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「バブル経済」と「ウイルス」は結構関係が深い件

▼最近の日本経済新聞のコラム「春秋」から、面白かったコラムをいくつか紹介したい。今号は、2021年3月27日付。

世界で最初の経済バブルは、17世紀半ばにオランダで起きた。チューリップバブルである。合理的で無駄づかいを嫌うお国柄で知られる人々が、植物の球根に狂乱した。先物取引も登場、たった1個に邸宅が買えるほどの値段がついたというから、なんともすさまじい。〉

▼特に珍重(ちんちょう)されたのが、赤、白、紫などの美しい斑(まだら)模様のチューリップ。目の玉が飛び出るような高値がついた。

しかし、チューリップが縞々(しましま)になる原因は、〈実はアブラムシが媒介する植物ウイルスによる病だった〉。このウイルスはモザイクウイルスと呼ばれる。チューリップバブルによって、モザイクウイルスに感染した植物が国境を越えて広がった。

▼以下は、コラムの最終段落。

各地でコロナの感染再拡大が懸念されるなか株価は30年ぶりの高値水準で、家計の金融資産も過去最高と聞く。経済への打撃が心配されてきたのに何とも不思議なアンバランスだ。バブルという言葉が、またぞろ巷(ちまた)でささやかれ始める。市場が過熱気味なのはまたしてもウイルスに人間社会が踊らされている証しだろうか

▼日本の新聞コラムのあり方は、独特のもので、全国津々浦々の新聞の、だいたい1面の下に、コラムが載っている。

コラム(柱)なのに横長になってしまっているのは、日本語が長く縦書きだったからだが、この呼び名が示しているように、独特の発展をした新聞コラムの文化の範疇で、ひとつの「型」ができているといっていい。

上記のコラムは、その型の存在を感じさせる、いい出来だと思う。

▼「チューリップバブルの冒頭」と、「最近の株価高騰」との間に、RNA型とDNA型との違いに言及している一段落があって、

〈(チューリップバブルを生んだ)植物ウイルスの遺伝子はRNA型。新型コロナと同じで、ころころと変異する。変わり身の速さで生き残る戦法は無敵である。一方、RNAよりはるかに安定したDNA型を持つ人間は、簡単に変われない。故にいつでもウイルスに振り回される〉

という5つの文章だ。まず、一つ一つの文章が短いのがいい。そして、チューリップを通して、人間とウイルスの関係について、遺伝子の次元で考えさせる。

このひと段落が挟まっているおかげで、コラムの全体に深みが出ている。

(2021年5月7日)

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