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入管が「おとり捜査」に民間人を使い、兵庫県警に黙っていた件(その1)
▼入管行政の非人道性が極点に近づいている。そう思わせる事件が明らかになった。2019年6月8日付の朝日新聞社会面に、とても面白い記事が載った。(記者は岩田恵実、後藤遼太、五十嵐聖士郎の三氏)
以下の記事は、紙面に載る前にデジタル版で配信された記事。
▼デジタル版の見出しは、
〈不法就労、まさかの入管が要請か/「協力した」社長証言〉
▼紙面の見出しは、
〈不法就労「入管が要請」/逮捕・釈放の社長「摘発に協力」/大阪入管は否定〉
▼見出しを並べてみると、デジタル版のほうが「勢い」があり、紙面の見出しのほうが「情報量が多い」ことがわかる。
筆者は以下の記事を読んだ時、思わず「マジかよ」と口にしてしまった。適宜改行。
〈技能実習先から逃げ出したベトナム人の不法就労を手助けした疑いで兵庫県警に逮捕された人材派遣会社の社長が「一斉摘発を狙う入国管理局に協力し、要請通りに雇用しただけ」と明かし、波紋を呼んでいる。
神戸地検は社長の勾留を請求せず、社長を逮捕2日後に釈放した。
入管は「一般論」と前置きした上で、「不法就労の事実が明らかな外国人について雇用を継続するよう指示することはない」とコメント。
識者らは「要請が事実ならおとり捜査に近い」と指摘している。〉
▼なんともやるせないのは、入管が利用したのが、日本人社長ではなく、中国籍の社長だ、というところだ。
〈兵庫県尼崎市の人材派遣会社「ワールドビジネスパートナー」のソニンバヤル=通称・五十嵐一=社長(35)ら中国籍の2人が今月3日、出入国管理法違反(不法就労助長)容疑で同県警に逮捕された。容疑は昨年4~9月、不法残留や資格外の状態になっていたベトナム人7人を県内の携帯電話製造工場に派遣していたというものだった。
しかし翌4日、社長の弁護人の荻野数馬弁護士(大阪弁護士会)らが会見。「逮捕は不当」と訴えた。
「一網打尽にしたい、と入管から要請」
荻野弁護士によると、事件の発端は昨年6月ごろ、約10人のベトナム人が会社に応募してきたことだったという。社長は応募人数の多さなどに不審を感じ、大阪入国管理局(現・大阪出入国在留管理局)へ同社役員と出向き、応募者らの在留カードのコピーを提出。その結果、在留カードが全て偽造と判明したという。
すると、入管の担当者が「応募を断っても他社に応募するだけ」「しかるべきタイミングで一網打尽にしたい」と、積極的な採用を要請。社長はこれに応じ、その後に追加採用した人も含め、同年7月ごろには不法就労状態のベトナム人約30人を工場に派遣するようになったという。〉
▼要約すると、「大阪入管が、中国籍の人材派遣会社社長に、おとり捜査に協力するよう要請した」わけだ。
その結果、どうなったか。
〈会社側は同月以降、ベトナム人摘発に向けた大阪入管との打ち合わせを会社内や入管神戸支局などで実施。同年9月11日、ベトナム人約30人を工場に運ぶ車両2台を事前に決めたルートで走らせ、同県加東市の加東署前で偶然県警の検問に出会ったことにして入管に摘発させたという。ベトナム人らはその後、入管施設へ収容された。〉
▼さらに、入管に協力した社長も兵庫県警に逮捕されたわけだ。
一言で言うと、「えぐい」話である。
会社と入管のやりとりも公開されており、紙面に掲載された携帯電話の画面は、ネットで検索すればすぐ見つかると思う。
東京版と大阪版とで、掲載した携帯電話画面が異なっていたのが面白かった。どちらもリアルで「えぐい」やりとりだ。
▼入管に協力した(協力させられた)社長さんが気の毒だが、最も気の毒なのは摘発されたベトナム人だ。なぜなら、この事件の肝心要(かんじんかなめ)のポイントは、
摘発されたベトナム人は、
〈各地の技能実習先から逃げ出した〉人たちばかりだった
というところにあるからだ。
アジア労働法が専門で、神戸大学准教授の斉藤善久氏いわく「失踪者が相次ぐのは、十分な審査もせずに多くの実習生を入国させ、労働現場で『使い捨て』される状況を生んできた入管当局の責任。その意味で実習生たちは被害者でもある」
だから今回の事件は「入国管理局のマッチポンプ」ともいえるかもしれない。(つづく)
(2019年6月11日)