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上井一輝の大学part2

③上井一輝、音が聞こえなくなる

その時は、あまりにも唐突に訪れました。
大学2年の終わり頃だったと思います。

早朝、講義に遅れまいと急ぎに急いでいました。なんとか時間通りの電車に乗り、落ち着いてから気づく違和感。


全く音が聞こえない。


今日は車内アナウンスがない日なのかな?と思い、辺りを見回すと楽しげに話しているであろう学生が目に映ります。

あれ?口動いてんな。

俺の耳が聞こえなくなったのかな?と、この時はじめて自分を疑いました。
まさか自分がこういった状態になるとは思いませんでしたし、普通に暮らす事が夢だった私にとっては、奇想天外びっくり仰天の出来事でした。

自分の状態を電車内で悶々と考え、終着駅で結論に至ります。

「こりゃあ、ダメだ(笑)」

講義に出る際に、友人に事情を説明し、手書きなどで助けて貰います。

「耳聞こえなくなったから、病院行ってくるわ」

って言って、一限の講義が終わりすぐに行ったのか、翌日行ったのかは記憶が定かではありませんが、聞こえなくなっても、みんなが以前同様に接してくれたのは覚えています。

そして、病院へ行き、もうダメですと言われ(そんなに雑ではありませんでしたが)、補聴器の装具に関してや身体障害者手帳の申請に関して説明を受けます。

この時ばかりは、さっぱり説明が入ってきませんでした。補聴器をつける事、身体障害者手帳を持つ事に凄く抵抗感がありました。

普通でいられなくなることの恐怖感もありました。

補聴器をつけなくては生活もままならないので、すぐにつけることになりますが、手帳に関しては、なかなか申請できず、何ヶ月か経ってから申請に赴いたと記憶しています。

ただ、補聴器をつけ、音を聞き取る事ができた時は、とてつもなく嬉しかったです。
自分の喋る声が聞こえる。相手の話す声が聞こえる。このごく普通な事に感激を覚えたのは、後にも先にもこの時が一番でしょう。
ごく普通にできていた事がこんなにも尊いものなのかと、この時は感じました。

とはいえ、感音性難聴ですので、現状維持はあっても音量に関してや聞き取りに関して段々と悪くなっていくのが運命です。

身体障害者で音が聞こえないという特徴を永続的に持つことになるのです。

うーーーーーーーん!
ラッキー!!!!!!
最高の心友を手に入れた!

なんていう風には捉えられません。
もう、絶望に次ぐ絶望です。
考えてみてください、いつも何気なく空気を吸う事と同じようにしている会話が出来なくなり、自分の声すらも聞こえない。電話もできない。音声に関わる事全てが不自由になるんです。

元来、喋る事が大好きだった私ですらも(過剰表現ではありません。)、誰とも接したくないと、話したくないと思いました。今ですら、人と話すのに抵抗感があり勇気が必要です。
そんなそぶりが見えないようでしたら、私の人間性が素晴らしいからに違いありません(笑)

相手の言葉が聞き取れないので、会話のキャッチボールや間のコントロール、会話に合わせた語彙表現など全てが出来にくくなります。

現実を受け入れられなく、もう何処かへ行ってしまおうかとも思いました。

そんな絶望に次ぐ絶望に次ぐ絶望な状態にいた私ですが、今まで喋りに喋り倒して得てきた友人達がそんな私を助けてくれました。

特に、大学の面々です。

ボクサーになった友人は、何万回でも聞き取れるまで同じ事を言ってくれました。

私の実家を自分の家のように扱う2人の友人をはじめ、大学の心許せる友人は、馬鹿みたいに聴覚障害のことを弄って、笑いに変えようとしてくれていました。
私の立場になって、一生懸命考えてくれた末の対応だったと思います。当初は私のことを慮って、涙してくれたほどでした。

言われはじめは凹みそうになり、お互いに探り探りの状態でしたが、次第に慣れ、今ではブラックジョークにも程があるぶっ飛んだやりとりが出来ます。

これまで通りに普通に接するよというメッセージを行動で体現し続けてくれた友人達には感謝してもしきれません。
もちろん、言葉でもはじめに発してくれていました。

このような事は面と向かって言った事はありませんが、当時から今に至るまでを思い出すだけで、目から汗が出てきます。

本当に、救われました。

途中でこのような特徴を持った私にとって、以前と同様に普通に接してくれた事は、間違いなく心の支えになりました。

特徴を理解した上で、その特徴さえも笑いに変えてしまう事ができる自身の心構えと周りの人の心構えこそが、現状を受け入れようとして、生きていく第一歩だったと言えます。

こういった事があり、なんとか今まで通り暮らせるかと思いながらも、このままだとここにはいれなくなるという思いもありました。

次第に、音が聞こえなくなっても友人と今まで通り接する為にどうしたらいいんだろうか、ここにいる事ができるうちに最後に何をしたいんだろうかと考えるようになっていきました。

そして、周りのサッカーをやってきた友人をビックリさせる行動に出ます。


最後まで読んだいただき、ありがとうございます!