身体が資本。
「何なんだ、この男は」
私の隣の席で、レインボーカラーの男が、チューイングガムを噛み、ガムをフーセンのように膨らませていた。
「こう見えても、彼、家事は得意なのよ。調理師専門学校にも通ってたんだから」
不服そうな顔の父は黙って私達二人の前で苦虫を嚙み潰していた。
「彼の両親は彼が小学生の時に離婚して、それからは母子二人と年の離れた小学校の弟の三人で生活してたんだけどね、ダブルワークで働いてたお母様の代わりに、炊事洗濯掃除に弟の世話まで一人でやってきたのよ」
父はチューイングガムを膨らませながら、ソッポを向いている彼に向かって重い口を開いた。
「君はこの子の何処が好きなんだ?」
彼は私の肩に手を廻して言った。
「体―」
父はおもむろに立ち上がると、彼の頬を叩いた。
「何が体だーー!」
私は彼と父の間に割って入って、この騒動を
止めた。
「違うの!ちゃんと聞いて!お父さん」
「何を聞けって言うんだ。こいつはお前の体目当てでお前と付き合おうとしてるんだぞ。お前はこいつに騙されてるんだぞ」
「違う!彼はそんな人じゃない!」
「何処が違うんだ。言ってみろ。ちゃんと説明してみろ!」
父は彼の胸倉を掴んだ。
彼はその時、初めて父の顔を見た。
父の目には涙が一杯だった。