僕はおまえが、すきゾ!(14)
昨夜の妄想は、中々にヤバかった。今は取り立てて、恐ろしい幻聴妄想も収まったけど、ちゃんと服薬をせねば、また再発の危機だ。
診察室のドアを出ると、母さんが青い顔をして心配そうに、僕に言った。
「どうだったの?」と。
僕は母さんの心配をよそに、取り立てて悩んでもなく、あっけらかんと言った。
「暴力的な妄想幻聴が無ければ、別に大丈夫だって」
確かに昨夜の妄想には、暴力的なものは無かっ
たように思えた。しかし、その陰に隠れた狂気は
確かにあったように思う。僕の世界は、頭の中で
破綻していた。決して医師の言う様には安心出
来なかった。普段通りいつも通り、元の生活に戻
っていく事は、簡単なようで随分と難しいのだ
ろうと思えた。
まだ心配そうにしている母さんを見て、僕は大
丈夫だよ、と笑った。
大丈夫だ、危険なんかあるもんか、僕はそう自分
の心の中で何度も唱えた。
人間には、自制心がある。あんな風に騒ぎ立てた
のは、心を許せる家族がいたからだ。そんな事を
公共の場でやる事など絶対にしない、そう僕は
固い誓いのように、自分の中で宣言した。
自分でさえも知らない僕の一面がそこにはあった。僕は大丈夫だ、僕は正常なんだと言葉に出さず、何度も頭の中で呟いた。その考えは、自分のものではないように、僕の脳みそを緩やかに刺激した。
僕は死なないし、犯罪も起こさない、大丈夫だ、
大丈夫だ。僕は悪い妄想を息を殺して呑み込むように、しなびやかに頭の隅から不安を消し去った。
僕のこんな人生は、多分今日これからも、そして明日も明後日も、半年後も一年後も続くだろう。それを意識して、毎日を過ごそうと決めたじゃないか。その時も同じ事を思ったじゃないか。僕は母さんは一抹の不安を、,チビた消しゴムでは消せない400字原稿用紙の桝を埋める文字のように、所々を、霞が掛かり視界を塞いだ夜の運動場のように、感情はチグハグに僕の中を出入りした。