹さんも、またどこか任務に行かれるんですか?」
旬稲が幸十が食べた空っぽの食器を片付けながら聞くと、琥樹は何やら顔をにやつかせた。
「ふっふっふ。それがね。次は任務じゃないんだな・・・」
「任務じゃないって?」
「太陽の泉に行くという名の休息だよ!!えへへ・・・へへっ。」
「琥樹。顔がすごいことになってる。」
幸十の言葉など気にせず、浮かれまくる琥樹。
「さっちゃん、シャムス地方はね。太陽族領地唯一の豪雪地帯なんだ。雪が沢山降っててね。寒いんだよ。」
「ゆき?」
「そう!白くて柔らかい!」
幸十は雪を見たことがなく、どのようなものかまったく想像できずにいると、そのまま浮かれた状態で琥樹は続けた。
「めっちゃ寒いけど!!それを癒やしてくれるのが太陽の泉なんだ!泉はね、さっちゃん、なめたらいけないよ!温かいお湯、温かいだけじゃなくて身体の全ての疲れや傷をスッと消し去ってくれるらしくて・・・とにかく最っっっ高なんだよ!!!」
目をギラギラさせる琥樹。しかし琥樹の語彙力ではいまいちピンとこない幸十であった。
「そうだ!さっちゃん!行く前に隊服!用意しないと!!明日だから急いで!!じゃね!旬稲!」
太陽の泉の話で元気が戻った琥樹は、お腹を膨らませた幸十の腕を引っ張りそのまま食堂を出た。
食堂には、カラの食器を満足気に洗う旬稲だけ残っていた。
ーー次回ーー
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